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転生したった   作者: 空乃無志
新世界の物語
81/98

白い薔薇の在り処3

過去アリシス


7歳の時だった。

フィロとの二人だけでの貧しい生活に変化が生まれた。

私の兄であるライオット・ディオス・テスタンティスが私を迎えに来たのだ。

当時まだ15才だった青年は私たち二人をディオス家で保護すると言った。

彼は穏やかな顔で私たちの前に立つと「遅くなってすまない」と言った。


その日以来、私の生活は一変した。


二年間、毎日食べた塩味の蒸かし芋は色とりどりのソースのドレスをまとった真っ赤なお肉さんに。

床で無い事以外の意味が無かったかぴかぴの敷き布団はまるで新雪のように白くてふわふわのベッドに。

まるで魔法が掛かった様な日常が始まった。


フィロと毎日感謝しながら過ごした。


彼は自分の事を兄と呼んで欲しいと言った。

私は彼を「お兄さま」と呼んだけど、本当は絵本の中に出てきた魔法使いなんだと思った。


兄の実家。

ディオス家は公爵位を持ち、歴代の王や王妃を排出してきた超名門貴族らしい。


私はキラキラした毎日にドキドキして過ごした。


こんな暮らしを与えてくれた兄に私は幼いながらに恋心を抱いていた。

そんな想いを知ってかどうかは分からないが私にいつも付いて来てくれた母親代わりのフィロが私にこう言った。


「アリシスさま、今からでも遅くはありません。王家に相応しい姫になりましょう」


私はそう言われて首を傾げた。

どういう意味か分からなかったのだ。


フィロはそれから私に対して本格的に教育を始めた。


私は本は読んで貰うもので自分で読む物だって知らなかったぐらい駄目な子だった。


とにかく、お勉強は大変だった。


文字の読み書きに、礼儀作法に、踊りに、魔法。

フィロは色々な事を私に教えてくれるようになった。


踊りと魔法のお勉強は得意だったけど、他は苦手。


得意な魔法はその人のに脳内のイメージが大事らしい。


私は火の魔法がすぐ使えるようになった。

でも、炎は正直嫌いだった。


母親の棺が燃えていく様子を今でも覚えている。

でも、当時の私は他の魔法は余り得意じゃなかった。

仕方なく炎の魔法をトレーニングしていた。


お勉強が終わるとフィロはときどき、私の母と自分の故郷の話をしてくれた。


母たちの故郷は白鳥の舞う国、ローメンプール。

もう随分と昔にあった神竜戦争時代に滅んで、以来、旅の一族になったらしい。


自分たちの新たな故郷を探して、数百年。

気づけば住み着くこともなく巡礼の旅路が自分たちの故郷になった。


舞人旅団のラフェルタ一族は諸国を歌や踊りや芸能を奉納して廻り、時には魔物を払って生計を立てている。

一族の人数は百ちょっと。


旅団の生活は厳しく、一族の数を増やすことは難しい。


だから、他に居場所を見つけた人は旅団を離れていく。

そんなとき、旅団のみんなはそれを壮大に祝うそうだ。


自分たちの理想の居場所を求め、旅を続ける。

彼らはそんな一族だそうだ。


ある時、私はフィロに尋ねたことがある。

故郷に帰りたくないかと。


フィロは寂しそうな顔で首を振ったのを覚えている。

フィロは旅を終えた人間はもう旅団に戻ることは出来ないとだけ教えてくれた。


私はフィロが時々一人で居ると何かに曲を歌っているのを聞いた事がある。

最近になってあれが旅団に伝わる望郷の歌だと知った。


フィロは旅団に帰りたかったのだろうか。


ある日、フィロが体調を崩した。何か難しい名前の病だそうだ。

私は必死になって看病した。


けれど、フィロはある朝冷たくなって死んでしまった。


私はまた一人になってしまった。

今度の葬式で私はわんわんと泣いた。


フィロが死んだ。


フィロは私に手紙を遺していた。


「アリシスさまへ。

ごめんなさい。

アイラがいなくなって、貴方のことを守ろうと思いましたがどうやら無理な様です。

私の病気は魔素欠乏症だそうです。

この病気の治療方法は無いと言われています。

きっと助からないでしょう。

ライオット様は優しい方です。

私の為に秘薬を探すと言ってくれましたがおそらく難しいでしょう。

本当に優しい方です。

あの方は貴女にとって良い居場所になると思います。

私たちは寄る辺無く、人に寄り掛かって生きてしまう悲しい一族です。

私は旅団が嫌いでした。私はいつも外の世界に憧れていました。

そして、貴方の母にも強い憧れを抱いていました。

