新しい始まりのお話(前)
男は広場にある世界門を目指して歩いた。
広場に着くと人の群が見えた。行商の男はごった返す待機列を見て、溜め息を吐いた。
出来れば、今直ぐにべオルググラードに飛びたいが、中々そうも行かないようだ。
設置された世界門の数は国や地域によってまちまちだが、この広場には二つの世界門があるようだ。
それぞれ世界門の接続は時間帯で切り替わり、別の世界門と繋がる。
この広場にも複数の世界門で空間を繋ぐ世界門調整魔法施士がいるはずだ。
彼らは難易度の高いために使い手の少ない高位魔法であるテレポートは使えなくても、特殊な訓練によって、この世界門を起動できるのだ。
世界門は空間のチャネリングさえ出来れば、世界門に組み込まれた高度魔法式の補助を借りて、空間を繋げる事ができるらしい。
今の時間はどこに繋がっているのか?
男の行き先は今や世界の中心と言って過言では無い大都市べオルググラードだ。
男は列の整理をしている職員に尋ねた。
「すみません。べオルググラードに行きたいのですが」
「べオルググラード行きのポイントチェンジは7時だよ」
男は小さく悲鳴を上げた。
「ええ、二時間もある。今は?」
「エルヴァン国大公領」
むぅ、エルヴァン国大公領にはべオルグラードに常時繋がった世界門があるはずだ。
経由すれば、チケット代は倍だがすぐに行けるな。
懐具合を考える。
路上を歩くより圧倒的に安く、早く、信頼性が高いと言ってもチケット代も馬鹿にはならない。
いや、主婦がちょっと買い物に使ったりするレベルのお値段ではあるのだが。
しかし、男にとってはそう馬鹿にできない。
チケット代、二倍・・・ちょっと無理かな・・・。
「もう片方は?」
「東のヴィシャロ国だ。こっちは一時間後にオースポイントに切り替わる」
どこだよ。その田舎は。
行商の男はそう思いながら、がっくりしながら腰を落とした。
ああ、谷間にはまったか。
ワープポイントの切り替えタイミングに引っかかると目的まで何時間も待たされる。
只、それだって歩いて行けば、一ヶ月の道を数時間待つだけだ。
「お知らせします。技士交代に伴い、30分のクールタイムを設けます。列の皆様には大変ご迷惑おかけしますが暫くお待ちください。繰り返します・・・」
クールタイムか。
見れば、魔法使いと思われる一団が談笑しながら出て行く。
今日の割り当て時間が終わったのだろう。
すると交代した別の魔法使いたちが世界門が起動した。
「起動魔法式、安定です。計器異常なし、エルヴァン国大公領からの接続確認。相互接続状態・確保」
「了解。試験開通試験行います」
「了解、荷物の転移開始します」
「エルヴァン国大公領からの返品確認。異常なし」
どうやら荷物を使った世界門の正常起動確認を行っているようだ。
世界門の各種通常点検が終わるまで、あとどれくらいかな。
まぁ、まだアクセスポイントの切り替え時間では無いから関係ないか。
すると、そこにタンカーが運ばれた来た。
ユノウス商会救急医療士とかかれた腕章が見える。
俺はこっそり運ばれて来た患者の様子を確認した。
うわ、足が千切れている。
何の事故かは分からないが意識が持っただけ幸いだろう。
「急患だ。スクランブル回線でべオルググラード病院前に接続してくれ!!」
「了解」
通信機からスクランブルをかける。
世界門を開通するには、まず通信機で繋げる相手とコンタクトを取り、同調しないといけない。
その上で両方から空間同調を掛けないと安定しないのだ。
そういう意味で言えば、単身テレポートより不便ではあるのだろう。
「はい、こちらは中央情報管理局。担当のミルカです」
「こちらに病院前、世界門のパスを繋いでください」
「はい、接続は今からマルマルサンからマルマルゴです」
「了解!」
おお、どうやら、べオルググラード病院ポイントへスクランブルで飛ばすらしい。
俺はさっき話した職員に近づくとお願いした。
「なぁ、彼とべオルググラードへ一緒に行けないか?」
「すみません!無理です」
ああ、ですよねぇ。
はぁ・・・・・・。
