その料理の名は(前)
イケメンにやられたあの日。
あの日以来、俺の心は深い闇に閉ざされた。
モテ道を捨てた俺は料理の鬼となった。
サングラスと呼ばれる黒い眼鏡に自分を隠し、俺の料理だけで生きていくことに決めたのだ。
弟ユノウスの配下となった俺は直ぐに頭角を現し、食部門を一手に任される存在になった。
立場がかわり、あの阿呆なイケメンは首にするか迷ったが、そんなみみちぃ真似をする小さい男ではないからな、俺は。
ただ実力的には本当にしょうもないので北の国に飛ばしたがな。
北のウォルドにはユノウス商会のパンマスターのクックじいさんが居るからな。
あいつはミッシェから離れて、あの人の元で一度修行した方が良い。
聞けば、最近はまぁ、がんばっているようだ。
この調子なら、そのうち中央に戻してやるか。
俺は資料をまとめると秘書から差し出されたブラックコーヒーを口にした。
ちっ、苦ぇ。
砂糖は医者にとめられてるからよう。
まったく生きづれぇ世の中だ。
魔法車がとある建物の前で停まった。
べオルググラード官舎。
「ドン・・・。ドン・レオポルドさま。こちらです」
「分かった」
俺は昇降機を待つ。
最上階に上がるとそこで俺の弟が待っていた。
15歳である弟を前に先日誕生日を迎えて一足先に18歳なったばかりの俺は目を細めた。
「良く来てくれたな。レオ」
「おう。で、今度の依頼はなんだ」
無駄な話は必要ないだろう。
今の俺はブラック無糖だぜ?
甘い話とおっぱいちゃんはごめんだぜ。
彼は苦笑すると言った。
「東の国で少し揉めててね。君の腕で倒して来てほしい」
「ああ、良いだろう」
それが俺の仕事だ。
料理で相手を屈服させること。
なーに、簡単なことだ。
俺が食の力で屈服させてきた地域は数知れない。
どんな紛争でも俺は勝ってきた。負けの味はしらねぇよ。
連戦連勝。人はいつしか俺をこう読んだ。
料理界のドミヌス。
ドン・レオポルドとな・・・。
◇◇◇◇◇
オーベル国ガルガタ領。
現地入りした俺は早速資料を確認した。
そして、不機嫌に呟いた。
「つまり、うちのファーザーズはガーベストバーガーとこの国のハンバーガーショップのシマを争っているというのか?」
「はい、それが苦戦続きでして・・・」
情けねぇ話だ。
俺は前にいる男、現地オーデル国のファーザーズバーガー部門の社長、ベールを前に不機嫌な顔をした。
つまんねぇ話聞かせる為に呼んだのか?
ガルガタは小麦の一大生産地だ。
最近は人の動きがどこも激しい。
最近は人が減って来ているオーデルではハンバーガーを観光の目玉にしようと考えたらしい。
確かにオーデルには小麦、牛、チーズ、トマトとハンバーガーに最適なご当地食材が目白押しだ。
だったらピッツァでも良いと思うが、それはすでに被っているからと言うことらしい。
ハンバーガー街にハンバーガーランキングなるものまで独自に初めて用意しているらしい。
随分な熱の入れようだ。
悪い事じゃねぇよな。
「ドン、ガーベストバーガーをお持ちしました!」
「話がはえな。よし、持ってこい」
ベールからガーベストバーガーを受け取る。
ふむ、まだほのかに温かい。
口に入れた瞬間、俺は笑った。
程良い肉汁が俺の乾いた心を癒してくれるぜ。
「ほぅ、うめぇじゃねぇか。それによく考えてある」
一個を直ぐに食べ終えた。
俺はベールの前で手をちょいちょいと動かした。
彼は首を傾げるとそこに手を置いてきた。
「ばかやろう!!おかわりだ!!」
「あ、ありませんよ!」
おいおい、たった一品かよ。
それじゃあ、リサーチにならねえだろ。
「ちっ、ダブルビーフパティトリプルチーズのHCだ。直ぐに用意しな」
「た、ただいま持って来させます!!」
俺は次のバーガーを待つまでの間、べールに問うた。
「ベール。連中の美味さの秘訣が分かるか?」
困惑したベールは呟いた。
「手間暇でしょうか」
確かにファーストフードのうちは商品にそこまでの手間をかけていない。
だが、それでも十分美味いものを俺は作ってきた。
それを超える味がこれには宿っている。
「ちげぇなぁ、こいつに美味さを与えているのは」
「な、なんですか?」
「郷土愛だ」
分かるな?
