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小夜子さんのウキウキ修羅場ライフ~ダッチワイフ殺人事件~

 部屋の中に緊張が走り、僕の横からゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、ということは倉橋、まさか今……」
 少し動揺した様子で直輝さんが小夜子さんに尋ねれば、小夜子さんはそれがどうしたとでも言わんばかりに笑顔で答えた。

「履いてませんが、それが何か?」

 部屋の中にさっきとは違う沈黙が流れる中、僕は口を開いた。
「おねえちゃん、推理を披露する前にパンツをはいてよ……」



「姉さん、例の人形フェチの変態が結婚するらしいよ。招待状が来てた。これでもうお互い会う必要も連絡を取り合う必要も無いね。あ、招待状は僕が不参加に丸を付けて後で送り返しとくよ」

 あきらさんは、ニコニコと人の爽やかな笑顔を浮かべて、他の郵便物を机の上に置くと、その開封済みと思われる白い封筒を手に持ってヒラヒラさせていた。
 対して、この人の姉である小夜子さんはと言えば、あらそう、と特に気に留めたような様子もなく携帯電話をポケットから取り出すとどこかに電話をかけた。

「もしもし先輩?招待状届きました~。でも、ちょっと弟に招待状に悪戯されてしまったので、日時と場所教えてもらえますか? もちろん絶対行きますよ~、それともう一人ついていってもいいですか? いえ、弟じゃなくて最近うちで預かっている子なんですけど……」
 どうやら小夜子さんは結婚式に出席するつもりらしい。

「あんな変態の所なんて行く必要ないよ」

 小夜子さんが電話を切れば、不機嫌そうに暁さんが文句を言った。
「同じ学校の先輩をそんな風に言うもんじゃないわよ。それに、めでたい事じゃない」
 対して小夜子さんは特に怒った様子もなく笑いながら暁さんを窘める。

「……僕はあの変態にまた何かされないか心配なんだ。どうしても行くって言うなら、僕もついて行くよ」
 忌々しげに暁さんが言い募る。
 また、という言い方も引っかかる。過去に小夜子さんとその先輩の間に何があったのかは知らないけれど、普段の小夜子さんの暮らしぶりを見ていれば、暁さんのその心配も身内としては仕方の無いことだというのもよく解る。

「心配してくれるのは嬉しいけれど、もっと私を信じてくれてもいいのよ? 今まで私が暴漢に襲われたり攫われた事は多々あったけれど、それで一回でも私が無事に戻ってこなかった事はあった?」
「無い、けど……」
「なら今回も大丈夫よ」

 朗らかに小夜子さんは笑う。
 実際、よく変な男に小夜子さんは気に入られて付きまとわれているのでしょうがない。
 確かにその都度、小夜子さんは自力で撃退をしているけれど、身内としては気が気じゃないだろう。

「それでも、最近は前より頻度が上がっている気がするんだけど」
 暁さんは睨みつけるように僕を見た。

「あら、それならそれで退屈しなくて良いじゃない」
 僕が俯いていると、不意に後頭部と背中に柔らかい感触がして、僕は小夜子さんに後ろから抱きしめられたのだということに気付いた。
 暁さんは一瞬目を見開いた後、姉さんなんて知らない! と拗ねたように言い捨ててどこかに行ってしまった。

「あの子ももう少し姉離れができると良いんだけどねぇ」
 僕から離れながら困ったように小夜子さんは笑った。

 暁さんいわく、以前から小夜子さんは変な人間に付きまとわれたりトラブルに巻き込まれたりすることが多々あったそうなのだけど僕を引き取ってからというもの、明らかにその頻度が増したそうだ。
 もちろん僕は何もしていない。
 言ってしまえばただの偶然だ。

 ……だけど、それを完全に偶然とは言いきれない程、僕の人生には偶然が重なりすぎていた。


 僕、笹川由乃ささがわゆのの周りでは昔からよく事件が起こる。

 妹が誘拐されかけたり、お母さんが通り魔に襲われたり、お父さんが事故に巻き込まれたなんてことも一度や二度じゃない。
 学校では不審者が校舎に侵入して警察沙汰になったり、同じクラスの女子が給食に園芸用の農薬を混ぜるなどの事件を起こしたりした。
 決して治安の悪い土地柄ではなかった。むしろ良いと言われているあまり事件も起こらない町で、僕の周辺でだけ異様にその手の事件は起こった。

 臨海学校や家族旅行に行けば、交通事故や犯罪に巻き込まれない方が珍しかった。
 だけど不思議と僕だけはどんな事に巻き込まれても毎回無事で、酷い目に遭うのは僕の周りの人間ばかりだった。
 お父さんやお母さんはそんな僕を気味悪がって寺に預けたけれど、一年も経たない内に食中毒事件が二回、暴力事件が三回、他損事故が五回起こった辺りで住職は音を上げた。

 そうして僕は住職の古い知り合いである倉橋小夜子くらはしさよこという女の人に預けられることになった。

 住職の話ではその人も昔から波乱万丈な人生を歩んできていて、異常な程に修羅場慣れしているらしい。
 僕を引き取ることになったその女の人は思ったよりもずっと若くて綺麗な人だった。

 何歳なのか聞いたら女の人に歳なんて聞くものじゃないのよ。なんて言われたけれど、たぶん二十代前半位だと思う。
 小夜子さんは歳の事を気にしているようだったので、なんとなくおねえちゃんと呼んでみたら小夜子さんの機嫌が良くなったので、それから僕は小夜子さんの事をおねえちゃんと呼ぶことにしている。

 最初僕はこの人もどれ位持つだろうか、なんて思っていたけれど、僕はすぐにその考えを改めた。

 小夜子さんは町を歩いていて突然不審者に言い寄られても、ストーカー被害を相談して家の周りを警護していた警察官から逆にストーカー行為を受けても、行きつけの喫茶店で殺人事件が起こっても、それらを物ともせず、むしろその都度それを自力で解決していくという離れ業を日常的にやってのけた。
 しかも信じがたいことにそれを楽しんでいる節もある。

「何事もね、楽しんだ者勝ちなのよ」
 と、小夜子さんは言っていた。

 流石に不謹慎ではないのかと思われるような事件もいくつかあったけど、こんなにも日常的にトラブルに巻き込まれていれば、確かにそうでも思わなければやってられないのかもしれない。
 実際、僕もどんな事件が起こってもどこか他人事のように思っている部分もあるし、全てを真面目に正面から受け止めようとした僕の両親も住職も、それで心が折れてしまったのだから。

 僕の転校先の小学校で女子生徒達のリコーダーが盗まれた時も、僕を学校に迎えに来るついでに犯人を推理して探し当てていた。
 そんな事件がありながらも、だんだん僕も小夜子さんとの暮らしに慣れ始めていた六月の初め、小夜子さん宛てに手紙が届いた。

 小夜子さんの学生時代の先輩が結婚するらしい。

 異常なまでに小夜子さんに対して過保護な弟の暁さんが結婚式に小夜子さんを行かせるのを渋っていた辺り、過去に何かあったのかも知れないけれど、小夜子さんが大丈夫だと言っているのだからたぶん大丈夫だろう。

