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妖幻抄6章だ!
やっとここまで来れました(^^)
まあ、楽しんで、読んでくださいな♪

妖幻抄―6章―
作:維月十夜



受難


ヨミとじゃれていた明は、突然、瀬那に腕を掴まれ、小屋の中に引き込まれてしまった。
「せ、瀬那?!どうしたんだ」
「しっ、静かに!隠れて、隠れるんだっ」
「誰なんだ、あの男は」
乗りだして、明は、氷雨と話している相手を見た。
「族長の狼牙ろうが、氷雨の祖父殿さ…それがまた、暴君で」
「氷雨の…祖父、か」

 「氷雨、儂はな、お前のためを、思って言っておるのだ。出来損ないの半魔なんぞを側において、恥をかくはお前ぞ?さ、その出来損ないの女を出せ、儂が殺してやる」
「明は、出来損ないなんかじゃねぇし、てめぇに、殺させるつもりもねぇ。さっさと失せろ」
唸る氷雨に、狼牙は、うすく笑った。
ほだされおって、バカめが…どけっ!」
「ぐうっ!?」
狼牙は、氷雨を殴り倒して一瞥をくれると、歩み寄って、背中を踏んだ。
「氷雨っ!?」
明は氷雨の声に、瀬那の制止をふり切り、小屋から飛びだした。
「くっ、明…出てくるなって、言ったろうが」
「うるさいっ、お前が心配だったんだ!文句あるかっ」
「明…」
「ほう、こいつが、例の半魔だな。見目よいではないか…」
「貴様、よくも氷雨を!」
明は、氷雨を背中に庇い、狼牙を睨みつける。
その目に宿るのは、憤怒だった。
「いい目だ、半分は泥とはいえ、さすが人狼の血よ。だが、所詮は半魔…純粋な妖の血には勝てぬっ!」
「ぐあっ!」
狼牙に蹴り飛ばされ、転がる明。
木に激突し、幹が、衝撃に軋んだ。
「明っ!?じじい、てめぇっやめろっ!」
半身を起こして、叫ぶ氷雨に、狼牙は砂をかけた。
「うっ、くそじじいっ、げほっ」
「なんだその目は、え?孫を誑かしおってっ、死ねっ!死ぬがいいっ!」
「うっ!ぐはっ…がっ、っあ!?」
たて続けに蹴られ、明は蹲った。
「や、めろ…やめろ――――っ!!」
黒い巨体が、宙を舞う。
氷雨が叫ぶのと同時に、虎の声が吼えた。
「なっ、やめろっ、う、烏兎だと!?氷雨、おのれ!」
虎の声で吼えたのは、黒く、つややかな獣。
元の大きさより、何倍にも巨大化した、ヨミだった。
ヨミに踏み倒されたまま、気圧された狼牙は、氷雨に助けを求め始めた。
「氷雨、悪かった、謝る…小娘のことも、認めてやる。だから、助けてくれ。な?頼む、この烏兎に、言ってきかせてくれ」
「断る、ここまでしといて、助けてくれだぁ?少ぅし、虫がよすぎンじゃねぇか?あ?じじい…相っ変わらず、往生際悪いな。くたばるのは、てめぇだよ」
「ひっ、氷雨ぇ…頼む、老い先短い儂を思って、ここは一つ…」
「知らねぇな。ヨミ、そいつ、お前にやる」
赤々と燃える目が、ひた、と獲物を見つめる。
グルル、と喉を鳴らし、ヨミは牙を剥いた。
骨が、砕ける音、咀嚼する音がする。
氷雨は、明を抱き上げると、無言で、森に入っていった。

