第8話 怪物
目の前に現れたゾンビをあしらいながらディラン達は進んでいた。
『これからどうする?いくらなんでもラクーンシティの市民全員を相手にすることは出来んぞ』
ショットガンの弾薬を惜しみ、ハンドガンを使い始めたジーンがいう。
彼の言うことは最もだった。
実際先程から結構な数のゾンビを倒してきたが、一向に減る様子がない。
このままでは脱出する前に弾薬が尽きてしまう。
「そうだな、何とかして脱出する方法を探さないと」
その時銃声が聞こえた。
しかし、ディラン達は銃を撃ってはいない。
また銃声が聞こえた。
断続的に音がしていることから、スナイパーライフルである可能性が高い。
そして、何かの爆発した音が聞こえた。
次の瞬間フルオートで銃を発砲する音が聞こえた。
どうやら何処かで戦闘が行われているようだ。
「行ってみよう」
銃声は広場からしている。
広場に近ずくに連れて、人の声がきこえてきた。
『くっ、化け物め』
『うわぁ く、来るな』
加勢しようと思い、ディラン達は広場に出た。
しかし、もう生存者はいなかった。
あるのは、幾つかの死体と、今しがた殺されたと思われる血を噴きだしている死体。
服装を見るとディラン達と同じくアンブレラ特殊部隊だった。
そして、その真ん中には青っぽい肌をした巨大なゾンビがいた。
手の部分に血が滴っているのを見れば近くの死体はこいつが作り出したのだとわかる。
『死にな』
アンジェラが銃を構えると、それはこちらに気付き走ってきた。
人間とほぼ同等とも言える速度で走ってきたそれは既にゾンビの域を遥かにを超えていた。
そのことに気付いたアンジェラは横に転がり、怪物のタックルをかわす。
アンジェラに体当たりをかわされた怪物は勢いを保ったまま後ろの電柱にぶつかった。
大きな音をたてて電柱が倒れる。
怪物はそれを担いで、あろうことかディラン達のほうへと投げてきた。
ディラン達はしゃがんでそれをかわす。
圧倒的な質量の石の塊の直撃を受けた地面が大きくへこみ、軽い地響きを起こす。
『なんて馬鹿力だ』ドラゴがゾンビの弱点である頭を撃つ。
しかし怪物は動じない。
そのまま怪物は銃撃を物ともせず、先程よりも速い速度で突っこんできた。
銃撃に集中していて回避の遅れたドラゴは、怪物の放ったボディブローをかわしきれずに吹っ飛ばされる。
「グッ」
ドラゴは口から血をたらしている。
怪物はダウンしたドラゴに止めを刺そうとはせず、ディラン達に突っこんでくる。
『チッ』
怪物のタックルをかわしたジーンは至近距離から怪物の足に向けてショットガンを放つ。
通常のゾンビなら足を吹き飛ばされ、立ち続けることが出来なくなる。
しかし、怪物は軽くバランスを崩しただけで大したダメージを受けていない。
怪物はそのままジーンに裏拳を見舞う。
歴戦の肉体がいとも簡単に中を舞い、地面に叩きつけられる。
ディラン達は徐々に怪物の圧倒的パワーとゾンビには無い筈のスピードに押されていく。
「このままじゃ危ない。一旦引こう。」
ディランの一声で銃を構えていたアンジェラとナオコは銃を仕舞い、ジーンとドラゴに肩を貸す。
他の隊員が怪物との距離を充分にとったのを見計らって、ディランは怪物の足にグレネードを撃ちこむ。
ショットガンの直撃を受け、ダメージを受けている怪物の足は吹き飛び、怪物はうつ伏せに倒れる。
しかしその状態のままでも怪物は両腕で地を這い、隊員に襲い掛からんとしている。
そのスピードも通常のゾンビを遥かに凌駕している。
ディラン達は走り、怪物の姿が見えなくなるまで引き離し、近くにあったアパートの一階に入った。幸いゾンビはいなかった。
『それにしても奴は何だったんだ?』
ドラゴは左手で口に付いた血を拭う。
その時ディラン、ドラゴ、アンジェラの付けていた無線が同時になった。
『やあ、アンブレラ特殊部隊の諸君。もし君達に生きたいという欲望があるなら、ラクーン中央のビル屋上にきたまえ。脱出手段を用意しているぞ』
そういい終わった後無線は同時に切れた。
『畜生、アンブレラの野郎ふざけやがって』アンジェラは歯を食いしばっている。
ジーンを床に座らせたナオコが聞く。
『それより隊長。どうするんですか?』
ディランが答えようとしたとき、近くで物音がした。
ゾンビにあたり一面を囲まれていた。
それもかなりの数だ。
ざっと数えて30、40、いや50体以上いるかもしれない。
アパート全体を囲まれているようだ。
ディラン達は遅れながらも応戦する。
しかし数が数だ。
同時に全方向から襲ってくるゾンビ相手に狭いアパートは絶対的に不利だった。
『おまえらは先に行け。ここは俺が食い止める。』
ジーンは目の前のゾンビを吹き飛ばしながら言った。
「駄目だ。いくらお前でもこの数相手じゃ無理だ。それにその体じゃ」
ジーンの体は怪物に吹き飛ばされたときの衝撃で明らかに骨が何本か折れているような状態だった。
同じく怪物の攻撃を食らったドラゴも同様である。
『こんな体だからさ。俺がいたら足手まといになる。お前達はラクーン中央のビルに向かえ。奴等の言葉は信用できんがここにいるよりはましだ』
『俺も残るぜ』
そういってドラゴも前に出る。
「そんな、お前達
『いいから行け』
命懸けの提案をした2人の気迫にディランは気圧された。
「分かった。その代わり後で必ず追いつけよ」
『了解』
ディランは窓を突き破り脱出した。
ナオコとアンジェラもそれに続く。
この行動に異議をとなえないのは2人の覚悟を充分理解しているからだろう。
無数のゾンビが押し寄せているアパートから聞こえる銃声だけが二人の安否を示していた。 |