 式を挙げるのは土曜日で学校が休みだったこともあり、せっかくだからと言う小夜子さんの強い勧めによって僕は一緒にその結婚式に参列することになった。
 式はその先輩の自宅でひっそりと挙げるらしく、僕達は彼の実家のある田園調布という所へ向かった。

 着慣れないかっちりした服を着せられ、いつもより着飾った小夜子さんに手を引かれて歩く道はなんだか落ち着かなかった。
 結婚式に参列するなんて初めての経験だったので少し緊張していたのかもしれない。

 タクシーから降りて、この辺は大きくてきれいな家が多いなと周りを見回していると、小夜子さんは高い生垣に覆われた家の前で立ち止まった。
 僕は涼しい車内から出た後、長袖のブレザーに日差しが照りつけてきて、じんわりと汗が出てきて、早く室内に入りたかった。

 ふと、小夜子さんを見上げれば、涼やかな笑みを浮かべた小夜子さんが
「すぐにいろんな意味で涼しくなるわよ、少し待ってね」
と言った。
 小夜子さんが呼び鈴を鳴らしてインターホンで話しているところを見ると、どうやらその家が先輩の家らしく、表札には石井と書いてあった。

 ガチャリと門の鍵が開いた音がすると、小夜子さんはそのまま門に手をかけてそのまま家の中へと入っていく。
 僕もその後に続いたけれど、一歩門の中に入った途端、思わず僕はその足を止めてしまった。

 玄関から見える窓という窓全てから何体もの日本人形やフランス人形等様々な人形がこちらを伺うように見つめていた。
「びっくりしたでしょ? この家の人達って、皆人形が大好きでね。今日式を挙げる先輩のお母さんと弟さんは人形作家なんだよ」
 すごいよね~と、にこやかに小夜子さんは言っていたけれど、そのあまりに不気味な光景に、さっきまでの早く家に入りたいという気持ちも忘れて僕は早速帰りたくなった。


 案内された客間には、更に人形が所狭しと飾られていて、家の中の面積自体はとても広いはずなのに、妙な狭苦しさを感じた。
 僕達を出迎えてくれた三児の母で人形作家だという絹恵さんは、まさか本当に来てくれるなんてというような事を言いながら、小夜子さんになにやら申し訳なさそうに謝っていた。

 絹恵さんが奥の部屋に向かって
「小夜子ちゃん来てくれたわよー」
 と声をかければ、同じように奥の部屋から今行くからちょっと待ってくれという男の人の声がした。

 奥から現れた直輝さんに案内された部屋へ入った僕はギョッとした。
 広い部屋の真ん中に置かれた十人以上座れそうな大きなテーブルの中央の席にウェディングドレスを着た小夜子さんがいたからだ。
 実際には小夜子さん本人はすぐ隣にいたし、一瞬もしかして小夜子さんの双子の姉妹なのかとも思ったけれど、すぐに僕は違和感を感じた。

 開かれた大きな窓の前に腰掛け、舞い込んで来る風に髪をなびかせながらもその虚ろな目は床を眺めたまま微動だにせず、彼女は僕達が近づいても全く何の反応も示さなかった。
「すごいわ! 本当に生きているみたい!」
 小夜子さんが感嘆の声を上げて彼女に駆け寄り、無遠慮に首や肩、腕などを触ったり動かしたりしているのを見て、やっと僕はこれはとてもよくできた人形なのだと気付いたのだけれど、僕は何がなんだかわからなくなった。

「……もしかして、結婚する相手ってその小夜子さんにそっくりの人形なの?」
「そうだよ。名前は月子つきこちゃん。私と先輩と榎本えのもとさんの手によって生み出された、この世に一体だけの最高級ダッチワイフよ! ……あ、今はラブドールとかリアルドールとか言うのかしら?」
 小夜子さんは月子と呼ばれたその人形の肌の感触を確かめるように撫でまわしながら、なぜか得意気に答えた。

「……ダッチワイフって何?」
「まあ簡単に言うと、等身大の女性に似せて作られた、色々できる人形かな」
 僕が小夜子さんに尋ねれば、すぐ近くで直輝さんとは別な男の人の声がした。

 声のしたほうを見れば、すぐ隣に三十代位の男の人が紅茶を片手に椅子に腰掛けていた。
 たぶんずっとこの部屋にいたのだろうけれど、花嫁のインパクトがあまりにも強烈で僕は全く気付かなかったようだ。

「紹介します、今年の春からうちで引き取っている笹川由乃君。小学五年生です」
 小夜子さんが男の人に僕を紹介する。

「この人がこの月子ちゃんを製作した職人の榎本健二えのもとけんじさん。限りなく人間に近い人形を作るためにわざわざ渡米して向こうで活動している筋金入りの職人という名の変態さんで、今回は月子ちゃんの結婚式のためにわざわざ日本に戻って来てくれたのよ」
「日本だと完璧な人間の体を作ろうとするとどうしても規制に引っかかってしまうからね」
 榎本さんは小夜子さんの紹介にそんなに褒めるなよと照れていたが、この紹介は褒めているのだろうか。

 その後、絹恵さんが僕達の分の紅茶も用意してくれて、僕達も榎本さん達の近くの席に座る。
「ところで、やっぱり月子ちゃんの体は全身くまなく再現されているのかしら」
「見えない部分に関しては似せようがないけれど、俺なりの精一杯の仕事はさせてもらったつもりだよ」
 目を輝かせて興味津々と言った様子で小夜子さんが尋ねれば、自信ありげな様子で榎本さんは答えた。

「ねえ、ちょっと見てもいいかしら」
「まあ、直輝君さえ良ければ」
 小夜子さんの問いかけに榎本さんは直輝さんへ許可を求める。
「ここまでこぎつけられたのも倉橋のおかげではあるし、まあ女同士なら……」
 呆気にとられる僕を他所に、小夜子さん達はどんどん話を進めていく。

「わーい、じゃあ早速……と、いきたいところだけど、流石に由乃君には刺激が強すぎるし……」
 そう言って小夜子さんはちらりと僕の方を見た。
「ああわかってるよ。とりあえず僕らは終わるまで部屋の外で待ってるから、手短に済ましてくれよ」
 そう言って直輝さんは僕の両肩に触れたかと思うと、そのまま榎本さんと一緒に僕を連れて部屋の外に向かった。

「うん、ありがとう先輩」
 小夜子さんは笑顔で僕らを見送ると、部屋のドアを閉め、更にその後室内からは窓やカーテンを閉めるような音も聞こえた。
 それから少しして小夜子さんの感嘆や賞賛の声が聞こえたが、何についてのコメントなのかはよくわからない。

 部屋の外で待っている間、暇だったので、僕は直輝さんにさっきからずっと気になっていることを尋ねてみることにした。
「なんで月子さんは小夜子さんにそっくりなの?」
「それは倉橋が月子のモデルだからだよ」
 直輝さんも嫌な顔もせず普通に答えてくれた。

