明るい感じの風刺小説です。
女体化至上主義の人は、なんとなく読まない方が良い気もします。
数多の世界の中から見つけ出した一つの世界。それは私を酷く苛つかせる場所だった。
「ねぇ使い魔?著作権てものがある一定未来方向では生じることは知っているでしょう?」
「ええそうですねお嬢様」
「だけど歴史と物語を見ていると、時々面白いことがある」
誤った記録を史実として残される場合。その場合真実が嘘になる。
正しい記録を残しそれを史実としても……後世の人間が誤った認識を広め、事実を歪ませた場合。
「この場合、歴史と物語という物は酷く滑稽な物になるのよ。悲しいことに偉人には名誉を守る権利がないのね。生きてさえいれば、自分を辱める相手を処刑することも出来たでしょうに、未来という世界ではそれが叶わないことが多い」
「結局今度はどんな世界を見つけたんですかお嬢様?」
「自重と死者への敬いを忘れた世界の物語よ」
ある程度は、そう喜劇。それでも物語の悪魔として、見過ごせないカオスも時にはあるのよ。
*
「ちょっと聞いてないっすよ!社長!」
「落ち着き給え。それでも男か君は!君は一体何のためにこの業界に入った!?」
「俺は可愛い女の子周りに侍らせて、うはうはするためにこの業界に入りました。二人以上の可愛い女の子から好意を寄せられる、甘酸っぱい青春物語の主役をやりたくて」
「そうか。ならば一回死んで来い」
社長は俺に、樹海へのアクセスを記した紙を手渡した。本気かこの男。
「いいか、原君。我が社は遅ればせながらエロゲ美少女ゲーム産業に参入した。それは知っているね?」
「そりゃあ、まぁ」
「その結果!我が社は莫大な慰謝料を支払う羽目になってしまったのだ!」
そう。それはこのぼんくら社長がやらかしたことが原因。
史実では男である歴史上の人物。それを美少女化し、ずっこんばっこん。ここでその子孫の皆様方から訴えられた。
まだ幼いお子さんがいる家なんかじゃ「お前のご先祖エロゲキャラー!」とか「お前の先祖、乳首がピンクー」とか苛められたりしたそうだ。終いには「お前も女なんだろ?」とか服を脱がされた苛めもあったそうな。なんかもう、ほんとうにすんません。うちの馬鹿社長の所為で。
しかし話はそこで終わらない。それのみならず、その内誤った歴史観が生まれ、あっちこっちの歴史学者から怒られた。しまいには世界中の国を敵に回して損害賠償を支払う羽目になった。そりゃ、あっちこっちの英雄を女の子にしてにゃんにゃんなんて怒り狂うわな。
おまけに何処の馬の骨とも知らぬ、小国の男に凌辱されていく話だろ。まともな神経してればまぁ、腹が立って当然だろう。俺が遺族でも子孫でも末裔でも訴える。
「社長が内臓でも売ってきたら良いんじゃないすか」
「そんな冷たいことを言うなよ原君!」
「俺、今日限りで辞職するんで。さいなら」
渡した辞職届をビリビリ破き、社長は悪役面で笑む。
「このご時世!君も今の職を失ってそう易々と食っていけると思うかい?万が一我が社を辞めるようなことが在ればマスコミと連携してあることないこと流して君の社会的地位を下げるぞ」
「ぐっ……」
汚い。人間の屑め。性根の底まで腐ってやがる。悲しいが俺も社会の歯車。別名社畜。社長の命令は絶対だ。
「ですがね社長。なんだってそんな話からこんな話になるんです?」
俺はかの有名なハーレムうはうはロリコン大勝利物語の主役に抜擢されたと聞いたのに、こんな話は聞いていない。
「キャストが全員男の●氏物語なんて誰得っすか!?」
「うむ。限りなく誰の得にもならん」
「んな馬鹿なことに金使う暇あったら慰謝料払え!!」
「何を言うんだ原君。この●氏物語ならぬ『原氏物語』は我が社の命運を左右する大プロジェクト!」
