いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?
わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前はピピピでございます。
ごゆっくりどうぞ。
僕は一目惚れをした。
一瞬にして恋に落ちた。
僕は思い切って告白しょうと意気込み、彼女に歩み寄った。
すると、妙な事が起こった。
何だかわからないが、心の中にピピピと音がしたかと思うと、その内、電気のようなものが体を走り、そして声が聞こえてきたのだった。
あなた、もしかしたらこの声が聞こえているの?
僕は辺りを見回した。
しかし、僕の後ろで囁く人もいないし、ましてや、いきなりヘッドホンを付けられた訳でもなさそうだった。
しかしそんな風な感覚に似ていた。
そしてそんな様子の僕に、彼女はやっぱり聞こえるのねと、自分でも驚いている様子ながらも、こちらを真っ直ぐ見た。
僕はそんな瞳に釘付けにされて固まった。
すると彼女は、不思議だけど、隠してもお互いにこんな状態では、いつかはわかるのだからと、堂々とした姿勢で自己紹介をすると、礼儀正しくお辞儀をしてきた。
僕は舞い上がり、こちらこそよろしくと、大声で答え、顔を真っ赤にしたが、そんな僕を見て彼女は笑うのだった。
そして僕も顔をだらしなくして、その素敵な笑顔に答え、二人の関係は始まった。
四六時中二人は一緒だった。
とは言っても、同棲している訳ではなく、いきなり結婚した訳でもなかった。
僕らには二人だけに、どうしてだかテレパシーが通じているのだった。
しかも、それがいつもずっとだ。
心と心がいつも繋がっていて、思う事全てが心の中で行き来していた。
俺は毎日が、何しろ幸せだった。
一目惚れした相手といつも繋がっていられるなんて、そうそう出来ない体験だった。
まぁ、不便な事も色々あるのだが。
とにかく都合の悪い事はなるべく頭に思い浮かべないようにして、彼女に嫌われないようにするのはかなりの苦労が必要で、確かに見える物まで共有する訳ではないので、その意味では、携帯電話をずっと繋げたまんまと思えば、そんなところなのかも知れないが、これがかなり気を使うのだった。
イヤラシい、汚いは勿論、少しの不満でさえ、彼女には筒抜けなのだから。
しかし、二人は良くデートをよくした。でも、少し変わったデートで、色々な実験をしているような、そうでないような。
とりあえず彼女のテレパシーに対しての研究と題したデートは、どんな状況でも、テレパシーは途切れないか?がテーマで始まり、何か飲んでいる時はどうなのか?
食べている時は?
書いている時、息を止めている時は?
風呂に入っている時、逆に冷たい水のプールに入っている時。
はたまた、ドキドキしている時、例えばジェットコースターや、お化け屋敷に入った時。
または、歌っている時、叫んでいる時、逆立ちしてる時、頭を思いっきり回している時。
電波の強い鉄塔の近くにいる時、電話で話している時。
そして、ある程度試した結果、口に出して話している時はどうやら、テレパシーの効果が出ないとわかった。
しかし当然だ。話しながら他の事を考えるなんて、なかなか出来る人はいないと思う。
そんな事を思ったのが彼女には聞こえたらしく、まぁ、そうね。と返された。
僕は、あっ、余計な事は考えない考えない。と、少し苦笑いをした。
そんなある日、彼女が楽しそうに、ピピピとテレパシーを送ってきた。
それは、せっかくこんな事が出来るのだから、何かに利用しない手はない。というもので、その彼女の発想が大胆なものだったので僕は驚いた。
とりあえず、テレパシーでは何だからと、僕達は近々会って話しをする事となったが、そんな時の僕ら二人の光景と言ったら、かなり異様なものに見える筈だと、毎回僕は思う。
何しろ僕らは二人で会って店で注文を喋ると、その後は癖のようになってしまったテレパシー会話を始めるので、はたから見るとずっと見つめ合っているだけの二人なのである。
そんなんだから、たまにヒソヒソ声で、それを冷やかす会話や、それに対しての討論何かが聞こえてきたりもしたが、それはそれで二人には面白かった。
話しを本題に戻すと、彼女の提案とは、タネも仕掛けもない言い当て手品、マジックをやってお金持ちになろうという話。
彼女は目をキラキラさせながらテレパシーで詳細を話してくる。
そんな彼女の話を当然断れない僕は、テレパシーでワザとはしゃいで、勿論オーケーということになった。
二人は、色々はパフォーマンスコンテストに出場し、あれよあれよという間に優勝を総舐めにして、気が付くと有名なプロダクションからスカウトされ、マネージャーが付き、テレビやショーに引っ張りダコになって、一年もしない内に大スターにのしあがった。
しかし無理もない。
二人がいれば、彼女が絶対に見えない物があったとしても、それを僕が見る事ができるのならテレパシーを使って彼女に伝え、勿論彼女は100%の確率でそれを言い当てる事ができるのだから。
中にはそんな仕掛けを何とか暴こうと、下手な実験をしてくるものもいたが、それは二人以外に真実を知ることなどできる筈もなかった。
そして僕らはある程度のお金を手にでき、暮らしも少し裕福なものへとなっていった。
そんなある日、彼女が僕に素朴な質問をしてきた。
このテレパシーってどこまで届くのだろう?
