ニートだった俺が魔法チートを貰って転生した! ――確かにしたんだけどさぁ……
転生だと聞いて、とてもワクワクした。
伝説級の高等技能である無詠唱発動に、様々な魔法を使える技術と知識。さらには、無限の魔力。
チートが欲しいって言ってそれを与えられた時に思ったさ。
――広域殲滅魔法とか錬金魔法とか転移魔法とか、俺に異世界チーレムをして来いってことですね!
そうして転生。
どんな世界かとドキドキしながら目を開けば、目に入ってくるのは黒髪黒目の人たち。
その両親らしい人たちの言葉は分かる。うんうん。日本人っぽい人たちに、日本語っぽく聞こえる言葉。コミュニケーションには問題ないな。
そして、前世のアニメで見たようなベビー服を着せられ、前世のアニメで見たようなベビーベッドに寝かされ、テレビでは前世で見たような大きなお友達も楽しめる子供向けアニメが……
「ヴぁぶ!? ヴぁヴぁぶヴぁぶっヴぁヴぁヴぁぶヴぁ!(おいっ!? どう見ても現代日本じゃねえか!)」
「どうしたのかな~、たっく~ん? お腹がちゅいたんでちゅか~」
とりあえず、おっぱいくれるママンが美人だったことは感謝しても良い。
でもさ、確かにさ、転生先は確認しなかったよ? だからって、「チートが欲しい」って言って、魔法の『ま』の字もない世界に魔法チートを持たせて送るかね?
しかし、嘆いていても仕方がない。
確かに魔法なんてないただの現代日本だと改めて確認した幼き日、俺は実際に使えてしまった魔法をどう使おうか考えた。
案その1、世界征服。
すぐさま破り捨てた。
だってさ、確かに、広域殲滅魔法一発で中規模都市くらいなら消し飛ばせるよ?
で、どうするの?
人間戦略兵器が暴れまわって、大人しく世界の人々が服従するか?
世界秩序の破壊者として、ぶっ潰しにに来るだろう。
戦車や戦闘機の十や二十は怖くない。
だからって、核弾頭での絨毯爆撃とかされて生き残れるわけがない。
俺だって人間だから、睡眠も食事も休憩も必要なんだ。世界の物量を敵に回せるわけではないのだ。
案その2、ものづくりでお金持ち。
良い案だと思った。実行もした。
錬金魔法で金銀宝石ざっくざくで、貴金属の買取店におっきなカバン一杯に持ち込んだんだ。
「君、未成年だね。お父さんかお母さんの同意がないと買い取れないんだけど?」
当たり前すぎて、愕然としたね。
しかも、こんなにたくさん子供がどうして手に入れたのかって、通報されかけたよ。荷物を持って慌てて転移魔法で逃げたよ。
仮に大人になってからやっても、『あまりにも多くて怪しまれても入手先を言えない→警察呼ばれる→犯罪者になる勇気はないので魔法のことを言う→国の怪しい研究所に捕まってモルモットにされかける→抵抗して国に立ち向かう→世界の敵→核弾頭での絨毯爆撃』。
想定とは違うルートだとしても、もう世界で俺しか使えない技術って時点で、世界に知れたら波紋が大きすぎるよね。
案その3、強化魔法でスポーツ無双。
「君、身体能力は高いんだけどねぇ……」
俺の運動音痴っぷりを舐めないでほしい。
基礎スペックが上がっても、使いこなすような器用さはない。
ならば、ただ走るくらいはできるのではないかと陸上をやれば、世界レコードを叩き出した――ただし、足は地面につかないが。
結局、バレないからって犯罪をする度胸もない俺は、魔法の有効な使い方も思いつかないままに二十歳になっていた。
チートを生かせない以上はただのニートスペックしか残らない訳で、二度目の人生であることを生かして勉強を頑張ることでなんとか入学したそこそこの大学に通いながら、ニートへの道を突き進んでいる。
そんな八月三十一日。
一人暮らしの安アパートのクーラーが故障したので、近所の公園の木陰のベンチに座り、真昼の暑さをやり過ごしそこねてジャージ姿で汗をたれ流していた。