◇◇◇◇◇
「スクランブル。アクセスポイントへの接続を開始」
私は世界門のアクセスポイントを切り替えた。
中央情報管理局。
ここはべオルグ軍およびべオルグ商会の心臓部だ。
私は学校に通う傍ら、ここのオペレーター兼第一級情報管理技師として働いている。
戦う力の無い、さして頭の出来も良くない私がみんなの役に立つならここが一番だったのだ。
丁度、慧眼のレアスキルを持っていたことだし。
ここは室長のロキさん以下、数十名の非常に少数の人間によって管理・運営されている。
ここでの情報は基本的に外部への閉口令が敷かれており、知らせるためには軍もしくは商会での職務資格や階級資格が必要になる。
「おつかれぴょんぴょん♪」
「あ、ロキ室長」
私のところにロキ室長がぴょこぴょこと歩いてくる
ロキ室長は見た目には完全に可愛らしい美少女である。
ただその中身は人をおちょくったりハメたりするのが大々好きな真っ黒外道美少女なので注意が必要だ。
その室長に今は立派なウサギ耳がつけている。
今日はうさぎさん曜日か。
ロキ室長はキャラ作りが趣味という変態さんなので仕方がない。
「みるみる、悪いけどオペレーター変わって、バックのデータ処理に回って欲しいぴょん」
「分かりました」
「ありがとぴょんぴょん♪」
室長はぴょんぴょん呟きながら、あっちこっちを練り歩く。
あれで超絶腹黒だから本当に怖いです。
私はバックの作業に回るためにオペレーター席から立ち上がった。
軽く布巾で机や席の周りを拭いてから立ち去る。
この中央情報管理局で精査・管理・運用している物は3つある。
1つ目が世界門の接続稼働状況管理・運用。
2つ目が空に浮かぶ監視気球。通称、神の瞳の情報精査・管理・運用。
3つ目が共有情報魔法「シェア」の集合情報精査・管理・運用。
である。
世界門の管理は見ての通りだ。
神の瞳は世界中を飛び回り、その瞳で得た情報をここに送ってくる。
神の瞳はユノウス軍最強の兵器だがそれもこの情報管理室があればこそだ。
この時代、高度1万メートルをゆっくりと自動飛行する神の瞳を捕捉し撃墜する技術はどこの国も持っていない。
神の瞳は超遠距離視魔法で地表の詳細情報を監視できるだけでなく世界中のどこからでもその映像情報をこの情報管理棟まで発信できる。
更に透視魔法で遮蔽物の厚さ10メートルまでなら透視できる。
このようにあらゆる情報が筒抜けにしてしまうだけで無く、周囲の雲の動きや風向き、気圧の計測することもできるため、天気の予報もできる。
神の瞳があるお陰で封印大陸を除く超精密な世界地図がこの世にもたらされたりもした。
竜、邪神教徒、犯罪者、天気などなど様々なものを監視し、その情報を集めている。
もっとも神の瞳の真価はそれだけでは無いのだが。
次にこのこの情報局で管理しているのが「シェア」という特殊な魔法だ。
私のパパ、と今でも呼んでいるユノウスが開発した簡易情報共有化ストレージ魔法だ。
分類的には召還魔法の一種なのだがその効果は非常に特殊だ。
まず、重要なのが非常に簡易な魔法である為、ある程度の素養がある人間なら簡単にこの魔法を使用できる点だろう。
サモンは個人ストレージにアイテムやモンスターを保有する魔法だが、「シェア」は別の共有領域設置魔法「サークル」によって作られた共有ストレージ、つまり、誰でも自由に情報を保管・閲覧できるスペースに情報を送る魔法なのだ。
この魔法が簡易な点は個人のストレージを必要としないこと。
実際にこの世界にある物ではなく文字情報のみを送るということ。
この情報をシェア上にあげる行為を私たちは「囁き(ウェスパード)」と呼んでいる。
実際に詠唱魔法にすると「オープンシェア・○○サークル・パスワード○○○・本文「○○」・クローズ」とかこんな感じになる。
この情報限定の共有ストレージであげられる情報はつまり、ビックデータだ。
これを管理・運営して有益性の高い情報に仕上げるのがバックと呼ばれるスタッフの仕事だ。
店舗別売り上げサークル・商品別売り上げカウントサークルなどなど。
