その料理の名は(中)
一仕事を終えて、ユノウス商会に戻った俺を弟が待っていた。
珍しい事もあるものだな。
何かと忙しい弟がこうして待っている事自体が希有な事だ。
俺は若干困惑しながら尋ねた。
「なんだ?仕事は無事終えたと報告したはずだが・・・」
「実はお前に頼みたいことがある」
ん?
なんだ改まって。
「ブラザー。お前は俺の兄弟だ。良いぜ、どんな仕事だ?」
俺の軽口にユノウスは神妙な顔をしている。
「どうした?」
「護衛をつけるが少々危険かもしれない。なんせ、今回は未踏大陸の原住民を相手に交渉して貰うことになるだろうからな」
未踏大陸。
たしか、未だにろくな開発の行われていない東のロクシエ大陸の事だな。
神竜戦争時代の傷跡をもっとも色濃く残す地域らしいが。
俺は目を細めた。
「何が見つかった?」
「・・・カカオだ。その可能性が極めて高い」
その言葉に俺は目を見開いた。
こいつは驚いた。
「ほぅ。つまり、幻の菓子、チョコレートだな」
「そうだ。飛んでくれるか」
良いだろう。
俺は頷くと笑った。
「ついにチョコレートが食える日が来るのか」
まったく、美食の道は終わりがないな。
楽しみが増えるぜ。
◇◇◇◇◇
エーデル湾を超えて数百キロ。
そこに未踏大陸ロクシエがあり、目的地はそこからさらに原生林の奥の奥にある。
そこで俺は途方に暮れていた。
「はぁ、はぁ、未踏大陸ねぇ。そんなところに、はぁ、カカオがあるのかよぉ」
「はい。私が神竜時代にそこの司祭から捧げられたものの中に貴方たちが呼ぶところのカカオがありました」
旅の同行者にして今回のクエストの発案者、死神ヘルがそう言う。
ち、神竜時代ってそりゃ神話時代の話じゃねぇか。雲を掴むような話だな・・・。
俺は上がった自分の息を忌々しく聞いていた。
「はぁ、はぁ、くそぉ。単純労働は苦手なんだよ。みっともねぇ・・・」
「その脂肪が邪魔なのでは?良いダイエットですね」
くそたれ。
ここまでは「神の瞳」の直接転移で来れたが、ここから先は自分の足で探すしかねぇわけだ。
痺れるねぇ。
「何かあっても、ここじゃ援助は望めないか」
「神の瞳がひとつサポートで就きますし問題はないでしょう」
「ほぅ、そいつは豪勢だな」
俺は苦笑いを浮かべた。
空に浮かぶ観測気球、通称「神の瞳」。
全50機の「神の瞳」は文字通りユノウス軍の最終最強兵器だ。
それを一機こっちに専用に差し向けたらしい。
最高のサポート体制だと言えなくもない。
「場合によっては私以外の12神柱もここに来ます」
12神柱。
ユノウスがもっとも深きダンジョンより発掘した神々だな。
叡智神オーディン。雷神トール。光神バルドル。大地神ニョルズ。妖精神フレイ。愛神フレイヤ。
狡智神ロキ。蛇神ヨルムンガンド。冥神ヘル。狼神フェンリル。炎神スルト。霜神ウトガルデ。
計12柱。
おそらくこの世界最強の部隊だろう。
「はぁ、はぁ、これで俺の体力が伴えば完璧なんだろうけどよぉ」
体力不足が実に忌々しい。
まったく、木々から覗ける空が自棄に青いぜ。
「本当に情けない方ですね」
「はは、何だったらお嬢ちゃんが俺をおぶってくれても良いんだぜ」
少女は何事かと首を傾げながら言った。
「採魂しますよ?」
「おいおい、冗談だよ」
はは、ダサい上につまんねぇこと言っちまったぜ。
俺は苦笑しながら立ち上がった。
「何でしたら強制ダイエットしますか?骨と魂だけになりますけど」
「はは、嬢ちゃん。俺から胃袋と舌を取り上げたら何の価値もないぜ」
悪いが骨の丈夫さには自信がねぇんでな。
ほかを当たってくれ。
すると、唐突に少女が切り出した。
「ところで敵です」
「おい、まじかよ」
「はい、囲まれています」
無数の眼光が密林の暗闇に浮かぶ。
やべぇ、何が起こってやがる?
少女が目を細めると宣告した。
「では、採魂を開始しますね」
巨大な鎌をいずれかからか取り出す。
「おい」
「邪魔です」
少女が俺を押し退け、豪快に鎌を振るう。
そのデスサイズが振るわれる度に野犬の群がみるみるうちに消えていく。
消えるだと?
斬った後には青白い魂火が残るだけだ。
通常の現象とは違う何かが起こっている。
なんだこれは??
「イドとエゴの境界を斬るのが私の死鎌です」
振るわれる度に野犬が消えて、死魂が生まれる。
「魂成します」
そう言うと少女の鎌の動きに合わせて魂が集まって形を作った。
青白い体の首無し騎士。
「なんだ?」
妖魔生成?