 月明かりが射す、森の中…
氷雨は、明を抱きかかえていた。
「明、すまねぇ…俺が、情けねぇばかりに、ケガさしちまった」
口許に滲む血を、湿らせた布で拭いながら、氷雨は俯いた。
「氷雨…ここ、どこだ?」
「明!平気かっ?どこも、苦しくねぇかっ」
うっすらと、目を開けた明を、氷雨は抱き締めた。
「平気、だ、なんだ…泣くな、男だろ?」
「俺だって泣く!」
「氷雨…」
「明…逃げよう、二人で、村を出るんだ!」
その時、チィっ!と鳴いて、茂みからヨミが出てきた。
「ヨミ…おいで、いい子ね」
クルル、と啼いて、ヨミは小さな、滑らかな毛皮をすりつけて甘える。
しかし、甘えていたヨミが、不意に動きを止め、小さく唸り始めた。
「狼牙の匂いだ…近づいてきやがる」
鋭く、舌打ちする氷雨。
ヨミは、首を振ると同時に巨大化し、明を庇って前に出た。
「フン…儂を甘くみるな、ガキめ!死んだと思うて、油断したなぁ…腕一つごとき、なくても不自由せぬわっ」
「じじい…てめぇ、許さねぇぞ!」
「ほう、氷雨…お前、一族より、この女を選ぶというのか」
「うるせぇ…黙れ、それ以上ぬかすと、殺すぞ」
「あたしが行く、氷雨は…黙っていてくれないか」
明は、氷雨を後ろに押しやると、狼牙と向き合った。
「明!」
「心配ない、すぐ済ませる」
「大した口を利くが、半魔ごときに、なにができる!」
「うるさい…吼えるな、来いっ!」
明は、爪を構える。
彼女は、夜の姿である、人狼になっていた。
「小娘がぁ!儂を愚弄しおってぇ――――!?」
狼牙が、めちゃくちゃに振りまわす刀をよけ、明は、とんぼを切って着地した。
「これは…さっきの礼だっ!」
明は、爪を振りかぶる。
月明かりに、血が、しぶいた。
刀が弾きとばされ、乾いた音をたてて、離れた地面に転がる。
明の腕が、狼牙の胸郭を、貫いていた。
「小娘、き…さまっ、ゴフッ!」
「目には目を、というだろう…そうしたまでだ」
明は、腕を引き抜くと、狼牙の刀を拾い、切っ先を向けて言った。
「おの、れぇ…半魔、の分際でっ」
「見くびるな!?」
「ひぃっ!」
明は、切っ先を狼牙に突きつける。
「見くびるな…すべての、半魔が弱いということではない。心臓は避けておいたが、どうだ…息が苦しいだろう、肺を裂いたからな。死ぬも、時の問題ということだ」
ヨミが、決めかねるように小さく唸り、狼牙に牙を抜く。
「ヨミ、そんなもん食うな…腹くだすぜ?」
氷雨は、ヨミを撫でると、狼牙の傍に屈んだ。
「氷雨、氷雨ぇ!よく来てくれたっ、儂を、村に連れて行ってくれ」
掠れた声で、哀願する狼牙。
しかし、氷雨は、彼を冷ややかに見つめると、静かに言った。
「てめぇは死ね、助けるつもりなんてねぇよ…てめぇのようなヤツでも、せいぜい土にでもなって、役に立て」
「じきに、雑魚妖魔がくる…血の匂いに惹かれて」
明は、氷雨に寄り添う。
「俺たちは、村を出る。じゃあな、じじい」
「氷…雨」
狼牙は、うめきながら手を伸ばし、明の足首を掴んだ。
「小娘っ…儂は、死なん…必ず、お前…を殺す!名乗れぇっ」
「明だ」
「そう、か…儂は、か、ならず、貴様、を殺しに行く!覚えておけっ」
明の足を離さない狼牙を、ヨミは、前足で薙ぎ払った。
「ぐぉああ!?けはっ…」
狼牙は、枯れ葉のように吹き飛ぶ。
「行こう、氷雨…用は済んだ」