シェアによって、その日のうちに膨大な情報が次々に上げられてくる。
それらの情報をもとに各店舗に卸す商品を決めるのだ。
私が今、見ているのはコンビニエンスストア・ユノショップに卸すお弁当商品の売り上げ実数だ。
ふむふむ。
囁やかれた膨大な量の情報を集計していく。
売り上げ実数の結果が出た。
「先輩、見てください!今日はルード地域の冷やし中華大当たりです!」
予想好きのリズがどうやら予想を成功させたらしい。
確かに最近のルード地方は高気圧が張り出して非常に暑かった。
「わぁ、リズやったね」
「そうでしょ!偉いでしょ!」
リズは得意気に胸を張る。
「明日はどうする?」
「ここは盛るでしょう!」
「でも、神の瞳予報だと明日、雨だよ?」
「え?あー、本当だー」
「暫く雨が続くから買い込むね。リフレッシュパックのチルド商品が売れるかも」
まぁ、マーケット戦略部門は私の担当じゃないから何とも言えないけれど・・・。
私ならお弁当の数を減らすかも。
「そっちかあ。そっちですかぁ・・・なるほどぉ」
勝負師のリズは頭を悩ませている。
「ちょっと、リズ、涼香菓子フェアやるって言ってたでしょ。ルード雨じゃん。どうするの?」
同僚のフィフィがそう呟く。
あちゃー。いくら、完全殺菌と鈍化保護があっても、生菓子系は風味が落ちるからそんなに長く持たないよね・・・。
キャンペーン品は平気で3倍陳列とかするからなぁ。
長雨で気温も下がるとなると売れ残りがひどいかも。
「ヤバいやばいっ!」
リズが頭を抱えている。うん、でも、まぁいつもの光景だ。
まぁ、別の地域に回すだけだろうけど。
私はふと、思い出した。
「さっきの患者さん大丈夫かな?」
確か、片足切断か。
まぁ、病院にはユフィが居るし、きっと大丈夫だよね。
◇◇◇◇◇
私の前で患者が真剣な顔で固唾を呑んでいる。
どうやら、相当不安な様ですね。
「先生、どうでしょう?お、俺、だ、大丈夫ですか??」
私は静かに宣告した。
「ガンですの、ガン」
私の前で患者は破顔した。
「よ、よかったぁ!」
ちょっ・。
何が良かったですか!?このやろう!
良くないですの。ガンを舐めるなですの!
私はため息混じりに告げた。
「ブルートさん、今年で5回目ですよね?いい加減にしてほしいですの・・・」
「やだなー。早期発見したんだから良いじゃないですかー。さっさ、直してくださいよー」
やれやれです。
調子の良い患者に催促されるまま、私はサーチを使って患部を確認した。
はぁ・・・。
そして、小さく呪文を唱える。
「リフレッシュ」
私は破壊魔法を用いて、ガン細胞のみを完全に破壊した。
「おお、消えました?」
ええ、処置は終了ですね。
「ブルートさん。貴方、遺伝的にガンが多い体質のようですから親族の方にも病院に定期的に来ることを薦めてください」
ガンは遺伝性の病気ですから。
私の忠告にブルートさんは笑顔で答えた。
「はは、ちょっと遅いですよ!俺の祖父も親父も早死にしました!今思うにみんな、ガンか、まさにがーん、わはははは」
うざい。
なんという迷惑遺伝子の一族なのですか。
早々に滅びた方が世の中の為なんじゃないですか。
やれやれです。
「そうですか。お大事にです」
◇◇◇◇◇
やれやれ、貴族の馬鹿相手は疲れるです。
私は冷えたお茶を飲むと溜め息を吐いた。
この病院で特級医療士資格者となると人間では私だけですからねぇ。
まぁ、院長のヘルも一応資格者ですけど。
でも、ヘルは早寝遅起ですし、寝るとまず起きないですし。
結果的に地位がある人間ばかりが私の患者として集まる。
まぁ、向こうも私が公爵家の娘でありがたいのだろうけど。
一級医療士が5人、二級医療士が20人ですか・・・。
医師不足が深刻ですの。
ああ、次の当直はいつですか?
私は予約がつまった予定表を眺めた。
うーん、勘弁してほしいですぅ。
「ん?」
私は何か違和感に気づいてカレンダーをめくった。
次のページ・・・。
「なんですの!!夏休みに予定がびっしり!!!」
予定表に白いスペースがないですぅ!??