そんなもの聞いたこともないが。
「死魂術です。精霊魔法とは対を成す今となっては失われた秘術ですよ」
そんな魔法があるのか。
俺は感心しながらそれを見た。
「で、何を作った」
「LV110死霊騎士です。お前、そこのおデブちゃんを背負うのです」
「はは、我が背中を貸そうか。ふとましい御仁」
「すまねぇなぁ・・・」
意外に紳士な骸骨騎士が俺はおぶわれた。
しかし、これが採魂の死神か。
おっかねぇお嬢ちゃんだぜ。
◇◇◇◇◇
しばらく歩くと、開けた場所に出た。
「今日はここで休みましょう」
そう切り出すヘルの顔は完全におねむ状態だ。
「わかった」
「はは、了解」「ラジャー」「いいですぞぉー」
・・・。
気がつくとちょっとしたサーカス団ぐらいに仲間が増えている。
デュラハンに、マンティコアに、ヴァンパイアに、ゴースト。
なんだよ、この愉快な仲間たちはよう・・・。
俺が唖然としているとヘルがゴーストに包まれて眠り出した。
「おやすみなさい」
ゴーストのベッドかよ。宙にフワフワと気持ちよさそうだな。
おい。
すやすや・・・。
お、おう、すばらしく寝付きが良いな。
俺もしばらくすると、うとうとし出した。
それくらいたっただろうか。
「だ、誰だ!オマエたちナニモノー!!きゃぁあああ・・・」
可愛い悲鳴が聞こえて来て、俺は目を開いた。
上を見上げると褐色の肌の美少女がつままれていた。
年の頃は15、6か?
肌の色はやや濃いが顔立ちはそう俺たちと変わらない。
つまんでいるのは宙に浮かんだヴァンパイアだ。
その様子に俺は頭を抱えた。
「おいおい、こんな可愛い嬢ちゃんに乱暴する事はないだろう」
「ですかねぇー?」
ヴァンパイアはそう言うとあっさり少女を手放した。
「ふあぁぁ」
「おっと、あぶねえ」
俺は落ちてくる少女を慌てて抱き止めた。
たく、レディをこんなに雑に扱うなよ。
「ふぁ、うぅ・・・」
「大丈夫かい。お嬢ちゃん?」
しかし、何とも刺激的な衣装のお嬢ちゃんだ。
可愛いおへそがまぶしいぜ。
「だ、大丈夫。あ、あの・・・その・・・」
「すまねぇな。すぐに離すぜ」
顔を真っ赤にした愛らしい嬢ちゃんに俺は笑った。
「あ、ありがとう」
いやいや、悪いのはうちの連れだからな。
俺はお嬢ちゃんに笑うと言った。
「気にするな。お嬢ちゃん怪我はないかい?」
「大丈夫!何ともない」
「はは、そうかい。まぁ、俺の脂肪も時々役に立つときがあらぁなぁ」
そう言って俺は豪快に笑った。
「・・・ところでこっちのお嬢ちゃんは起きないのか?」
ヘルは今の騒動にも我関せずと言った様子で寝入っている。
「姫は一度寝ると朝まで目を覚ましません故」
本当かよ。
「お前等、生まれたてで知ってるのか?」
「我々のキャラクターは変わらない故にー」
「・・・そうか」
よく分からないが困ったお嬢ちゃんだな。
「ゴー。ゴーとぅざゴー」
ゴーストが何かをつぶやきながら動き回る。
お。
寝ているヘルを起こさないでも、動けるのか。
「ゴーストがそのまま動けるなら、まぁ、良いか」
まったく、調子が狂いまくりだ。
「イエスぅ、いえーぃ」
すると、さっきからじーとこっちを見てる少女が近づいて来た。
気のせいか、妙に視線が熱っぽいような。
「お前・・・」
ん?なんだ?
褐色美少女が顔を真っ赤にして呟く。
「良いオトコ!びっくりする!」
・・・?なんだと?
