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黒猫のタンゴ
作:池田コント



第5回:陽だまりの敗北


 ご主人様はいまはお勉強。
 ひまだなぁ。たいくつだなぁ。あったかいところでひなたぼっこしよう。

 ユーワが昼授業を受けている間、タンゴは完全に自由な時間である。
 自由な時間というのはつまるとことタンゴにとっては暇でしかなく、ユーワが構うことのできない昼の大半は歓迎しない長い休憩だ。
 休みすぎて疲れてしまった日さえあった。けれど、教室にいてもユーワに迷惑をかけてしまい、自分もあまり楽しくないこと経験の上で知っていた。

 最近、タンゴはゆったりできる場所を見つけた。
 校舎の屋上。青い空が手で届きそうな。
 用務員のおじさんに追いかけられることもなく、生徒にきゃーきゃー言われることもない、タンゴの特等席。
 ぽかぽかとあったかく、時折思い出したように心地よい風もふく。
 タンゴは学校はあまり好きではないが、ここはお気に入りだった。
 いつものように、タンゴが階段を登りいつも開きっぱなしの小窓から屋上に出ると、妙な違和を感じた。
 いつもと違う匂い。
 誰かいる。
 でも、それはありふれたきつい香水や、制汗スプレーや、それらに隠された汚いものの匂いではなく、もっと透明な印象の、ネコの嗅覚でも空気と紛れてしまいそうな些細な香りだった。
 人間だったら、存在さえ感じ取れない。
 透き通った香りの持ち主は屋上にいた。
 そこは屋上の、いつもタンゴが日向ぼっこをするところ。
 日当たりのよい、屋上入り口の壁に寄りかかってそいつはまどろんでいた。

 先を越されてしまった。
 用務員を警戒して慎重にきすぎたのがいけなかったとタンゴは後悔した。
 しかし、タンゴが先にナワバリを主張しても、こいつが後から横取りする可能性がないわけでもない。だとしたら非力なタンゴはろくに抵抗するすべもなく明け渡すしかないのか。
 こいつがここを気に入ったら、厄介だ。
 タンゴの心は不安に覆われた。

 しばらく周囲をいったりきたりして、そいつが出ていかないかタンゴは待った。
 でも、そいつはぐっすり寝入っているようだった。控えめに、にゃぁにゃぁ鳴いても起きる様子はなく、かと思ったら唐突に身じろぎしてタンゴをドキドキさせた。

 あきらめきれずに、うろうろ、うろうろ。
 屋上を一周したらいなくなっているかもとやってみたけどそいつは相変わらずそこにいて。

 臆病なタンゴは名残惜しそうに魅力的な陽だまりに背を向けた。












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