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2章
28<贈り物と、黒い勲章>
 ふわふわと落ちては溶けていくばかりだった雪も、だんだん地面に白く積もり始める。
「雪っていくら見てても飽きないよねー」
「そうかぁ? まー、雨よりゃマシかな」
 ……夢のない奴め。再び呟きつつ、私はポケットに突っ込んでいた手をヌッと出した。
「……何これ?」
 きょとんと七緒が問う。
「七ちゃん、今日は何月何日でしょう」
「……12月24日?」
「心都ちゃんからクリスマスプレゼントです」
 片手にすっぽり収まる、水色の小さな包み。七緒はしばらく私の手の中のそれを見つめ、そして、
「あー……! そ、そっか……クリスマスってプレゼント交換とかするのか…………やっべ、なんか……すっかり頭から抜け落ちてた」
 この寒いのに汗をかきかき呟いた。
 ふ、と私は思わず笑ってしまう。
「そんな事だろうと思った。大丈夫、最初っからプレゼントなんて期待してませーん」
 だって、下手すると一生絶交状態になっていたかもしれない好きな人だ。仲直りできて今日を一緒に過ごせるだけで嬉しいのにプレゼントまで期待するなんて、いくらなんでもそんな高望みはしない。
 ずいっ、と七緒の目の前に包みを差し出す。
「小っこい事気にしないで受け取りなさい。つか人がせっかく用意したんだから素直に受け取れ」
 おっと、思わず照れ隠し(?)の暴言が。
 「じゃー……ありがたくいただきます」
 七緒は右手を出して、私のプレゼントをもらってくれた。
「はい。いただいちゃって下さい」
 無事受け取ってもらえた嬉しさで自然と頬がゆるんでくる。
 七緒はしばらく包みを眺めたり表面を触ったりしていたけど、やがてこっちを見て言った。
「開けていー?」
「え……今ここで?」
「駄目?」
「いや、あの、駄目とかいうわけじゃないけど、なんていうか、急いで作ったから出来が悪くて恥ずかしいっていうか……」
 ぶつぶつ言う私を尻目に、七緒はもうとっくに包みを開けていた。
「あ。」
 中身を確認し、七緒が小さな声をあげる。
 なんだか本当に恥ずかしくなってきて、私は視線を落とした。
「だから出来悪いって言ったのに……」
 白いフェルトで柔道着を型取り、中に柔かい綿を詰めた、お守り兼マスコット。背中の部分にはこれまた青いフェルトで『七』の文字が縫われている。
 手芸が苦手な上に昨日一晩という短い時間で作ったため、かなり不恰好ではあるけれど、一応、私なりの精一杯のプレゼントだ。
「これ……手作り?」
「……なんか、すんませんね。下手だし、ちゃっちくて……」
 七緒が私の目元を指差す。
「あー、もしかして……だからそのクマ……」
「う」
 ……バレていたか。私は若干泣きそうになった。こんなひどいクマ、七緒にだけは気付かれたくなかったよ。
 裁縫があんなに難しいもんだとは思わなかった。フェルトは上手く切れないし、糸は絡まるし。
 その小さな柔道着を眺めていた七緒は、ゆっくりと私の方を見た。
 そしてとても綺麗な瞳で、笑う。
「さんきゅー。すっげぇ嬉しい」
「……おう」
 しまった。二度目の照れ隠しで、また七緒曰く『男気溢れる返事』になってしまった。こういう時くらい可愛くしろよ自分。
 そんな後悔に苛まれながらも、嬉しそうな七緒の顔を見ていると、あぁ作った甲斐があったなーなんて思う。
「心都、このお守り…もらう前から効いちゃってるみたいなんだな」
「え?」
 ひひ、と綺麗な歯でどこか得意げに七緒が笑う。
「聞いて驚けー。実はこないだ顧問に呼ばれてさー……」
「告られましたか」
「ちげーよ! そのネタもういいって!」
 さすがに引っ張りすぎたか。
「なんと……今度の大会の団体戦メンバーに選ばれましたー! しかも顧問から『期待してる』のお言葉が!」
「えっ本当!?」
 私、思わずベンチから立ち上がって絶叫。
「す、すごいすごいすごい七緒すごいー!! やったじゃん! すげーよあんた!」
 背中をバシバシ叩くと、少しむせそうになりながらも七緒はガッツポーズを返してくれた。
「へへ、これのおかげかな」
 そう言って、さっき私が渡した柔道着型お守りを揺らす。
「七緒の実力だよ。ちょっとマジで頑張ってね。……応援してるからさ」
「……ありがとーございます」
 七緒は少し照れたように頭を下げたと思うと、ふいに何か考え込む様に宙を見上げた。
「…………」
 空からは相変わらず雪が降り続け、辺りを白く染めている。でも不思議と寒さは感じない。
 
 七緒がすっくと腰を上げた。
「え、何、どしたの七緒」
「ちょっと待ってて」
 それだけ言うと、あとは脇目も振らず走りだす。
「はぁ!? ちょっ……どこ行くの七緒!」
「すぐ戻ってくるからー!」
 七緒がすごい速さで走りながら私に向かって叫ぶ。そのジャージの後ろ姿は、すぐに見えなくなってしまった。
 あとに残されたのは、訳も分からずベンチの前でただ立ち尽くす私。
「……何なのマジで……」
 7割の驚きと3割の怒りに固まりながら呟く。
 ――仮に急に用事を思い出したとしても、置き去りはあんまりじゃないの?
 再びベンチに座り直し、心の中で幼馴染みに文句を言った。
 ――やっと会えて、仲直りできて、プレゼント渡せたのに。あんな一方的にいなくならなくてもいいじゃん。七緒の馬鹿、アホ、女顔。
 こんな夜に1人出歩くなんて、置いてけぼりの私よりむしろ七緒の方が危険だよ? あんたなんかすぐ変質者の餌食なんだからね。泣いたって助けてやんねーぞ馬鹿馬鹿馬鹿。
 一通り悪態をつきおわり少し気分も晴れたところで、小さく溜め息を吐く。
「…………寒い」
 七緒といた時はほとんど感じなかった寒さが、今頃になって全身を包む。
「…………寒い寒い寒い寒いさむーいよー……」
 どうやら私、寂しいと独り言が多くなるタイプらしい。
 気を紛らわせたくて、なんとなく公園をぐるりと見回す。
 滑り台、ブランコ、ジャングルジム、砂場。世間一般の公園にある物が全てちゃんと置かれている。
 ここは華ちゃんと禄朗が昔遊んだらしいスウィートメモリーな場所なんだっけ。
 そういえば私も、よく七緒と公園行ったなぁ……。ここよりも少し小さな、ジャングルジムのない公園だった。
 ブランコでどっちが高くまでこげるか、よく七緒と競争したっけ……たまに私が勢い余って落ちて鼻血出したりしていたけど。……ちょっと思い出し笑い。
 昔の記憶は、一度掘り起こし始めると止まらなくなる。
 そういえば、公園にいる途中、なんか2人で行方不明になりかけて大騒ぎされた事もあったっけ。あれは確か――そうだ、こんなふうに冬の寒い日だったな。
 なんであんな風になっちゃったんだっけ?
 ……あぁ、そうだ。すごい量の雨が降っていて……で、2人で色々言い合って……色々あって……。

 ……えぇと。



 ――『色々』って何だっけ?








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