「どういう事だ?」
◇◇◇◇◇
少女の名前はカティネというらしい。
俺は彼女に頼んで彼女の村に案内してもらっている。
カティネはにこにこしながら言った。
「うちの村、大きい、太い、凄く格好いい!」
「ほう、そりゃすげぇ」
そりゃぁ血迷ってんな。
デブほど良いとはイカした文化だ。
まぁ、部外者の、ましていちデブが言う事じゃねぇなぁ。
「あれ!村一番の美人!」
「おう、そうかい」
カティネの指す先にはなんというか、ふとましいお嬢さんがいた。
何が一番なんだろうな。
俺は気になってカティネに聞いた。
「肉付き良い!」
ふむ、確かにチャンピオン牛に通じる肉付きだ。
あの肉はキロで何万Gなんだろうなぁ。
独特の貫禄を感じるぜ。
「やれやれ」
俺はため息を吐いた。
まぁ、民族の容姿に関する嗜好なんてそれぞれだよな。
つまり、この村では俺はイケメンダンディらしい。
はは、笑っちまう。
久しぶりに腹の底にくるジョークだぜ。
いまさらながら、モテちまってるわけか。
まぁ、どうでも良いな。
若いころなら、ともかく今となっては興味もないな。
枯れた感性だ。
「れお、かっこいい!」
はは、ヨイショは照れるねぇ。
俺は苦笑しながら少女に言った。
「お嬢ちゃん、男を容姿で選ぶのは止めときな。すぐに捨てられる。そのうち、お嬢ちゃんにも大切な男が出来るだろうよ」
黒歴史は作っちゃいけねぇよ。
人の好き嫌いなんていくらでも変わるもんさ。
他人に格好いいなんて言われたくらいで喜ぶもんじゃねぇなぁ。
人間をそれだけで計る奴も計られる奴もおしめぇよ。
「容姿は大事!カティネ。いくら食べても太らない・・・。みっそかす」
そいつは羨ましい体質だな。
しかし、みそっかすか。
なるほど。この村じゃカティネは可愛いとも愛らしいとも思われないらしい。
醜美の基準が根本的に違うわけだ。
容姿で傷ついてる少女に対してあんまり説教めいた事を言ってもしょうがねぇか。
俺はカティネの頭を撫でた。
「そうかい?俺はあそこのお嬢ちゃんよりカティネの方が好みだぜ?」
俺の言葉に落ち込んでいたカティネが急に明るい顔をする。
「ほ、ほんとうにほんと?」
「はは、変わり者同士気が合うってことだな!」
「そ、そうか。れお、カティネの事、好きかぁ」
顔を真っ赤にしてモジモジしだすカティネ。
おいおい、この反応はちょっといけねぇ・・・。
俺は慌てて否定を口にした。
「待て待て、別に口説いてないぞ。お嬢ちゃん」
「んー、んー、残念だー!」
残念なのかよ。
はは、こりゃ傑作だな。
「俺は探しもんがみつかりゃまたさすらう渡り鳥だからよう。村のもんにゃ手を出さないぜ」
「?」
カティネは俺の言葉がよく分からなかったのか首を傾げた後で呟いた。
「れお、何か探してる?」
「おう、カカオだ」
「かかお、なんだそれは?」
どう説明したものか。
俺はカカオの特徴をカティネに説明した。
すると、少女は何かに気づいた様子で言った。
「れおの捜し物、かかお。もしかしてレイジュの種か?」
「レイジュ」
「長老、レイジュ持ってる!こっちだ!!」
ほぅ、どうやらカティネは俺を長老のもとに案内してくれるらしい。
ありがたい。
たく、こんな美少女の良い子がモテないとは酷い社会があったものだな。
◇◇◇◇◇
村長の館で俺は熱烈な歓迎を受けた。
「良く来た。いろおとこ」
「あんがとよ。村長もいい男だぜ」
軽く握手を交わすと俺はカカオの話を切り出した。
「我々の霊樹、それに近い」
「そうか」
「霊樹は大地神さまへの捧げ物」
「大事な物なのか?」
「少し、大丈夫」
村長は奥に歩いていく。
そして何かを持ってきた。
村長が俺にそれを差し出した。
「これは?」
「レイジュの汁ね」
飲めってことで良いのか?
俺は村長に確認を入れる。
「いいのか」
「よい食べる。旅の者、もてなし」
じゃ、ありがたく。
さっそく口に入れる。
ほぉ、おもしれぇ味だ。
蜂蜜で溶かした種子の油か。
ココアに近いものだな。
「うめぇ」
「それの種子はこちら」
「それは・・・」
その種子を見た瞬間、俺は確信した。
ああ、知識はすべて頭にたたき込んできたからな。
「間違いねぇ。こいつはカカオだ」
その言葉にカティネが嬉しそうに跳ねた。
「れお、やったか?」
「ああ、ついに。ついに見つけたぞ」
感慨深い。
念願のチョコレートだ。
弟も喜ぶだろうよ。
「やったー!!」
横でカカオの事を自分の事のように喜ぶ少女。
まったく本当に良い嬢ちゃんだぜ。
「ありがとよ。嬢ちゃん」
感謝を述べて、頭を撫でる。
「えへへ」
村長がどこか微笑ましい顔でこちらを見ている。
おっと、本題を忘れるところだった。
俺は切り出した。
「こいつを譲ってほしい」
「いいでしょう。旅の者。いくつか、お譲りする。かまわない」
「本当か?」
「ええ、ただし、頼み事がある」
「ほぅ」
ギブアンドテイクか。
わかりやすくて良い。
「旅の者。何卒、この村をお救いください」
「なに?」
村を救う?どういうことだ?
俺は困惑しながら村長の話を聞いた。
◇◇◇◇◇
どうやら最近、村の食糧事情が悪化しているらしい。
この村べべオはとにかく太った人間が多い。
カティネのような痩せた人間はほとんどいないようだ。
これだけ肥えるということはそれだけ食料に恵まれているはずだ。
どういうことだろう。
「村、ごはん、最近減った」
「ご飯が減った?」
「それに体悪くなる増えた」
なに?なにが起こっているんだ?
伝染病とかか?
