新しい始まりのお話(後)
午後の授業。
特校の上級生は2クラスに分かれており、午前授業組が午後はそれぞれの勤務をし、午後授業組が午前中に仕事をしてくる。
放課後は日によって、まちまちだ。
私とシエラはユリアのやってきた宿題を写していた。
「まるまる写したら分かっちゃうから適当にアレンジしてね」
「わかった」
しかし、何でロキ先生の授業ってこんなのなんだろう。
論理・哲学っていうらしいけど・・・。
えーと。
悪魔の証明について述べよ?
意味が分からない。
どうやら、ユフィは急患の対応で遅れてくるそうだ。
しばらくして、先生がやってきた。
間に合った!ぎりぎりだった!
「ぴょんぴょん、みんな宿題やってきたぴょん?」
何人かが顔を背ける。
すると。
ひとりが勢い良く手を挙げた。
「忘れてきました!!」
アデルさん。なんて良い笑顔・・・。
「踏み台志願ぴょんぴょん♪」
「おっしゃーーーぁああ」
そ、それで良いの?アデルさん。
「さ、さすがアデルさんだ。そこに痺れる憧れるっす!」
「さすがだ」
えっ。今の行動のどこに賞賛する要素があったのだろう。
シェイドがそう呟いているのを聞いたシエラが呆れた顔をした。
「馬鹿兄、最低。・・・なに?ウォードくん?」
「ぼ、ぼくはべつに・・・」
シエラが自分の兄と恋人のウォードに冷たい視線を送っている。
この二人は付き合っているのだ。
シエラとウォード、この二人がつきあい始めてもう一年か・・・。
いいなぁ。羨ましいなぁ。
私の隣の席のアカネさんが笑顔で青筋を立てている。
こ、怖いから。
ロキ先生は何のためらいもなくミニスカートで四つん這いになったアデルさんの背中に乗った。
「集中しろ!集中だ!全神経を背中に集中!!」
いや、授業に集中しようよ。アデルさん・・・。
「ソファがうるさいぴょん」
ロキ先生が人間ソファ(アデルさん)の上で跳ねる。
「あぅおぅ良い、おけぇえぇ!」
「こいつ、キモいぴょん。みんなのプリントは後ろから回収するぴょん」
ロキ先生は集まった用紙を確認する。
「みんな、悪魔の証明は分かるぴょん?」
ユリアが手を挙げて説明する。
「ある事例について、全く無かったという事を証明することが不可能に近いということの比喩的引用ですよね」
悪魔の証明ってもともとは所有物返還訴権における権利推定に対する反対の証明についての困難さを差す言葉だったはず。
だったよね?
「そうだぴょん」
ロキ先生は何故が意地悪そうな顔で言った。
「それじゃあ、悪魔の証明の対義はなんだぴょん」
対義?
「ある事例について、あったという事を証明することですか?」
「違うぴょん」
違うの?
「悪魔の証明は推定無実を実質認めないという論証姿勢のことだぴょん」
「つまり、無かったということをいくら推定してもすべて証明されるまで無かったという事実を認めないと言うことですよね」
「そうだぴょん」
その言葉にユリアは呟いた。
「それじゃ、逆は推定有実を実質認めないこと。それと推定無実を認めることですね」
「違うぴょん」
え、ちがうんだ。
「えーと。もしかして悪魔の証明の対義はないということですか?」
そういうとロキはにこにこと笑って言った。
「そうだぴょん。そんなものの定義はないんだぴょん」
「私の言ったことは間違いですか?」
「間違いと違いは別だぴょん。悪魔の証明は検証の方法論であって、単純な定義を持つ言葉じゃないぴょん。悪魔の証明は証明が困難なだけでそれを試みることは、証拠主義に反しないぴょん。むしろ、悪魔の証明は証拠主義を補完する立場にあるぴょん」
確かに真実を解き明かす方法論ひとつという意味では重要だろうなぁ。
その困難性から下策とされているに過ぎないだけし、試みる事自体は有意義だろう。
「なるほど」
「まして、この世界には魔法があるぴょん。悪魔の証明は不可能では無いが為に証拠主義より強力な証明能力があると言えるぴょん」
悪魔の証明が可能?魔法があるから?