貴方の母が王に見初められた時、貴方の母に付いて、私は旅団を出ました。

白状すると私は貴方の母を利用しました。

迷っていた貴方の母を説得したのは私です。

私は一人で寄る辺無く、外に飛び出す事は出来ない弱い人間です。

だから、外に出たい私は貴方の母を頼りました。

アイラがあんなことになってしまって、ごめんなさい。

私は弱い人間だったと思います。

こんな私が偉そうな事は言えないでしょうが、こんな私ですから言います。

強く生きてください。

そして、自分の居場所を自分で守ってください。

貴方には今までたくさんの不幸が在りました。

それでもきっとアリシスのこれからの人生では幸せだと思っています。

そう願っています。今までありがとう。

貴方が私の幸せの在処でした」


私はその日、以来、周囲から期待される人間になろうと努力を始めた。

きっと、幸せは自分で守らないといけないんだ。

努力して守ろうと思った。

だって、ここが私の居場所だから・・・。




◇◇◇◇◇





《現在、魔領シンバラ》

暗い部屋。

複数の男たちが一つの食卓を囲っていた。


彼らは盛られた料理を口にしながら、会話をしていた。

端から見ているとその面子は多少奇異に映る。

ある種の奇妙さはまとまりの無さから来るものだろう。


まずは歳。

初老に入ったものも居れば、異様なほどに若い者もいる。

そして服装。

ある者は礼服の様なきちりとした格好だと思えば、その隣の男は戦場帰りのような薄汚れた作業着である。


男たちの間には、集団であれば其処に在るべき場の統一感、秩序がまったく無かった。


そして何より奇異に写るのが食事という嗜好がある場でありながら、誰の表情からもそこに在るべき興が見て取れ無いのだ。


誰も彼も料理を美味しそうに食している気配はない。


一人の男がフォークを止めた。

唐突に口を開いた。


「ヴィジオ卿、白薔薇の売れ行きはどうだ」


まるで明日の天気を聞くかのような気軽さだ。


無論、その内容は花屋にある花の売れ行きなどを尋ねている訳ではない。


白薔薇。

彼らの飼う非合法娼婦たちの通称だ。彼はその売り上げに関して問うているのだ。


もっとも年老いた男の質問に礼服の若い男が口を開いた。


「はい、順調です」


「ほぅ、それは良いことだ」


実際、白薔薇は各地に根を張り、かなりの収益を上げている。

世は今、混沌としている。


その理由のひとつに世界の急激な成長と衰退が挙げられるだろう。


成長と。


衰退だ。


商売で益を上げる者がいれば、損するものがいる。


ユノウス商会の成長によって職を得たものがいれば、その裏で職を失ったものも数知れずいる。


光が強くなるほどに闇は深まっていくものだ。


「しかし、魔帝さま。白薔薇の種をこのまま、べオルグにまで蒔くのは問題がありませんか?」


ヴィジオ卿は魔団からべオルグで白薔薇の活動を一任されている。

と言っても、本部の意向を無視できる立場にはない。


彼からすれば、リスクの大きい都市での商売は遠慮したいのだ。


そして、べオルググラード。

あの都市でこの手の商売をする難易度は桁違いだ。


すると、魔帝と呼ばれた初老の男は軽く首を振った。


「我らが遠慮する必要などないだろう。奴らが神の瞳などと呼んでいる例の装置の機能がどれほどのものか知る良い機会だ。お金を稼げるのも良い」


確かに、敵対組織であるユノウス商会に対する遠慮はいらない。

そして、未だに全容が掴めない神の瞳の存在もある。


一種の寄せ餌か。見物と言うのはその通りかもしれない。


「それにしても、ユノウスという男が表に出てきてからの聖団の攻勢は凄まじいな」


他人事の様に呟く男に周囲は顔を暗くした。

魔団は今のところ彼らの良い様にやられているのが実情だ。


「彼らは失敗作であるあの男の後を継ぐ真の救世主ですから」


「ユノウス・ルベット。ネザードが言うところの無限転生者と言うやつなのか」


その存在は彼の活躍より前に知られていた。

もっとも転生した相手までを知ることは出来なかった訳だが。


しばらくは大人しくしているだろうという読みも外れた。


正直なところ、聖団の最終兵器であるが台頭するのはこちらの想定より随分と早かった。


魔法も竜も効かないという極めて特異な特性を持つ別世界から来た魂と、この世界の魂の融合体。


自らを運命神などと名乗っているアルファズスの究極魔法にして呪い。


「死んでも、また生き変わる」という無限転生能力者。


それが彼の正体だ。