「どうして小夜子さんをモデルにしたの?」
「だって彼女、とびっきりの美人だろう? ものすごく好みの見た目なんだ」
「なら小夜子さんと結婚すればよかったんじゃないの?」
「いや、それは無理だよ」
 直輝さんは笑いながら僕の考えを否定した。

「だって彼女はあんなに楽しそうに笑ったりしゃべったり、動いたりするじゃないか。無表情、無口、無反応でこそ真の美しさが際立つと僕は思うんだよ」
 直輝さんはそう言って目を細めたけれど、僕は直輝さんが何を言っているのかよくわからなかった。
 僕が首を傾げると、直輝さんと反対側の隣にいた榎本さんが僕の頭をポンポンと撫でた。
「まあ君には早かったかな。要するに世の中には色んな好みの人間がいるってことさ」

 しばらくすると、満足そうな顔をした小夜子さんが出てきた。
「いやーホントすごかった。ものすごいリアルと言うか、もう完全に肉!って感じだったよ~細部の作りこみに榎本さんの職人魂を見た気がしたよ。これは先輩も今夜が楽しみだね」
「なんで今夜が楽しみなの?」

 小夜子さんの言葉の意味が解らなくて僕が尋ねると、また榎本さんが僕の頭に手を置きながら
「大人になったら解るさ」
 と笑った。なんだか自分だけ仲間はずれにされているようでちょっと腹が立った。

「相変わらず慎みの無い人ですね」
 そんな時、すぐ後ろから声が聞こえて振り向けば、二十台前半位の男の人が不機嫌そうな顔をして立っていた。
「ああ孝志こうし君、紹介するね。この子は最近預かる事になった笹川由乃君。由乃君、こちら花婿の弟さんで孝志君」
 一方小夜子さんはそんな彼の態度をものともせず、僕と孝志さんをそれぞれ紹介した。

「はじめまして」
「はじめまして、ところでさっき話したって、どんな事話したの?」
 僕が軽く会釈をして挨拶すれば、孝志さんは僕の方に向き直って会釈をした。
 顔も声も表情が乏しくて何を考えているかわからないような印象だった。

「先輩のお母さんも弟も人形作家なんだよ~って話だよ」
 孝志さんの質問を受けて小夜子さんが答えた。
「……そうですか」
 孝志さんは小夜子さんに視線だけ向けて相槌を打った。

「なにかしら、まるで『やっぱ生身の女って糞だわ』と言わんばかりの視線を感じるんだけど」
「被害妄想ですよ。まあその意見には同意しますが」
「同意するんだ」
 不機嫌そうな顔で見つめてくる孝志さんを茶化すように小夜子さんが言えば、孝志さんは花嫁の方を見てそっちの方へ歩きながら軽口を叩く。
 小夜子さんもそれにつっこみながらも楽しそうに笑っていた。

「それにしても、シリコン素材でここまでの形状の作り込み。うっすら透けた血管や一本一本丁寧に植え込まれた髪やまつげ、近くで見ても全く粗が見えない。それどころか耳を澄ませば呼吸が聞こえてきそうだ」
 孝志さんは椅子に腰掛けた花嫁の前まで歩いていくと、ため息をつきながらその人形をうっとりと眺めた。
 やはりこの人形の出来は専門家も感動するレベルらしい。

「これでモデルがこの人でなければ言う事は無いのですが」
 さらりと毒づく孝志さんに
「なにそれひどい」
と言いながら、小夜子さんは随分と楽しそうだったけれど、僕はなんだか自分だけ蚊帳の外のような気がして面白くなかった。

 その後、僕は直輝さんにトイレの場所を教えてもらいその場を離れた。
 実際トイレにも行きたかったのだけれど、仲間内で盛り上がっているあの場所にいても僕はつまらなかったというのもある。
 もしも、トイレにも人形が置いてあって用を足している間ずっとその人形と見つめあうことになったらどうしようかと思ったけれど、幸いトイレには何の人形も置いてなくて僕はホッとした。

 外から見るよりも石井家は広くて、小夜子さん達がいた部屋とトイレはちょうど家の端と端のような位置にあった。
 トイレから帰る途中、階段の上や窓辺に置かれた人形に内心びくびくしながら廊下を歩いていると、どこからか女の子の楽しそうな話し声が聞こえてきた。
 気になって声のする方に行ってみれば、襖を開けっ放しにした和室で着物を着たおかっぱの女の子が人形の髪を梳かしながら楽しそうに人形に話しかけていた。

 真っ白な肌に黒目がちな目は、格好も相まってまるで人形のようだったけれど、その楽しそうな笑顔は可愛かった。
 僕が思わず見とれていると、女の子は僕に気付いたようで小さく悲鳴をあげた。

「ごめん、話し声が聞こえたから! 僕、今日直輝さんの結婚式に呼ばれてる小夜子さんの家でお世話になってて、小夜子さんがせっかくだからって言うもんだから僕も一緒に来たんだけど……」
 慌てて自分は怪しい人間じゃないと伝えようとしたけれど、いきなりだった事もあって僕はだんだん言ってる途中で自分が何を言っているのか解らなくなった。
 女の子の方も人形を自分の後ろに隠して顔を真っ赤にしてた。

「僕は笹川由乃、その、可愛い人形だね!」
 沈黙が怖くてまくし立てるように僕が言えば、女の子は一瞬驚いたような顔をした後、恐る恐るという感じで後ろに隠していた人形を僕の前に出した。
「私は、石井沙羅さら。この子はエリーっていうの……」
 沙羅ちゃんは目を泳がせながらエリーというらしい人形を抱きながら自己紹介をしてくれたけれど、話しながらどんどん声が小さくなっていった。

 エリーは栗色の髪に深い赤のドレスを着た人形だったけれど、おもちゃ屋さんで売っているような安っぽい感じではなくて、この家のあちこちに飾られている人形達のように丁寧に作りこまれていて、妙な生命感を感じた。
「もしかして、エリーってお母さんとかお兄ちゃんが作ってたりする?」
「うん、お母さんが作ってくれて、ドレスは孝志お兄ちゃんが仕立ててくれたの」
 このままだと沙羅ちゃんが黙り込んでしまいそうな気がして人形について尋ねてみれば、沙羅ちゃんはちょっと嬉しそうに答えてくれた。

 直輝さん達の妹らしい沙羅ちゃんは、直輝さんと孝志さんとは随分歳が離れているように見える。
「沙羅ちゃんって、今何年生?」
「学校は行ってない……」
 何気なく聞いた僕の質問は地雷だったようで、一気に沙羅ちゃんの声がトーンダウンした。

「ご、ごめん、僕は今十一歳なんだけど、沙羅ちゃんって何歳なのかなーって思って……」
「私も、同い年。……ねえ、お母さん達の料理、予定よりも時間かかってるみたいなのだけど、作り終わるまで一緒に遊ばない?」
 沙羅ちゃんはそう言って気を取り直したようにオセロを後ろの引き出しから出した。