「(あ、バレた)」
私はさっと目を逸らした病院事務員に牙を剥いた。
「てめぇ!こき使うのも大概にするです!どういうつもりです!!」
私がカレンダーに書かれた予定について詰め寄ると事務員は慌てた様子で言った。
「だって、他の先生方も夏休取りますし、どうしてもこのような編成に」
その分、全部、私投げじゃないですか!!
「夏休みは学校お休みです!スクールミッションもお休み!全部白紙!!」
私はリフレッシュで私の予定項目のインクを全部飛ばした。
即消去です!
「ぎゃー!!予定組めません!!」
「却下です!!」
「ちょ、先生が来ないと毎日100人単位で助かる命がぁー」
その手には乗りません。
私、一日100人も施術治療してないですからぁ!
適当なこと言いやがるです。
「では、その100人分の尊い命に感謝しながらお休みするです。というか、此奴とか一ヶ月間の海外旅行って何ですの!??馬鹿にしやがって!!」
「待ってぇ、半分、せめて、半分はでましょう!ユフィ先生!!」
「がるるるるるぅ」
「おねがーい!」
◇◇◇◇◇
事務と一悶着あった後、私は外の空気を吸うために玄関に向かって歩いていた。
結局、夏休みも半分は仕事になる予定に。
やれやれ、何の因果でしょうか。
玄関先から待合室を見渡す。
待合室は病人でごったがえしている。
客取りすぎだって。
世界中の病人がこの病院を目指してやってくるので仕方がない。
ふと、気づく。
待合室で小さい子供たちが座っていた。
「子供が何してるです?」
「あ、先生」
というか、この子供。
見たことあるような、無いような。
うーん?
あ、アリシスの生徒です!
思い出しました。
「どうしたのです?」
「この子怪我してるんです!見てください」
女の子が抱えている物を見た。
ん?鳥?
まだ子供の野鳥が羽を折っていた。
私は医療用の血肉素材をポケットから取り出し、患部に当てると魔法を唱えた。
――― 細胞組成
素材が転写魔法式によって対象のDNAを持つ万能細胞になり、促成魔法によって血肉に溶け込み一体となりながら欠損箇所を回復させます。
さらっと使いますがスペリオル級の超高位回復魔法ですよ?
私はさっと医療魔法処置を終えると告げた。
「ここは獣医じゃないですの。次はアリシスに見せるです」
「え、アリシス先生も直せるの??」
「ええ、余裕ですの」
まぁ、このヒールは使えないでしょうけれど。
たぶん鳥ぐらい直せるですの。
たぶん。
鳥が飛びたそうに羽をばたつかせた。
「わぁ、わぁ。ありがとう!行こう!」
「先生、ありがとう」
子供たちが去っていく。
ふー、やれやれ。
私は肩を回した。
さて休憩時間の残りは後じ・・・?
「先生、先生!!急患です!!急患!!」
はぁっ。
0秒でしたか。泣けます。
「何ですか?死体以外なら受け付けるです」
「足の切断です!!」
「えー、切断ですか・・・」
私は嫌そうな顔をした。
だって切断は色々面倒なんです。
すると玄関から患者が運ばれて来た。
私は患者の顔をのぞき込んだ。
「ほんとうに生きてるです?」
「おぉお、た、助けてくれ、女神さまぁ」
私が女神ですか、こりゃもう死にそうですね・・・。
私はゴム手袋をはめると傷口に手を伸ばした。
「ぎゃぁあああああ」
「あら、神経はまだ生きてるですね」
「せ、先生!ショック死しますよ!!」
優しく撫でただけですよ。大げさな。
大体、触診は医療の基本です。
しかし、あー、これはめんどいです。
千切れた足はただくっつけるだけじゃ元のように動かないのです。
魔法を使って神経を全部繋げるのは超面倒なのですよ。
私は時計を見ながら首を傾げた。
というか、後、1時間で学校ですよ。私。
間に合います?