この馬鹿社長。絶対俺の苗字でキャストに抜擢しやがったよ。まだまだ若手俳優の俺が初めて貰った主役だが、こんなのは絶対に御免だ。大体なんで芸能プロがエロゲ制作なんかはじめたんだ。そうやって二次元三次元と二兎を追ったりするからこんな馬鹿なことになったんだろうに。
「つか、それなら主人公女にして女同士のAVでも作って売ったらいいんじゃないすか。その金で賠償金払って、俺にもちゃんと給料払ってください。訴えますよ俺もそろそろ」
「馬鹿言え。これは我が社が見境なく変なことをするというのを印象づけるための工作!別に一定方向に向かって悪意があったわけではないと伝える手段!これに比べたらマシ!そう思わせるための術っ!相手が訴訟する気も無くなるような、そんな作品を作る必要があるのだ!後このプロジェクトが成功しなければ、君に払える給料など一銭もない!」
馬鹿だ。馬鹿はあんただ。お願いだ。一生のお願いだから、樹海よこいつを連れて行け。
「いいか原君。これはだな、女性蔑視の圧力団体から重圧が掛かっていると見るのが正しい。彼女たちが怖くて周りも従っているに過ぎない。中にはGJと、我々に声援を送ってくれている紳士達もいる。それも世界中からそういう励ましのお便りは来ているのだ!だからこそこの道は間違っていない!絶対儲かる!死んだ人間の人権など知ったことか!」
うわー腐ってる。腐ってやがるこの野郎。いいからとっとと給料払え。生きてる人間の人外も侵害してるだろうが。
「女性蔑視ねぇ……なら逆の発想で、本来女である対象を男にして、ですか。これ主人公が女じゃ駄目なんですか?」
「そうなると今度は野郎共がファッ●ン腐れビッ●と叫くのだ。自分たちはハーレムうはうはゲームをやっている癖に、女性向けのハーレムゲームを作ると無駄に叩く叩く叩く。故にそういうゲームは儲からん。あと、私も作る気しないし。私も●ァッキン腐れ●ッチは好きじゃないんだよね」
あんたの独断と偏見ですねわかります。まぁ、あんまり酷いの作るとそれはそれで国内の女性権利団体から訴えられますもんね。この国の女はそんなに尻軽ではありません!安産方で尻は重くもっとどっしり構えていますと。やべ、これも聞かれたら訴えられるな。怖い怖い。
「それにだな、原君。大体最終的に男女のエロになってしまえば結局同じだ。主人公の少女が不特定多数の野郎に掘られまくるんだ。これはこれで女性権利団体から叩かれる。これは性的虐待だとか言われてな、主人公の外見を三十路まで引き上げさせられる可能性もある。そうなれば商売として成り立たん。だからこそ手早く撮影できる実写ドラマに踏み切ったのだ!」
なんかもう嫌だこの世界。うはうはの夢見てた俺がまだ可愛く見えてくる。その位この世界は醜悪だ。
「そしてこの原作である源●物語は創作物っ!歴史の情の人物云々の話ではないのだ!これなら幾ら話を踏みにじっても子孫から訴えられることもない!完全犯罪じゃあないか!万が一間違って儲かってしまっても私達は困らない!完璧!完璧ではないか!わはははは!」
こうして一年間、連続ドラマとして放送されることになった『ウホッ、男だらけの原氏物語』。
当初は人気女優やアイドルを抜粋した艶やかな番組……のようなCMを流していた。当然大嘘だ。
女を口説き落としその家を尋ねたところからおかしな現象は起こる。女の顔が、変わっているのだ。顔だけではない。がたいが良くなっているのだ。あまつさえ、脱がせてみると逞しい胸筋。酷いヒロインだと胸毛まで生えている。
そしてその悪夢のような一夜を抜ければ、また美しいヒロインが……いるはずもないっ!そんなギャラの高い人気女優を長時間雇えるはず無いだろ?出会い頭だけ女。エロから男。その後はその呪いが発動したままずっと永遠に男っ!!しかしあくまで同一人物として物語は進む。役者達はそれでも役者の鏡。吹き出すことを堪えて懸命に芝居を続けた。そのシュールな絵面を何と説明すればよいものか。