「れお、こっち」
俺はカティネの言葉の方向に歩いた。
カティネが山の様に積まれたそれを指さす。
「これ、カティネたちのご飯」
道に積まれたそれを俺は手に取った。
「ジャガイモか」
変わった品種だ。
少しだけ俺らの大陸も物と種が違う。
サーチが使えりゃ良いんだがねぇ。
かなりの小ぶりだがこれが通常なのか?
「俺じゃ違いはわかんねなぁ。なぁ、どうやって喰う」
「蒸かす」
「すぐに食えるか?」
「ご飯、探すか?」
「おう」
カティネが近くの家に入っていく。
暫くすると少女がしょんぼりした顔で出てきた。
「大丈夫か?」
「物乞い言われたけど、平気」
おい。なんだと?
随分と口の悪い家庭だな。
「ちょっと注意してやろうか」
「平気!カティネ細い、ご飯無い、貧乏思われる」
・・・。
やれやれ、このお嬢ちゃんにもこの村での立場もあるだろう。
俺が立ち入って好転するかどうか分からない。
本人が望まないであれば、仕方ないな・・・。
「カティネは貧乏なのか?」
「カティネ、狩り得意!貧乏無い」
そうか。
逆にここの村の人間の大半は狩りが下手そうに見えるな。
「これ、一つもらった」
「おお、わりぃな」
ジャガイモの蒸かしを受け取る。
口に入れる。
「こりゃ・・・」
なるほど。そういうことか。
◇◇◇◇◇
俺はカティネにつれられて村の集会場にやってきた。
「ここ、病人集まる」
「そうか、医者はいないのか?」
「薬師、昔いた。けど、今いない」
そうなのか?
今回の件は多少でも薬学知識がある人間がいれば回避可能だろうけどな。
「どうして?」
理由を尋ねる俺にカティネは悲しそうに呟いた。
「高齢、死んだ」
そうかよ。やれやれ・・・。
中に入ると複数の人間に押さえられた少年がいた。
「ああ、あ」
こいつは・・・。
幻覚症状を起こしてやがる。
カティネは今のも泣きそうな悲しい顔で少年を見ている。
「村の子供、時々こうなる。最近多い」
本当にやっかいな事になっているな。
俺はそいつの様子を見て、苦々しくつぶやいた。
「ちっ。こいつはソラニン中毒だ。おい、嬢ちゃん。急いで水を汲んできてくれ」
ソラニンに聞く薬はない。胃洗浄するしかねぇなぁ。
やれやれ、こいつが弟や妹なら魔法で解決してくれるんだろうけどよ。
幻覚症状が出てるって事は発症からまだ2時間かそこらだ。
間に合うだろう。
「わ、わかった」
俺は塩を取り出した。
石を集めて竈を作り、火をおこす。
「オープン」
俺でも使えるマジックアイテムポーチから取り出した鍋を置いた。
「み、みずぅ」
カティネの持ってきたそれを見て頷く。
「よし、最初はそのままでいい。いっぱい飲ませろ」
「わかった」
少年に塩のお湯を作り、飲ませる。
「悪ぃな。ボウズ」
俺は少年に近づく。
顎を掴んで、口を開けると手を突っ込んで胃の中の物を吐かせる。
おえおえと吐く子供の胃の中身を全部出す。
「だ、大丈夫なのか?」
どうだろうな。
子供の様子を見る。症状は軽くなったようだ。
まぁ、たぶん大丈夫だろ。
「まぁ、死にはしねぇだろ。すぐに良くなる」
「よかったぁ・・・」
すると、目を丸くした村人が集まってきた。
「おまえ、医者か?」
その問いに俺は苦笑を浮かべる。
「いや、料理人だ」
「りょうりにん・・・お前、我々、助ける?」
俺はそう問われて大きく頷いた。
そして、言い切る。
「ああ、みんな纏めて助けてやるよ。何せ、俺は人呼んで料理界の聖人だからな」
たく、易くない依頼を受けちまったな・・・。
◇◇◇◇◇
俺は村人全員のジャガイモを回収する事にした。
集めて確認する。
うん、これはダメだな。
「みんなのご飯これ」
「やっぱり、みんなクズ芋か」
俺は苦々しくそれをみた。
肥大化障害だろう。
明らかに小さな芋に俺は眉を歪めた。
「ちっ、こんなクズ芋食っちゃダメだろ」
クズ芋には有毒なソラニンが大量に含まれる。
発芽に気をつけても、小さい子供がクズ芋を大量に食えばソラニン中毒になるのは当然だろう。
もっとも民族によるソラニンの耐性は差が大きいからな。
すべてダメって訳では無いだろうが・・・。
カティネは泣きそうな顔で呟いた。
「連作控えてる。でも、みんなのご飯、大きくならない」
「なんでもかんでも喰っちゃいけねぇのさ」
俺の言葉にカティネは泣きそうな顔をする。
やれやれ、そんな顔をするんじゃねぇ。
「みんなご飯いっぱい食べる、大きくなりたい」
「そりゃぁエゴだな」
無理に食う事はないだろ。
しかし、ジャガイモの肥大化障害の原因はなんだ?