この事を知っている者はここに居る魔団の最高位神官とネザードぐらいだろう。


「石の世界からの来訪せし魂。例え、死のうが魂は砕けず在り続けるか」


この事実をおそらくあの少年は知らないだろうな。


そして運命神であるアルファズスが神託を与えて居ないので在れば、聖皇すらも知らぬ情報だ。


我々もあくまでネザードの推測による判断でしかない。


既に賢人の祝福特性による部分的転生・引継ぎには成功している。

彼らが第二段階である完全転生に成功しているのは間違いないだろう。


彼の魂は永遠にこの世界とともにある。

この世界の神に完全に隷属し、無限に使役される存在だと知ったらどうなるものかな。


最後のたった一人になるまでこの世界の為に竜と戦う存在で在り続ける覚悟があるか問うてみるのも一興か。


「完全なる魂。竜の牙の力、ラグナすら効かぬ魂との話でしたね」


「そう。そうなれば、あの男を単純に殺したとて、また直ぐに別の器に魂が転生するだけと言うことよ」


おそらく単純な存在強度という話であれば、奴は死んだ方がより強くなる。


転生した先の他者の魂と融合することでその存在容量をどんどん広げていくのだ。


皮肉な話だが、死ななくても十分すぎるほどに強いお陰でその真価は発揮させていない訳だが・・・。


「ネザードが逃げるのも良く分かるわい」


そのネザードは今、どこで何をしているのか分からない。

厄介な男だ。


敵ばかりでなく味方にすら厄を招く危険な男。

否、彼に味方など居ないのだろう。


彼にとっては魔団とて目的を同じにする協力者に過ぎないのだ。


「ユノウスという男。生きていられても困るが死なれるのも困る。まったく難儀だな」


無限転生はそれ自体が主体の目的でありながら。もう一つの目的の鍵でもある。


つまり、完全アルティネの発動の為の魂強化。

彼が何回死んで新しい魂を吸収すれば、あの魔法が完成するかは分からないがその可能性を否定も出来ない。


あの未完成魔法は。

いつか完成してしまうかもしれない。

いつまでも完成しないかもしれない。


竜の完全解消に聖団が成功すれば、魔団の勢力は大きく削がれる。


「封印処置がベストですかね」


彼の提案は生け捕って竜と同じ封因結界を使うということらしい。


「封印の3女神は聖団側だ。無限事象回帰結界による封印は不可能といえる。聖鍵を持つ聖団ならどんな封印も神唱干渉で解くことが可能だからな」


処置無しとはこのことか。

彼もまたネザード同様に厄介な男と言う事だ。


「彼を押さえるためにあの男と交渉する必要があるかもしれませんね」


「あの男。旧時代最強兵器。千神器ヴァルヴァルグか」


「彼自身は千刃王バルヴァルグと名乗っていますな」


全ての頂点に立つはずだった男。

封印大陸の覇王。


「ふむ。アルファズスと聖団が作り上げた新、旧の生物兵器を戦わせるか……。面白い嗜好だとは思うが聖鍵を持たぬ我々には封印大陸には手を出せない」


聖鍵エクス力リヴァ。

始まりの意思たる真石リアファイルを納めたる神秘の鍵。


それは封印大陸の鍵でもあり。封印されし竜の鍵でもある。

それは聖団によって厳重に保管されているのだ。


「聖鍵を持つ物が世界の皇となる。ふふ、いずれは魔皇と呼ばれてみたいものだな」




◇◇◇◇◇





ささやかな会食を終えた魔帝は幹部と別れると店を出て、霊地にある居城へ帰還するために大通りに出た。


店の外で待機していた護衛の戦士たちと歩いていく。


すると、突如として複数の男たちが魔帝たちの前に立ちふさがった。


「魔帝カリナスだな」


その容貌、装備こそ、一見してそこらの傭兵崩れのチンピラと大差ない。

しかし、その問いかけが男たちの正体をもの語っていた。

聖団の騎士たち。数は10人近い。


男、カリナスは苦笑いを浮かべた。


狙いは私の首か。


「ほぅ、この会合がばれているとは・・・」


一体どこから情報が漏れたのか。

興味深い。


しかし、ここは魔領シンバラ。地の利はこちらにある。


「こんな辺境までわざわざご足労だったな。その通り。君たちは?」


「私は聖人アクエスだ」


「同じく戦人ハッシュハルトだ」


聖人に戦人。なんともまぁ、そうそうたる顔ぶれではないか。

余程、本気と見える。


これはこちらも負けて居られないか。


「私は魔帝カリナス。名乗る必要はなかったかな?」


カリナスは自らの取り巻きに視線をやった。

促された男たちが前に一歩出る。


その一人、屈強な肉体にゆったりとしたローブ