どうなのだろう。
魔法を用いれば、通常の検証とはレベルの違うの証明になる。
広域探知、記憶の探知、光収束魔法を使った過去情報の再現、嘘の探知、法神契約による偽証の消去。
それらからくる検証結果は確かに悪魔の証明に迫る検証になるはずだ。
「むしろ、証拠の偽装は容易だぴょん。証明が強度を持つには悪魔の証明がもっとも有効だぴょん。ただし、悪魔の証明は否定的可能性の全排除、あくまで間接証明なんだぴょん。直接証拠にはならないぴょん。仮に直接証拠と間接証明が為された場合どういう事だと言えるぴょん?」
「完全論証ですか」
「そうだぴょん。ただし、結局それでも、ヒューマンエラーや認識の限界を含むのだぴょん。論証として完璧でも証明者側の不備を付くことは可能だぴょん。偽装は可能だぴょん。しかし、立証された場合の反証は極めて難しいぴょん」
うーん。
一見して完璧なロジックに見えてしまうと言うことは非常に厄介であるということかな?
分からないなぁ。
魔法のせいで証拠が証拠に成りにくいということかな?
「これが魔法証明における天使と悪魔だぴょん」
◇◇◇◇◇
意味の良く分からなかったロキ先生の授業が終わった。
相変わらず結論の出ない授業だなぁ。
哲学とか、そう言う物らしいけど。
要は魔法世界における証拠主義の危うさを説明する内容だったようだ。
私は数学とか物理が好きだし、考えてみると答えの無い物は苦手なのかも。
「あー、今、帰還したです」
そう言って、ユフィが教室に戻ってきた。
心なしか疲労の色が濃いような気がする。
「お帰り・・・ってもう授業全部終わりだけど」
「今日は急患が多かったですの。熱中症とか」
ご苦労様です。
「ねぇねぇ、放課後はみんなで買い物に行こうよ!」
ミルカの提案に私は頷いた。
参加する人間を募る。
「カリンはどうする?」
「そうだな。今日は午後練無いし、行くか」
カリンは体育教師として働いている。
「エストさんはどうですか?」
「ああ、行こう」
カリンやエストさんも参加と。
「私も絶対にいくよ!」
「まぁ、リリカが行くなら」
女子陣はみんな参加と。
よし、どこに行こうかな。
「どこに行く?」
「文化通りで良いんじゃない?」
最近新しく出来た学生商店街の名前が出る。
そうだね。色々なお店があるからみんなで行くなら、丁度良い。
「買い物、終わったら餡蜜亭アリカ」
「わぉ、サービスするよー!」
よし。
買い物が終わったら、リリカ・エリカ姉妹が経営する甘味処に行くと。
いつものコースだね。
「何買う?」
「夏ですし、水着はどうでしょう」
水着。
つまり、海に泳ぎにいくのかぁ。
ユノウス商会が開発した海辺のリゾート地でリッチにバカンス。
うん、凄く良い。
でも、さすがにリゾート地でバカンスは私の俸給じゃぜんぜん届かないかも・・・。
「水着ですか」
そう言えば・・・。
私はユノウスとの会話を思いだし、みんなに報告した。
「ユノウスが夏には休み取るって言ってたよ」
「じゃ、海ですね」
海。ユノウスと一緒。
想像して顔が赤くなってきた。
水着とか難易度高い。
こんなだからシエラにおこちゃまと言われるのだろうけど・・・。
「そうだ!そういうことなら聞かないといけませんね!」
ユリアがそう言って手を叩く。
私たちの会話を聞いて、何かを思いついたらしい。
ユリアは懐から通信機を取り出した。
一応、クラスメートは全員、ユノウスから掲示板魔法機能付きの通信機を送られている。
私はかなり気後れがあって、ユノウスに電話したこと無いけれど。
「あ、ユノウスさん。ユリアです。いえ、緊急の案件ではありませんよ。実はみんなで町に買い物に出かけるんです。それで水着を買うんですけど、布面積の限りなく少ない水着と白くて透ける水着のどっちの方が好みですか?」
い、一体、な、なにを聞いているの、ユリア!?
「はい、はー、なるほど」
ど、どう答えたの?ユノウス??
私の前で通信を終えたユリアが通信機をポケットにしまった。
すると、ユフィが軽く肩を怒らせて言った。
「おい、ビッチ。てめぇの通信機を壊すから寄越すです!」
「あら、嫌ですよ、ユフィ」
捕まえようとするユフィと逃げるユリア。
これも、まぁ、いつもの構図なんですけど。
「それで、パパはなんて?」
ミルカも気になったのか、そう尋ねた。
「ええ、どっちも大歓迎だそうです」
ゆ、ゆの・・・。
す、すけすけの水着なんて無理だよ!!
