『ホラーホラー・フェスティバル〜数珠繋ぎの作者たち〜』第5話PDFで表示縦書き表示RDF


これは、リレー小説の第五話です。
今までの順番は、
ひとやすみ先生→和佐先生→アオキチヒロ先生→霜月沙羅先生→天海沙月
となっております。
『ホラーホラー・フェスティバル〜数珠繋ぎの作者たち〜』第5話
作:天海 沙月


 りん。

 鈴の音が鳴る。
 一度聞いたら、忘れないような、他の鈴とは違う、特徴的な音。
 初めて、『死』という事が現実的なものに感じられた。
 私は、死ぬのだろう。
 それは、予感ではなく、確信。



「ただいまー」
 鍵を開けて玄関に入ると、私は常のように郵便受けから夕刊を引き出す。と、封筒が一緒に落ちた。どさり、という妙に重い音。
 友達からかな。私は、わくわくしながら差出人の欄を見る。
 ……。無い。
 確かに私の名前と住所が書いてあるにも関わらず、差出人の情報はまったく書かれていなかった。
 大体、封筒がちょっと地味だ。その上、厚さが異常だった。
 ビデオテープぐらいはあるんじゃないか。
 とりあえず、家の中に入って、居間のテーブルに新聞を放り、鞄を下ろそうと、自分の部屋へ向かう。
 母は出張で出かけているから、今、家の中には誰もいない。
 階段を上がって、低めの本棚の上から携帯を取ると、ネットに繋ぐ。
 そして、椅子の上にリュックを下ろし、お気に入りから『小説家になろう〜秘密基地〜』を呼び出した。
 私は大抵、秘密基地で掲示板をチェックしてから、『小説家になろう』へアクセスする。
 画面を下へスクロールさせ、<仲間募集>をクリックすると、『真夏のホラーフェア』のスレッドが上がっていた。
 夏休み頃に私が参加した企画のスレッドだ。何故今頃上がっているのだろう? とりあえず、クリックしてみる。

『霜月 沙羅
 ホラーフェアに参加した方々に伝えたいことがあります。突然ですが、最近のニュースは見ましたか? 交通事故のニュースや、キエロの文字、赤子の手……そしてそれらが出て来る小説を読んだ覚えはありませんか? ……私達は死ぬのだと思います。詳しく話すと、』

「?」
 何だこれ。
 内容もよくわからないし、長い文章でもないのに、途中で終わっている。
 霜月沙羅という名前が入っていなければ、荒らしだと思っただろう。荒らしが霜月先生の名を借りたということも考えられるけど。
 ピッ、と短く携帯電話が鳴り、「充電が必要です」のメッセージが表示される。
 私は非常に携帯の使い方が荒い。おかげで、まだ一年半ほどしか使っていないというのに、後ろのフタは無いし、しょっちゅうネットを使うせいで、ボタンも下だけ剥げている。
 何より、電池パックに少量しか電気が貯められなくなった。
 最近では、ネットに繋いでも30秒がいいところだ。
 とりあえず、一端電源を切り、携帯を充電器に繋いだ。
 けれど、あの文章が頭から離れない。
 交通事故のニュース、キエロの文字、赤子の手。
 最近のニュースで見ていたが、どこか既視感を覚えた。それも其の筈だ。実際に其れと同じ出来事が出てくる小説を読んだのだから。
「ん?」
 自分の考えながら、さらりと流してしまうところだった。
 現実で起きた事件と同じ出来事が小説の中で起こっていた。
 裏を返せば、読んだ小説と同じ出来事が、現実で起こっているということ?
 まさか。
 小説の読みすぎだろう。
 私は、机の上からはさみを取った。さっきの封筒を開けてみようと思ったのだ。
「!?」
 赤。
 赤、赤、赤、赤赤赤赤赤。
 ビデオテープを連想させる厚みのある封筒から出てきたのは、夥しい量の赤いクレヨン。
 封筒をひっくり返す。しかし、赤いクレヨン以外に、一枚の紙片も入ってはいなかった。
 差出人不明。中身は赤いクレヨンだけで、便箋は無い。送り主の情報は何も、無い。
 ……気持ち悪い。
 途端、怖ろしい考えが頭をよぎった。
 うちの郵便受けは、小さく、間にブラシのようなものが挟まっていて、チラシや新聞のような紙しか入らない。
 こんな、ビデオテープ程も厚みのあるものは郵便受けを通らないのだ。
 でも、確かにこの封筒は新聞を取ったときに一緒に落ちた。
 つまり、既に郵便受けの中に、家の中に入っていたということだ。
 ――どうやって?
 お母さんは出張。お父さんも仕事に出かけているから、日中、家には誰もいなかった筈なのに。郵便物を受け取れる人物など、いなかったのに。

 りん。

 不意に背後で、鈴が鳴った。
 驚いて振り向くが、ぴたりと閉じた押入れがあるだけ。
 赤いクレヨン。鈴の音。
 私は、知っている。
 この出来事を知っている。
 他でもない、私がホラーフェアで書いた小説――『猫伽草子』と同じなのだから。



