最終話 終焉
タイラントは立て続けに二発のグレネードを喰らい、爆炎に包まれた巨体はいともたやすく吹っ飛んだ。
今は白衣の男達の近くで仰向けに倒れている。
先程からタイラントは動かない。
その事に白衣の男の表情は歪んでいく一方だ。
タイラントは死んだ。その場にいる誰もがそう思った。
しかし、タイラントは一瞬ピクッと痙攣した後、何事も無かった様に立ち上がった。
『嘘だろ』
アンジェラは口を半開きにしている。
白衣の男もそれと似たような表情をしていたが、次第にその顔は歓喜に包まれていった。
『素晴らしい』
タイラントは立ち上がってもすぐに突っこんでくるようなことはせず、少しの間立ち尽くしていた。
しばらくそうした後、タイラントは左腕を天に向けた。
その手には刀程もあろうかと言う鋭い爪があった。
その爪には血が滴っていた。
つまり生えてきたのだ。たった今。
それを見ると白衣の男はますます笑顔になった。
『ほう、これはすごい。よしタイラント、奴等を殺せ』
そういって男は顎でこちらをさした。
しかしタイラントは動かない。
『どうした。早くしろ』
その声に反応したのかタイラントは男の方を振り向く。
『主、主任』
そう言われてヘリのそばまで歩いていた男は振り向いた。
そして自分の目を疑った。
一番前に居た警備員が宙に浮いており、背中から刀のような物が突き出ていた。
その足元にはかなりの量の血溜まりが出来ていた。
体の力が抜けており、背中から内臓の一部がはみ出していることを見ればもう助からない事は嫌でもわかる。
そんなことはどうでもいい。それより警備員を殺したものが問題だ。
警備員の腹から背中を貫き、死に至らしめたその鋭利な物体はタイラントの左腕につながっていた。
タイラントがその鋭い爪で刺し殺したのだ。
タイラントは腕を下ろし、今殺したものが手から落ちるのを待った。
その肉塊はベチャッ、と言う音をたててタイラントの爪から落ちる。
その音がするのと同時にタイラントは走り始める。
ディラン達の方ではなく、命令を下していた者たちのほうへ。
目の前にいた同僚が刺し殺されてひるんでいた警備員達は突如、自分達の方へ走ってきたタイラントの姿を見て驚愕するとともに思わず後ずさった。
しかし男達がショックから立ち直る前にタイラントは爪の生えた左腕を振り回す。
一撃目で肩と胸を裂かれ、二撃目で喉を裂かれた男はその場で死を迎える。
二人目が殺されてようやく警備員は銃を構え発砲した。
しかしタイラントは全く動じない。
タイラントは今度は左腕を上から振り下ろした。
すると目の前にいた男が頭蓋骨から下腹部の辺りまで骨格すらものともせずに裂かれる。
さながら中途半端な三枚下ろしのようになった男の死体をまたいで、タイラントは残りの人間を殺そうと走りつ続ける。
最後の警備員は弾切れになった銃を構え、引き金をただ引いていた。
タイラントは少し腰をひねり警備員を右腕で殴りつけた。
丸太のように太い腕で殴られた男の頭骸骨は潰れ、汚らしく脳みそが垂れている。その首は生きている人間ならば決してありえない方向に曲がっていた。
白衣の男は自分を守る人間が目の前で殺され、尻餅をついていた。
『や、やめろ』
無論、四人の人間を瞬く間に殺した怪物が今更躊躇うことがあるわけもなくタイラントは左腕を下ろし、白衣の男の腹を深々と貫く。
自分を作り出した人間をも殺した怪物はディラン達のほうへ向き直った。
この怪物が獣であったならここで咆哮を上げているところだろうが、怪物は以前沈黙している。
『化け物め』
アンジェラは怪物の頭を狙い、引き金を引いた。
怪物はダメージを受けるどころかまるで動じない。
『チッ私が前に出る。もう一度グレネードを使え』
それを聞き、ディランは最後のグレネードを装填した。
ナオコは既にグレネードを使い切っている為、アンジェラの援護に回った。
グレネードの装填が終わったディランは確実に当てるために狙いを研ぎ澄ませた。
この1発で倒せるとは思わないが、だからこそ外すわけにはいかない。
タイラントは先程より遥かに動きが速くなっていた。
ナオコとアンジェラも苦戦している。
タイラントが見せた一瞬の隙を突いてグレネードを発射する。
アンジェラとナオコは引き金に力が入ったのを見て既に退避している。
先程までのタイラントなら確実に頭に当たる位置に現在グレネードはあった。
