第5話 脅威
建物は近くで見るととても大きかった。
並みの工場の比ではない。ディランたちは工場の裏口を探し、中に入った。
最新式のカードリーダーにアンブレラ特殊警備部隊小隊長クラスの者に配られるカードキーを差し込んだ。
ピーッと言う音とともにドアの電子ロックが解除される。
ドアを開けて中に入るとそこには何もなかった。
アンブレラの研究施設は見かけは巨大な工場だが、そこには何も無かった。
あるのは半ば異常な大きさのエレベーターだけだった。
そう、表面の工場は偽物で本物は中にあるのだ。
なんでも機密保持と安全のため、らしい。
それだけのことができる資金と技術がアンブレラ社にはあった。
ディランはエレベーターの横についているカードリーダーに自分のカードキーを差し込んだ。
アンブレラ社ではエレベーター1つ動かすにも身分の証明が必要だった。
大手製薬会社と言うより軍事基地といっていい建物をディラン達はエレベーターで下っていった。
『隊長、本当にこんなところに武器なんてあるんですか。』
トムが不思議そうに聞く。
「ああ、そのはずだ。外部からの侵入者を迎え撃つためらしい」
トムはそれを聞いて納得したようだった。
アンブレラ社はこれまでにも何度かテロ組織や、所属不明部隊の襲撃を受けていたことがあった。
何故彼らが躍起になって、たかが製薬会社を襲うのかは分からないが。
ガーッと無骨な音をたてていたエレベーターが地下2階のところで止まる。
「俺たちの身分じゃ、ここまでしか載せてもらえん用だ。後は階段で行こう。武器庫は恐らくもっと地下にあるだろう」
エレベーターを出てみると廊下の明かりが眩しかった。
辺りは白一色で統一されており、その様は病院を連想させる。
ディラン達はしばらくの間廊下を進んでいた。コッコッと言う音が響いている。
そのまま進んでいると曲がり角から白衣を着たゾンビが現れた。
「チッ、ここにもウイルスが進入していたのか。」
そういってディランはそのゾンビを倒し、少しその死体を見つめた後、白衣のポケットに手を突っこんだ。
目当ての物が見つかり、その手はぴたりと止まる。ディランはポケットから手を抜いた。
その手には研究員クラスのカードキーが握られていた。
「よしっこれがあれば最深部までいくこともできるだろう。先へ進もう」
そこでナオコが質問する。『あの、エレベーターには戻らないんですか。』
「いや、ここまでウイルスがきているならエレベーターも安全じゃない。狭いところで襲われたら不利だ。」
そう答えつつ、ディランは先程入手したカードキーを目の前の扉に差し込んだ。
目の前には地下三階へと続く階段があった。
階段一つのために電子ロック付きの扉を設ける設計はアンブレラの秘密主義を表しているようだった。
地下三階には壁に液晶パネルの画面があった。そこには地下三階の見取り図が書いてある。
現在位置は地下三階、研究室前と書かれている。
残念ながら、三階の見取り図に武器庫の文字は無かった。
「この階にも武器庫は無いようだ。先へ進もう。」
そういってディランがドアを開けるとそこは奇妙な部屋だった。
部屋のあちこちにカプセルのようなものの破片が落ちており、壁や天井には血がたっぷりと付いている。まるで悪趣味な壁紙のようだった。
ディラン達が全員部屋に入ったところで、一番後ろにいたトムが突然転んだ。
よく見ると彼の右足に分厚いロープのようなものが巻きついている。
トムはうつ伏せになったまま少しずつ、引きずられている。
ディランやナオコが銃を構える前に、ジーンがスペツナズナイフを構え、刃をうちだした。
刃は見事に突き刺さり、それはトムの足を放した。
その隙にトムは傷ついた右足を庇いながら立ち上がった。
赤黒く、とげとげしいそれは生物のように激しく暴れ、やがて杭の如く刺さっていた刃が勢いよく抜ける。
その謎の物体は血のような物を撒き散らしながら、ディラン達がやってきた方へと行き、やがて天井の通気口へと吸い込まれていった。
「トム、大丈夫か?」
トムの右足は出血しており、顔も少し青ざめている。
『足が痛みます。誰か肩を貸して下さい。』
そう言われて近くにいたナオコが肩を貸す。
「確かこの先に医務室があったはずだ、そこへ行こう」
『じゃあ俺が後ろを警戒しよう』そう言ってジーンは二人の後ろに立った。
医務室に付くと、アンブレラ社のものだけあってさまざまな薬品があった。
ナオコが器用にトムの手当てをしている。
しかし、トムの状態はあまり良くならない。
いくら止血剤を使ったところですぐに出血が止まるわけではなかったが、滲んでくるような血はいくら抑えても止まらなかった。