「魔人ガオルド、9位だ」


今度は逆に背は低くほっそりとした体の少年、あるいは少女。

もう一人の小さな魔人はゆっくりと前に出た。


「魔人シロ。・・・2位」


淡々とつぶやく声からは感情は読みとれない。


「戦上鬼シロと鮮血戦車ガオルドか」


聖人の声に警戒心を込められている。


「そう」


シロが自らの獲物を取り出す。

黒き魔剣ヴィルドーラ。


その小さな背丈に似合わぬ大剣を構える。


「魔帝カリナス。我々は貴方を討ちます」


「ほぅ、面白い」


殺し合いは嫌いではない。

魔帝は笑った。


「しかし、ここは魔領。そう易くはないぞ。その使命」


「覚悟の上だ」


魔帝は男たちに向けて手を軽く振った。


「やれ、シロ。ガオルド」


「応!」


言葉と同時に突っ込んだのがガオルドだ。

彼の業は超力場を纏った突進である。


速攻防一体の突進。


至極単純でありながら強大な攻撃だ。

一撃で1000人の戦士を挽き肉にしたことから鮮血戦車の異名を持つ。



――― 超重戦車ヘビータンク



――― 16重・力場フォース


数人の騎士がとっさに力場を張る。


「無駄よ!!」


突進は止まらず三人の騎士の上半身は吹き飛んだ。

しかし、二人の騎士が横に飛んで逃げた。


「ふはは!!」


彼はそのままの勢いで大地を叩く。



―――  超轟石射ロックブラスト



ガオルドの一撃に路面を舗装していた石が砕けて、周囲にすさまじい勢いで飛び散った。

それを受けて、難を逃れた騎士二人が蜂の巣になる。


「町を壊すな。斬るぞ」


シロが不満げな声を上げる。


「はは!俺が斬れるかよ!・・ん?」


その瞬間、ガオルドはとっさに首を動かした。



―――  次元抜刀・閃斬フラッシュブレイド


ハジャの光がガオルドの首を切り裂いた。


「お?お?」


ガオルドは吹き出す血を押さえながら前を見た。


聖人が剣をこちらに抜いて構えている。


奇妙なことに聖人が抜いた剣には刀身がない。


伸長剣ロングスラストをよけたか!」


聖人が柄のみを再び振りかざす。


「だめ」


一歩でシロが聖人の居る場所まで加速する。


「くっ」


聖人アクエスはシロの剣を受ける。刀身は元に戻っていた。


ガオルドは首筋の傷を押さえながら叫んだ。


「なにが起こったんだよ!くそ!!」


切り結びながらシロが答えた。


「刀身を繋げたまま飛ばした」


「その通り。我が伸長剣を良く見たな!娘」


原理はこうだ。

剣の刀身部分のみを剣に合わせて展開した転送魔法ゲートに潜らせて斬撃のみを相手にぶつける。


ゲートは世界門と同じ原理の魔法で空間同士を繋げる魔法である。

剣は繋がった空間を通って相手に当たるのだ。


つまり、剣の本体は魔法を使ったアクエスの手元に常にある状態だ。


この剣身のみにハジャを発動させるとどうなるか。

斬撃に魔法破壊を乗せつつ、自らの魔法破壊で剣を引き戻す。


刹那の一瞬だけ魔法破壊の剣刃を生み出し、斬撃という現象だけを残して消える。


次元伸長抜刀術の一。

閃斬。


「おもしろいね」


シロは目を細めると剣撃を加速させた。

シロの剣にもハジャの光が見える。

巧みな剣捌きで隙を与えない。

この密着された状態では魔法式は使えないはずだ。


「もらった」


「まだだ!!」


アクエスは剣の内側に魔法式を収束させる。

シロの持つ魔人の瞳がそれを捉える。


「剣の内部に内燃魔法式?」


「そうだ」


アクエスの持つ刀身の中に無数の神唱石をちりばめた特注品だ。

それを核に剣の内側に魔法式を起動することが出来る。


アクエスの剣が振り下ろされる。

とっさにそれを受けるべくシロの剣が阻む。


アクエスの剣が消えた。


シロはその瞬間、横から飛んでくる斬撃を感知した。


(横から!?)


とっさに身を捻って剣を避ける。

そして。


―――  次元抜刀・十字斬クロスブレイド


シロは相手の柄がこちらに向かってそのまま振り下ろされて居ることに気が付いた。

(魔法破壊の瞬間に跳ぶ!)


―――  神速アクセレータ


アクエスの剣がハジャを帯びると同時にシロの剣をすり抜けた形で剣が元の位置に戻る。

たった一撃の刹那に縦横二連の斬閃が生まれたのだ。


こっちの剣を透過した振り下ろしの斬撃。

少女はこれを強引な加速魔法で避けた。


「ほぅ、こちらの透過剣まで見抜くとはな!」


「おまえ怖い奴っ」


シロは自らの大剣に触れた。


GugGiuuuueeee!!