つまり、こいつを負かせるのは半端じゃねぇってことだよ。
俺は笑みを浮かべ、目を閉じた。
良いぜ。そう言う奴にも容赦しないのが俺だ。
徹底的にやってやる。
「それで?俺をわざわざ呼んだ理由はそんなもんじゃねぇんだろ?」
「実は美食家で知られるガルガタ公爵が四女になる娘の結婚相手をうちとガーベストのいずれか、今回行われる予定のハンバーガー対決で勝った方から取ると言う話になっておりまして・・・。ついで、勝った方と小麦の独占契約を結びたいと」
ガーベストバーガーとハンバーガー対決。
俺は苦笑いを浮かべた。そら、ついでは花嫁の方だな。
公爵ね。
三流国の公爵相手なら怖くはないが。
おもしろいことになっているな。
もし、ここでガルガタ地方の小麦をすべてうちが押さえれば、ガーベストバーガーの親元であるガルべラ商会が大打撃を受けるのは必至。
逆にうちが負けるとやっかいなガーベストがますます調子に乗りやがる。
「女はそれに従うって言うのか?」
「そうです」
はっ、頭の悪そうな話だ。
しかし、分からないでもない。
去年は小麦の豊作で先物が崩壊したからな。
契約農家制がメインのうちはまったく打撃を受けなかったが痛みを被った商会も数多くいたと聞く。
一方、ガルガタは去年、一人負けに近い不作でそれに豊作市場が重くかかって、こちらもダメージを負った。
ガルガタ公爵家は自領の農家を安定収入につながる契約農家にしたいのだろう。
「おもしれぇ。この喧嘩、このドン・レオポルドが買ったぜ」
「ありがとうございます」
◇◇◇◇◇
試合会場に入った俺は周囲を見渡した。
遠くに胸元の大きく開いた赤いフレアドレスの娘さんが居た。
ほぅ・・・。
おっぱいの大きな良い女じゃねぇか。
あれが今回の哀れな花嫁、ガルガタ公爵の四女エリーゼか。
「あれと、ローべスがくっつくって段取りか」
こっちの陣営の見渡すと奥の席に緊張した面もちの若い男が座っている。
アイツがローべスか。
うちの幹部のボンボンらしいな。
ふ、幸せそうな顔をしてやがる。
「そうです」
なるほどねぇ。
ああ、羨ましい話だ。
まぁ、他人の恋路に横から入り込んで痛くねえ脇腹を刺されるのもごめんだぜ。
ふっ、俺にゃ関係ないな。
ふと、娘さんの方を見ると隣に居る男とやたら親しげに話しているのが分かった。
へー、そうかい。
あの様子。俺にゃ分かるぜ。
あの顔。あの嬢ちゃんはあの男が好きなのかよ。
難儀なもんだな。
人は愛故に苦しみ、愛故に戦い、愛故に破れる。
そして、愛の果てに死ぬ。
「人は悲しい生き物だぜ」
「どうされました。ドン」
「さあなぁ・・・。ベール、あの男が誰か分かるかい?」
俺の指があの若い男を指した。
ベールが頷く。
「彼が今回の戦いでガーベストバーガーが用意した花婿、そしてガーベストバーガーの若き天才ハンバーガーシェフ。カーワン・オースティンです」
「ほぅ」
歳の頃は25、6か。わけぇのに良くやる。
あのボウズはそんな名前なのか。
あのボウズもまた愛にいきているのだろうな。
つれぇなぁ、つれぇよ。
「俺がここに居なきゃ運命も違ったろうになぁ」
だったら。
せめて。
神に祈るんだな。
奇跡って奴をよう。
◇◇◇◇◇
「勝負を開始します」
俺は今回の審査員のメンツを見渡した。
もはや、どこでもいるのが普通のクリフト大公にガルガタ公爵ガードナー。
オーベル国国王。オーブネル共和国公爵ヴィード。ファーラデン王国伯爵ロイエン。などなど。