まずはそっちを確かめるか。
「ジャガイモの畑を見せてみろ」
「わかった」
◇◇◇◇◇
カティネに案内されて、俺は村のジャガイモ畑にやってきた。
ジャガイモ畑に行くと俺はジャガイモの根を引き抜いた。
やはり、そうか。
根にはシストと呼ばれる白いぶつぶつが見えた。
「ちっ、線虫だ。こいつが根に這って養分を喰ってやがるんだ」
「これ、悪さしてる?」
「そうだ」
「悪い子!めっ!」
めっ、つってもなぁ・・・。消えないぞ。
どうする?
こいつが巣を作ってる土壌なんて実にやっかいだぞ?
今更、抑制品種を入れたところでどれほどの効果があるのか。
根治にはリフレッシュを使った土壌の大規模洗浄が必要になる。
極めて大がかりな魔法処置だ。
ひとまず、ユノウス商会に帰って、魔法技師の出動の申請を出し、それから・・・。
「おはようございます」
突然の言葉に俺は戸惑った。
ヘルの嬢ちゃん。起きていなかったのかよ。
てか、もう昼だぞ?
「よう、こんにちは、嬢ちゃん」
「皮肉ですか?」
「いや・・・」
ふぁあ、と少女は眠た気に欠伸を一つした。
「話は聞いていました。つまり、その線虫とやらを狩ればいいのですね」
それ、どこから聞いていたんだよ。
「え、おう。だが線虫の駆除はそう簡単にはいかねえ」
優秀な魔法使いが長い時間をかけて破壊魔法しまくる必要がある。
途方もない労力だろう。
「おや。言ったはずですよ。採魂は得意ですと」
そういって少女はどこからか大鎌を取り出すと笑顔で言った。
おいおい、畑の草刈りじゃないんだぞ。
地の中に巣を作った線虫は本当に厄介な存在なんだ。
その鎌で狩るのは無理だろ。
「狩り取りますね」
大鎌が青白い半透明になり、何倍もの大きさに変化した。
俺は思わず何事かと少女に確認した。
「な、何だ!?その鎌は」
「私がため込んだ魂を固めた物ですよ。ここまで育てるのには苦労しましたよ」
そう言って少女は構えたその超巨大鎌を凄まじい勢いで振るった。
振ると同時にさらに大鎌は巨大になる。
村を超えて周囲一体およそ1キロに渡って青白い衝撃波が凪いだ。
一迅の蒼い吹が吹く。
「さすがにこれだけの範囲を一度に採魂するのは大変ですね」
そう呟きながら、もう一振り。
大地から自然光とは違う、光に溶けぬ無数の死魂が溢れ出してきた。
死に神の少女が舞う。
酷く幻想的な光の乱舞。
な、なんなんだ。
こりゃ。
「お、おい、俺たちは大丈夫なのか?」
「ええ」
大地が青白く輝く様は幻想的である。
「こりゃ、すげぇ・・・」
俺はしばし、その様子に見とれていた。
◇◇◇◇◇
舞を終えたヘルに俺は労いの言葉をかけた。
「大したものだな、ヘル」
「この程度、朝飯前です」
「もう、昼だけどな」
「朝飯がまだです」
少女の言葉に呼応するように、ぐーっと可愛らしい音が鳴った。
・・・。
はは、とんだお嬢さんだぜ。
まさか、朝ご飯の催促だったとはなぁ。
「そういや、出発前にパッテンの奴がよこした新作菓子があるぜ」
菓子は苦手だから扱いに困ってたんだが丁度良い。
アイテムポーチからそれを取り出すと投げて寄越した。
「砂糖は禁止なのでは?」
なんで知ってやがる。
いや、病気とかじゃないし、別にそこまで禁止と言うわけでは・・・。
「あー、なんでも希少糖を使ったものらしいぜ。パッテンの奴が最近研究しててな。糖アルコールとか言って、キシリトールとかエリスリトールとか種類があるらしい」
天然のゼロカロリーシュガーだ。
何故か、知らないがあいつは俺に自分の菓子を喰わせたいみたいだしな。
「もぐもぐ、なるほど、愛の味がします」
「どうしてそうなる!」
そして、喰うの早いなお嬢ちゃん。
一袋を一瞬で平らげてしまった。
しかし、愛ねぇ。
はは、パッテンには若い頃に振られてるしな。
そういうのじゃないさ。
「突発性難聴ですか?」
「何の話だ」
どんな病気だ、そりゃ。
「いえ、オデンちゃんが良く貴方の弟が発病すると嘆いていたんで」
おい、ブラザー、何をした?
