生きる意味がないと思うのは悲しい事で。
世間一般を選ぶのはあたり前の事で。
そんなこと、十分すぎるほど分かってると思っている自分がいる。
そうして、自分でもわからないくらい速いスピードでいまのあたり前が出来上がっていた。
本当に努力をするということの価値や意味もわからずに
死んでしまおうかと周りの人間に罪をおしつけて
そんな勇気、どこにもないくせに。
ただ、自分にないものがうらやましかった。
多分、それだけだった。
だからいろんなモノやコトに理由をつけてあたり前のように振舞ってきた。
理由の無いことなんて信じられなかった。
かと言って、本当に信じられるものなんて本当に望んでいたのか?
どうにかしてそれらしいような。
人間の欲の塊みたいな。
どちらかと言えば人間の裏側の汚いところを
まるで表面かのように、
自分の中で納得させたり、理解させたりするようにコントロールしていた。
最近の残酷なニュースさえも見飽きてしまって
もう、残酷どころか
それが、普通の日常だとでも言うように
こうやって冷めたふうで毎日毎日同じ事をくりかえす。
冷めたふりをしたかったのは何故なのか
それは今でも分からない。
いつのまにか「興味ない」が口癖になって
なにかも面倒くさくなっていて
全てを自分から遠ざけていた。
夢も望みも希望もない・・・・
そんなものあるはずもない。
あったとしても自分の手でどうにかして手に入れようなんて
クソ真面目に染まった考え方はできなかったろう。
もうすでに、夢の裏側をしったふりをしていたのかもしれない。
悲しい現実というものに立ち向かった勇者の抜け殻みたいになっていたのか。
本当は、なんの努力もしようともしていなかったのに。
もしくはそんな自分に少しでも憧れていたのか・・
そのうち、心の中で勝手につまらないと幾度も呟いていたのだろう。
欲しいものなんてずっと前から無い。
なんだか、望むべくもないような気がして。
それがあったって何ができるわけでもないだろうしなぁ。
そんな考えが浮かぶ。
もし、それで自分の好きな世界に変えられるのなら僕はそれを必死で追い求めただろうか
そんなこともないと思う。
すでに、何もかもがどうせもよかった。
物の価値なんてあってもなくてもどっちでもよかった。
与えられたものを受け取るばかりで
自分で拒否することさえできない自分がいた。
それも、単純にめんどくさかったからだと言えるのだろうか・・
もしかしたら、人間が怖かったのかもしれない。
いつまでたっても、差別なんか消えやしないし
それどころか危険はつきものだ。
それでいて、信頼だ何だといっている姿がよくよく理解できない。
全ては感情でコントロールされていて
だた、その感情だけで殺人をおかすこともあれば
思いつきでなにかを始めることも多い。
そんな人間に確実といっていいほど未来を求められなくなっていたといえる。
しかし、それだからこうなったとはとうてい言いがたいのだが。
与えたいと思う人もこともない。
作ろうともしていなかったと思う。
必要性なんてもっての外、考えていなかった。
しかし、心の中で望んでいたかは別問題である。
自分の心さえ読めない日々だったろう。
与えたい人がいないことは悲しいことだなんていうことは十分、承知しているつもりだった。
少なくとも、自分の中では。
60億人の世界の人の中で
1億2千万人のこの薄汚れた日本の中で、
自分は何番にはいっているのか。
ふと、とりとめないことを考えたりする。
すでに、60億人がどれほどの人数かなんてものは分かりもしないが
とりあえず、とてつもなく多いということだけは分かる。
自分の価値は自分で思うには最下位で決定なのだけれど。
まだ、認めたくない自分がいたのかもしれない。
下から数えられるくらいか
それとも思ったよりもいいほうなのか
考えているうちにどうでも良くなってしまう。
どうせ、そんなことは分かりはしないのだと思う。
そうして
自分がこの世から消えたとき
どれだけの人が悲しむのか
どれだけの人がこんな僕のために涙を流してくれるのか。
いなくなっても平気で忘れるんだろう・・。