僕は首をヒネッた。
確かにそんな事はやってみた事がない。
彼女は僕に愛しているからそろそろ結婚したいのだけど、その前に二人がどこまで繋がっていることができるのかを試したいと言った。
僕は興奮して、それを確かめる実験を無条件で了解した。
僕はまず、彼女を残して電車に乗り、行ける終点まで行ったがテレパシーには何の支障もなかった。
次に船に乗って近くの島に行った。しかし問題はない。
少し怖かったが、飛行機に乗って隣の国に行ったが、それでもまだはっきりと聞こえる。
そのまま僕は世界を回わることになり、この星の反対側まで旅を重ねてやってきたが、やはり結果は変わらなかった。
僕は不変の愛を感じて、その雄大な外国の風景を見ながら、彼女にテレパシーで言った。
僕ら二人はどこにいても繋がっていることがわかった。
さぁ、今から君の元に帰って結婚の式を挙げよう。
僕は感極まって涙を流した。
すると彼女は、
いえ、まだよ。二人の愛が不変かどうか、まだ分からないわ。と言ってきた。そして、
今度は原油採掘場に就職して、地底の奥深くに行き、そこでテレパシーが届くかを確認しないと。と言うので僕は言った。
何でそんな必要があるんだ?
すると彼女は、もし地震で私が生き埋めになった時にあなたに助けに来てほしいから。と言い、僕はなんだか納得してしまい、なるほどと思った。
地震がきたときに、せっかくテレパシーで通じているのに、どちらか一人が助かるなんて考えられないと言う訳か。
僕は早速、その足で原油採掘場に出向き、安い賃金でいいから働かせてほしいと強引に交渉し、死にもの狂で仕事に励んで、勉強もした。
そして時間は掛かったが、とうとう採掘マシンに乗り、地下深くに来る事ができた。
僕は仕事の合間に静かに目を閉じて、彼女にテレパシーを送ってみた。
ピピピ。やはり思った通りの結果だ。
二人の愛は、例え地面という厚い壁であっても、マグマであっても邪魔することができない太い赤い糸、テレパシーで繋がっている。
これなら地震がきても直ぐに助けにいける。
僕は彼女を幸せにする自信ができた。
そして、仕事のお陰で逞しくなった肉体と精神力に、自分なりにも関心し、満足した。
僕は意気揚々と、彼女にこれから君のところに戻るとテレパシーを送ると、彼女はまた僕を制した。
彼女も、かなりこの結果には何があっても僕に頼れると喜んだが、最後の頼みと言って、是非とも宇宙に行ってみてほしいとテレパシーを送ってきたのだった。
僕は唖然とした。
宇宙?