剣が耳障りな悲鳴を上げながら二つに裂ける。

ぐにゅぐにと音を立てて剣の形状が変わる。


双剣。


生きている魔剣ヴィルドーラがシロの求めに応じて双剣と変わった。


「おまえをきる」


「ほぅ」


アクエスは剣を構えて再び名乗った。


「次元剣の剣聖位アクエスだ」


「魔剣士シロだ」


両者が加速する。

その様子をガオルドが苦々しい顔で睨んだ。


「ちっ、俺にやらせろよ!シロ!」


「なら、私が相手してやろう」


戦人ハッシュハルトがガオルドに対峙する。


「へ!戦人かよ!おもしれえ!」


「いや、おまえにとっては面白くもあるまい」


戦人が構える。



―――  神力顕参ディーオフォルツァ



戦人の肉体に凄まじい神力が宿った。

巨大な力の発現にガオルドは笑った。


「そう言うのは俺たちにもあるぜ!!」



―――  魔神覚醒デモンファルツァ



お互いが殴り合う。

力がぶつかって。


「くそぉ!!」


「祝福者が多すぎたな」


お互いの神力の顕在。

独占的に力を振るう戦人に比べて、一柱の魔神から数十人の祝福者を出す魔人のそれでは引き出せる力の大きさに差がありすぎたのだ。


戦人の豪力に押されながらガオルドは吠えた。


「良いパワーだな!!くそ!!」


相手にとって不足なし。

ガオルドはぶちかましの後で距離を置くと得意の魔法式を唱えた。


――― 超重戦車ヘビータンク


――― 光速烈進レイロード


お互いの突進魔法式がぶつかり合う。


力場が弾けて、ガオルドは近くの民家にその巨漢を激しくぶつけた。


「どうやら、私の方がやや上のようだ」


「くはぁ・・・つえ!おもしれぇ!!」


全身を血にまみれながらガオルドは笑った。

その様子に彼らの主は苦笑した。


「やれやれ、二人とも私の守護をほっておいて楽しそうですね」


カリナスはたった今、切り刻んだ騎士たちの姿を眺めながらそう呟いた。

シロもグオルドも重度ヘビー戦闘狂バトルジャンキーだ。


我を忘れるのも仕方がない。

しかし、ガオルドの方は少々、厳しいか。


またも吹き飛ばされたガオルド。


「くそぉ、たまんねぇなぁ、おい!」


「終わりにしますか」


終わり?その言葉にガオルドが破顔した。


「ははは!!もういいだろう!魔帝さま!!あれを使ってもよお!!!」


ガオルドの言葉に魔帝は苦笑しながら言った。


「ええ、認めましょう」


「ありがとよ!!」


瞬間、彼の肉体が跳ねた。

内側から暴力的な魔力が沸き上がる。

男の全身から湯気が上がる。その両目が赤く充血する。


「これは?」


ガオルドがハッシュハルトに突進する。

お互いの躰がぶつかり合う。


「むぅ!!」


「がぁはあははは!!どうしたぁ!!せんじん!!!」


神力が宿ったハッシュハルトが押され始めた。

バカな。なんだこの力は!?


「終わりだ!!」


圧倒的な力を前にハッシュハルトの両腕が砕けた。


「くっ」


そして、次の瞬間。



何かによってガオルドの頭部が破砕した。




◇◇◇◇◇





「ほぅほぅ」


頭部の砕け散った9位の姿に魔帝は目を細めた。


「ほぅ、もう一人いたか」


この一撃はおそらく魔法式のアンチマテリアルライフルだろう。

ドラゴンバスターライフル。


どんな人物が持っているかは知らないが良い腕のようだ。

もっともこの装備で今の魔帝に当てるには相当に近づく必要があるが。


魔帝には特殊な守護があるのだ。


さっきまでアクエスと戦っていたはずのシロが剣を構えて戻ってきた。


「くる」


「ふむ」


――― 斬!!


シロは迫り来るバスターライフルの弾丸を斬った。

恐ろしい剣の力量。


あの聖団最強の剣士相手にいままで無傷というの事も頼もしい。


魔帝が前に視線を向けるとアクエスが片手をだらんと下げている。


「残念」


斬れなくて、と言うことだろうか。

シロがそう呟く。


魔帝は苦笑いを浮かべた。


どうやら彼らの計画では前線の騎士たちで牽制し、この魔帝を遠距離から狙撃する手はずだったようである。


しかし、魔帝カリナスの着ている魔神法衣グリーヌガーフの加護によってそれは阻まれたようだ。


この法衣には光を自在に操作する能力がある。


今は周囲の光を屈折させて、着ているものの姿を見えなくしているのだ。

遠距離への光の屈折のみに限定して効果を変化させているがその気になれば、完全に姿を消すことも可能だ。


神遺物による一品ものであることが悔やまれる。

それほどに強力な一品だ。


聖人たちが魔法式を起動する。


「転送陣か」


どうやら撤退するらしい。


「やれやれ、お帰りか。聖皇によろしくたのむよ」


彼らは無言で転送陣を展開する。

そして、その姿が消えた。


すると程なくして周囲に魔軍の兵士が殺到した。


「ご無事でしたか!」


魔領シンバラの守護隊長に声を掛けられて魔帝は苦笑を漏らした。


「ふむ、我が身は無事だ。もっとも同士ガオルドがやられた」


そう言って彼の死体を指す。


「む」


死体が無い・・・。

連中め。あれを回収したのか。


「いかんなぁ・・・」


どういうつもりか知らんが厄介なことになったようだ。


「申し訳ありません。巧妙な結界魔法に阻まれ・・・」


「気にするな」


こういう事は多々ある。仕方のないことだ。


「退けたとはいえ連中も中々だな」




◇◇◇◇◇





現在アリシス


次の日の朝。


「さて、どうしたものかな」


私は今後の方針を考えた。

まずエスリルの居場所を見つけないといけないと思う。

少女を説得できるかはどうかは其処しだいだろう。


どういうつもりなのか問いただす意味でも両親に会って話をしないと。

それから、フリオにもう一度会おう。


それから・・・。


「白薔薇会か」


どんな組織だか知らないが私の大切な町で随分とふざけた真似をしているようだ。


よし、一丁やってやりますか。


まずは出来ることから始めよう。


学校でフリオに再び会うことにした。

彼はいつも学校に来ているはずだから会いやすい。


授業の合間。

私が彼を呼び出すと何故か酷く傷ついた落ち込んだ顔で彼はやってきた。


「・・・なんだよ。先生」


「エスリルに会ったわ」


「・・・先生。学校には真面目に通うし、彼女とももう会わない。それで良いだろ?」


え?どういう事?


「もう彼女を助けないの??」


「あいつは自分の意思でそういう事をしてるんだ。俺にゃ止められない」


おかしい。このフリオの態度は変だ。

私は困惑しながら問うた。


「彼女の意思?」


あの子はただ傷ついてただけだ。

自棄になってた。


フリオは首を振った。


「あいつは俺が嫌いだそうだ。選ばれなかったんだよ。俺は・・・」


フリオはそう言って踵を返すと歩き出した。


どう言うことだろう。

選ばれなかった?嫌い??

フリオとエスリルに何かあったの?


そういえば、エスリルは「大切な物を傷つけた」なんて言っていたわね。


それって、どういう意味?