いまの僕にはそんな答えしか出せない。
この答えが間違っていると言い切れる人物はいないであろう。
それを利用して僕は自分だけの邪悪な世界を作り上げるのだ。
気づけば哲学なのか何なのか、
へんな理論を一生懸命
自分の思っているように
僕の中の自由の世界みたいなものを
勝手に作りあげていた。
いま考えると、それは自由であって自由ではなかった。
誰もがしばりつけられていて
自分だけが自由だったのかもしれない。
もしくは、自分だって自由なんかじゃなかったかもしれない。
あしたもあさっても同じで
つまらなくって。
誰も話しかけてくれなくて。
なにもかもが妙に寂しくて。
それでも誰かに頼ることなんて死んでもできないと
なぜか
そんな思いばかりが僕の心の90%以上を占めていた。
自分から殻に閉じこもって
さっさと今日が終わってほしくてしかたなかった。
全てがめんどうくさいのか
それとも、したいけれどできないのか
自分で管理できるはずの自分の思いや考えさえ
押し殺していた間に
いつの間にか忘れてしまっていた・・。
もう僕はすでに人間ではない。
そうよく思った。
人間の形をした
ただの人形。
生きる意味のない人形。
もしくは
生きているようですでに
死んでいるのかもしれなかった。
つまらなくて
ほんとうにこのまま息もできなくなってしまうのではないか。
なんてこと思うようになっていた。
そんな時に
君と出会った・・・。
どうやって出会ったかといえば
それは
普通の人間が普通にする出会いと同じようなことだといえるだろう。
しかし、僕は君のことをほとんど知らなかった。
名前でさえ忘れていた。
見た目やいままで生きてきた記憶の糸を探ると
君は人一倍、正義感が強そうだった。
そうしてそんな君は
いつも僕をひっぱって
ある場所へつれていった。
「きれいな場所につれていってあげる」
と君は言っていたと思う。
僕の手を引いて
なんだか、嬉しそうで
少し早歩きの君に
だまったまま僕は抵抗もせずについていった。
なぜ、ついていったかといえば、
抵抗できなかったのもあるし、
なんだか、それ以上にエネルギーを使いたくなかった感じもあるし、
とりあえず、断る理由が思いつかなかったのだ。
そこは緑の生い茂った
いかにも自然いっぱいという感じのするところで、
僕はなんだか眩しくてしかたなかった。
上を見上げてみれば
青く澄んで
ひどく美しい空が輝いていて
そこには2〜3匹の鳥があっちへいったりこっちへいったり
自由に飛び回っていた。
確かにきれいで君のお気に入りなこの場所を
君はそれ以上言い尽くせないほど
いっぱい、いっぱい自慢していた。
ひさしぶりに見たきれいな自然の姿だったが
僕はまだ、TVを見ればどこにでもありそうな風景としか思っていなかった。
なぜかその後、君は黙りこんでしまった。
そうして僕らはここの景色にまどろむように
黙ったままいた。
別につまらないのには慣れていた。
何もないところで何もせずに過ごすのには
この世界の誰よりも耐えることができたかもしれない。
なんてバカなことを大真面目に思ったりしていた。
それでも君は全然、退屈してないようだった。
よっぽどここが気に入っているのか
毎日1人で来ていたのならなおさら平気なのはあたり前だったろう。
そのくらいにしか考えていなかった。
次の日、また君は僕をあの場所へつれていった。
君はたくさんいろんな話をした。
話し掛けられるというか、かってに話してくれているほうが楽だったし
ひさしぶりに人の話を聞いて、とくに悪い気持ちでもなかった。
でも、まだまだ心を開くなんてことはしなかった。
いつの間にか僕は、ただの怖がりというのか
よく分からないけど。
ひとみしりあるいは
“さわらぬ神にたたりなし”
みたいに、誰にも心を開くことなんて出来ない人間もどきになっていたのかもしれなかった。
別に、誰に恨みを持っていたわけでもないし
まわりの人間が全員嫌いなんて思ってもいなかったが。
まわりにはそう思っていると思われていたと思う。
単なるとっつきにくい奴として
捨てさられて、隔離されていたんであろう。