まぁ、良いか。
俺は通信機を取り出すとその弟に対して通信を試みた。
「よう、レオか。そっちはどうだ?」
「はは、カカオを見つけたぜ」
「そうか!やったな!」
「ただ、問題が起きた。実は・・・」
俺が事情を説明するとユノウスは頷いた。
「なら援助物資を寄越そう。軍は?」
俺は否定の言葉を口にした。
「頼んだものだけで良いぜ。こっちは原住民だからよう。村の文化を破壊したくない」
「分かった。すぐに送ろう」
そう言って通信機が切れた。
「どうしたのです?」
「支援を頼んだ」
そう話していると地表に陰が出来た。
「お?」
「早いですね」
俺が上を見ると軟着陸用のパラシュートをつけたアイテムボックスが降ってきた。
空にある神の瞳から落としたのだろう。
しかし。
仕事が速すぎだろ。
落ちてきたそれを受け取った。
それは大きさが縦横高さ50センチ立方形の箱だ。
これの正体は二重圧縮式の大規模ストレージアイテムボックスである。
これ一つでも大量のアイテムがしまってあるはずだ。
俺は添付されたアイテムリストを見て笑った。
「サンキュー。ブラザー」
これだけあれば十分だ。
◇◇◇◇◇
村に帰ると俺は村長に事情を説明して炊き出しを行う事にした。
村の娘(巨漢)たちに手伝いをさせる。
今日は比較的大きな芋を集めて使うことにした。
「いいか。ソラニンは皮に多く含まれる。厚く剥け」
「分かった。いままで皮付きで喰ってたよー」
まぁ、皮は栄養も豊富なんだがな。
「次に薄切りにするぞ。切ったジャガイモは水に漬ける」
「どうして、水につけるのさー?」
「ジャガイモに含まれるソラニンは水溶性だからな。それにイモに含まれた還元糖を溶かす意味もある」
「還元糖?」
「ああ、これから作るお菓子は還元糖が多すぎると焦げるからな」
「お菓子かぁー」
俺は用意した油を確認した。
ふむ、良い温度だ。
「ソラニンは耐熱性だ。だが170度の油で揚げれば、一部を壊す事は可能だ。と言っても効果は非常に限定的だ。これで完全に取り除ける訳ではない」
もっとも高温で揚げるとアクリルアミドという物質が出来る危険性もあるが。
まぁ、冷凍した芋では無いし、これも水洗いをしたことで大幅に軽減出来るので大丈夫だろう。
ソラニンを水で飛ばして、油で壊す。
俺は水気を切ったジャガイモを揚げていく。
あがったものに塩を振る。
「ほれ、出来たぜ」
「美味しそう」
「はは、太るがな!おっと、そりゃ良いことだったか!」
もう一品を用意する。
今度はかなり小さい芋も使う。
細かく刻んで水に晒したジャガイモをさらに二度ゆでする。
水溶性のソラニンをしっかりと取り除く。
掬ったジャガイモをつぶし、片栗粉を混ぜる。
「今度はなんだ?」
「イモ餅だ」
それを高温の油で揚げてしまう。
さらに熱処理と。
半分は味を付けてそのまま食べて。
もう半分は鍋に使うか。
俺は巨大な鍋で作っていた物を確認した。
ふっ、我ながら良い出汁出てるぜ。
命の出汁が心に滲みらぁ。
良い香りにカティネがそわそわし出した。
「れお、れお!良い匂い!これなんだ?」
「おう、鶏のそっぷ炊き・・・鶏ガラちゃんこ鍋だぜ!」
◇◇◇◇◇
夜。
村では宴会がはじまっていた。
「旅のもんはすげぇ料理つくるさ」
「料理にんいうんだろ。すげぇ」
村の男衆はちゃんこ鍋と揚げ餅を食べて幸せそうな顔である。
酒が進んでしょうがない様子だな。
一方の子供はポテトチップに夢中なようだ。
「れお、すごい!てんさい!」
「はは、ありがとうよぉ」
俺はカティネの頭を撫でた。
ついつい撫でてしまう。実に撫でやすい頭だな。うんうん。
「なぁ、れおはいつまでいるんだ?」
「おー、しばらくだな」
村長の依頼が終わるまで多少は滞在することになるだろう。
しかし、ユノウス商会での仕事もあるし、王立学院もある。
そんなに長くは入れねぇよなぁ。
すると急に寂しそうな顔をカティネはした。
「そうか・・・」
「わりぃな。次の仕事が待ってるんでね」
「うん・・・れお、忙しい。分かった」
おう、カティネは良い子だな。
◇◇◇◇◇
「今日は片栗粉を作るぞ」
若い女性衆を集めて、残りのジャガイモから片栗粉を作ることにした。
クズ餅でも完全に処理すれば、まぁ食えなくも無いだろう。
すり下ろしたジャガイモから何度も水を変えて澱粉質だけを取り出す。
干すのは半日。
「よし、出来たな」
何度も水に浸けているからソラニンもなくなっただろう。
日も暮れてきたな。
「今日は片栗粉饂飩にするか」
早速、料理に取りかかる。
◇◇◇◇◇
数日後。
夜、静まった頃。
俺がヘルと駐屯しているテントに来客が訪れた。
俺はその姿に首を傾げた。
「カティネか」
カティネがわんわん泣きながら立っていた。
「おい、大丈夫か」
「うぅ、れお、どうしよう・・・」
「どうした?何かあったか」
しょんぼりした様子のカティネが呟いた。
「カティネ。村に居られなくなった・・・」
何、どういう意味だ?
