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「裸の女が目の前に現れたらしっかり見るのは男の性だっ」

 清々しくそう言い切ったカイルを見てたら、怒ってるのが馬鹿らしくなってしまい、私は脱力して今朝の騒動を忘れる事にした。

 カイルって顔がいいんだから、ちょっと誘えばどれだけでも見放題だろうに・・・
 なんていうか、阿呆決定。うん。

 脱力から気を取り直しながら、今日も職探しのために、私は部屋に備え付けてあった衣装箪笥から、あらかじめ用意していた服に着替えた。
 紺のシャツワンピースみたいな上着に薄い灰色のスカートを合わせる。
 スカート丈が長くていまいち気に入らなかったので、腰のあたりで何度も巻いて、短くした。
 流石に女子高生並に短くするような事はしない。
 あの下着を見せない絶妙なラインまでの短さは、大人になってしまうともう出来ない。
 今はかかとまでのロングスカートか、膝上の程よい短さのスカートが私の好み。

 膝下あたりって意外に着こなし難しかったりするんだけど、私だけなのかな。

 この国の服は民族衣装などではなく、少し古く感じるけれど、いわゆる普通だった。
 でも、どれだけでも自分のアレンジで可愛く出来そうな感じ。
 だからって、いきなり転がり込んできた居候の私に、何十着と用意されてるわけでもなく、アクセサリーの類は一切なかった。
 
 お城なのにケチだね。
 思い切ってドレスとかあっても良かったのに。
 ふわっふわ、ひらっひらのシンデレラみたいなドレス。
 折角だから着てみたいな。
 そして、王子様とダンス・・・うわあ、異世界トリップの醍醐味だよっ!

 そんな事を夢見ながら、膝下までの靴下とロングブーツを履いて姿見の前でくるりと一周。
 こんなものかなって思ってカイルを部屋に呼んだら、目を丸くされた。

「えと、やっぱ普通の着方した方がいいかな?」
「んーまあ顔立ちから異国人なのはわかってるし、いいんじゃねぇか?足出すのは・・・凄くいい」

 にっこり満面の笑みで親指を立てるカイルの言葉は軽くスルー。

「本当はこの高さまでの靴下の方がいいんだけど、あるかな?」

 言いながら膝上を指差す私。
 いわゆるニーハイソックスだ。
 女は足腰冷やしちゃ駄目だからね!でもスカートが好きなんだ。

「今度作らせるよう殿下名義で言ってやる」

 うんうん、と頷いてやけに真剣に私の足を見詰めるカイルに蹴りを入れた。
 その時ひらりとスカートが舞って、彼はそれに気をとられて、私の蹴りをまともに受ける事になる。

 ・・・顔がいいのに、カイルって男はどこまでもお約束。

 そんな感じで気付けば陽が傾き始めていて、二人で慌てて職探しへ。
 メイドとして働かせるには教養もなく、得体の知れない女を調理場に入れるわけにもいかない。
 庭の手入れをやってみたいななんて思ったりもしたけど、虫平気なのか?って聞かれたとたん、首を振ってしまった。虫怖い。
 そんなわけで最終的に私の仕事は、掃除要員。

 妥当といえば妥当だけど、異世界に来てまでする事・・・?

 なんて不服はあるけど、出来る事がないんだからしょうがないよね。
 と、前向きに考える事にした。
 仕事着として質素なエプロンドレスを渡され、その仕事を指揮する初老の男性、マクレウさんに挨拶をすると、一ヶ月の間だけという事なら、最近入ったばかりの新人と組むよう言われた。
 半人前同士で一人前の仕事・・・と考えたらしい。

「ユーグです。よろしくお願いしますっ」

 ぴしっと背筋を正し、緊張したように慌てておじぎをした男の子の後頭部で一まとめに括られた薄茶色の髪が揺れた。
 幼さが残る顔立ちにそれがよく似合い、可愛く目に映る。
 茶色の濃い瞳は少し垂れ目で、背は私より10センチちょっと高いかな?
 歳を聞いたら16だって。若っ!
 少年が落ち着くように年上の貫禄で微笑むと、更に恐縮したように顎を引いて、姿勢を正された。