だめだ。情報が足りない。


しかし、彼が彼女を諦める形で問題が解決するなんて。

良かったとは言えないよね。全く。


困ったなぁ。

今のままでは説得は難しいだろうし・・・。


「日を改めるかな」


まだまだ情報が必要だ。

よし、次は両親だ。




◇◇◇◇◇




エスリルのクラスの担当教師から両親の情報を得た。


共働きでかなり忙しいみたいだ。

ただそれから契約書にある家の住所は校長の許可が出ないと見れないらしい。


エスリルの陥っている状況を考えるとすぐに家に押し掛けたい。

けれど、それは許可されなかった。


「それは駄目なのじゃ、アリシス」


「どうしてですか!オデン学校長!!」


私の言葉に学校長はしょんぼりした様子になった。


「お、おぬしまで、おでんと呼ぶのか・・・」


「生徒一人のこれからの人生に関わる問題ですよ!?」


意気込む私の言葉に学校長は首を振った。


「それは分かるがのう・・・。しかし、家に出向くと言うのはやりすぎなのじゃ」


「やりすぎではないです!一刻も早く問題を解決すべきです!」


「声無き声を聞くというのは悪くないし、ときに必要な事じゃろう。しかしのう。明確な声で無いのだとすれば自制も必要なのじゃ。お主を守る為にものぅ」


「学校長・・・」


「お主は誰に頼まれて動いておるのじゃ?良いか、そこははっきり自覚するべきなのじゃ」


「それは・・・その・・・」


悩ましい。ミミからの頼みごとは解決してしまった。

エスリルを助けたいのは自分の意志だ。


「そう、お主じゃ。お主はお主の為に動いておる。それが悪いことでは無いにしても、ならば自重は必要なのじゃ」


「・・・」


「教師という立場にそれはないのじゃ。職権の乱用どころか越権じゃ。だから、お主は教師であるお主を守る為にも出来る範囲で許される範囲で動くべきなのじゃ」


うぅ、耳が痛い状況になってしまった。

学校長の言っていることは正論だ。


教師という立場には他人の家庭をどうこうする権限は無い。

教育委員会の様な物はないし、だからこの世界の学校には生徒の家庭に積極的指導を行うような権利はないのだ。


それをやるなら、私は私人として動かなければならない。

教師の地位を使って得られる情報を私的に利用してはならない。


私が悩んだ顔をしていると学校長は苦笑しながら呟いた。


「お主が動いているという報告はロキ経由で聞いておる。明日、エスリルの不登校状態の件で両親と話す予定なのじゃ。それを待つが良い、アリシスよ」


私はこの言葉に目を見開いた。


「え?本当ですか?」


「本当じゃ、本当」


それなら両親に頼むこともできるだろう。


「ありがとうございます!」


よし、それじゃ。

次は・・・。




◇◇◇◇◇





私は夜の町で調査を再開した。

ミルカにお願いして貰った人物リストを見る。


今度は白薔薇会に接触してみようと思っていた


白薔薇会の売春営業の事実さえ確認できれば、べオルグ軍は動くことができるのだ。


白薔薇会を早急に解体してしまればいいのだ。


「うー、不気味だな」


夜のべオルググラードというものも異様な雰囲気がある。

綺麗と怖いがごちゃまぜになっているようなそんな感じ。


今日の私は変装していた。

普段着ない様な派手な服を着て、厚めに化粧をした。


この衣装を頼んだのはクラスメートのアカネさんだ。

オレエンタランドのエンタメ部門に勤めている彼女はこういう衣装の調達が得意なのだ。彼女に頼んで用意してもらった。

化粧も彼女が施してくれた。


全くの別人とまではいかないが、がらっと雰囲気を変えられたので、まぁ良いかな。


私はとある酒場に入ると酒場の客の顔を確認して回った。


この黒猫の三日月亭という酒場に居るとある男を探していた。

白薔薇会の胴元と目される男だ。


うーん、どこだろう。

私はきょろきょろと周囲を見渡す。


居ないのかな?

すると、店の奥の方から一人の道化師ピエロの男が歩いてきた。


彼は少し離れたテーブルに腰掛けると慣れた仕草で酒を注文をした。


いた。こいつだ。

常に道化師の格好でいるおかしな男。


ミルカの注意人物リストにあった道化師の男だ


私は彼の前の椅子に座った。

道化師は意外そうな顔で私を見た。


「ねぇ、白薔薇会に入りたいんだけど」


道化師はその言葉に目を細めた。


「ふふ、お嬢ちゃん。白薔薇会とは何かな?」


「おじさん。わたし、お金がほしいの」


精一杯の婀娜っぽい仕草をする。

目の前の道化師が笑った。


「ほほ、良いでしょう。花屋の場所を教えますよ」


「花屋?」


「そうです。白薔薇とは可憐な花。貴方も美しく咲き誇ると良いのです」


そういうと彼は花屋の場所を教えてくれた。


文化通り??フラム生花店??