 氷雨は、明を抱き寄せた。
「こい、明…村には戻らん。このまま、森を抜けるぞ」
巨大化したままの、ヨミが喉を鳴らして、明に甘える。
狼牙を放置し、二人は、静かに森を進んでいった。
「どうするんだ、氷雨…これから、どこに行く?」
明は、氷雨を見あげて聞いた。
「そんな顔するなよ、心配すンな」
そこまで言いかけて、彼は、動きを止めた。
「いるんだろ、母さん…」
風がわたり、木々がざわめく。
「氷雨、やっぱり行くんだね」
木の陰から現れたのは、瀬那だった。
「ああ」
瀬那は、明に歩み寄ると、彼女をきつく抱き締めた。
「おいで、明…血を分けてあげる、これで、完全な人狼になれるから」
瀬那は、手首を牙で傷つけると、明に差しだした。
「血を飲んで?また、じいさまは追ってくる。あんたに、不憫な思いはさせたくないんだよ…分かっておくれ、明」
「瀬那…あいつ、生きてるのか?」
「ああ、残念ながら。傷口が変色してた、烏兎の毒が回ったんだろうね。あんたは、なにも悪くない。むしろ…礼を言うよ、ありがとう、明…あんたがやらなかったとしても、あたし達が殺してたさ」
「瀬那、すまない…」
明は、瀬那の血を、口に含んで言った。
「さぁ、これでいい…キレイだね、明」
瀬那は、微笑んだ。
年を、感じさせない笑顔だった。
「母さん…」
氷雨は、しばらく母を見つめてから『ありがとう』と言った。
「なに言ってンの、あんたって子は!いいかい、明を大切にね、しっかり生きるんだよ?」
「ああ、母さんもな…長生きしろよ?」
「お前らしくないったら…ありがとうね。それと、そこの賢いあんたも、この二人を頼むよ?」
ヨミは、瀬那に近づくと、彼女の頬を舐めた。
承諾したようだ。
「あったかい…頼んだよ?ヨミ」
ヨミは、クルル、と喉を鳴らして、それに応えた。
「さぁ、お行きよ…夜が明ける」
明が、頭を撫でると、ヨミは身を低くして、騎乗を促す。
明は、ヨミの背中に乗り、氷雨も同じく後ろに座った。
「ありがとう、瀬那…それじゃ、行くよ」
「うん、行って…世界を、見ておいで。幸せにおなり」
「ありがとう、行ってきます!!」
走り出した、ヨミの背中から乗り出し、叫ぶ明に、瀬那は手を振った。
瀬那の姿が、小さくなる。
見えなくなっても明は、いつまでも、後ろを見つめていた。
「お行き、先駆けの風よ」
二人が去ったあと、瀬那は、ぽつりと呟いた。
「行きましたか、やはり」
隣でした声に、瀬那は、勢いよく振りむいた。
「十六夜さん!?いつからいたんですか…」
「今さっきですよ」
にこにこ、と笑いながら言った十六夜に、首を傾げる瀬那。
「はあ…」

 ヨミは、うす明るい、夜明けの平野を走っていた。
明は、過ぎゆく風景に、目を細めた。
どこまでも続く、青草の海。
朝陽を受けて、キラキラと輝いている。
「きれい…」
朝焼けに染まる草原を見て、明は、うっとりと言った。
「明、寒くねぇか?風が冷たい」
「全然、なぁ…氷雨、これから、どこに行くんだ?」
「そうだよな、村出たはいいが、行く先が決まってねぇと」
「ヨミ、ヨミ、ちょっと止まってくれ!いい子だ」
明は、ヨミの首筋を、優しく叩いた。
クルル、と啼いて、ヨミは止まる。
「どうしようか、このままじゃ、行く宛もない」
伸びをしてから、明が言った。
明と氷雨が、背中から降りると同時に、小型化するヨミ。
「そうだなぁ、取りあえず…村落を見つけるこったな。食いモンと、寝床が必要だろ?」
「そうだな、ヨミおいでっ、行くぞっ」
「キュウン!」
二人と一匹(?)は、とりあえず、村落を捜すことにした。















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