しかし、なぜ君はこんな邪魔なゴミ同然の僕に手をさし伸ばしたんだろう。
それが一番の謎だった。
それから数日たち、また僕は君につれてこられていた。
君はこの前のように勝手に話していた。
その時々に
僕に何か言いたいことがあったようだけど
思い出したように違う話をした
その合間に
悲しい顔をする君が妙にさみしくて
とっさに抱きしめたのを覚えてる
それはどうしてだったのか
自分の行動に少しとまどってしまった
でも、なんだかどうしても悲しかったのだ
普通の人間であって
僕のようにおかしくなってしまった人間もどきなんかじゃなくて
喜怒哀楽だって上手に出すことの出来ると思っていた君が
こんなに寂しい顔をするなんて
こんな僕の前じゃなくって
違うはけ口を持っていると思っていたのかもしれない
ましてや
君が泣くなんて思ってなかったのに
言葉通り、驚くほどに
僕の腕の中で君は声を上げて泣いた
なんだか僕は不思議な気持ちになっていた
こんなことは本当に初めてだったからだ
君はどうして泣いているんだろうか
それほどに悲しいことがあったというのか
それとも、いままで苦しいことを隠していたのか
全くといっていいほど僕には検討さえつかなかった
それでも
いつまでも泣きっぱなしの君を抱きしめながら
もう何を考えることも
なんの意味もないことのような
必要ないような不思議な気持ちになっていた
そうして
君のぬくもりを感じながら
僕の瞳からも少し涙がこぼれていた
どうしてかわからなかった
君に同情したわけではなかったと思う
もらい泣きといったものだったのか・・?
あるいは
君のきれいな涙に反応して
いつの間にか流れていたのかもしれない
しかし、正直まだ僕に涙なんてものがあるとは思ってもいなかった
もうとっくに無くなっているような気がしていた
なんとなく。
僕の涙は君のようにそんなきれいなものじゃなくって
もしかしたら
すごく汚れていたかもしれない
けれど僕はそれがきれいであると信じたかった
なぜだかわからないけれど・・
それから君が僕をつれていくのが2週間ごとになって1週間ごとになって
ついに僕は自分からあの場所へいくようになっていた
君に会いたかったのかもしれないし、単純に暇つぶしだったのかもしれない
でも、なぜか君の様子が気になったりもしていた気がする
とにかくそうやって毎日あの場所で顔を会わせるけれど
君はいつも勝手に話して
僕はいつもそれを大真面目に聞いていた
時に君はだまって広くて大きすぎるほどの空を見上げたりもしていた
なんだかその毎日の時間が何か大切で
全部全部、聞きのがしたりしたくなくて
単純に、深い意味なんかなく、僕と関わってくれる君の話を聞き逃すことはできなかったのかもしれない
それに
全然、君の話はつまらなくなんかなかった
どちらかといえば素晴しかっただろうと思う
少なくとも、僕には新鮮すぎるほど新鮮に感じられた
ひさしぶりに本当の人間の生き生きとした話を聞いているからだったろうか
それでも、TVの中のどんな人の話よりも
僕にとって注目すべき存在だったに違いない
特別な感情を抱いていたのか、その選択肢はこのときの僕にはなかったが。
この自分に少しとまどって
また君の話を聞いた
君の話は
悲しい話、楽しい話なんかみたいにひとまとめにはしにくくて
普通に違いないけど
特別にも違いなかった
君の世界観は自由で
それでいてとても広くて
まるでたまに君が見上げるこの青く輝く空のように。
君は話すのがすごくうまいわけじゃないけど
内容はけっこう好きだったような気がする
僕はいつのまにかその話に引き込まれていった
君は
喜怒哀楽が激しくて
ちょっと自分勝手だったりする。
そんなところが僕には何よりもうらやましかった
でも、やっぱりこんなのが本当の人間なんだなぁ。
なんて
少し思ったりもしたことは事実である
雨の日も晴れの日も
とにかく僕らは一緒にいた。
そして、僕も少しはしゃべるようになっていっていた
その時点でもうすでに少しは君に心を開いていたのかもしれない
でも、誰よりも
何に関しても不器用な僕はあまり何もそのことには感じていなかった