「それじゃ、みんなであぶなくていけない水着を買いに行きましょう」
そ、それはちょっと・・・。
「てめぇには水着なんて上等な物はいらないのです!私が白いペンキでボディーペイントしてやるです!」
「それ、名案!」
「このやろー!!」
すると私たちの会話に反応した男子陣が吠えた。
「いけない水着だと!?是非、俺たちも連れて行ってくれ!!」
「そうっす!」「頼む!まじ頼む」
意気込む男子に私は一歩後ずさった。
「スケベがうるさいです」
「あら、いけない水着が見たいなんて、どスケベさんですね」
「ボディーペイントに言われたくないわ!」
それは私もそう思うかも・・・。
男子陣は悔しそうに地団駄を踏み、叫んだ。
「ちくしょう!ユノウスばっかり良い目に合うなんて!神様俺たちにも女体を恵んでくれ!!」
「まったくっす!」「にょ・た・い!にょ・た・い!!」
ごめんなさい。本当に意味が分からない。
なんで私たちの前で女体コールとかするのかな・・・。
どん引きです。
どうして、このクラスの男子はこんなひとばかりなのかな。
ほんとよく分からない。
一応、特待生なんだよね・・・。
「みんな、帰ろう」
「うん」
きっと気にしたら負けなんだ。
私たちは気を取り直し、鞄を持つと学校を出た。
◇◇◇◇◇
私が初めて学校に来たあの日からもう5年の年月が経っている。
周りの様子も随分と様変わりした。
今は市街地と学生街を繋ぐ路面電車が通っていて、学校の数も5個まで増えた。
現状、教師の数が足りてない様だけれど、学びやの規模はかなり大きくなった。
最近出来た文化通りには様々な小さなショップが立ち並んでいる。
土地はユノウス商会の所有らしいけどここは小さな店のオーナーに優先的に貸し出されているのだそうだ。
ちょっと変わった商店街という感じだ。
その中に可愛らしい水着のショップがあった。
「わぁ、これ可愛い」
私は飾られた可愛いピンク色のセパレートの水着を見てそう呟いた。
さっそく、値札を確認する。
「・・・。次をさがそう」
はぁ、桁が一つ小さければ、十分いけたんだけど。
これ買ったら当分、パンのミミしか食べられない・・・。
いくら教師の仕事をしていても、王宮からの仕送りを断って一人で自炊までしている身の上です。
仕送りを断った理由はいくつかある。
一つに自分のわがままで新しい学院に行くのだからということ。
もう一つに自立した一人の人間になりたかったから・・・。
・・・かな。
うん。私は私のいる場所を自分で決めたんだ。
だから、全部私で決めて生きていく。
今はその生活が楽しいし、満足している。
だから、貧乏と言うほどでも無いけど、贅沢は敵です。
「意外に悩みますね」
「どれ着ても一緒です!」
「あら、ありがとう」
「全部似合うとかいう意味じゃないです!!」
しかし、本当にどれを選ぼう。
ミルカが真剣な顔で物色しているビキニエリアは見ないようにする。
発育の良いミルカがアレ着ると私は本気で霞むなぁ。
私は普通くらいだけど、あの子はわりと大きい。
「本気でどうしよう」
「そのお悩み、儂様に任せるのじゃ!!」
そ、その声は!
私は声のした方を向いた。
「オーディン学校長!?」
ええ?
どうしてこんなところにいるの?
「ふふ、放課後の学生の実態調査なのじゃ!」
そう言って胸を張る少女。
ユフィがその姿を見て呟いた。
「オデンがサボってるです。にいさまに報告しよっ」
「やめるのじゃ!やめてくれなのじゃ!!」
ユフィに平伏懇願する学校長。
駄目だ。なんの威厳もないよ、この神様・・・。
しかし、うん。
放課後から、数十分の時間で学校での事務仕事が終わっている訳がないと思うし、間違いなくさぼりだ。
さぼりは良くない。
ユフィは半眼でその様子を見ながら言い放った。
「もう送ったのです」
「ひどいのじゃ!あああ、折檻されるのじゃー!ぎゃぁああ!!」
学校長が頭を抱えてぷるぷる震えだした。
え?なんでそんなに怯えているの?
そ、そんなに酷いこと、ユノウスはしないよ?
ね?大丈夫だよ?
