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黒猫のタンゴ
作:池田コント



第23回:泣き止んだネコ


 ジェラスは目をみはった。
 騒々しい音を聞きとめて、タンゴに与えられた部屋の扉を開けると、タンゴが部屋中を駆け回っていた。
 とうとう気が狂ってしまったのかと思っていると、タンゴはジェラスに気がついたようで、意外と快活に話しかけてきた。
「やあ、ジェラス。ごめん、うるさかった?」
「ああ、いや、まぁ、どうってことないけども……あ、ご主人様が帰ってくる時間にはやめてほしい」
「わかった。外で運動するよ。体、なまっちゃったみたいなんだ」
 それから、タンゴはご大層なバラ園と午後の日差しを受けるテラスにほとんどを占められた、庭のほんの少しの片隅を使って、しっちゃかめっちゃか動いた。ネズミを捕まえるようなまねしてみたり、木の幹に跳び付いて三角に跳んだり、レンガで爪を研ごうともしたので、ジェラスは慌てて爪とぎ石を持って行ってやった。
 夕刻頃になって、グロリアが帰ってくると、タンゴはお風呂に入りたいと願った。普通、ネコは濡れるのを嫌がるからグロリアは目を丸くしたものだ。ジェラスは一度も進んで風呂に入りたいなんて言ったことはない。グロリアにしてみれば汚いのは嫌いだったし、願ってもないことと思って、お風呂を使ってもいいと言った。ただ、タンゴに用意されたお風呂というのは、世の中では俗にバケツと呼ばれる代物だった。
 急に元気になったタンゴをいぶかしんだのかグロリアはタンゴの監視に注意するようにとジェラスに言った。いくらネコという動物に気分屋が多いといっても、そして、たとえ使い魔とはいえネコの本性は変わりようがないといっても、これは怪しい変化だ。それにジェラスは、タンゴはそういう普通のネコのように見てはいけないのだと、なんとなく思っていた。
「ほわわ」
 ジェラスは風呂上りの……というよりはバケツ上がりのタンゴを見て妙な声を上げた。
 タンゴはそんなジェラスを見て変な顔をする。首を傾げて見せてもジェラスはそのままだった。
 グロリアの家付きのお手伝いさんにタオルでごしごしされて、数日間の汚れと汗と黒い染料はきれいに落ちた。ドライヤーをかけてもらって、ブラッシングを受けて、ほこほこになった毛並みは火が燃えているような赤毛。それと、まんまるお月様みたいなこがね色だった。
 タンゴは合点がいったように、言った。
「うん、黒じゃないさ。こんな色だよ」
「ああ、そんな色なんだな……」
 けども、ジェラスの耳には届いていないようだった。
 タンゴはじっと見られるのがむずがゆくなって、さっさと部屋に戻った。
 タンゴの嫌いな毛の色。黒じゃない色。
 ユーワは優しくて好きな色だって言ってくれていた色だけど。
 やっぱり黒がよかった。だって、黒かったら、もしかして。
 ユーワと離れ離れにならなくてもよかったかもしれないじゃないか。












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