「ゲームが終わるか、誰か呼びに来た時に自分の色が多かった方が勝ちね」 
 それから僕達は、僕の帰りが遅いと心配した小夜子さんが迎えに来るまで一緒に遊んでいた。

 小夜子さんは帰ってこなかった僕を叱るでもなく、沙羅ちゃんと仲良くなっていた事を喜んでいたようだった。
 ちなみにオセロは沙羅ちゃんの勝ちだった。
 もう料理ができるみたいだからと言われて、僕と沙羅ちゃんが例の花嫁がいる部屋に向かう途中、お皿が割れるような音がした。

 何事かと思いながら僕らが部屋に向かえば、割れたお皿の破片や料理が床にぶちまけられ、呆然とした様子の直輝さんと榎本さんが立っていた。
 小夜子さんが閉めたはずの窓は開け放されていて、花嫁が腰掛けていた椅子は倒れていた。
「月子が! 月子がいない!」
 取り乱した様子の直輝さんの様子から察するに、意図して花嫁を他の場所に移動させたと言うわけではなさそうだった。

 すぐに開いている窓から直輝さんが飛び出して辺りを見て回ったけれど、周囲には誰もいなかったようだ。
「この部屋の上は、新しくバルコニーでも作ったんですか?」
 小夜子さんが窓から頭を出して周りを見回した後に尋ねる。前にこの家に来た時にはなかったらしい。

「ああ、最近増築したんだよ。この上の部屋は今僕の作業部屋になっていて、塗装用に風通しのいいスペースが欲しかったんだ」
 と、孝志さんが答えた。
 僕も窓から身を乗り出して覗いてみれば、調度バルコニーの床が窓の上を覆っていた。

 花嫁が突然姿を消したことを受けて、本来式を行うはずだったこの部屋に家にいた全員が集められた。
 僕、小夜子さん、沙羅ちゃん、絹恵さん、直輝さん、孝志さん、榎本さん、父親の吉雄よしおさんの八人だ。
 吉雄さんは料理が趣味で、今日もこの式のために台所で腕を振るっていたらしい。

 直輝さんの証言によると、小夜子さんが僕を呼びに行った後、吉雄さんから料理ができたと声がかかって取りに行き、榎本さんも手持ち無沙汰だからと配膳を手伝おうと直輝さんに同行したそうだ。
 そして二人が料理を持って部屋に戻ってくると、窓際に腰掛けていたはずの花嫁が忽然と消えていたらしい。
 すぐに開いていた窓から外に出て辺りを確認してももう誰もいなかったそうだ。

「月子が攫われた! 今すぐ警察に連絡して捜索願を!」
 と興奮する直輝さんを孝志さんと榎本さんがたしなめている間に絹恵さんが警察に通報した。
 警察が到着するまでの間に絹恵さんと吉雄さんが家の中を確認したようだけれどけれど、他の人形やに金目の物は盗られてはいなかったらしい。
 通報を受けてやってきた警察の人達も、最初直輝さんの主張に混乱していたようだったけれど、孝志さんが状況を説明すると、人形は人ではないので被害届を出すなら誘拐ではなく盗難という形になるだろうと警察の人は言っていた。

 鑑識の人達が現場の足跡や指紋を取ったり、捜査官らしき人が周囲の家に不振人物を見なかったか聞き込みをしている中、現場の人達に指示を出していた男の人は小夜子さんの顔を見るなり眉間に皺を寄せて、
「また、あなたですか……」
 と言っていた。

 日常的に警察のお世話になるような事件に巻き込まれる小夜子さんがこんな反応をされるのは別に珍しいことじゃない。
 僕も一つの場所に一年位留まっていれば、その地域の警察の人達とも顔見知りになるのでよく解る。

 その苦い顔をした警察の人は、盗まれた人形が小夜子さんをモデルにした等身大のダッチワイフであることや、その人形がウエディングドレスを着ていた事を聞くと、
「わかりました。どうせまたあなたに付きまとう新手のストーカーの仕業でしょう。今回こんなことをしそうな人物に心当たりはありますか?」
 と、このパターンにはもう慣れたと言いながらため息をついていた。

「私も薄々そんな気はしていますが……身の危険を感じた人物については、今は皆御用になっているので、もしそうだとしたら全く新しい人かもしれませんね」
 まるで他人事のように小夜子さんは話す。

 結局、警察の人は、また小夜子さんのストーカーによる犯行だろうと断定したようで、小夜子さんの家の近所の見回りを再び強化することと、また何かあったら連絡をくれとだけ言って帰っていった。
 何かあってからでは遅いと思うのだけれど、小夜子さんは早く帰れとでも言わんばかりに聞かれたことにだけ手短に答えていた。
 一応、近所の家にも聞き込みをしたようだったけれど、不審な人物や車を見たという人はいなかったそうだ。

 実際、警察の人達が帰ると
「ほらね、警察ってあてにならないでしょう。私はあの人達は犯人を捕まえて犯行を立証できたら目のつかないところに連れてってくれる人達と認識しているわ」
 前回なんて、正体不明のストーカーの正体が実は警護してくれてた警察官だった、なんてこともあったせいか、小夜子さんはあんまり警察をあてにしていない様子だった。

 今回の被害者は直輝さんではあるけれど、盗まれた物や今までの経験から考えると、小夜子さんが全くの無関係であるとは言い切れない。
 もちろん全くの無関係であるのかもしれないけれど。 

 小夜子さんは軽く悪態をついた後ポケットから携帯を取り出すと、何か操作をしているようだった。
 そして何かを確認した後、電話をかけ始めた。

「もしもし、今何してるの? ううん、なんとなく気になっただけだから。そう、ありがとう。冷蔵庫の中にプリンがあるから一個食べていいわよ。ええ、じゃあね」
「誰と話してたの?」
 小夜子さんが電話を切った後に僕は尋ねてみた。

「暁よ。携帯のGPSで今、私の家にいるみたいだったから、近くにいるのか確認したかったのよ」
「ああ……」
 その言葉に僕はなんだか納得してしまった。

 小夜子さんの弟、暁さんは重度のシスコンだ。
 毎日のように小夜子さんの家に訪ねてきては家の掃除をしたり料理を作ったりしていく。
 姉さんが心配なんだ、と言ってはやたらと一緒に住もうとしているけれど、その都度小夜子さんに拒否されている。

 それだけならまだいいのだけど、よく変な男の人に好かれる小夜子さんを心配しすぎるあまり、最近では郵便物をチェックしたり、いつの間にか合鍵を勝手に作って家に上がりこんで食事を作っていたりと行動がちょっとストーカーじみてきていて、小夜子さんが色んな意味で心配していた。
 たぶん、今電話をかけたのも、小夜子さんそっくりの人形を盗みそうな身近な人間として真っ先に思いついたのが暁さんだったので、今どこにいて何をしているかを確認しようとしたのだろう。

