ある街にとても貧乏な青年がいた。
青年の職業はマジシャンであったが、
パットしない顔立ちと手先が不器用な為、
全く名が売れず、明日の食事にも困る始末である。
お金が無いので新しいマジックのネタを買うことも出来ず、
手品はマンネリ化してしまい、ますます人気もでないでいた。
ある時青年は寝る前にベッドで神様にお願いした。
「どうかぁ〜僕に手品がうまくなるように力をください。そして金持ちにしてください。
力をくださるなら寿命が10年縮まっても構いませんので!」
すると、青年の頭の中で声がした。
「そなたの望みしかとききとったぞ!」
青年が空耳かと思ったとき、
青年の寝ているベッドの横で白い煙がモクモクと立ち昇った。
そして、神様が現れたと思いきや、恥ずかしそうに尻尾を隠した悪魔が現れた。
悪魔は少しでも青年を怖がらせない為精一杯の笑顔を作って青年に言った。
「びっくりしたと思うが、俺様は見ての通り悪魔だ。
悪魔といっても決して悪い悪魔ではないぞ! どちらかと云うといい奴なんだ」
悪魔は説得力のあるようなぁ〜ないようなぁ〜事を青年に言った。
悪魔は青年に続けて、
「そなたは力が欲しいと言ったなぁ! その力を使ってマジックがうまくなりたい。
そして金持ちになりたいとな〜 さすればそなたに特別サービスで力をやろうではないか!
そうだなぁ〜いつでもどこでも姿が消える能力、そう透明人間になれる能力をやろうではないか!」
「僕が透明人間になれるのですか?」
「そうだ。透明人間だ! 凄い力だろう。
ただし俺様も商売柄、ただと云う訳ではないぞ!
なに心配するな〜
さっき、そなたが言った10年寿命縮めるといった物は俺様は必要としない。
俺様が欲しいのはそなたの魂なんだ!でも、今すぐではないので安心してくれ〜
そなたが普通に寿命を全うして死んでから俺様に魂をくれたらいいだけだ。
どうだぁ〜容易いことだろう」
青年は少し考えたが寿命が縮まるわけでもないし、
今すぐに命をとられるわけでもないので悪魔と契約する事にした。
悪魔は満足そうに「うんうん」とうなずくと力の使い方を説明した。
「透明人間になるのは簡単だぞ!そなたが心の中で”消えろ”と念じるとすぐに姿が消える。
気をつけないといけないのが着ている服までは消えないことだ。
それと、この力は手品をしている時にしか使えないからなぁ〜
例えば、そなたがスケベ心を起こして女風呂を覗こうとしても力は発揮できない。
姿を消して銀行強盗しようとしてもだめだぞ。わかったな!
俺様はこう見えても一応世間の常識はわきまえているつもりなんだ。
ズルは許せないたちなんだよ。しっかり手品で稼いで金持ちになるんだ」
そう悪魔は早口で説明した。
悪魔は自分の世界に帰る前に青年に言った。
「そなたの行動はいつでも見ているからなぁ〜さっき言ったルールは守るのだぞ!」
そして、悪魔は出てきたとき同じように白い煙を立ち上らせて消えていった。
早速、青年は悪魔から貰った力を試したくなり鏡の前に立つと”消えろ”と心の中で念じた。
すると、悪魔が言ったように青年の体は着ている服だけ残してきれいに消え去った。
青年は自分の幸運さに喜び飛びあがったが服だけが宙に浮いていた。
しかし、青年も男なので多少なりともスケベ心があるものである。
悪魔の忠告に従わず、銭湯に行き真裸になると”消えろ”と念じて姿を消すと、
女風呂に侵入した。
5分ほどは何事も起こらず神秘の女風呂の覗きを堪能したが、
女性の「キャー痴漢」と言う悲鳴と共に青年のだらしない体が姿を現した。
青年は慌てて逃げ出した為、途中で入り口の半透明のガラスにぶつかり額を縫う怪我を
負う始末。それでも捕まってたまるものかと必死に逃げて捕まると云う事は無かったが、