「足の神経を繋げるです。このまま、オペ室に運ぶです」
「分かりました!!」
さて、一仕事始めるです。
私は慌ただしい様子の看護婦の後をゆっくりと歩き出した。
◇◇◇◇◇
私は黒板に板書した数式問題を生徒たちに示した。
「はーい、この問題が分かる人」
「はいはい!」「おれ!おれだあ!」
「男子うざーい、先生、わたしー」
おぉ、みんな元気だなぁ。
じゃ、今日は誰に解いて貰おうかな・・・。
私は一番手を挙げるのが早かったクオドールくんを選んだ。
「それじゃ、クオくん」
「はーい」
得意げな顔でクオくんが板書を始める。
頑張れ。よし、よし、そう。あ、ちょっと違う。
「(クオくん、ここ、ここ)」
「あ」
クオくんはあわてた様子で黒板消しを使い、数式を書き直す。
うんうん。分かってる。
「どうだぁ!」
「すごい!クオくん」
「えー、少し間違えたよね!さっき消してたもん」
「うるさい!ミミ!!」
私はにこにこしながら、クオくんの頭を撫でた。
「えらい!クオくん」
「えへへ」
「くおずるーい!」
「アリシス先生!次の問題!!もんだい!」
◇◇◇◇◇
授業終了。
私は10才の一般生クラスの授業を終えると背伸びしながら廊下を歩いた。
ここは一般学生が通うユノウス領立一般生学校だ。
私たちの通う通称、特校とは違い、普通に学費を払って学校に通っている。
私は数学や物理を担当していて、受け持ちクラスは8才~15才までのクラス。
同い年の子のクラスも担当している。
担任をしているのは今の10才のクラスだ。
「あ、お疲れーシエラ」
「お疲れ、アリシス」
私やシエラはスクールミッションでは教師を専攻している。
大変だし、病院に比べると報酬も評価点も若干低いんだけどね。
大切な仕事だと思っている。
二人とも今までに何度かの試験を経て、一級教師資格を持っている。
「午後の講義のレポートしてきた?」
え?レポート?あ、ああ、忘れてた。
「ロキ先生の?まだだ」
どうしよう。
そういえば、とんでもない面倒なレポートがあったような。
「あの先生もほんと意地の悪い問題出すよねー」
「そうそう・・・じゃ!なくて!レポート!した?」
「まだだよ」
「どうしよう・・・」
ロキ先生、宿題忘れると四つん這いにさせて人間ソファーの刑だもんなぁ。
私は絶対に嫌だ。
「ユリアかユフィかエストさんに見せて貰おう」
「そうだね・・・」
中堅どころの私たちが駄目だということはミルカやミーナにちょっと期待はできないし・・・。
最優秀な面子に頼るしかない。
「じゃからのぅ、じゃかからのぅ!」
「オデン、うるさい」
遠くから賑やかな声が聞こえてきた。
私はその声だけで緊張し、頬が赤くなる。
受け持ちの授業を終えたオーディン学校長とユノウスだ。
この二人が教えるという事は上級生午前組の講義があったのだろう。
「あ、アリシスなのじゃ!相変わらず可愛いのじゃー♪」
オーディンさんが抱きついてくる。
私はちょっと苦笑みを浮かべながら応じた。
相変わらず、スキンシップ好きだなぁ。
「おう、元気か。アリシス」
彼のその声に身が堅くなる。
「ユ、ユノウス・・・」
どうしてだろう、緊張する。
彼は私に無造作に近づいて来るとぽんぽんと私の頭を叩いた。
なんだろう。
それだけなんだけど、なんだか頭の中いっぱいになったかも。
どきどきする。
「えへへ」
「授業以外じゃ中々会えないけど、みんなと仲良くしてるか?僕も夏頃には多少暇になるし、一緒に遊べると良いな」
「う、うん」
「またな。おい、おでん爺、セクハラしてないで帰るぞ」
「ぎゃー、儂様はもう乙女なのじゃー、爺言うななのじゃー!!」
ユノウスは私に向かって右手を振りながらと、左手でオーディンさんを引き剥がして引きずり、歩いて行った。
たぶん、会長室に講義資料を置いたら、別の案件をするためにどこかに飛んで行ってしまうのだろう。
ユノウスの講義は大体一日一時間程度だ。
その程度しか学校にはいない。
私たちのクラスが受けるのは次は明日。
この学校の先生をしていても、毎日会える訳ではないので少しだけ寂しいかな。
すると、私たちの様子を眺めていたシエラが肘でつついてきた。
「ずいぶんと安い女になっちゃたね。アリシス」
私は笑った。
「良いんだよ。だって、彼は世界を救うお仕事をしてるんだもん」
ユノウスは私だけの物じゃないんだもん。
彼は世界のヒーローなんだ。