「この家って周りに高い生垣があって外から中なんて見れないし、ちょっと皆が目を離した隙に私と同じ大きさの人形を盗むなんて、ずっと窓の近くで様子伺ってないと無理よねぇ。それに人形を盗んですぐ逃げたとしたら、この真昼間の住宅街をウエディングドレスを着たリアルドールと走り回ることになる。車のトランクに入れるにしても、この家の周りには個人宅の駐車場以外には道幅も狭くて長時間止めていられるようなスペースなんて無いし、絶対目立つわよね……」
 考え込むように小夜子さんは言った。

「案外、犯人はまだこの家の中にいて、暗くなるのを待って人形を運び出すつもりじゃないのかしら。それか犯人はもうこの家の敷地内にはいなくても、人形だけはどこか近くに隠して人に見つかりにくい真夜中にまた取りにくるつもりかも」
「それじゃあ月子はまだこの家の中にいるかもしれないのか!?」
 興奮した様子で直輝さんが小夜子さんに詰め寄った。

「あくまで『かも』ってだけですけど、とりあえずはその可能性を潰すためにも、皆でこの家の車周りや各部屋を見てみましょうか。後、確かトイレの近くにも、もう一つ勝手口がありましたし、その辺りも調べてみた方がいいかもしれません。まだ犯人がいるしれないので片付けは後回しにしてすぐに行きましょう」
 そう言って、小夜子さんは皆を引き連れて車庫や部屋を回った。
 小夜子さんの指示で車はちゃんと鍵が合っているかどうか、トランクの中や車の下には何も無いかも確認した。

 家の中も皆で回ってみたけれど特に変わったところは無いらしい。
 沙羅ちゃんの色んな人に自分の部屋に入られるのは恥ずかしいという意見や、孝志さんの個展が近くて作業中のままの作業場を荒らされたくないとの意見もあり、各個人の部屋は何かあったらすぐ声を出すという条件で、各自、自分で部屋のドアを少し開けた状態のまま調べてもらった。

 二階は階段側から見て、一番奥に孝志さんの作業場があり、手前の左右それぞれの部屋がと直輝さん、孝志さんのそれぞれの部屋だった。
 直輝さんの部屋が二階にあるということは、つまり直輝さんはこの人形達が虚ろな目で見つめてくる広いけどかなり不気味な階段をあの花嫁を抱きかかえて上るつもりだったのだろうけど、その光景を思い浮かべると思うとなんともシュールだ。
 小夜子さんは押入れやクローゼット、あれば天袋、ベッド下等は特に注意してくれとだけ言っていたけれど、結局犯人はおろか月子さんやその手がかりも見つからなかった。

 その後、皆で後片付けをして、テーブルに直輝さんが落としていない料理を並べて食べたのだけれど、雰囲気は最悪だった。
「倉橋、こう言っちゃなんだが、君は昔からこの手の事件には慣れっこな上に度々それを解決してきただろう。今回もそうやって月子を見つけ出して欲しいんだ。できれば同じことが起こらないように犯人も特定して欲しい。君ならできるだろう!?」
 焦った様子で直輝さんが小夜子さんに言った。

「犯人が私の新たなのストーカーかもしれないと考えると、私も人事では済まされませんので、私も犯人を特定したいとは思いますが、犯人の考えによってはもう……」
 そこまで言いかけて、小夜子さんは言い淀んだ。
「……その時のことは、その時考えるさ」
 直輝さんはこらえるような顔で言っていて、部屋全体が重い空気に包まれたのだけれど、榎本さんに代わりの人形を作ってもらう訳にはいかないのだろうか。

「まず先輩に聞きたいのだけど、この結婚式や盗まれたリアルドールについて、誰かに話した事は?」
「何人かに雑談で計画を話した事はあるが、実際に月子が完成したことも、実際に式を挙げることも、ここにいる人間にしか話してないはずだ」
 それを受けて絹恵さん達は自分達も細かい日程までは誰にも話していないと口々に言った。

「そうですか、では石井家の皆さんに質問です。最近家の近所で空き巣や不審者が出たとか、近所に変な人が住んでいるとか、何か気になることはありませんか?ちょっとしたことでもいいんです」
「……いえ、特には」
 それを受けて小夜子さんが更に石井家の人達に質問する。

「じゃあ、今回の結婚式の準備段階で何かおかしな事はありましたか?」
「先月辺りに特注の人形が完成したから、製作者やモデルになってくれた人達も集めて食事会をしたいと直輝が言い出して、元々人をもてなすのが好きな夫がそれ聞いて張り切っちゃって、その後は直輝もその人形の服の手配や手直ししたり、沙羅も率先して手伝いをしてくれて割と皆楽しんでたし、特におかしな事も無かった気がするけれど」
 まさかこんな事が起こるなんてと絹恵さんは困惑した様子で話していた。

「なんで皆そんな協力的なの?」
 思わず、僕はそう聞かずにはいられなかった。
 自分の家族が人形と結婚しようとしてるのに、むしろそれをなんで皆で後押ししているのだろう。

「だって人形は家族だもの」
 絹恵さんは当たり前だろうという顔で言った。
 隣を見れば沙羅ちゃんもその言葉に頷いていた。

「人形の嫁だって私も五人程いるしなぁ、もちろん人間の嫁さんは一人だけども」
 吉雄さんもそう言いながら腕を組みながら絹恵さんの言葉にうんうんと頷いた。

「俺はずっと嫁は月子だけのつもりだったんだ……!」
「父さんも若い頃はそう思ってたさ、だけど今じゃ六人の嫁さんと七十二人の子供達がいる」
「あ、子供の内訳は人間が三人で人形が七十三人。だから正確には七十六人ね」
 悔しそうに言う直輝さんに、吉雄さんが諭すように言い、絹恵さんが注意するように付け加えた。

「そんなことより早く月子を助け出さないと、今頃何をされているか……」
 まるで本当のお嫁さんが誘拐されたかのように直輝さんは心配していた。
 周りの人達も慰めてはいたけれど、途中で孝志さんは取引のある画廊から打ち合わせの電話で席を外したし、沙羅ちゃんは途中で飽きてきたのか、自分達にできる事は無いのでさっきの部屋で遊ぼうと僕を誘ってきた。

 直輝さんの家族や小夜子さん、榎本さんは一応直輝さんに対して理解を示していて同情的ではあったけど、当の直輝さんとは温度差があるように感じられた。
 花嫁が消えてからもう二時間以上時間が経っていた。
 しばらくして孝志さんが戻ってきた頃、小夜子さんは言った。

「そもそも犯人の目的はなんなのでしょうね。仮に犯人が私のストーカーだったとして、私ではなくわざわざそっくりな人形の方を危険を冒してまで奪う意味が解らない。それに私の元に招待状が届いたのが一週間前で、手紙だけ見たらただの結婚式の招待状にしか見えなかったというのに。ただ尾行して出くわしたこの現場でそんな突発的な犯行に及ぶかしら」

 言われてみれば確かにそうだった。
 等身大の人形なんてただでさえかさばって目立つし、そんな簡単に盗める物じゃない。
 どうして犯人はそんな危険を犯してまで花嫁をさらったのだろう。