敢えて言うなら、初回放送時はお茶の間を凍らせて抗議の嵐になった。あまりの衝撃に、それまで訴訟を考えていた子孫の皆さんも呆気にとられてしまったらしい。
ここまでの無差別テロ。この会社に怨まれたら何をされるか解らない。こいつらは訴訟が怖くないのか?ていうか金もない癖によくもまぁここまで開き直りやがって。そんなドキドキとハラハラを全国にお届けしたわけだ。おまけにネットで字幕吹き替え全世界に発信。完全に黒歴史です。俺の。樹海が俺を呼んでいる。そんな気がしてならない。
だが、こんなもの……まだまだ地獄の入り口に過ぎなかった。
問題は確か3話目辺りからだったか。噂が噂を呼び、予想だにしていなかった層が食い付いたのだ。それは俗に言う腐ったお姉様や奥様方だ。この退屈な世の中、大分刺激に飢えていらっしゃったようであれよあれよと言う内に、特番を組まれるほどの人気番組になってしまった。ゴールデンも真っ青のまさかの高視聴率。最近じゃネタとしても愛され始めたのか男性からの反応も良い。
女は脱がせてみるまで解らない。そんなキャッチコピーのビフォーアフター。完全に前の方が良いです。俺は道を歩けばファン達から「何て言うことをしてくれたのでしょう」とか騒がれるようになった。
そしてメインヒロインの登場。エロシーンは当然の如く男の子だ。やりすぎると俺がしょっ引かれるので勿論暗転。しかし流石にメインヒロインくらいは可愛い子役を雇って来たようで、ショタ紫とか呼ばれて人気が出ている。しかし今度は俺が外を歩く度「ショタコン!ショタコン!」とか「あ、性犯罪者!」とかファンが熱い声援を送ってくれるようになった。何かがおかしい。俺はこんな声援欲しくて俳優になったのだっただろうか?
しかし例の女性権利団体は、何か知らんが今回のドラマで我が社に好感を持ってくれたようだ。そのおかげで粗方の訴訟門外は霧散していった。もっとも今は子供の権利を守る団体だかなんだかから文句を言われているが、別に実際何かやったりはしてないんだぞ。完全に別撮りです。
まぁ、……それからというもの、俺は人気俳優にはなったさ。だが、おかしいだろ?俺は女の子にきゃーきゃー言われるために俳優になりたかったんだ。それがなんだ?俺はこの変身ドラマの顔役みたいな立場に収められて、女の子と競演できるのは一瞬。後はずっと女装したがたいの良い野郎と競演しなければならない日々が続く。
悪ノリした脚本家はそのまま普通にラブストーリーなんか展開させようとする。俺はとうとう精神科に通い始めた。なんだか無性に死にたくなった。
何とか彼女を作っても、「……やっぱり貴方、男の人が好きなんでしょ?」とか妙なことを言われて最終的に逃げられる。それ偏見っ!俺は普通に女の子が好きなんだっ!
暗い夜。公園のベンチに腰掛けて、俺は夜空を見上げていた。また女の子に振られた。クリスマスイブだった。俺はもう泣いていた。
俺がこんなに惨めなことになったのは誰の所為だ?疑問に思えば、耳障りな声が聞こえてくる。ビルに取り付けられたテレビの音声。あれは、あの……馬鹿社長。
"いやー、緊張しますねー"
"見事借金、賠償金地獄から抜け出した若手社長!芸能プロダクション鷺プロに密着生取材っ!というわけで、今大人気の俳優、原君のことなんですけれど!"
"ああ、彼ね。彼は私が育ててやったみたいなところがあるからね。彼のことはよく知っているよ"
嘘吐け。このペテン師が。
"そんな原君ですが、彼って……女性が好きなんですか?(笑)あそこまで迫真の演技が出来るなんて凄いですが、実は男の人が好きだってりするんですか?ここだけの話、こっそり教えてくださいよ社長さん!"
"ああ、彼はね。ああやってムキに否定するところが怪しいよね"
"怪しいと言いますと?"