 翌日。私は何事も無かったかのように学校にいた。
 けれど、授業などまったく聞いておらず、意識は昨日の赤いクレヨンと、掲示板の書き込みに向けられている。
 ――猫伽草子は確か、主人公の元に大量の赤いクレヨンが送られてきて、それは昔イジメで死なせてしまった女の子の飼い猫からの復讐。
 そして、その飼い猫は猫又となって、主人公の親友に化けている――とても省略して言えば、そんな感じだったと思う。
 しかし、肝心の親友と猫又の名前がどうしても思い出せなかった。
「次移動だよ。早くー」
「あっ、待ってヨモギ」
 呼ばれて、筆箱を持ち、私は親友のよもぎの方へ向かった。いつの間にか授業は終わっていたらしい。
「なんか眠そう」
「んー、昨日遅くて」
 あれから、掲示板の不可解な書き込みが気になって、良く眠れなかったのだ。
 内容が途中で終わっているから、近いうちに霜月先生が続きを書き込むだろうと思って、何度も確認したのだが、あれから新しい書き込みは一件も無かった。
 どうしてあの書き込みは途中で終わっていたんだろう?
「死んじゃったから」
「!」
 今、言ったのは誰?
「どうかした?」
 どうやら、蓬には聞こえなかったようだ。
「……なんでもない……」
 空耳だよね。私は少し早足に、教室を出た。

 りん。

 鈴の音。
 違う。さっきのは空耳なんかじゃない。
 と、筆箱が少し重くなっていることに気づいた。
 ずしりと、嫌な重み。
 少し前に、中身を減らした筈なのだが、ぱんぱんになっている。
 筆箱を、開ける。
 何しろぱんぱんなもので、開けにくい。
 少し開いたところで、指に何かが当たった。
 指に付いたのは、赤色。
「うわっ!」
 筆箱から大量の赤いクレヨンが溢れ出した。
 ばらばらと、緋色が床に散らばる。
 間違いない。これは猫伽草子だ。

『……私達は死ぬのだと思います』

 霜月先生の書き込みが頭をよぎる。
 やっぱり霜月先生は、もう。
 他の人たちは? 他の、ホラーフェアの参加者はどうなんだ?
 交通事故のニュース、キエロの文字、赤子の手。
「……!」
 三人、霜月先生を入れて四人。
 私も近いうちに、死ぬのだろうか?
 猫伽草子と同じく、親友に裏切られ、トラックに轢かれて。



 帰るなり、私は携帯を手に取り、秘密基地の掲示板を開いた。電源が切れないように、充電器に繋げたままだ。
 ホラーフェアのスレッドをクリックする。
 やはり、新しい書き込みは無いけれど、今度は「返信」という場所を押す。
 知らせなきゃ。
 私は、文章を打ち込んだ。
『皆さん、突然ですが』

 りん。

 鈴の音が鳴る。
 いや、音だけじゃない。
 にゃあ、と不気味な泣き声。
 其れは、特有のしなやかな動きで、近づいてくる。
 猫だ。
 大きな、三毛猫――。
「っ!」
 私は咄嗟に充電器から携帯を外すと、一気に階段を駆け下りた。
 玄関でスニーカーに足を入れると、ちゃんと履くのももどかしく、踵を潰して、体当たりするようにドアを開けて玄関から出る。
 どうすれば、この惨劇を止められる?
 私は走りながら考える。
 怪談話などをすると、霊が寄って来るというのはよく聞く。ホラー小説も同じく。
 そうだ。

 小説を削除すれば。

 猫伽草子はもう『外に出てしまっている』が、他の作品ならまだ間に合う。
 私は携帯を開いた。秘密基地の掲示板に繋がったままだ。
 急いで続きを打ち込む。
『ホラーフェアの小説を削除して下さい』
 まずい。電池の表示が二本になっている。そしてそれは、すぐに一本になった。
 電池が切れてしまう。
 急いで次の文章を打つ。
 猫は? 猫からはまだ逃げられているだろうか。
 息を切らせて、ひたすらに走り続けると、四辻の灯りの下に、誰かがいるのが見えた。
 蓬だ。
「ヨモギ……」

「近寄らないでよ」

 どん、と私は蓬に突き飛ばされた。
「あ……」
 そうだった。猫伽草子に出てくる、猫と親友の名前は、
 『ヨモギ』
 じゃあ、蓬は、猫伽草子の一部だったんだ。
 親友だと、思ってたのに。
「……っ」
 死にたくない。
 私は、咄嗟に突き飛ばされた方向へ跳んだ。
「!」
 蓬の予定より遠く、誰かの家の前に、私は倒れる。
 小説では、たまたま通りかかったトラックの前に、突き飛ばされて飛び出してしまった、ということだったが、さすがのトラックも、家に突っ込んでは来まい。
 私は、フタがない所為でむき出しになっている、電池パックをこすった。
 暖めると、少し電池が長持ちするのだ。
 お願い。まだ切れないで。
 私は、「送信」をクリックする。
 途端。前方から、ぱあっ、とライトが顔にかかった。
「え?」
 それは、トラックのライト。
 私は息を呑んだ。
 運転手が、乗ってない――。



 つう、と道路に、紅い筋が付く。
 筋の根源たる場所には、大破した誰かの家の玄関と、そこに突っ込んだトラック。
 そして、手足が異様な方向へ曲がり、只、血を流すだけの袋と成り果てた、ぐちゃぐちゃになった私の死体。
 もうちょっと、ましな死に方をしたかった。
 尾の先が二股に分かれた猫が、私の死体へ近寄る。
 握り締めた携帯の画面には、秘密基地のスレッド一覧が出ていて、ホラーフェアのスレッドが一番上に上がっており、書き込みが成功した事を示していた。
 猫又は、腹立たしげに、猫には持ち得ない力をもって、携帯を踏み砕く。

『天海沙月
 皆さん、突然ですがホラーフェアの小説を削除してください
 はやくしないとみんなしぬ』

 これだけしか、文章を残せなかった。
 時間が無くて、最後の方はひらがなだ。
 でも、小説を削除しても遅いかもしれない。

 だって、小説を削除するよりも先に、私達の方が削除されているかもしれないのだから。


第五話でした。
やはり、自分の死体を書くのは抵抗がありますね(汗)
もっとグロくなる筈だったんですが。
それでは、次の方、よろしくお願いします(ここから繋げられるかな……)













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