・・・たぶん。
「・・・まぁ、過ぎたことはしょうがないのじゃ!」
「切り替え早いですね」
「過去を引きずって、くよくよ考えていては駄目なのじゃ!見るべきは未来!!」
「折檻はこれから来る未来では?」
・・・。
「明日なんて来なくて良いのじゃ・・・」
「一気に後ろ向きになりましたね・・・」
「うぅ」
本気で落ち込んでいる学校長。
そんなにユノウスの折檻(?)が怖いのかな・・・。
見かねたユリアがユフィに尋ねた。
「で、本当に送ったの?ユフィ?」
「・・・オデンのことなんて送ってもにいさまの迷惑ですし」
あ、どうやら送ったのは嘘だったみたい。
良かったね。学校長。
「あ”り”がどう”ござい”ま”ずぅ」
「お礼は良いのです!泣くな!寄るな!鬱陶しいです!!」
すると、助かった学校長は笑顔で言い放った。
「と言うわけで全力で遊ぶのじゃ!!きゃほーい!」
「こ、こいつ・・・」
ユフィが愕然とした顔で、はしゃぐ学校長を見ている。
切り替えの早すぎる学校長はみんなに向かって言った。
「見逃して貰ったお礼にここは儂様が奢るのじゃ!賄賂なのじゃ!!」
ええ!いいの!?
それじゃ、さっきの・・・。
「じゃ、全部買うです」
「じゃ、全部買いましょう」
「全部ください!」
「ひとり一個なのじゃ!!おまえら鬼なのじゃ!!!」
み、みんな、さすがだなぁ・・・。
◇◇◇◇◇
私は最初に見つけて気になっていた水着を購入した。
えへへ。ちょっとどきどきしている。
良い買い物したーって気分。
気前の良い学校長に感謝しないと。
買い物を終えた私が周囲を見ていると落ち込んだ様子のミーナさんが見えた。
どうしたのだろう。
私はミーナさんの姿を見て、声を掛けるのを止めた。
み、みーなさん・・・。
「うぅ・・・」
ミーナさんはビキニを試着していた。
で、でも、こ、これは。
「むぅ、ビキニがまるで梱包紐のようじゃ」
いつの間にか横に立っていた学校長がそう呟く。
こ、梱包紐。あんまりだよ。
でも、確かにミーナさんの胸に掛かったそれはただの紐にしか見えない。
見えないけど、乙女にそんなことを。
「うぅ・・・む、胸が無いことがこんなにつらいなんて・・・」
ミーナさんは、そ、その、スレンダーな体型なのでビキニはちょっと。
あの。どう声を掛けるべきなのだろうか。
えーと。
「ふむ、幼児体型にビキニはないのじゃ」
「いやぁあああああ」
「そ、そんなにはっきりいっちゃだめ!」
「うぅ、どうして、みんなすくすく成長したのに私だけぜんぜん成長しなかったの!?気づいたら逆転ロリだなんて!酷いよぉ、神様」
泣き叫び震えるミーナさん。
可哀相というよりちょっと可愛い。
まぁ、成長が遅いのはエルフさんだからだろうけど。
それにしてもこの6年でほとんど成長しなかったと言うことは、もうあんまり成長しないんだろうな・・・。
「安心するのじゃ!貧乳はステータスなのじゃ!」
そして、良く分からない事を呟く神様。
確かに酷い神様だなぁ。
「やめてぇ、うぅ」
私は漸く声を掛けた。
「ミーナさん。ビキニはやめましょう。それは着る人を選びます」
「うぅ、でもぉ」
しかし、ミーナさん。
どうして、こんな無謀な挑戦をしたのだろう。
この悲しい結果は見えていただろうに・・・。
「ミーナさん、どうして、こんなものに手を出したんですか?」
ミーナさんは泣きながら呟いた。
「私、キャラが薄いと思うんです・・・。自己表現が苦手と言うか・・・どうしたら良いのか本当、分からなくて・・・このままじゃ、彼にも忘れられそうで・・・でも、必死になると空回るし・・・」
ああ、なんか本当に深刻な悩み相談が来た。
重いよう。重すぎるよ。
こういうの私の立場からコメントしづらいし。
ど、どうしてこうなった??
「ふふ、儂様に任せるのじゃ!!」
ああ、どう考えても頼りにならない神様が話に乗ってきた。
ミーナさんを守らないと!
「本当ですか!ありがとう!神様!」
「任せるのじゃ!儂様の完璧な叡智に掛かれば、おちゃのこさいさいなのじゃ!」
ああ、そんなに簡単に信じちゃ駄目だよ!
この学校長、いつも適当なんだから!
「これを着るのじゃ!!」
学校長の示した、それは・・・。
・・・なに?これ?
「これが由緒正しき乙女のセイントクロス!スクール水着なのじゃ!!しかも白スクなのじゃ!!」
え?なにこれ?