「人形でも倉橋が誰かのものになるのが嫌だった、とかじゃないのか」
「そんなまどろっこしいことをする位なら直接私を自分のものにしようとする方が楽だと思うのだけど。そもそも目的は本当に私なのかしら」
 やっと落ち着いてきた直輝さんが言えば、納得いかないという様子で小夜子さんが首を捻った。

「実はそのストーカーは好意からあなたを観察していたのではなく、私怨であなたに嫌がらせをするために尾行していたとかじゃないですか?」
 孝志さんが相変わらず冗談なのか本気なのかわからない顔で言うと、
「確かに、今までもそんな人はいるにはいたけど……」
小夜子さんはそれも無い話ではないと言いながらも、あまり真剣には受け止めていないようだった。

「いたんだ……というかおねえちゃんは危機感がなさすぎだよ」
 僕は小夜子さんののんきな反応に 僕は思わずつっこまずにはいられなかった。

 だけど、そう言いつつも僕が真剣に心配する気にならないのは、小夜子さんが小夜子さんだからだ。

 そんな時、石井家の電話が鳴った。
 絹恵さんは電話をとりに席を立ち、しばらくして困惑した様子で戻ってきた。
「今警察の方から電話があって、川で切り刻まれた等身大の人形の破片や服が流れてたのが見つかったって……頭やいくつかの部品は回収したから、届け出にあった人形か確認して欲しいって……」

 直輝さんはその知らせを聞いて勢いよく立ち上がった後、放心したように立ち尽くしていた。
「先輩、私も一緒に確認しに行ってもいいですか?」
 小夜子さんも立ち上がって直輝さんの目の前まで行くと、倒れそうな直輝さんを支えるように腕を持った。

「まあっ」
 と、後ろで絹恵さんが嬉しそうな声を上げていたけれど、何が嬉しかったのかはよくわからない。
 それから警察署へは直輝さんと小夜子さん二人で行くことになり、なぜか絹恵さんと吉雄さんは笑顔で二人を送り出していた。

 僕は小夜子さんが戻ってくるまでの間、沙羅ちゃんと榎本さんとさっき遊んだ和室でまた遊ぶことになった。
 絹恵さんと吉雄さんは皆が食事をした食器の片付け、孝志さんは作業をするからと二階の作業場に行ってしまった。

「小夜子さんって直輝お兄ちゃんのこと好きなのかな」
「え? なんで?」
 三人でババ抜きをはじめた時、突然そんな事を言い出した沙羅ちゃんに僕は首を傾げた。

「だって、自分そっくりの人形と結婚しようとしている相手を気持ち悪がるでもなく、普通に受け入れて仲良くしてるし、それどころか人形が盗まれた時もお兄ちゃんのために力になろうとしてくれてるし……」
 わくわくした様子で沙羅ちゃんは言うけれど、僕は普段の小夜子さんを見てるのでたぶんそれは無いんじゃないかなと思う。
 あの人はただ許容範囲が広すぎるだけだ。

「う~ん、どうだろう? おねえちゃんは朝起きたら知らない人が朝ごはん作ってても、包丁持って興奮した女の人が押しかけてきても動じないどころか平然と受け入れるからなぁ……」
「相変わらず、すごい毎日送ってるな小夜子ちゃん」
 榎本さんもそんな普段の小夜子さんを知っているようで、呆れた様子ではあったけれど、それが作り話じゃないとわかっている様子だった。

「なにそれ、小夜子さんはなんでそんなことになっているの?」
 沙羅ちゃんは笑いながら聞いてきたので、たぶん僕の話を信じていないと思う。

「たまたま変な人と縁があって、たまたま気に入られたり嫌われたりして、絡まれるんだ。事故みたいなもんだって言ってたよ」
「普通の人はそんな『たまたま』は滅多に起こらないよ」
「でも本当にそういう人はいるんだよ」

 そう、そんな人間は本当にいる。
 今まで僕と関わった人達は本当にものすごい確率で様々な事件に巻き込まれたり、逆に事件を起こしたりする。
 そして僕と暮らした人はそれこそとんでもない頻度でその危険に出くわして、いつも僕から離れていく。
 住職の話によれば僕との接触がなくなった途端、皆平穏な日々を取り戻したらしいので、やっぱり僕のせいなのかもしれない。

「ふうん、ところであの人形を作ったのは榎本さんなんだよね。あの人形をバラバラにするのって簡単なの?」
 興味なさそうに相槌を打つと、沙羅ちゃんは早々に話題を変えた。

「いや、結構骨の折れる作業だと思うよ。あの人形は重さも30キロあるし、芯材になる部分は繊維強化プラスチックやウレタンだけど、指とかの可動部分には金属線が入ってたり力がかかる部分にはアルミニウム合金が入ってるから、たとえ外側のシリコンの層は刃物で簡単に切れたとしても、バラバラに解体するには芯の部分で苦労するだろうね」
「よくわからないけど、つまりバラバラ解体するにはすごい労力が必要で時間がかかるってこと?」
 榎本さんの話に首を捻りながら、沙羅ちゃんは尋ねた。

「まあそんなところかな、人形がどれ位バラバラにされてたかはわからないけど、盗んで二時間で解体して川に流したなら、犯人は人形を盗み出して捨てるまでの時間はずっと人形の解体をがんばってたんじゃないかな。でもどうしてそこまでして、こんな酷いことするんだろう。俺だってこんな風に壊されるために作ったわけじゃないのに……」

 そう話す榎本さんの声は寂しげで、なんだか僕までやるせない気持ちになってきた。
 専門的な事はわからないけど、自分が一生懸命作ったものを誰かに盗まれて無残に壊されるなんて、誰だって嫌なはずだ。

 日本では自分の作りたいものは作れないからとわざわざアメリカまで行って人形を作っていたというのに、その丹精込めて作った人形を無残に壊された痛みは計り知れないだろう。

「まあお金はもう貰っているし、型はあるからまた注文してくれれば半年から一年位かかるけど同じのを作れるんだどね」
「…………」
 精神的な痛みはそこまででもなかったらしい。


 そんな雑談をしつつ、僕達は小夜子さん達の帰りを待った。
 途中、小夜子さんからの電話で僕が席を離れる事もあったけれど、その後は特に何事もなく三人で過ごした。
 そして時刻が夕方から夜に差し掛かった頃、小夜子さんは戻って早々、家にいる人間全員を昼食をとった部屋に集めた。

「謎は全て解けました。犯人はこの中にいます」
 小夜子さんはニッコリと笑ってそう言った。

「孝志君、あなたが月子をバラバラにして川に流したんでしょう?」
「……一体、何を根拠にそんなこと言ってるんですか」
 緊張で静まり返った部屋で笑顔を崩さず小夜子さんが孝志さんに向かって宣言すれば、孝志さんは眉間に皺を寄せて不機嫌そうに答えた。

「これです」
 そう言って部屋の中の空気が張り詰める中、小夜子さんがスカートのポケットから出したのは白いパンツだった。
「少なくとも、直輝さんと孝志さんはこのパンツに見覚えがあるはずです」

