ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
序章?
 ふらふら ふらふら
 ゆらゆら ゆらゆら
 波に揺られて あちらこちら

 自分で進みたい道も決められず
 何をしたいのかもわからない

 まるでお前は海を漂うくらげのようだ。















「・・・っあ・・・はあ・・・」

 暗闇の中にただ一つ灯された照明を受けて揺れる二つの肢体。
 部屋に響く甘く高い女の声を組み敷く男の熱い吐息。

 ・・・え?

 少し離れたベッドの上で広げられる睦言に、私は目を見開いた。
 ふと気付けばこの気まずいとしかいえない暗闇の中にいた。

 ななな、何これなんで。
 どういう事よ!?

 今すぐこの場所を出て行かなければとわかっているのに、足に力が入らない。
 はてなマークをたくさん浮かべ思考停止した頭では、今どう動いていいのかわからずに、目に映る情景にごくりと唾を飲み込んだ。
 その時。

「・・・あああっ」

 一際高い女の声が響いた。
 男がその身を小さく振るわせて、女の体の上にしな垂れる。
 男の荒い息が室内を満たした。
 女の方はそのまま身動きもしない。どうやら気を失ったらしい。
 まるで官能映画でも見てるようだと思いながら、私はゆっくりと瞬きをして、いつのまにか止めていた息をほっと小さく吐きだした。
 いきなりの事に驚いたとはいえ、終わりまで見てしまうなんて・・・恥ずかしい。
 暗闇に慣れてきた目を床にさ迷わせ、一人反省する。

 相手のためにもすぐに忘れなくちゃ。
 何より私が忘れたい。
 自分がもしも人に見られてたとしたら・・・無理っ生きてられない!

 目をつぶると、男女の肢体が瞼の裏に焼き付いている。
 それを振り払うかのように頭を振った。
 忘れろ忘れろ忘れてしまえ。

「・・・お前は何故そこにいる」

 自分の思考にどっぷりとはまっていた私は、その低い声が部屋に響いた事に気付くのが遅れた。
 少しの間を置いてから、あれ、今私声かけられた?と、はたと気付いて顔をあげた私の目に、まだ情事の後の熱を残した視線が突き刺さる。
 艶めいた中に自分に対する警戒が冷たい針となって潜んでいて、私の背をぶるりと震わせた。

「何故そこにいるのかと聞いている。いや・・・どこから入ってきた」

 言いながら気だるそうに体を起こした彼の顔が、真っ直ぐに私を捕らえた。
 暗闇に慣れた私の目に、先ほどまでは頼りなかった只一つのベッドの脇に置かれた小さな灯りが、今では大きく室内を照らしているかのようにみえた。
 その優しい橙色の光に照らされ、顔に濃い影を作った裸体の男。
 そのあまりにも整った顔立ちから続くこれまた無駄な筋肉など一切ない魅惑的な裸の体を見つめ、私はまたごくりと喉を鳴らした。

 ・・・めっちゃ好み・・・

 危機的状況な事も相まって、私の心臓は今初めて動く事を許されたかのように早鐘を打ち始めた。

「・・・答えろ」

 私の返答が無い事で苛立った彼が、より低く重い声音を出した。
 今すぐ何かしらの返事をしなければ殺すと聞こえないはずの声が聞こえた気がして、私は慌てて口を開く。

「あのっ私、わからない、んです・・・」

 自分では普通に話そうとしたはずなのに。
 心臓があまりにも煩くて、変に上擦った声になってしまった。

「わからない?」

 再度問われて、私はぶんぶんと音がなるほどに頭を上下にふった。

「わからないとはどういう事だ」
「・・・そのままの意味です。気付いたらここにいて」

 私の返事に男は顔を上げた。
 そんな答えを返されて納得がいくわけがないといった怪訝な顔だ。

「確かに扉も窓も開いた気配は感じなかった」

 独り言のようにつぶやいて、彼はベッドから立ち上がった。
 ぎゃっ流石にそっち向けませんっ
 慌てて目をそらす私の視界の端で、彼は腰にバスタオルのような大きめな布を巻きつけた。
 正面から堂々と見れないけど、目の端で見てる私って存外失礼というか・・・

 だっていい男の裸なんてそうそう見れたものじゃないしっ
 気になるじゃないっ

 自分で自分に言い訳をする。
 そんな私がこっそりと見守る中、彼はベッドに横たわる裸体の女にそっとシーツを引き寄せ、剥き出しになっていた肩を包んだ。
 優しく肩の丸みを撫で上げ、その手は次に彼女の汗で額に貼り付いた髪を丁寧にすいて横に流す。
 そっと上半身をずらして、その額に彼は自分の唇を押し付けた。

 なんか凄い愛を感じるっていうか・・・
 は・・・恥ずかしい・・・

 官能映画を見てるような気分の濃いエッチシーンよりも、こんなふとした仕草の方がずっとときめくなぁとしみじみ思いながら、私は頬に集る熱につられて今度こそ彼らから、視線を外した。

 直後。

 がっと頭を鷲掴みにされた。
 そのまま勢いよく引っ張られて、私の首の骨がぐきっと音をたてた。

「いったぁいっ!!!」
「遅れちまって悪い、殿下」
「良い。リヴィエラが起きる。静かにしろ」

 背後からがっしりと太い腕に羽交い絞めにされ、またもう一方の腕が、私の首をこれまたしっかりと押さえている。
 ベッドの上の彼よりも、幾分低い男らしい体付きを背中に感じて、私の女心がドキドキ・・・なんてするわけない。
 これは女心じゃなくて、明らかに命の危険を感じてのドキドキだっ

「あの首がっ首が明らかに絞まって痛っ」
「こいつどうします?」
「今日はもう遅い。明日、話しを聞く」
「了解」
「・・・だから首いたたたっ」

 かくして私の首は状況もわからないままに締め上げられ、ことりと気を失った。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。