カティネを座らせると事情を聞いた。
「どういうことだ?原因は俺か?」
「うん」
そうなのか。
まぁ、今まで良くやっていたはずのカティネが急に村に居られなくなったなら俺が原因なのだろうな。
しかし、俺、何かしたか?
「村の女衆、お前にメロメロ」
その言葉に俺は口を開けた。
「そうなのか?」
はは、まさかのモテ期到来か。
ぜんぜん嬉しくないな・・・。
「うん。カティネ、お前と仲良い、みんな怒る」
「そりゃ難儀な・・・」
女社会こぇ・・・。
しかし、こんな事になってるとはな。
そんなことで爪弾きにあうとは本当に災難だな。
「みんな、れお好き。カティネ独り占め良くない、それにカティネはみそっかすだからうざい。下がこういうことする、上の女すごく怒る!」
まぁ、力関係がはっきりしているとそうなるのだろう。
「それは違うぜ、カティネ。俺は俺のもんだ。好きにするだけさ」
「れお、好きでカティネといるか?」
「そうだ」
彼女は震えながら俺に尋ねた。
「わ、わたしのこと、すきか?」
俺は苦笑しながら言った。
「おう、好きだぜ。お嬢ちゃん」
「そ、それなら、その、えっと、あの、カティネと一緒になるか?」
一緒?結婚とかか?
俺は否定の言葉を発した。
「それはダメだ。俺は村の人間にはならん」
「カティネがれおの村の人間になるぞ!」
俺は苦笑いを浮かべながらカティネの頭を撫でた。
まだ状況は分からないがこのまま関係の修繕が無いようならカティネを村の外に連れ出すのが俺の役目だろう。
「恋なんてもんはするのも一瞬、醒めるだぜ。まぁ、今は俺が好きならそれでいいさ。お前の面倒は暫く俺が見てやるよ」
「むー、子供扱いか!」
「子供だからな。しばらくはここに寝泊まりしな。それで俺と一緒にいろ」
俺と一緒にいれば変なちょっかいは出してこないだろう。
その言葉にカティネは不満げに唸っていた。
「むー・・・分かった」
そう言って少女は俺の布団に入った。
おいおい。
「布団をもう一個用意する」
「一緒、だめ?」
「だめだ」
◇◇◇◇◇
さらに数日後。
「ほぅ、これがニョッキというものですか。おいしいですねぇ」
「そうかい」
あれから俺は男衆と一緒に畑に魔唱石の害虫予防を施したり、女衆に馬鈴薯の処理や料理を教えたりして過ごした。
ほかにもカカオをユノウス協会に出荷する取り決めや、種子の提供に対する正式な謝礼、ワープポイントの設置などが行われた。
そして、今日が最終日だ。
「カティネは貴方と行くそうです」
「ああ、俺のせいで住みづらくなっちまったみたいだからよう、その責任は取るぜ」
「はは、貴方がモテたことに罪などありますまい。ただ私も連日、男衆から相談を受けるのは疲れました」
「へー、そうかい」
どうやら男衆にも色々と不満があったようだな。
まぁ、表だった批判は出来ないようだが突然現れた旅の者に好きな女がメロメロでは愚痴が出ても、仕方のないことだ。
「おデブにもいろいろあらぁなぁ・・・」
「あの子をよろしく頼みます」
◇◇◇◇◇
その晩、俺はカティネと話をした。
今日は里を出る最後の日だからな。
こいつも不安だろう。
「じゃあ、俺に付いてくるということでいいんだな?」
俺の確認にカティネは小さく頷いた。
「うん」
聞けば、カティネの両親は他界してもういないらしい。
一人狩りをして生計を立てていたようだ。
まぁ、このままここに居てもしょうがないだろう。
カティネにとって良い事になると思う。
「あ、あのなー」
「うん」
「カティネはれおについていく、けど」
「けど」
「れおと一緒に居たいからだぞ」
「・・・そうか」
「れおが一緒に居てくれないなら、村に居る」
「そうか。ならお前が嫌になるまで一緒に居てやる」
そう言って俺はカティネの頭を撫でた。
すると、カティネは思い詰めた顔で立ち上がった。
「れお」
そう言ってカティネは自らが身につけている服に手をかけた。
軽く解くと、それはするっと落ちた。
うお、防御力低すぎだろ。
なんつう服だ。
いや、そうじゃなくて・・・。
「カティネは子供か、れお?」
一糸纏わぬカティネの姿に俺は混乱した。
しかし、表面上は冷静を装う。
「嬢ちゃんは立派なレディだよ」
「じゃぁ、して」
・・・。
・・・・・・。
するって何を?
「か、カティネはそういう経験があるのか??」
「ない。だから、れおのすきなようにする」
いやいやいやいや。
お、俺もないから。
「れお、して!」
「まて、カティネ!早まるな!俺たちにはまだ早い」
そういえば、カティネっていくつなんだ!?