どうやら20人近くいるようだ。
クリフト大公主催の奇天烈美食倶楽部のメンバーだな。
どうやら、ここの公爵の美食好きは嘘ではないようだな。
「おぉ、ドン。ドン・レオポルド。私は是非是非あなたの料理を口にしてみたいと思って居たのです!」
ガルガタ公ガードナーが握手を求めてくる。
やれやれ、随分と有名になっちまったぜ。
「ありがとよ」
軽く握手に応じて肩を叩く。
見れば、向こうの陣営からボウズが睨んでやがる。
俺はその様子に苦笑いを浮かべた。
「試合の前だ。悪いな。おやっさん」
「あ、ああ」
◇◇◇◇◇
「まずはガーベストバーガーです」
「はい。僕はこれを用意しました」
それを見た瞬間、審査員がどよめいた。
「おお、これは美しい」
具はレタスに、ベーコンに、ビーフパティ。
ふーん、トマトは抜いたのか。
それに白い・・・卵?
ソースが複雑に絡んで見える。
「頂こう」
ハンバーガーは俺たちにも用意されているらしい。
俺はそれを掴んだ。
ふふ、良い薫りだ。
持った瞬間に笑みがこぼれた。
「ほう。あえて卵入りのふわふわバンズを用意したのか」
味の親和性を考えた訳だな。
俺をそれを頬張る。
「うめぇ」
俺はがつがつとそれを頬張った。
味わいながら目を閉じる。
目の前にガルガタの荒涼した大地が広がるようだぜ。
ふ、やるじゃねぇか。ボウズ。
「うんうん。なんだか癖になるソースですね」
「刻んだ地元産のピクルスを自家製マヨネーズに和えたのか」
それが独特の旨味を添えている。
酸味を押さえたマイルドなマヨネーズにふわふわのバンズ。
それに味のメインであるBBQソースが良く合っている。
それと。
「マヨネーズとは別の風味のソースがありますね。これは」
「卵にかかってるのはオランディソースだな。ほう、卵はポーチドエッグじゃねぇか」
おもしれぇ。
こいつはパン・オブ・ザ・キングのハンバーガーと。
パン・オブ・ザ・クイーンのエッグべネディクト。
その合いの子らしい。
こいつらを見事調和させるとはなぁ・・・。
「ほのかにカレーの風味がありませんか?」
「パンズの両面にほんのり香辛料をつけて焼いてやがるな」
食べる度に客を楽しませる。
良い商品だ。俺が食ってこれだからガルガタ人なら、なおさら感動するだろう。
「このベーコンがまた絶品です」
「ああ。焼いた厚切りベーコンの塩味がまた食欲をそそるじゃねぇか」
審査員たちにも好評らしい。
無数の賞賛の言葉にボウズは頭を下げて笑っていた。
「ありがとうございます」
その様子に俺は目を細めた。
ふ、やるじゃねぇか。
「見事だぜ。ボウズ」
これだけのもんを用意するのにどれだけの情熱と愛を注いだのか。
感心するぜ。
ああ。
俺が相手じゃなきゃ良かったのによう・・・。
それが残念だ。
「では。次、ファーザーズバーガー」
「此奴がうちのバーガーだ。黙ってくいな」
俺が用意したバーガーが配られた。
大きく膨らんだ全粒粉のパンズ。上に振られたセサミ。
しゃっきりレタス。トマト。アボガド。チーズ。ピクルス。
その美しいハンバーガーをハンバーガー袋が優しく包み込む。
ディス・イズ・ザ・ハンバーガー。
審査員たちはそのキングオブスタンダードな佇まいに目を見開いた。
「なんという存在感」
「美しい」
審査員たちが一様に吸い込まれるようにハンバーガーを口に含んだ。
「おぉお、これは」
「なんとぉ」
がつがつ!