全裸で路上を逃げ回るという失態をおかしてしまった。
それで分かった事は悪魔が言っていたズルは許さないということだった。
それからというもの、青年はマジックの時しか力は使わなかった。
それから数ヶ月後、青年は悪魔から貰った力を手品に活かして超有名人になっていた。
青年の手品は瞬く間に有名になり、テレビの番組でも放送されている。
そのつど青年は透明人間になって世間を沸かせた。
青年の収入も飛躍的に上がり、今ではマジックのアシスタントも雇っている。
そして、青年は高いギャラと引き換えに、
今から生放送で透明人間になるべくスタジオに来ていた。
青年は番組プロデューサーと、ある程度の番組の進行を確認すると控え室に入って出番を待った。
本日の進行はこうだった。
番組は二時間番組で最初の一時間は青年がトランプのマジックや空中浮遊をしてみたりして、場内を沸かせる。これらは勿論、種がある。青年が大金をはたいて仕入れてきたネタだからだ。
そして、最後のクライマックスで青年の目玉”透明人間ショー”が始まる。
この”透明人間ショー”は青年が半透明の強化プラスチックに入って観客の見ている前で、
服を着たまま姿を消すといったもの。ただ、それでは何も面白くないので、
時間が来たら青年の入ってる強化プラスチックの上部から鉄をも溶かす、
強力な硫酸の雨が降ってくるというものだ。
しかし青年にとってはいとも容易いことだった。
心の中で”消えろ”と念じて姿を消して、
服をきたまま強化プラスチックに付いてる手すりを登って脱出するだけで観客からは
拍手喝さいとテレビ局からは巨額なギャラがもらえる美味しい仕事なのだ。
豪華なセットの中で生放送の収録が始まった。
予定通り序盤から青年のマジックは大盛況だった。
さすがに青年が大金をはたいて買ったネタだけあってすべる筈はない。
観客は拍手喝采、番組司会者からは「奇跡だ。凄い」と驚嘆の声が漏れた。
そして残るは、いよいよクライマックスの”透明人間ショー”だけになった。
司会者が緊迫した表情で強化プラスチックの前でマジックの説明をした。
アシスタントが硫酸の威力を観客に見せるためにマネキン人形を持ってくる。
マネキンの頭に硫酸が一滴垂らされた。
見る見る解けていくマネキン人形。観客からは悲鳴ともため息とも取れる声が漏れる。
そんな中、勢いよく正装をした青年が強化プラスチックの前に姿を現した。
場内からは割れんばかりの拍手がこだまする。
青年は黙ってカメラと観客に大きく手を広げてお辞儀するとプラスチックの容器の中に入っていった。
青年は容器の中に入るとお腹の中にいる胎児のような格好をすると”消えろ”と念じた。
だが、青年の体は”消えなかった”……
代わりに青年の頭の中で聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「フフフ、バカな奴だな〜 そなたはもう”消える”事はできないぞ!
なぜなら、この俺様がそなたの力を今封印したからなぁ〜
そなたは、もう十分夢が叶っただろう。今度は俺様がそなたの魂を貰う番だ。
ここで、そなたは死ぬがよかろう!」
青年はしまったと思い容器から逃げようとしたが――もう遅かった。
青年の頭上から大量の硫酸の雨が降る注ぐ。
青年は消えていく意識の中で悪魔の声をまた聞いた。
「フフフ、所詮悪魔は悪魔だ!いい悪魔なんか〜いないんだよう!」
そして……確かに青年の体は一瞬のうちに”消えた”
悪魔の力では無く、硫酸の力によって……
場内では肉を焼く嫌なにおいだけが残った。
次の日の新聞の一面にはマジシャン青年の悲劇”透明人間ならぬ溶解人間にと”紙面が踊っていた。
|