「それは、月子の下着……!」
 小夜子さんがパンツを両手で持って前に差し出せば、隣にいた直輝さんが驚いたように声を上げた。
「そう、これは月子の履いていたパンツです。でもおかしいんですよ。だって月子の下着類一式は全て川で発見されてるんです。これと同じパンツも含めて」
「つまり、どういうことなんだい?」
 楽しそうな様子の小夜子さんに、榎本さんが不思議そうに尋ねた。

「川で発見された月子のパンツは本物ではないと言うことです。だって本物は私が月子の服の下を見せてもらった時に私の履いていた黒いパンツを履いているはずなんですから。そしてその時拝借した月子の下着がこれです。これと全く同じ下着がバラバラにされた月子の一部と一緒に川に流されていました」
 花嫁のドレスや下着を用意したのは孝志さん、確か絹恵さんは昼にそう言っていた。 

「私が月子の下着をすり替えたのは、悪戯のつもりだったのですがまさかこんなことになるなんて……。でも、おかげで犯人はすぐに絞れました。こんなことをできる人物は月子の下着も含めた衣装一式を手配した孝志君しかいません。つまり、このパンツこそがその証明となるわけです」
 不敵な笑みを浮かべながらおねえちゃんは指先に白いレースのパンツを引っ掛けてくるくると回す。
 部屋の中に緊張が走り、僕の横からゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、ということは倉橋、まさか今……」
「履いてませんが、それが何か?」
 少し動揺した様子で直輝さんが小夜子さんに尋ねれば、小夜子さんはそれがどうしたとでも言わんばかりに笑顔で答えた。

 部屋の中にさっきとは違う沈黙が流れる中、僕は口を開いた。
「おねえちゃん、推理を披露する前にパンツをはいてよ……」


「でも私のパンツは本物の月子に履かせちゃったし、流石に他所様の下着を勝手に履く訳にはいかないよ」
「倉橋、そのパンツはやるから一旦履いてきてくれないか……」
 変なところで礼節を重んじる小夜子さんに皆が言葉を失う中、直輝さんがぐったりした様子で小夜子さんに頼んだ。

「まあ、先輩さえいいのならお言葉に甘えますけど」
 小夜子さんは一旦別室でパンツを履いた後、また部屋に戻って来た。

 これで小夜子さんはちゃんと下着を履いた状態になったのだけれど、さっきこれ見よがしに皆に見せていた白いレースのパンツを今小夜子さんが履いているのかと思うと、僕はなんともいえない気持ちになった。

「お待たせしました。ええっと、じゃあ次はどうやって孝志君が月子をさらったのかを説明しますね」
 着替えから戻って来た後も小夜子さんは相変わらずマイペースだった。

「この部屋の上にあるのって、孝志君の部屋ですよね。ワイヤーのようなもので繋いで上に引き上げれば月子が一瞬で消えたことも説明がつきます」
 最近の自動巻取りの釣具では50キロの魚だって吊り上げられる物もあるので、同じように巻き取り用のワイヤーを月子の足にでも括り付け、引けば完全にワイヤーを巻き取るスイッチが入るように細工したもう一本のワイヤーを垂らして頃合を見て月子をバルコニーまで引き上げたのではいないかと小夜子さんは言った。

「待ってくれワイヤーで吊り上げると言っても、実際そんな簡単に上手くいくとは思えない。窓の上には覆いかぶさるようにバルコニーがあるのだし普通に引き上げても手すりの辺りで引っかかってしまうんじゃないか? そんなことになれば俺が庭に出た時にすぐ気付くはずだ」
 すぐに直輝さんがそんなに簡単に上手くいくものかと小夜子さんの荒唐無稽な推理に食って掛かった。

「それはありません。だってあのバルコニーの床、開閉が可能ですもん。そこから月子をバルコニーに引き上げれば何も問題はありません。バルコニーの床が開閉可能なのは孝志君が部屋を私達が警察に行っている間に月子の残りの体を捨てに行った時に由乃君に確認してもらったので間違いないです」
 言いながら小夜子さんが大広間にあった高めの背もたれのある椅子を持ち上げて窓を出たすぐ上に屋根のように覆いかぶさったバルコニーの床をつつく。
 するとある一部分だけが微かに持ち上がった。

「月子の、残りの体……?」
 訝しむように直輝さんは小夜子さんを見た。
「リアルドールは外側はシリコンでも内側に頑丈な骨組みがあって、月子が消えてからほとんどの時間を私たちと一緒にいた孝志君が短時間で全てをバラバラにすることなんてできません。だけど頭や手などの身元の特定しやすい部位だけ切断して着けていた下着も一緒に流したら、あたかも全部ばらされて捨てられたように見えます。実際回収された月子のパーツは明らかに元の体を作るには足りませんでした」

「つまり、どちらにしろ月子の体はもう解体されてこの家には無いということか?」
「ええ、私たちが家を出て三時間以上経ってますし、由乃君から聞いた話によるとその間、孝志君は部屋に篭っては度々降りてきてはどこかへ出かけていたようですから、もしかしたらもう残骸すらないかも知れませんね」
 直輝さんの問いかけに小夜子さんは頷いた。

「さっきから黙って聞いていれば、そんなのただの推測の域を出ない言いがかりじゃないですか。確かにその話なら僕にも犯行は可能かもしれない。だけど僕がそうしたという証拠なんて無いじゃないですか」
 そこでやっとさっきからずっと黙っていた孝志さんが口を開いたけれど、その様は酷く動揺しているように見えた。

「あるよ? 由乃君、アレお願い」
 小首を傾げて小夜子さんは笑った。
 僕は小夜子さんに言われた通り、孝志さんが部屋を空けている隙に家捜しして見つけた床下収納にあった解体途中の人形を撮った画像を携帯電話に表示してその場にいる人達に見せる。
 調度まだ胴体の解体がまだだった時の物なので、解体されている途中の花嫁の下着も確認できる。
 それは度々洗濯の時に見かける小夜子さんの黒いパンツで間違いなかった。

「孝志君が月子を解体しながら何度かに分けてパーツを捨てに行っている間、由乃君にバルコニーを調べてもらうついでに怪しそうなところをいくつか調べてもらったの」
 ニコニコと人のいい笑みを浮かべながら小夜子さんが言う。
 この画像がある以上、もう孝志さんは言い逃れできないだろう。

「孝志、お前なんでこんなことを……」
 直輝さんが尋ねれば、孝志さんは拳を握り締めてわなわなと震えながらも語り出した。
「本来、人形愛とは相手に何の見返りも求めず、ただ純粋に相手に無償の愛を与え続けるものだ。なのに世の中には碌に人形の手入れもせず、粗末な扱いをする輩のなんと多い……丹精込めて作った娘とも言える人形に突っ込む用の穴を開けてくれなんて言ってくる奴らもいる。僕は、小さい頃から人形に囲まれて育ってきたくせに、そいつらと同じことをしようとしだした兄さんが許せなかったんだ」