翌日から、俺のブログは荒らされるようになった。ファンからホモ様呼ばわり。通行人からはゲイゲイゲイゲイ芸能人とかせせら笑われるようになったさ。
もう、何も考えられなかった。気が付いたときには俺は血まみれで、赤く染まった包丁を握っていた。床には社長が倒れていた。
ああ、嫌だな。きっと明日の新聞、混種の週刊誌見出しには"人気俳優!痴情の縺れか!?社長との危険な関係っ!"とか書かれるんだろ?
もう嫌だ。何も見たくない。何も聞きたくない。俺はその包丁を、俺自身に突き立てた。
*
「風評被害って怖いわよねー。こうして若き才ある俳優はその人生を台無しにされてしまった訳よ」
「見過ごせないカオス云々言いながら、彼のことは見捨てたんですねお嬢様」
可哀想に、自ら命を絶った青年は……死後もその名を世界に汚され続けているらしかった。
「何言ってるの使い魔。私が見過ごせないって言ったのはあんな屑のためじゃなくてよ」
「それでは何を?」
「そりゃあ勿論、祟りのためよ」
「祟り?ですか……?」
「だって、物語の悪魔として見過ごせないじゃない。あんな風に物語が汚される様は」
物語の悪魔たる彼女が許せないと語ったもの。それは原作を敬わないその心だったらしい。
「魔王でもない人間風情がいい気なモノよ。ご都合主義もハーレムエンドも許せないけど何が一番許せないって、穢れた心で歴史に物語に触れること!」
「ですがお嬢様、もう著作権とやらは切れている物語なのでは?」
「だとしてもね使い魔。人が生み出した作品には魂が宿る。その魂を愛でることは許されても、汚すことは何年月日が流れても、許される事じゃあないの」
その改変に愛はあるか?作品への敬意はあるか?そのどちらも持たないまま過去に触れると言うことは、許されないことなのだと彼女は目を釣り上げた。
「でも、とばっちりじゃないですか彼」
流石にあの俳優は哀れだろう。俺がそう呟けば……お嬢様はくすくすと、小気味よく笑うのだ。
「どうせ死ぬなら役引き受ける前に死ねば良かったのよ。欲が出た時点で彼は破滅の人生を歩むことを選んでしまった。そんな奴、助けてあげる価値もない」
ああ、やっぱりこの人悪魔だな。そう思わずにはいられなかった。
凄い好きな絵描きさんがいた。
ウェブ広告でその人の絵を見た。なんだかちょっと嬉しくてクリックした。
わぁ、可愛い女の子の絵だな。と思って調べた。
歴史上の人物の女体化だった。流石に萌えられなくなった。ちょっとファンではなくなった。明らかに男の名前ですがな。女の子ですか。そうですか。
普通に歴史として歴史の物語が好きな人間からすると、何だか凄く侮辱されているような気分になることがある。
どうしても頭では屈強な猛者イメージがある武人があんあんらめぇ化すると流石に吹く。いや、普通のエロゲでやれよと。その設定、本当に必要だったか?と。
何でもかんでも女の子にすれば良いってもんでもないでしょう、穴があれば何でもいいんかい。五円玉と五十円玉でも擬人化して遊びなさいな。あとドーナッツと洋式便器。
同じく何でも野郎にすればいいってもんでもない。何でもフリーの男にすれば良いってもんでもない。
明らかに恋人とか妻いた野郎を独り身扱いして口説き落とすゲームもなんか駄目だ。史実はこうじゃねぇだろぉおおおおおおおおおおと。
とりあえず知名度。とりあえず売れそうな設定。そう言うのの詰め込み祭りになっていくのが怖い。
何事も原作ありき。そこに愛はあるんでしょうか。作品を、その人物を本当に愛して居るんですかと問いかけたくなることがある。
原点への敬いと愛の心っていうのは大切なんじゃないかなって思った衝動の掃き溜めでした。しかし世の中よく訴えられないもんだなぁと思うことも屡々。
その内国会ゲーとか出そうだよなとさえ思う。国会議員全員女体化で美少女になるんだろ?訴えられないようにちょっと昔から拾ってくるか。それとも名前を少し捩るかするかで。普通にありそうで怖い。
むしろ政党側が自分たちイケメンにしたイメージアップの乙女ゲーとか配り歩いたら本格的にこの国終わりだと思う。仮にそれで支持率上がったら舌噛んで死ぬかも知れない私。
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