 ・・・赤くなって目を反らす、っていうのを期待したんだけど。

 そんな私の考えを読んだのか、隣に立つカイルがやけに、意地の悪い笑みを称えているので、とりあえず肘でどついておいた。
 それを見てたマクレウさんとユーグ少年が目を丸くして驚き、私の事を繁々と見つめてきたものだから、とりあえず笑って誤魔化した。

 うう、女らしくないって思われちゃったよ確実に。
 ・・・今度から気をつけようっと。

 それから、簡単に仕事のおおまかな内容と担当場所を説明されて、今日はお開きという流れに。
 最初より幾分緊張が取れたユーグ少年が、それでもぎこちない笑顔で言った。

「それでは、明日朝8の刻に迎えに行きます」
「はい、お願いします」

 小さく頭を下げて、去っていく二人の姿に手を振ると、ユーグ少年も小さく振り返してくれた。
 律儀な子だ。
 隣を歩くマクレウさんに窘められてる姿まで可愛い。

 ちなみに、何故迎えかっていうと、ここの王城が広すぎてさっぱり覚えてないから。

 簡単に説明された事を思い出すだけでも億劫になるほど、ここは広い。
 一番大きな王宮が一つと、その両サイドに宮が二つ。
 ここは外壁が石で出来ていて柱とか本当神殿って感じで圧倒される。
 海外で見た何々王朝の時代に建てられた、ほにゃらら形式で、そのあちこちに掘られた石造のモチーフは・・・とか、ガイドさんが凄く長く説明してくれそうなほど立派な建物。
 両サイドは2階建てに対して、メインの王宮は3階建プラス長い塔が付いている。

 そして、それらを囲むように館が三つ。
 騎士の皆が住む大きな東の館、下働きが住む小さめな北の館、急な用事で王宮へ訪れた客人用の館。
 つまり三番目が私の住んでる所。
 使者をたてたからって、すぐに王宮内に入れたりしないんだって。

 とにかく明日から頑張るぞっ
 そして新しい服やアクセサリーを・・・って、そこではたっと気付いた。

「ねえ、カイル」
「ん?」
「私お給料出るのかな?それともこれってタダ働き?」

 いや、衣食住全てお世話になる人間が何言ってんだって感じだけどさ。
 でもほら、一ヵ月後放り出されるかもしれないって考えると、その時、無一文ってちょっと、いやかなり社会人数年経験した私は現実が怖いんだよ。
 そう眉根を寄せて切実に訴える私にカイルはうーんと唸った後。

「お前の働き次第で、一ヵ月後、ここから出る時に渡す餞別の金額決めるっていうのどうだ?」

 私が出て行かされるって決定な感じなのが気になったけど、それでいいと頷いた。
 頑張るぞって力む私の頭をカイルがぽんぽんと軽く叩きながら、頑張れと笑う。
 子供扱いが取れてないなって思ったけど、まあいいやと、素直にうんと笑顔を返した。
 それに、これでカイルとは滅多に会わなくなるんだろうなって思ったから。
 たった二日間なのに、濃い時間を過ごした彼と会えなくなるのはちょっとだけ寂しく感じられる。
 そんな感傷を振り払うように、私はカイルの腕を取った。

「よしっ私の就職祝いに飲もうっ」
「・・・マジか・・・」

 カイルの嫌そうな声を無視してお酒お酒っとはしゃぐ私の横で、彼は軽く呆れたように肩をすくめてみせた後、しょうがない奴だと目を細めて笑う。
 その顔が今まで見てきたカイルの表情の中で一番好きだなって思いながら、二人で食堂へと歩き出した。

 それにしても。

 異世界に飛んで、無事元に帰れるかどうかのお話は半々。
 どっちに流されてもいいけど、生活の保障だけしてほしいよ、本当。


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