しかし、タイラントは恐るべき速さで左腕を振って、なんとグレネードを弾き返した。
タイラントに弾かれたグレネードが離れた場所で爆発する。
タイラントはそんな事など気にもせず、再び人間の肉を引き裂かんと左腕を振り回し始めた。
標的は近い位置で伏せていたアンジェラだった。
タイラントが腕を振り下ろす。
素早く転がり、振り下ろされた爪をかわす。
そのまま距離をとり、立ち上がる。
しかしタイラントの圧倒的な踏み込みの早さにアンジェラに出来たのは、銃でタイラントの拳を防ぐことだけだった。
一撃で銃が折れ曲がり、アンジェラはそのままの姿勢で吹っ飛ばされる。
その時ビルの内部へ続くドアが勢い良く開いた。
そこには先程分かれたジーンとドラゴが立っていた。
すぐに状況を察したらしい2人はディラン達のほうへ駆け出す。
ジーンは左腕にアタッシュケースのような物を持っていた。
ジーンはそれを投げてよこした。
『受け取れ』
ディランはそれを辛うじて受け取る。
それを見届けてジーンは肩に掛けたショットガンを構え、タイラントに突っ込む。
その間、タイラントは自分が吹っ飛ばしたアンジェラには目もくれず、新たな獲物の方に走ってきた。
ドラゴは正確な射撃でそれを迎え撃つ。
タイラントに応戦しているジーンが顔を動かさずにディランに言った。
『ディラン、中身はRPG−7だ。』
それを聞いてディランが少し驚いたのを悟ったのかジーンはこう付け加える。
『ヘリのコックピットに隠してたんだ。そのケースは特殊な素材で出来ているからな。あの程度の爆発では壊れない』
そこまで聞いてディランはケースを地面に置いて開いた。
中身は確かにソ連製の携帯用対戦車兵器であるRPG−7だった。
ディランはそれを取り出して構え、射撃姿勢をとった。
しかしタイラントは素早く動き回っているため狙いが定まらない。
他の隊員も苦戦を強いられている。
『全く、こいつは不死身なのか?』
ドラゴは先程から的確にタイラントを撃ち抜いているがまるでダメージが無い。
そこでナオコがM4を撃ち尽くし、リロードしようとした瞬間タイラントはそのことが分かっているのかナオコを殺そうと左腕を突き出す。
リロードに気をとられていたナオコはかわしきれない。
その時『危ない』といってジーンがナオコを突き飛ばした。
タイラントの爪は確かに人間の肉を貫くことに成功した。しかし爪はナオコではなくジーンに刺さっている。
だがジーンは笑っていた。ショットガンを落としたその手にはピンの抜けたグレネードが握られていた。
ジーンは自分の腕を絡めながら他の者に被害が及ばぬよう自分の体でガードしている。
『この腕もらったぜ』
直後グレネードが爆発した。
アンブレラ社製の強力なグレネードは至近距離にあったタイラントの腕と上半身をボロボロにした。
グレネードを持っていたジーンは血まみれになって吹っ飛んだ。
タイラントは腕の付け根や上半身の肉の一部を吹き飛ばされ、たじろいでいる。
今しかない。ディランはそう思い、RPGの引き金を引いた。
大きな音がした後、爆音とともにタイラントの近くに火柱が立つ。
タイラントはその場でバラバラになっていた。
いくらなんでももう動くことは無かった。
『やったぞ』
タイラントを倒すのに命を掛けてくれたジーンに一同は軽く黙祷してから、ドラゴはアンジェラに走りより、ディランとナオコはヘリに乗り込んだ。
ヘリの中には誰もいなかった。どうやら警備員はパイロットを兼ねていたらしい。
『隊長、これって』
ナオコが数ある機器の中のひとつをを指差す。
それはタイマーのようなものだった。赤いデジタルの文字が、残り五分三十秒をさしているようだった。
それを見ているとドラゴとアンジェラがやってきた。
そのタイマーが五分を切った時に機械が鳴った。
それと同時にスピーカーからの声がした。
『核爆発まで残り五分を切りました。』
それを聞いて一同は驚愕した。
『そんな。アンブレラはこの町を吹き飛ばすのか』
「急げ。一秒でも早く離陸するぞ」
ドラゴ達を急いで収容した後ディランはシートに座り、急いでヘリを離陸させた。
アンブレラが作った町を隔離する壁を越えたあたりで後ろで巨大な光が見えた。
その光とともに町が蒸発していく。
ディラン達を乗せたヘリが完全に町を出た頃にはきのこ雲が出来ていた。
その小さな太陽は町の全てを焼き尽くした。
そこで起きた事実も。
そこで死んだものの存在も。
アンブレラ社が関与した証拠も。 |