君が楽しそうだからつい
悲しそうだからつい
怒っているところもなんだかおもしろいからつい
なんて感じだったろう
しゃべるなんて言っても
ただ、相づちをいれる程度で、君にとっては何でもなかったかもしれない
君は僕を決して笑ったりしない
友達の1人もいない僕をかわいそうなんて言ったり
もちろん僕もそんなようなことはしない
なぜかといえばそんなことを言ってもなにも始まらないことを
僕らは知っていたからだと思う
始まらないどころか
そんなことをすれば相手を傷つけることも知っていたと思う
2人とも単純に弱かったのかもしれない
逆にいえば
他にはないくらい強かったかもしれない。
人を傷つけるということは
なんの意味もないことだ
それで、もしかしたら自分の気持ちがすっきりしたとしても
相手は傷つくだろう
僕にとっては相手のことなんてまだまだどうでもいいと思っていた
でも
君を意味のないことでもあることでも
傷つけてしまうのには
ものすごく抵抗があった
どうしてだかよく説明はできないのだけれども。
心は通じているかのようなことを言っても
僕らはお互いにお互いの名前をも知らない
もしかしたら君は知っていたかもしれないけれど。
名前だとどうしてもへんな感じもするだろうしイメージと合うかどうかも分からないから
2人して、お互いの2人の中だけの名前をつけた
そのほうが何倍も自然で、落ち着いた
実際に名前で呼んではないがこのほうがよかったろうと思う
いまの君と僕はなんだか、すごく近い。
そんな気がする
僕を知っている人の中で、一番僕をしっていて
それでいてやっぱり一番、理解があると思う
君の中では一番僕が君を知っているかどうかは分からないけど
でも、理解は一番しているんじゃないかと
そして、できるんじゃないかと思う
どこからそんな自信がでてきたのかがちょっと不思議だけれど
それでも、まだお互いに知らないこともたくさんあった
気持ちは通じているはずだ。
君が、伝えなくていいと思っていることは僕自身
聞かなくてもいいものなんだと思っている。
それが信用というか信頼というかは知らないが
こんな気持ちになったのはひさしぶりというよりは
とてもなつかしい感情だった
こうやって、毎日2人でいて
とっても不思議だなぁと思う。
時々、考えてみると不思議でたまらない
どうして僕と君はこうやっているんだろうかと。
“神様が与えた運命でこうなっているのさ”
なんてことは考えられなかった
どっちにしても僕は最初から運命論
なんて、バカげていると思っていたし
いまでもそんなことを夢中で真剣に
なんにも疑わず信じることなんてできない
もとあと言えば、神様という存在自体がなにより疑わしい気がするのだ
様々な人が言うように
神様は誰でも見ていて
救いの手をさしのべたり
また、試練を与えてそれを人間のためとしているのであれば
どうしてこんなにも不公平は生まれるのか
僕だって不幸だとは思う
どうしてこんな人間もどきなんかになっているのか
また、人間であった頃だってそんなにいい生活どころか
いいことなんて1つもなかったろう
そう思う
僕は、単純に神様の出す試練から落ちぶれて
こうなってしまっているのか
それならば、神様なんてものは人間を救うモンなんかじゃないだろう
不公平に人間を幸福にしたり不幸にするのか
それとも、そんなモノ自体、あるはずないのか
僕は後者のほうを信じているといえるだろう
そうして毎日
君は相変わらず話して
僕もずっと聞いた
ゆっくり過ぎていっていたはずの時間が過ぎるのもだんだんはやくなっていっていて
その日、君と別れるのがさみしかった
「また」
と一言
それだけで2人はそれぞれのところへ帰っていった
へんに言葉を変えたりしたら
帰れなくなってしまうだろう
だから、わざと「また」の一言で
それが僕らのいつの間にかの約束だった
僕はなんだか分からないものにお願いをしていた
それは
なんだか君がいなくなってしまうような、へんに心細い気持ちになったからだった
“・・とずっと一緒にいられますように”
と。
そうすると、なんだかスッキリした気がした