「その様子じゃ先へ進むのは無理だな。俺とジーンで武器を探してくる。ナオコはトムを診てやっててくれ」
そういってディランはジーンと一緒に医務室を出た。「たしか地下四階にいける階段はこの先だったよな」そういいながら歩いていると大きめの扉が見えてきた。「あった、あれだ。」
ディランはカードキーを使ってその扉を開けた。
地下四階へと続く階段はこれまでと違い薄暗く、肌寒かった。
地下四階は三階までとは全体的な雰囲気が変わっていた。今までは清潔感のある白を基調とした病院のような雰囲気だったが、今、目の前にあるのはいかにもコンクリートと言うような無骨な壁だった。
『ここまで来るともう完璧に製薬会社じゃないな。軍事施設だ』
ジーンと同じ感想を抱きつつ、ディランは壁にある見取り図に目をやった。
「ええと武器庫、 あった、あったぞ。武器保存庫。現在位置から2つ隣」
『まるでオアシスを見つけた遊牧民だな』ジーンは何処から取り出したのか葉巻を吹かしていた。「何もって来てんだお前」ディランはタバコは吸わない。
肺活量を下げる恐れがあるからだ。
『お守りみたいなもんだ』今隊長の目の前で堂々と葉巻など吸っている男には関係ないようだが。
「地図によると、この先の薬品室を通って行けばいいようだ。」
薬品室の扉は、厚くて重かった。中に入るとそこはかなり広い空間だった。その広い空間に薬品のたっぷり載った薬品棚がところ狭しと並んでいる。
「ここを抜ければ武器庫はすぐだ。急ごう」ディランが駆け出そうとするとジーンがそれを止めた。
『ちょっと待て。静かに』ジーンに言われ、音をたてないようにしていると、何処からかザッザッというような音がしてくる。
何の音かと思い、辺りを見回していると突如背後で大きな音がした。
振り向くと全身の皮が剥がれたとしか思えない酷悪な怪物がいた。
怪物は口を開くと空気を裂く音が聞こえるほどの速さで下を伸ばした。
赤黒く、棘のあるそれは近くにあった薬品棚を倒しながら迫ってくる。
「こいつか、さっきトムを襲ったやつは」ディランは即座にサブマシンガンを構え発砲する。
しかし、その怪物は見透かしていたかのような素早い動きで銃撃を回避した。
怪物は大きく跳躍し、天井や壁にくっついている。その間にも鋭いとげのある舌を飛ばして攻撃してくる。
ディランとジーンはそれをかわしながら銃を撃つが何しろ常に飛び回っているため的が定まらない。
何発かは着弾しているようだが、ブチュッブチュッと汚らしい音がするだけで大した効果があるようには見えない。
2人は徐々に劣勢を強いられる。
ディランは飛んできた舌をかわそうとして横に飛ぶが足元に転がっていたビンにつまずき、無様にも転んでしまう。
俊敏な怪物がその隙を見逃すはずも無かった。
一気に止めを刺そうとディランに飛びかかってくる。
隙をカバーしようと援護に回ってくれたジーンも、怪物の出した舌で転倒させられてしまう。
自分の頭めがけて振り下ろされたバナナの房のように湾曲した爪を間一髪かわすと、その爪は床に大きな穴を開けた。
当たっていれば人体で最も硬い頭蓋骨がいとも簡単に砕けていたことだろう。
横に転がり、ホルスターからベレッタを抜き出し構えるが怪物の出した鋭い舌に弾かれ、取り落としてしまう。
その時ジーンが『伏せろ!』と言ったので、ディランは少しでも距離をとる為に自分の背中側に体をひねり、床に伏せた。
すると、後ろで爆音がした。
映画の物などとは根本的に音の違う爆音。
耳をつんざくような怪物の断末魔の叫び。
背中を通っていく熱風。
振り向くと怪物は先程いた場所にはおらず、少し横に吹き飛ばされていた。
ジーンは、背中の神経系を吹き飛ばされて動けなくなった怪物の横を通り、ディランに手を差し出した。
ディランはその手をとり、立ち上がった。「すまない」
『急ごう。残してきた二人が心配だ』彼はこういった状況で頼りになる男だった。才能があるがまだ若いディランと違い、戦うことを生業としてきた彼は非常に実践経験が豊富だった。
急いで武器庫へ向かうと、そこには多くの武器が保存されていた。
中でもディランとジーンは持てるだけの必要な武器弾薬を選んだ。選んだ武器は以下の通り。
装弾数30発のM4カービン(グレーネードランチャーユニット付)×3
M4のマガジン15個
M4用のグレネード10個
ハンドガンのマガジン4個
ショットガン(スパス12)×2
12ゲージのショットシェル56発
を近くにあったリュックのような物に入れ、入りきらなかった分はほとんど抱えるようにして二人で持ち出した。
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