「早くない!みんなもっと早いうちからする!ふつうだ!」
そりゃ、農村なんてそんなものだろうけどぉ。
い、いや。
「れお!」
カティネが俺に抱きつく。
おお、手が、手がおっぱいに。
お、おお。
「れお?」
「おっぱいきたぁあああああああああ」
「!?」
おっぱいがきたぁ!!
きたぁああああああああ!!!
「れお?ど、どうした??」
カティネのおっぱいに触れた瞬間、封印していた熱いパトスが吹き出してきた。
凍っていた俺の心が解け出す。
おお、おおおお。
おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい!
「れお!?どうした??」
おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい「きゃあ」おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい!
おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい「ちょ、れお!?」おっぱいおっぱいおっぱいおっぱい「ひゃ!?」おっぱいおっぱいおっぱいおっぱい「そこはらめぇ・・・」おっぱいおっぱいおっ「そんなとこ、やだぁ、大きぃ」ぱいおっぱいおっぱい「だめぇ・・・」おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい「ふあ、ああぁ」おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい!
おっぱーっっっいぃいいい!!!
「ふぁぁぁ・・・・・・」
・・・。
・・。
・。
◇◇◇◇◇
俺はやっちまった。
ブルーな気分で空を見上げる。
「れお、えっち。上手な!」
一晩開けて満面の笑みでカティネが俺にそう告げた。
「そ、そうか?」
というか、俺は何をした。
童貞の悲しさ故にお嬢ちゃんの体に夢中になっちまったようだが。
「れお、おっぱい大好き!」
「そ、そうか」
だ、だせぇ。
俺、果てしなくだせぇ。
「どうやら、昨晩はお楽しみのようでしたね」
「へ、ヘル!?」
「もの凄い嬌声でした」
「お、お前はぜったい寝てただろ!!」
間違いなく起きてないだろ!!
「・・・」
俺の追求にさっと横を向くヘル。
「私が教えました故にー」
「・・・ええ、まぁ、私は聞いてませんでした。しかし、おっぱいおっぱいと200回近く連呼していたと聞きましたよ」
ちくしょう。
いい加減を言いやがって。
「そんないうか!!」
「そうだぞ!たった523回だぞー!」
ええ!?
うわぁああ。
やめてぇ!!何数えてるのこの子!!
「ちなみに3回戦もした」
「それはそれは」
俺はぷるぷる震えていた。
そんな様子を眺めてヘルがニコニコと笑っている。
「まぁ、いずれにしてもありがとうございました」
「へ、なにがだ?」
「おや、ご存じありませんでしたか。ここは私を信仰する民の村なのです」
なんだと?
そういえば村の人間が大地神がどうとか。
「私がここの村の危機に気づいたのは先月ぐらいですね。ご主人様にお願いをしてここを訪れたのです。ある意味、カカオはついででした」
そうなのか。珍しく神様している神様だな。
まぁ、いいさ。
俺はカティネの肩を抱くと言った。
「帰るぞ、カティネ」
「はい!」
◇◇◇◇◇
それから一ヶ月。
俺はカティネとの新生活を始めた。
合間でチョコレートの開発などそれなりに慌ただしい日々。
そして、ついにその日はやってきた。
俺は神妙な顔でその男の前に座った。
ルーフェス・ルベット。
「話はメーリンから聞いている」
「そうか」
「どこぞの娘と結婚したいようだな・・・」
「ああ、そうだ」
「その娘、公爵家の嫁にふさわしいとは思えないな・・・」
俺はその言葉に苦笑いをした。
そう言うだろうと思ったよ。
「本気で結婚するつもりか?」
「ああ」
「ならば、条件がある」
条件?親父ならば、頭ごなしに全否定だと思っていただけに俺は驚いた。
「どんな条件だ」
「お前はなにやら料理をするそうだな」
あまり興味がないのだろう。
俺は苦笑しつつ言った。
「ああ、そうだが」
「俺が用意した料理人と勝負したら認めてやる。それでどうだ?」
「なに・・・?」
待て。
俺は仮にも最強の料理人の呼び声高い、ドン・レオポルドだぞ。
そんな勝負、本当に良いのか?
「分かってて言ってるのか?」
「?どうした?」
「・・・いや、良いぜ。受けてやる」
俺は笑った。
◇◇◇◇◇
俺は我が弟のユノウスに親父との話し合いの結果を報告した。
「そうか」
「すまないが暫くユノウス商会の仕事は休みだ。こっちに備える」
すると通信機越しにユノウスが尋ねてきた。
「本当にいいのか?」
「ああ、俺はカティネを娶るよ。決めたんだ」
すると、ユノウスが通信機越しに黙った。
「どうした?」
何かあったのか?俺が不安に思っていると弟が口を開いた。
「すまない」
「ん、何だ?」
何故謝る。いや、まさか・・・。
「おい、おめぇ・・・」
「本当にすまないな。レオ」
まて、まて。
あの狸親父まさか・・・。
料理なんて興味ない振りして、まさか・・・。
「親父の用意した相手は僕だ。レオ」
弟のその言葉に俺の心臓が跳ね上がった。
・・・な・んだと・・・?
―――――― 続く