「スクール水着?」
「そうじゃ!!これを着るのじゃ、ミーナよ!」
「え、着ないと駄目ですか?」
「着ないと駄目なのじゃ!」
着たら駄目だと思う。
しかし、ミーナはそれを持って、試着室に入っていった。
ミーナさん・・・。頑張るなぁ・・・。
姿を表したミーナさんを見て私は思った。
うん、まぁ、ビキニよりは遙かにマシだ。
「そしてこれをつけてこれを持つのじゃ!」
そう言って、ミーナさんにオーディン学校長は赤いランドセルとリコーダー笛を手渡す。
あれ、低学年の子の授業機材だよね。
あんまり一般的じゃないんだけど。
それを身につけたミーナさん。
これって・・・。
「完璧じゃ!!」
「ほ、ほんとうに?ほんとうに大丈夫かな?」
「そんな縋るような目で見ないでください、ミーナさん。あの・・・」
「あの・・・?」
「ぜんぜん駄目だと思います。それはアウトです!!」
「儂様の萌道が導き出した答えじゃぞ!きっと、主人様もメロメロなのじゃー!!」
こんな姿にメロメロなユノウスとか想像できないよ。
もし、本当にメロメロならどうしよう・・・。
わ、わたしも着ようかな・・・。
だ、駄目だ。
混乱してきた・・・。
「ふふ、この見事な出来映えをユノウスにも見て貰うのじゃ!」
そう言って、学校長は何かの魔法を唱えた。
「ええ!?や、やめてぇ」
「送ったのじゃ!」
ちょ、待ってよ!酷い。
すると、ぴぃぴぃという音が聞こえてきた。
あ、通信機の音だ。
「早速、反応があったようじゃのう!」
オーディン学校長の通信機に返信が届いたようだ。
どうやら「シェア」での文章のようだ。
ユノウスがどんな反応をしたのか気になって、私は学校長の通信機を横から覗き見る。
――『オデン、さぼって何をしている?後で吐く血がなくなるまで腹を殴ってやるから覚悟しておけよ』
「!?」
ユノウスのメールを受け、真っ青な顔でオーディンさんがびくびくしている。
メールの文面からも強烈な怒りが溢れてくる。
どうやら、今回のおふざけ+さぼりがユノウスの逆鱗に触れたらしい。
というか自分からさぼりをばらしちゃったよ。
大丈夫なの、この叡智神・・・。
「だ、だだだいじょうぶなのじゃ!!儂様はいくら殴られたって血は吐かんのじゃ!!」
それだと、吐くまで延々と殴られそう・・・。
「そそそそうじゃ!!良い手を思いついたのじゃ!!」
どんな手やら。
「サモン!!」
オーディンが何かを呼び出す。
やたらデカい。これは?
「竜撃砲?」
「そうです!私のお仕事道具です!」
心なしか嬉しそうなミーナさん。
ミーナさん狙撃好きだもんなぁ。一種のトリガーハッピーなのだろうか。
そうだ。
ミーナさんが落ち込んだら、それとなく狙撃銃の話を振れば、たぶん大丈夫だよね。
ミーナさんの返答がマニアックで理解不能に成るのが欠点だけど、銃の話をすれば、ミーナさん凄く元気になるし!
・・・駄目だ。なんの解決にもならない。
「このベストを着て、この銃を構えるのじゃ!」
「え、わ、分かりました」
スク水の上からベストを着て銃を構えるミーナさん。
またマニアックな・・・。
「そして、この文を添えて転送じゃ!」
どの画像を呪文で送る学校長。
通信機で文も併せて送るみたいだ。
私はまた横から送信文を見た。
―――『パ○ツじゃないから恥ずかしくないもん!』
・・・?
どういう意味?
「返信がきたのじゃ!!」
―――『パ○ツじゃないならしかたないにゃあ』
「許されたのじゃ!!」
「ええ!?どうして!?」
今のやりとりのどこに許される要素があったの?
分からないよ!ユノウス!?
「助かったのじゃー、良かったのじゃー」
喜びを爆発させる学校長の横で申し訳なさそうな顔でミーナさんが呟いた。
「あのー、私、どうすれば、良いのですか?」
どうしよう・・・。
うーん。あー。
「もう、その水着でいいんじゃないですか?」
一応、似合ってはいるのだ。
それが良いことには何故か思えないけど・・・。
「そ、そうですか。まぁ、ビキニよりは良いですよね・・・」
何かに負けた気がするけど、まぁ良いか。
ミーナさんは白いスクール水着を選んだ。
こうして、私たちの水着選びは終わったのだった・・・。