風呂なしアパートで水魔法や氷魔法は、後片付けが厄介すぎるんだよ。冷気を周囲に出し続けるのは集中し続けないといけないから大変すぎるし。
ほんとに、魔法チートとは何だったのか。
「おぉー! おっちゃーん! こんなところに居たのか!」
「おい、クソ幼女。おっちゃんじゃない。『お兄ちゃん』だ。分かったか?」
「分かった! で、おっちゃん、魔法でばばーっと手伝ってくれ!」
夏の日の昼のこと。
俺は、スケールの小さな面倒事のニオイを嗅ぎつけてため息を吐いた。
「夏休みの宿題が終わらない?」
「他は終わったけど、工作だけがなぁー」
Tシャツ短パンに麦わら帽子のこのクソ幼女は、俺の住む安アパートの隣の部屋の住人の一人だ。
酒に酔った勢いで驚かそうと魔法を見せてしまってから、よく絡んでくる。
いや、幼女を愛でるのは構わない。むしろ、見てくれだけは良いので、基本的に喜ばしいとも言える。
ただし、俺は『おっちゃん』ではない。
「宿題くらいは自分でやれよ。それが自分のためになるのです」
「でもなぁー。小学校一年目だし、ここらでガツンと行きたいんだよ。なぁー、きっと将来お礼するからさぁー。約束するからさぁー」
こいつに魔法を見せて喜んでいるのを見て正気に戻り、慌てて「お兄ちゃんとの二人だけの秘密だよ?」「分かったぁー!」とのやり取りをした翌日。「娘がお世話になったみたいでありがとうございます、魔法使いのお兄さん?」とクソ幼女をそのまま大きくしたような美人なママさんにウインクしながら言われて、それ以来、こいつの約束は信じないことにしている。
むしろ、あの美人なママさんに頼まれなかったら、誰がこんなクソ幼女の相手をするものか。
救いは、ママさんには子供の言うことと本気にはされてないことくらいか。クソ幼女には改めて誰にも言わないように念押ししたが、本当に大丈夫なのだろうか。
「小一でガツンとか余計なことは考えなくていいの。ほら、お菓子の空き箱をいくつか張り付けてロボットー、とかでちょうどいいんだよ。今日はお前のお母さんもお仕事休みで家に居るんだから、いくつか買ってもらってくるが良い。あ、俺はダメだぞ。バイトは面倒系貧乏大学生だからな。クソ幼女に貢ぐ余裕はない」
「……あぁ、出来ないのか」
……ん? 今コイツ、なんて言った?
「あーあ。魔法使いとか言ってるけど、おっちゃんはおっちゃんだもんなぁー」
「おいこらクソ幼女。チート舐めんなよ?」
「でもさぁー」
「よし、分かった。お前に、チートの恐ろしさを見せつけてくれる!」
バカにされたままでたまるか!
このクソ幼女に、俺の凄さを刻みつけてやる!
「ちょろいなぁ……」
「ん? 何か言ったか、クソ幼女?」
「別に?」
まあ良い。今はクソ幼女に現実を思い知らせてやるのが先だ。
しかし、公園では人が多すぎるな。
「よし。ちょっと、じっとしてろよ」
「わわっ、なんだ?」
クソ幼女を小脇に抱え、ベンチの後ろの木々の中に入る。
誰にも見られないことを確認して、魔法を発動した。
「わっ、すげぇー! 山のテッペンだ!」
「見たか! これぞ転移魔法だ!」
たどり着いたのは、街を一望できる山の頂上。
そう高い山でもないので登山客が来るでもなく、たまに子供が遊びに来るのも、今日ならば宿題に追われてそれどころではないだろう。
「よーし、見てろよ。俺の錬金魔法を見せてやる」
「おぉー、わくわく」
ここで重要なのは、イメージの力。
細部までこだわり、再現する意志の力。
宝石の原石を使って染料にして、その対象のかわいさをもっとも活かせるポーズにこだわり、スカートのしわの一つ一つにまで魂を込めて……。
「終わった! 会心の出来だ!」
そこに生み出されたのは、大きなお友達から小さなお友達にまで大人気の日曜朝アニメ、魔法少女戦隊物の主人公の少女のかわいらしい戦闘用コスチューム姿だ。
その細部までのこだわりに恐れおののくが良い!