嘘・・・、私も知っている花屋さんだ。


「ありがとう。道化師さん、良い人ね」


「ほほ、この道化師は人を喜ばせるのが仕事です故」


人を売るのがお仕事なんでしょうに・・・。


しかし、案外簡単だな。

もっと色々なチェック機構があるかと思ったが。

私は早速教えられた花屋を目指すことにした。


酒場を出て、文化通りの方角に足を向ける。


すると。


「そこの子猫ちゃん」


一瞬、どきっとする。


誰かに声を掛けられた。

声の方、後ろを振り向くと、身なりのしっかりとした老紳士が私の真後ろに立っていた。


夜の町に似つかわしくない老紳士は微笑みながら言った。


「子猫ちゃん。君のような可憐なお嬢さんがこんなところに居てはいけないよ」


私は困惑して視線を下に向けると呟いた。


「すみません。わたし、急いでいますので」


すると彼は私の腕を掴んで首を振った。


「子猫ちゃん、好奇心は大敵だ。悪いことは言わない、お家に帰りなさい」


「人を呼びますよ?」


私が思わずそう言うと彼は手を放して、苦笑した。


「十分気をつけなさい」


彼はそう告げてゆっくりと立ち去った。


え、えーっと?

今の人は誰なのだろう?




◇◇◇◇◇





私は花屋を目指した。

あった、フラム生花店!


もう深夜だというのに店には灯りがあった。


「すみません」


私が店の中に声をかけるとやや太り気味の店主が出てきた。


「いらっしゃい!どんな花が御用で?」


私は単刀直入に尋ねた。


「白いバラはあって?」


するとその言葉に男は急に下世話な表情に変えて言った。


「おいおい、お嬢ちゃんが花を買うのかい?そういう趣味の子も居るだろうけど」


ど、どういう意味よ!


「ちがうわ。私、おかねがほしい!」


「ああ、なんだそっちか。びっくりしたぜ」


商人は妙にフランクな口調に変わった。


「へーあんたがねぇ。ほーほー」


私の全身を舐めまわすように見る。


「な、なによ」


「いやいや、是非お客様になりたいなぁと思ってねぇ・・・」


お客って、つまり。

私は想像して身が強張るのを自覚した。


「貴方も買うの?」


「はは、そんな金はねぇなぁ。でも、良い女だとねぇ・・・」


気持ち悪い男だ。


「まぁ、テストは必要だからな。これに手をおきな」


テスト。やっぱりそういうのがあるのか。

私は男が取り出したものを見た。


さて、どうする。


男が取り出した玉を見てその中にある魔法式を読み取る。



――― 内燃魔法式 識魔マナサイト



私は魔人では無いが瞳の中に展開した魔法式で魔法式を読むことができる。

男の周囲に残滓するマナから魔法の使用頻度も分かる


この手の技術はユノウス・オーディン・ユシャンの魔法学士の大家による5年の研究で発明された新技術だ。


男には魔法の使用形跡が存在しない。

ならば、私は別の魔法式を瞳に宿した。


合わせてもう一つの内燃魔法式を起動する


――― 過去視ワンスサイト


過去の情報を得る極めて特殊な魔法だ。

世界最古の神、ウルドを用いる禁呪の一種。


私の脳裏に過去情報が再演する。


玉の変化を読み取る。


「分かったわ」


――内燃魔法式 静声サイレントボイス


―――静音式魔法詠唱サイレント幻視イニシエーション


詠唱とは言葉にてマナに魔法の「シキ」を与える技術にすぎない。

「シキ」とは式にして識なるもの、そして志気である。


人が意思を発するとき、祈りの欠片たるマナはそれに応える。

その際に発する呪において、音はあくまで付随するもので、音は必要ないのだ。

音なき言葉を魔法式にするもの、それが静音式魔法詠唱だ


「質問するぞ。まずは貴方はユノウス商会と関係があるか」


「ありません」


男は玉の様子を確認した。


「ふむ、黄色か」


私の目には赤色になっている。幻視魔法の効果で男の目が騙させているのだ。


「次は・・・」


男の質問が続く。

その度に玉の色を確認する。


つまり、これは嘘を発見するための機械なのだろう。


「良いぞ」


「ありがとうございます」


私はにっこりとほほ笑むと玉から手を離した。


「それじゃ、さっそく配達の仕事をして貰おうか」


「配達ですか?」


「そうだ。指定のない花の注文があったんだがまだ新しい花が来なくてね」


花が娼婦の隠語なのだろう。


「あの、お金ってどうやって貰えるの?」


「はは、そうだな。それの話をしないとな」


そういうと男は花束を差し出した。


「ところであんた、名前は?」


「本名じゃないと駄目なの?」


「いや」


「じゃ、エリスでお願い」


そういうと彼は花を指して言った。


「それじゃ、この花の名前はエリスだ」


「それをお客さんが買うと売買が成立するの?」


「そうだ。この包装紙に客とのコンタクトの方法が書いてある」


この男が仲介人か。

相場は幾らだろうか。


「で、私の取り分はどうやって貰えるの?」


「慌てるなよ。お客から金を受けると俺はこの花を生えている国に再注文する。その国の男を経由してお金を受け取れる仕組みさ」


なるほど。

世界門を利用して海外で資金を得るのか。

方法が分かったけれど、難問ね。

国外経由か。


みんなの為の技術をこういう風に悪用をさせると苦々しく思う。


「どこの国に行けばいいの?」


「いろいろあるが今回は西のデルジンだ」


「ねぇ、これって危険はないの?」


「安心しろ。デルジンでは未成年娼婦も合法だ。べオルググラード軍とデルジン軍の協定もない。国外ではバレれても罪には問えない」


なるほど。

嫌な気分だが他国の法律だと合法なのだろう。


そういえば、デルジンには有名な高級娼婦街がある。


世界門を使えば、わざわざべオルググラードで商売をする必要もないだろうし。

ただデルジンへの世界門は日に1、2回程度だ。

不便があるから商売が成立するのか。


臭いものは外に吐き出せば良いのか。


(違うでしょう)


でも、きっとどうにもできないものはあるのだ。

それは私の手の届かないところにあるものだ。


それでも、私は私の手の届く範囲の事は守るわ。

もう諦めたり、逃げたりしないの。


「それじゃ、行くわね」


私はそう言ってお店を抜け出した。


歩きながら花を包む包装紙を開く。


「ここに客がいるのね」


どうしたものか。

会って話を聞いた方が良いかしら?

