第6話 思惑
大の男2人で大量の武器を抱えて医務室へ戻ると、ナオコが深刻そうな顔で座っていた。
「どうした?」
ディランが問いかけるとナオコは少し充血した目をこちらに向けた。
『トムが、、、』彼女の声は少しかすれていた。
よく見るとナオコの手には射撃準備の済んだハンドガンが握られていた。
「トムがどうした」答えたくない様子のナオコの横を通り過ぎ、部屋の奥へ目をやるとそこにはトムが倒れていた。
「オイ!これはどういう事だ」
ナオコの肩を揺すっているとジーンがそれを止めた。
『やめろ。そんな風に聞かれたら誰も答えられん』
ジーンに諭されやっとディランは手を放した。
「何があったのか、聞かせてくれないか?」
ナオコは小さな声で話し始めた。
『隊長たちが出て行ってから、私はトムの手当てをしてました。でもあまり良くならなくて、トムもだんだん呼吸が荒くなってきて、私が大丈夫か聞いても返事もできないような状態でした。それで、しばらく様子を見ているとトムの様子がおかしくなって、近くに行こうとしたら、いきなりトムが襲い掛かってきたんです。その目は死んだ人みたいに白く濁ってました。突き飛ばしてもまだトムは襲い掛かってきました。銃を向けても止まらなかったんです。それで、頭を撃ち抜いたんです。』
ナオコの話はにわかに信じがたかったが、トムの死体を見ていたジーンが、『おい、こいつ腐ってるぞ。さっき死んだばかりの人間がこんなに早く腐るはずは無い。』と言ったので、信じざるを得なかった。
「そうか。ナオコ、すまなかった。」
ナオコは軽く首を振り、トムの死体に話しかけた。
『ごめんなさい。トム。私にはどうすることも出来なくて、あなたの分までしっかり生き抜いて見せるわ』
ディランは軽く身を屈めた。
「トム。お前は室内戦が得意で、誰よりも心の優しいやつだったな。お前の死は決してムダにはしない。必ず生きてこの町から出る。」
ジーンは首につけていた十字架のネックレスをトムの死体にかけた。
『さらばだ、戦友よ』
命をともにした仲間に別れを継げた後、ディランが言った。
「そろそろ行こう。」
渡されたM4の初弾を装填しながらナオコが聞く。
『行くって、どこへ?』
ジーンはスパス12の射撃モードをセミオートに変え、こちらを見ている。
「もうこれ以上任務を続行するのは危険だ。町を出よう。」
大方2人も同意見のようだった。
それからは階段で今まで来た道を通って帰った。
エレベーターを使うことも出来たが、また怪物に襲われるのは嫌だったので階段で地下一階まで戻った。
地下一階から地上へと続く、扉にディランはカードキーを入れた。
何も反応がない。
故障しているようではないので、研究員クラスのカードキーでは通れないということなのだろう。
アンブレラ社の扉は外側からはもちろん、内側からもまず破れないようになっている。手持ちの装備では何度やっても壊すことは無理だろう。
少し考えてディランはこういった。
「鍵は恐らくこの部屋の何処かにあるだろう。探してくれ。」
ディランの一声で、全員が机の上などを探し始めた。
恐らくここは事務室だったのだろう。
机の上にはなにやら意味の分からない書類や、事務用品が乱雑に置かれている。
ここで働いていた者のストレスの溜まり具合を考えさせるな、などと思っていると一つの書類が目にとまった。
そこには 【軍事目的及び実験目的のウイルス開発に関しての報告書】 と書かれていた。
ディランは表紙を開く。
最初の一ページには何も書かれていなかったので二ページ目を開いた。
そこにはゾンビ化した人間の写真が貼ってあった。
その横にはメモが書かれている。
<被験者にウイルスを投与した。直後は特に反応は見られない。>
<一時間後、被験者は頭痛と吐き気を訴えだした。>
<ウイルス投与から二時間後、被験者は死にそうな顔をして、呼吸が乱れてきた。>
<それから15分後、被験者は白目をむいて近くにいた研究員に噛み付いた。ウイルスに感染すると理性を失い、肉食に目覚めるようだ。足や手を撃ちぬいても死ななかった。実験は成功だ>とある。
ディランは心拍数が上がるのを感じながらページをめくった。
そこには、トムを殺した舌の長いあの怪物がカプセルに収まっていた写真が張ってあった。
横にメモがある。
<遂にあのウイルスを使い、新しい怪物を作り出すことに成功した。怪物は通常のゾンビよりはるかに優れた能力と凶暴性があるようだ。人間ほどではないが感情のようなものも持っているようだ。試しにゾンビと同じ檻に閉まっておいたら、ゾンビが八つ裂きにされていた。かなり気性が荒いようだ。その他にも長くて鋭い舌という新しい特徴が出来た。近くにいた研究員が舌で舐めるように殺されていた。我々はこの怪物をリッカーと名付けた。実験は成功だ、この技術を応用すればもっと強力で使いやすい生物兵器を作ることが出来るだろう。>
読み終えたとき、ディランは絶望した。
トムを殺したあの怪物も、街中にあふれるゾンビもアンブレラ社が創りだしたものだったのだ。 |