不安はなぜかまだあるのだけれど
でも、落ち着いた気がした
これはもうすでに恋かもしれなかったし愛かもしれなかったような感じがする
そうして僕は
幼い日の遠いあの初恋の日を思い出していた
初恋といえるのかどうかさえ少し微妙だったような気もする
あの日の気持ちはいつまでも
伝えられないままだったと思う
なんだか不安になって
少し、胸が苦しくて
でも、あの子に会うとそれもおさまっていた
魔法にでもかかったように
それは
少しちがったけどやっぱりどこか似ていた
というよりはそれ以上だった
年を重ねたからかもしれない
僕は、少しは大人に近づいていたのかなぁと思った
大嫌いなあの自分勝手で
権力なんかを振りまいてそれでどうにかしようなんて思っている
汚い大人たちに・・
しかし、前に述べたこの気持ちはなんとも切なく
そんな汚い大人たちの、カケラでさえも見つからなかったような気がする
でも、僕にはこの気持ちを知ってもどうすることもできなかったのだ
逃げていたといえばそうだろうし
方法を知らなかったのもひとつだっただろうか
まだ。完全にわかっていたわけでもなかっただろうし
話はどれだけしても、尽きることはなくて
あたり前のようにまた顔を合わせていた
なんとなくだけど
君は少し不器用だったし、なんだか支えてあげなくちゃいけない
みたいな気持ちも少しながらでてきていたような気がする
その気持ち自体、いま思うとささやかながら
人間もどきの僕には考えられないほどの
気持ちの変化というか
新しい感情と言えただろう
ある日―・・
また君に会おうとして僕はまたあの場所にきていた
あたり前のようになっていたある日だった
前の僕のあたり前とは全く違うようになってのだが
君はなかなか来なかった
そうして、その日君はとうとう現れなかった
時計なんてもってきていなかったから
どのくらい待っていたかわからないけれど
青い空が紅く染まって
ついには真っ暗になっていた
僕はずっと待っていた
でもやっぱり君はこなかった
もしかしたら病気かそれとも事故か
なんてことが頭の中をかけめぐった
心配で心配で
なんとも言えないほど
おおげさに言えばいまにも気を失ってしまいそうだった
君のいまの状態を知るすべさえない
あんなに一緒にいたのに
なのに確かめる方法をしらないどころかない
それを知って僕はなんだかまた、ひとりぼっちのような寂しさにおそわれた
僕はとりあえず家へ帰ったけれど
やっぱりその夜は眠れなかった・・
次の日―・・
やっぱり君はこなかった
そうして次の日も
少し眠くなってちょっとだけ眠ったけれども
気になってしかたなかった
それに、どうしてこなくなってしまったのか
そのことがひとつも分からないなんて、もうどうしていいのか分からなかった
そうして過ぎていったある日―・・
君がいつも座っていた切り株の近くに
なにかが落ちていた
紙のようだった
僕はすぐにそれを拾ってみた
それはまぎれもなく君からの手紙であった
宛名にはていねいに君がいつも僕を呼んでいた名前が書いてあった
すぐにそれを広げると
便箋は2枚程度だった
そんなに多くないどころか少ないくらいだ
そこには家の事情でこの町を去らなければならないことなんかが
きれいな字で埋められていた
そのこと自体も、そこまでくわしくは書かれていない
内容の中には、僕が初めてしゃべった日の君の喜んだ様子なんかも書いてあった
それを見て僕は、びっくりしてしまった
初めてしゃべった時なんて、僕自身でさえよく覚えていなかった
ましてや、その時も君はそんなに喜んだ感じや驚いた顔なんてしていたときはなかったと思う
いつものようにただ、普通に話しているとしか見てなかった
それよりも、あのことをそんなにも喜んでくれた君が僕は何よりもうれしかったのだ
そして最後に
“ありがとう”
と書いてあった
その言葉を見た時、なんだかズシンと響く重みがあったような気がした
僕は3度それを読み返して
やっと手紙に書いてあること全てを理解した
けれどまだ頭が真っ白であまり何も考えられない状態だ
僕はなんだかひどく疲れていた
まだ少し頭がぼーっとしているけれど
