俺ニート。これから異世界に転生するらしい。
俺は明日からニートじゃなくなるらしい。34歳最後の日、布団の中でゴロゴロしながら考えた。
ニートとは15歳から34歳までで、家事もせず、通学、つまり学生でもなく、働いてもいない、職業訓練も受けていないというのが定義らしい。
じゃあ明日から俺は何になるんだろう。
元ニート?
まあいいかと二度寝を決め込む。が、腹が減って眠れない。
しょうがないから布団から出て台所に行き、何か食べる物がないか物色する。
「何もない」
最近は、母親もあまり家に非常食やお菓子を置いてくれない。母親はパートにでも行ったのか、家には誰もいない。
しょうがないから部屋に戻ってこの前着てたジャージのポケットを探ると、小銭がチャラチャラ出てきた。
「んー、四百二十五円か、まあなんか買えるだろ」
前に母親にせびった小遣いの残りを発見したから、それを今はいてるジャージのポケットに突っ込んで俺は近所の激安スーパーに向かった。
投げ売りのカップラーメン六十八円。
よく知らないメーカーのコーラ五十二円。
それだけを買って帰る途中、俺は心臓が急にキューッと締め付けられ道端にしゃがみこんだ。
く、苦しい……。
「大丈夫ですかっ!?」
誰かが話しかけてきた気がするがそれどころではない。
そうこうしているうちに、俺の意識は真っ暗に塗り潰された。
死んだと思ったら、やっぱり死んでいた。
俺は、倒れている俺を救急車が運ぶのを眺めていた。最後に聞いた声の青年、多分ただの通りすがりなのに、が親切に救急車に同乗してくれている。
走り去っていく救急車。
どうすればいいのかと、そこで立ちすくんでいたら突然背後から話しかけられた。
「ありがとう」
振り返ると、きっちりとスーツを着た若い男がいた。
「は?」
「君には選択肢があった。二度寝する、外出を面倒くさいとあきらめる。スーパーではなくコンビニに行く、などの。
君が二度寝を選んだら、外出をあきらめたら、コンビニを選んでいたらあの救急車に同乗した青年の未来が変わり、彼は死ぬことになっていた。
だから、ありがとう」
何だかよくわからないが、死んだら感謝された。
「君は、家にいてもコンビニに行っても心筋梗塞で死ぬことには変わりはなかった。
でも、君がスーパーの帰り道で死ぬ場合にだけ、彼の運命を変えられることができたんだ」
まあ、こんなニートでも一つくらいは誰かの役に立てるってことらしい。
色々思うところはあったが、俺はそう納得することにした。
若い男は、俺に好きな世界での転生をさせてあげると言ってきた。
あの青年の未来が変わったことが、そこまで重要だったのか。
聞いても答えは濁された。
多分、相当あの青年は重要だったのだろう。
それよりも俺の転生だ。
どんな異世界でもよりどりみどり。
剣と魔法、SFなんでもござれ。
奴隷から貴族、果ては王子様でもお姫様でも選び放題。
俺は若い男と詳細な打ち合わせを何度も繰り返してから、転生先を選んだ。
「じゃあ、次の君の人生が幸多いことを祈ってるよ」
暖かい布団の中でゴロゴロする。
起きたら枕元にあるスマフォで最新ニュースをチェックして、面白ければ読みつまらなければ二度寝する。
地球によく似た星にある日本によく似た国の一戸建ての二階の一部屋。
15歳になった俺は、今日からニート。
これから20年はニートだと、俺は満足して布団の中でゴロゴロする。