一先ず、どういう方法で客や娼婦を集めているか聞いてみるのも良いだろう。


私は再び別の酒場に向かって歩いた。

銀の月夜亭。ここよね。


「貴方がソングさんね」


「お、おお!!こんな美少女が!うしぃ!うしゃぁ!」


私を見たソングさんがそんな気勢を発している。


「あの、ちょっとお話したいんだけど」


「わ、分かっているよ。いいよ、ここじゃ場所が悪いよね」


そう言ってソングさんはさっさと歩き始めた。


「あの本当に話だけで良いんですけど」


「大丈夫!大丈夫!!」


何が大丈夫なの?全然話を聞いていない様子のソングさん。

ここって、ホテル?


平屋の部屋に鍵を開けて入っていく。


う、帰ろうかな・・・。


仕方無い。私は意を決して中に入る。


「さぁあ、話は置いといて脱ごうか」


「あの・・・何か勘違いしてないですか?」


「大丈夫!何も緊張する必要は!無いんだ!」


緊張してるのは貴方です。


駄目だ。話が通じない。

すると、突如、目の前の男が下を脱いだ。

私は思わず目が点になる。


アレが露出している。


初めて見た。


ギンギンに猛り勃つイチモツに硬直する。


え、そこって、こ、こんな風になるの??

ちょっと!気持ち悪いよ!

私は思わず視線を外した。


「やめてください!」


「さぁ、さぁ、脱ごうか!そうだ!脱がしてあげる!!」


突然、襲い掛かって来る。

しまった。視線を外していたので一瞬反応が遅れる。

男の手が私を掴んだ。


魔法式でも用意して置くんだった。


どうする。

たかが一般人に組み伏せられるようなやわな鍛え方はしていない。

殴り倒してやろうかな。


さすがにむっとした私は男を睨みつける。


すると。


「はぁはぁはぁ最高だ。最高だ」


・・・。

な、何をしているの??

う、うぅ。


ギンギンな瞳で何を一心不乱に上下にシゴいている男の姿が見えた。

完全に目が逝っている。


そもそも何をしているのよ!いや!もう!!


「げ、幻視魔法?」


「そうだな」


その声に私は横を向いた。

にっこりと笑う老紳士がいた。

どこから現れたの?気配すら感じずに突然現れた老紳士に完全に混乱する。


でも、こんなことする人って。

まさか・・・。


「ユノウスなの?」


「ああ、そうだ」


そう言って彼は擬態魔法を解く。

良かった。ユノウスだ・・・。

私はその場にぺたんと座り込んだ。


なんでまたそんな姿で・・・。


「驚かさないでよ・・・」


「僕じゃなかったらどうするつもりだったんだよ。アリシス」


「それは・・・その・・・」


「あんまり無茶はするな。一生懸命になるのも分かるが」


ユノウスが呆れたような顔でそう呟く。

私は不満気に呟いた。


「姿を変えてつけてたの?いじわる・・・」


「僕が元の姿でうろつくといろいろと問題があるだろ」


それでそんな老紳士の姿に?

逆に不審だったけど。


「ミルカが心配していたぞ」


「うん。ごめんなさい」


「まぁ、良い情報が手に入ったな」


「そう?」


「ああ、後は僕たちに任せておけ」


白薔薇会の摘発と排除に動くという事だろう。

私はユノウスに向き合うと尋ねた。


「エスリルを助けてくれるの?」


「悪いようにはしないさ」


その言葉に私は首を振った


「ダメよ。あの子には無いの」


今のままじゃ立ち直れない。


「そうか。わかった。でもあまり無茶はするな」


私は頷く。

そして、ふと不安になって呟いた。


「あ、あのね。私のやっていることって余計なのかな?」


「そんなことはないよ」


「でも・・・」


きっと余計な事をしている。わがままを言っている。

自覚はあるのだ。それでも動かないと変えられないものがあるし守れないものがあると思う。


「エスリルのことを救う意図は軍にはないよ。彼女も犯罪組織の一員として扱われるかもしれない」


「うん」


「僕の立っている場所には弱い小さな声は届かないんだ」


彼はどこか寂しそうに呟いた。


「ユノウス?」


彼は苦笑いを浮かべると軽く私の頭を撫でた。


「僕の代わりに君たちが聞いてくれると助かる。それで、時々で良いから僕に教えてくれよ」


「うん、がんばる」


「無茶はするなと言ったが、好きにやっていいさ。いざとなったら、僕が守ってやるよ」


「ありがとう」


彼はそう言うと手を振りながら去っていった。

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