 場の空気が静まり返った。

 石井家の人達は、沙羅ちゃんも含めて皆神妙な面持ちでその話を聞いていたけれど、榎本さんは困惑した顔をしていた。
「あの子が汚される前に、開放してやりたかったんだ。人形は人間じゃない、だけど、家族なんだ……!」
 搾り出すような声で孝志さんが言った。

「解ってるよそんなこと、だからこそ俺は月子と結婚したかったんだ。俺にとって月子は本当に理想の女性だったんだ!」
「落ち着きなよ、同じ型のものなら注文してくれたらまた作れる」
 孝志さんに掴みかかる直輝さんを榎本さんが間に入って宥める。

「例え同じ型の人形が来たとして、最初に俺の元にやって来てくれた月子は彼女だけなんだ……」
 直輝さんはその場に崩れ落ちながら、涙ながらに嘆いた。
「孝志君、愛の形はね、何も一つじゃないと思うの。でもそれが周りに認められるか、自分が受け入れられるかはやっぱり別だと思う。だけど、それを理解しようとする事はできると思うの」
 最後に小夜子さんが何かわかったようなわからないようなことを言ってその場を締めくくった。

 結局、ここから先は身内の問題なのでということになり、僕らはお暇することになった。

「また遊びに来てね」
 帰り際に見送りに来てくれた沙羅ちゃんがそう言って手を振っていたので僕も手を振り返すと、
「由乃君も隅に置けないな~」
 と、小夜子さんはニヤニヤ笑っていた。

 日もすっかり暮れて、駅前に向かう途中、僕は孝志さんの部屋で月子の残骸とは別に見つけたある物について小夜子さんに尋ねた。
「孝志さんの部屋で、月子とは別のお姉ちゃんにそっくりの人形を見つけたよ」
 携帯を操作してその小夜子さんそっくりの人形の画像を出す。

 それは作業台と思われる机の隣に用意された椅子に腰掛け、布を被っていた。
 シリコンではなく何か硬い素材で作られたそれは、触れてみればひんやりと冷たかったけれど、布をめくった時、僕は一瞬本当にそこに小夜子さんがいるんじゃないかと息を呑んだ。
 すぐに人形だとは解ったのに、なぜだか僕は彼女が生きているような、何か意志を持っているような気がして妙に恐ろしかった。

 小夜子さん本人が普段着ないような高そうな着物を着て、丁寧に結われた髪に綺麗な簪を付けた彼女が、孝志さんからとても愛されていることはすぐにわかった。
 だけど、だったらなぜ同じような見た目の月子をあそこまでして壊そうとするのか、わからなかった。
 そしてそれを見た上で孝志さんの小夜子さんに対する態度を思い起こすと、小夜子さんの対応のせいで気付かなかったけれど、あの突っかかるような態度は本当に小夜子さんを忌々しく思っていたのかもしれないとも思えてただひたすらに不気味で気持ち悪くて、怖かった。

 だけど、当の小夜子さんは画像を見るなり、
「へえ、随分そっくりに作ったのねえ」
 と感心するだけだった。

「……おねえちゃんは、身の危険とか感じないの?」
「代わりが既にあって、私が必要以上に近づきすぎなければ大丈夫なんじゃないかな~とは思う。流石に絹恵さん達もノーパンで得意気に推理ショーを始める嫁は欲しくないだろうし。それにしても、なんだかんだでやっぱり兄弟なのね~」
 たまらず僕がそう問いかければ、しれっと小夜子さんは更なる爆弾を投下する。

「ねえ、小夜子さんは直輝さんに昔何されたの?」
「学生時代に一回口説かれて、殺されそうになっただけよ~。『人形のようになった君を一生愛したい』とか言われたから、死体の腐敗についてとか、エバーミングの限界とかを切々と語って、それなら私そっくりの人形を作ったら良いじゃないかって話になって、それから一緒に職人さん探したりなんだりしたのよ。その人形が完成したって言うから、今日は楽しみにしてたのにな~」
 耳を疑った。だけど半年近く小夜子さんと暮らした僕にはその言葉が真実であるのだろうとすぐにわかった。

「気持ち悪いとか、怖いとか、思わないの?」
「う~ん、その程度のことで取り乱してたら何もできないしな~。まあ要するに、私が美人過ぎるからいろんな人から惚れられちゃって困っちゃうって感じかしら? なんにせよ、楽しんだ者勝ちよ」
 茶化すように小夜子さんが言う。

「由乃君はね、私と同じ匂いがするから人生の先輩としてその楽しみ方を教えられたらいいな~なんて思ってるんだよ」
 駅前でタクシーを拾って乗り込む直前、小夜子さんの囁きに僕は頼もしいような恐ろしいような気持ちになった。

 それから僕達は家に帰ったのだけど、家に入って靴を脱ぐやいなや、小夜子さんは僕の手を引いて家の中を歩き回り出した。
 まずは玄関から台所に向かいながら、
「あーなんだか急にカレーが食べたくなっちゃったなー、でもいまから作るのめんどうだなーだれかコンビニとかでレトルトのカレーでも買ってきてくれないかなー」
「じゃあ後でカレーは買いに行くとして、ご飯だけ炊いておこうか」

 ベランダを見て、それからいつも服をしまっている箪笥を見る。
「わあ、干してあった洗濯物が取り込んであるだけじゃなくて綺麗にたたまれてしまわれてる、暁かしら、それとも新手のストーカーさんかしら」
「たぶん暁さんだと思うけど、新しいストーカーでも僕は驚かないよ」

 風呂場を一回覗いて脱衣所で、
「お風呂ももう沸いてる、由乃君、せっかくだから一緒に入りましょうか」
「仮に新しいストーカーだとすると、まだ家の中にいるかもしれないんじゃない?」

 小夜子さんの寝室にて、
「考えてみればそうね、まだどこか家の中に潜んでいるかもしれない、由乃君、怖いから今日は一緒に寝ましょう」
 そこまで小夜子さんが言った直後、小夜子さんの携帯に着信があった。

「あら暁、そう、お昼のうちに暁が全部やってくれてたの、え?そうだな~適当に美味しそうなやつお願い。私は中辛で由乃君は甘口ね。え?泊まる?でも今どこにいるの?たまたま近く?そう、じゃあついでにデザートも買ってきてもらおうかな……」
 相手は暁さんのようだったけれど、明らかに話の内容がさっきの僕らの話を知っているような内容だった。

 電話を切るなり小夜子さんは僕を振り返って言った。
「よし由乃君、それじゃあ暁が来るまでの間に宝探しでもしましょうか」
 それから僕と小夜子さんは暁さんが来るまでの間にコンセント等を探し、見つかった数種類の盗聴器を前に、暁さんにどんな仕返しの嫌がらせをするかを筆談で相談した。

 意気揚々と買い物を済ませてやってきた暁さんに、湯はもうできているのでレトルトカレーを入れてくれと頼み、鍋の中で煮える盗聴器を前にした暁さんの反応を見るのは、なるほど確かに楽しかった。

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