彼女は、その理由として、もしも地球の滅亡の日がきたとして、そんな時に二人が別々の場所にいたとしたら、別々の宇宙船に乗って地球を脱出するかも知れない。
せっかく二人は助かったとしても、あんな広い宇宙で離ればなれになるなんて耐えられない。
彼女のテレパシー、心の声は涙で震えていた。
僕は彼女がそんなに自分を愛してくれているのかと、地底の奥深くで涙した。
そして僕は今日で、この居心地のよくなった職場を離れ、宇宙飛行士になるべくして、まずは飛行機の資格を苦労して取得することにしたのだった。
勉強に勉強を重ねてやっとの思いでその資格を取り、そしてその次に、宇宙開発事業に力を入れている大国で軍隊に入隊し、パイロットの最高峰であるジェット機を操縦しなければならなかったため、その国の国籍が必要になった。
僕は仕方なく、彼女に相談の元、とりあえずすぐに離婚を前提としたその国の女性との結婚を企てた。
それははっきり言って誰でもよかった。
そして僕はなるべく、きっとこの先結婚なんかとは縁がなさそうな人を見つけながら町で手当たり次第声を掛けて回り、こんな外国人の自分でも受け入れてくれる女性を探し、遂に出会う事に成功した。
彼女は僕の夢が宇宙飛行士だと告げると、そんな僕に力を貸してくれると言い、彼女の身辺で利用できそうなものは全て僕に差し出してくれた。
そんな中、僕達は結婚し、その式で会った彼女の親戚にいた軍関係者の伯父という人と接する事ができ、なんだか宇宙飛行士にかなり近づいてきた気がした。
とりあえず僕はその伯父さんの紹介で空軍に入る事ができ、辛い訓練の中、時間を過ごした。
初めは差別からの手厚い歓迎もされたが、採掘場でつちかった腕っ節の強さと、職人気質の根性が役に立ち、いつの間にか僕は一目置かれる存在となった。
そんな評判も手伝い、僕はみるみる内に力と技術を身につけて、とうとう戦闘機へのパイロットに配属された。
僕は意外にも飛行機へのセンスがよかったらしく、大した時間も係らずに戦線へと行く事となり、そこで何の戦争なのかもわからないまま、なるべく敵機を撃たないように味方の手助けに廻るふりをして、技術と腕を奮い戦場をくぐり脱けて、何とか生き長らえた。
そして気付くと、僕はその味方を助けに廻った功績が評価され、戦争が終わり、国に戻ると、胸には数えきれないほどの勲章が誇らし気に飾られる事になって、英雄としてもてはやされた。
そしてその時がチャンスだと悟った。
僕は胸の勲章がまだ輝きを放っているうちに、軍の上層部に掛け合い、宇宙飛行士への志願を少し強引ながらも頼み込んで、そしてその要望が通り、次回打ち上げ予定の宇宙飛行士てして選ばれたのだった。
僕は喜び、その先にある例を見ないくらいの過酷な訓練にも耐え、いよいよ打ち上げのこの日を迎える事となった。
あまり広くない、計器に囲まれたコックピットで打ち上げの秒読みを耳にしながら僕は、今までの苦労を思い出し、彼女にテレパシーを送った。
いよいよ行ってくるよ。
すると彼女は行ってらっしゃいと少し息を詰まらせたテレパシーを返してきた。
そしてそれを心の中で受け取った瞬間、轟音と共に凄い加速によるGを受け、僕は引力を引き千切られる様に飛び立ったのだった。
プカプカと無重力の中、僕は蒼い地球を足元にして見た。
そしてテレパシーを彼女に向けて送ってみるが、さすがにその返事はなかった。
僕はなぜかホッとした溜め息をついた。
何か引力よりも重力よりも強い力から解放された気分だ。
その時僕は、きっと彼女もそうなんじゃないかと思うのだった。
僕は大きく伸びをして、とりあえず彼女のお陰で楽しい人生を送れてきた事に感謝し、そしてこの自由を噛みしめながら、地上にはもう、何だか戻りたくないと、美しい蒼い地球を見ながら、そう思うのだった。
私は彼からのテレパシーが途切れた時に初めて、彼の大切さと偉大さと逞しさ、そして愛しさを感じた。
彼は私のために何でも果敢に挑戦し、そして宇宙にまで行ってしまった。
私は惚れ直した。
この想いを早く彼に伝えたい。
そう想いながら今日も夜空の光りに向かって話し掛けるのだった。
おしまい。
いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。 |