「んー。なんかショボい」
「は?」
「だって、かわいいけど、インパクトがない。なんかちっちゃいし」
四十センチくらいの大きさがあるフィギュアを、小さい?
このクソ幼女は、大きさ以前に、彩色といい、ポーズといい、細かいこだわりに気付かないのか?
ああ、クソ幼女にそこまで求めるのが間違っていたのか……。
「はぁ。やっぱり、おっちゃんはおっちゃんだなぁー」
もう良い。分かった。
「そこまで言うなら、見せてやろう」
「ん?」
「さあ、今度こそ俺の力の前にひれ伏すがいい!」
作り込みは完璧だ。
ならば、このクソ幼女でも理解できる、大きさを。圧倒的大きさを!
「どうだ! 四十メートル!」
「おぉー! スゲースゲー!」
そびえ立つ巨体に、流石のクソ幼女も大興奮だ。
ふふん。こいつにも、やっと俺の凄さが理解できたようだな。
「で、これはどうやって持っていけば良いんだ?」
……そういうことは、先に言ってくれませんかねぇ。
九月一日、昼過ぎ。
世間では小・中・高校生が絶望感を味わっているころだろうが、大学生にはまだ夏休み半ばである。
相変わらずクーラーが壊れっ放しだが、外に行く気力も尽きた。
カップ麺をすすった俺は、見ているわけでもないテレビを何となく付けたまま、窓枠にもたれかかってぬるい風を浴びていた。
『それでは、本日のニュースはこちらから。ご覧の映像は、昨日、A県B市にあるとある山頂に突如現れた、三十から四十メートルほどと推定される像です』
だらけていると、隣の部屋からドタバタと足音が聞こえてくる。
始業式の終わったクソ幼女が、友達と遊びに行く前にランドセルを置きに帰ったのだろう。
『これは日曜朝の女児向けアニメのキャラクターに酷似しており、何の前触れもなく突如現れたとのこと』
しかし、いつもならそのまま駆け出していく足音が窓の方にやってきて、勢いよく窓を開け放つ。
「おい、クソ幼女。窓の開け方がどうのまで一々言う気はないが、その不景気な面はやめろ。余計に暑くなる」
「ぶぅ……」
わたし怒ってます、と言いたげなふくれっ面。
そのまま、俺と同じように、俺の方を向きながら窓枠にもたれかかる。
『その後、ご覧のように何の前兆もなく消滅したとのこと。これは、B市内で複数の目撃証言があり、映像も大量に動画投稿サイトに投稿されています』
「てか、工作はどうだった? あの最初に作った四十センチの方を持ってったんだろ?」
「もう一回、やり直しだって……」
「え、なんで? 俺の会心の一作だぞ」
「『せめて、自分で作ったって言い張れるレベルにしときなさい』って先生に言われた」
「そっかぁー」
「そうだぁ……」
『すでに二十三の宗教団体が自らの神または教祖の行った奇跡だとの声明を出している本件。専門家の意見をうかがってみましょう。スタジオには、〇〇大学名誉教授の――』
九月になってもセミの声がうるさく鳴り響く今日この頃。
この暑さは、まだまだ続きそうだ。
連載小説で昨日(2016.1.22)、テスト期間に入るから2016.1.30まで投稿しないと告知した翌日、新規の短編小説を載せてる件。
い、いや、テスト前には部屋を掃除したくなったり、小説を書きたくなったりするし(白目)
この先は、流石に自重してテストに集中します(願望)。