とりあえず、少しはすっきりした頭で
またあの場所で手紙を読み返した
すると君への思いが一気にこみ上げてきた
手紙には住所も電話番号も
住んでいるところをしらせることはひとつも書いていなかった
書いてあったとしてもどうしようもなかったろう
手紙でも、電話でもしかたなかったと思う
こうやって、この場所にいて
2人でいなければ
そうじゃなきゃ意味がなかったと僕は思う
この場所で笑っていた君の顔を思い出した・・
いろんな話を僕にきかせてくれる君がすぐそこに見えた気さえした
そうしてやっと
君がどうしても必要で大切で
そしてそれは君をどうしようもなく愛していたのだといまさら
気づいた
君に会わなければ僕はいつまでも腐ったままだった
君は僕を地獄の底から救い出してくれたのだろう
それまでは悲しみや辛さまでも慣れてしまって
いつも頭がいたくて
生きる意味もわからずに
そうして命を投げだすこともできずに
どうしようもなく生きていた
でも、君はそんな僕に特別なものをくれた
うれしさだとか悲しさだとか
もう言い切れないほどたくさんのものを
僕はきっとそのおかげで本当の人間にやっとなれたと思う
それは、ほかに生きている人たちと同じような色に染まることではない。
うまくは言えないがあたりまえのこと
人間が生まれてきたそのときからある感情なんかがそれだと思う
まだまだ僕は人間として生きる上でこのうえなく不器用だ
君に比べればもう、100分の1と言ってもいいくらいかもしれない
でも、僕はやっと本当の僕をとりもどしたような気がするのだ
君にも弱さがあって僕はその弱さだらけでだった
それでも弱さを重ねて休息をとるだけでなく
自分たちなりに強くなれたのだと思う
君は最後、僕に直接この手紙にかいてあることを言わなかったし
そして最後のあいさつでさえもしなかった
それは、決して僕から逃げたなんてことではないと思う
単純な考えかもしれないけれど
こうした終わりが一番いいと思ったのだろう
君なりに。
それを僕は何より、いま理解できていると思う
これで最後。
もう会えないのだとあらためて気づく。
また、君が冗談のようにあの道から入ってこないかなんて
本気で思ってしまっている自分がいた
でも、そんなことはもうないのだと自分に必死に言い聞かせる
そうしてたくさん君のことを考えているうちに
ふと、涙があふれていた
そして、どうしても止まらなかった
どれだけぬぐっても
止まらなかった
こんなに涙というものはこの体にあるものなのか
僕はなんとなくそう思った
ついにはしゃくりあげている自分がいた
そうして、じきに涙も止まった
僕の体にあった“涙”というものは全て出て行ってしまったろう
泣きつかれた僕は
この涙も君がくれたのだと感じた
そしてこれは汚れた涙なんかじゃないと
はっきり言い切ることができた
愛しい君を想う涙が汚れているはずがない。
きっと世界で一番美しく、また尊いものであると僕は思った
この世界のどこかで君も僕を想って泣いてくれているのかなぁ
それなら、はやく涙はとまりますように
僕のことを忘れてほしくはなかったけれど
そう願った。
当分は少しつらい日々が続きそうだなぁ・・
僕はそう思った。
なんだかわからないけれど、僕の体はあったかくなっていた
君を
いつか忘れるときがきてしまうかもしれない
それならそれでいいのかもなぁ・・
また泣きそうになる自分を必死で止める
ふと空を見上げると
どこかで君とつながっているはずの空は
もうなんともいえないくらいに
青く深く澄んでいた
いつの間にか
どこにでもあるような風景だと思っていたこの場所も
僕にとって、かけがえのないほど大切で大好きな場所になっていた
そして
僕は君がいつも座っていた切り株に
そっと腰をおろして
もう少しだけ君を感じていようと
君のように広い空を見上げていた・・・
そうして一言
君の手紙の最後にかいてあった言葉である
「ありがとう」
を君に届くことを祈りながら
そっとつぶやいた
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