彼らは恐る恐る口に入れると次の瞬間、動物の様にハンバーガーを胃袋に叩き込み始めた。
その様子に俺は笑った。
「喉の奥から胃袋突き破って聞こえて来るだろ?肉汁への賛美歌が」
クリフト大公が叫んだ。
「うまいぞぉおおおおおおおおおおおお!!!」
「なんというニルヴァーナ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
審査員は狂乱し、ひたすらにハンバーガーを喰い漁った。
あっという間に一つのハンバーガーがなくなった。
「おかわりをくれ!頼む!」
「私もだ!早く!」
俺はベールの前で手をちょいちょいと動かした。
「ベール。二個目だ」
「はい!もう用意出来てます」
俺は笑った。
そうだ、成長したな、ベール。
ファーストフード店はそうじゃないとな・・・。
お前たちはファーストフードハンバーガーの店員だ。
客が求めるなら、一秒でも早く届けるのがその使命だ。
さっきは猛烈に食した者たちは今度は味わう様に口を動かす。
「嗚呼、なんという絶品。美味く言葉になりません」
「これほどの味をどうやって・・・」
言葉がない様子の審査員を代表してクリフトが俺に向かって言った。
「説明してくれるか」
「良いだろう。此奴は和牛ビーフを使ったハンバーグパティを使ったハンバーガーだ」
その言葉に一同は驚きの声を発した。
「和牛。聞いたことがある今、ユノウス商会が開発中と噂の肉牛の新種」
「そうだ。それも赤味が強い部分と霜降りの部分の二種類の粗挽きを使って作ったビーフ100%パティだ」
「それだけではこの肉汁の圧倒的美味さの証明にはなるまい。他に何を使った?」
そのとき、クリフト大公が吠えた。
「分かったぞ!!これは疑似フォアグラだ!!フォアグラの油の味だ!!」
「正解だ。芯の和牛部分には我が社特製の疑似フォアグラをたっぷりと使ってある。それを赤みの皮で包み込んだ」
クリフトはまだ笑っている。
「ふふ、まだだぞ!ドンよ。俺は分かったぞ!芯肉にあれを加えているな!!」
ほぅ、よく分かったな。
「まだ何かあるのですか!?」
「パオで俺はこれを口にしたことがある!!そう!ゼラチンだ!!」
パオ、おそらく小籠包だろう。
へー、さすがに伊達や酔狂で美食家を名乗って居るわけではないか。
良く勉強している。
俺は頷いた。
「そうだ。ゼラチンは肉の柔らかさとジュシーさをさらに高めるからな。フォアグラ・和牛・ゼラチン。これがこの大量の肉汁の正体だ」
本当は濃肉汁も加えているが、まぁ、そいつは少量だからな。
「このパンズも見事です。これだけの肉汁にまみれようとしっかりと美味しい」
「そうだ。今回のバーガーの為に特別に焼いた物だ。腰の強くしっかりした旨味が出る小麦を使っていてな。バンズに最適だ」
逆にいやぁしっかりしたバンズでなければ、これだけの肉汁に耐えられねぇ。
キャラクターが死んじまう。
「このレタスも絶品ですが、しかし、この、チーズ。さらにこの」
「完熟させたアボガドです。肉汁が多いですからね。最後はそいつの甘みが口の掃除をしてくれますよ」
「みなさん、外の赤身にも注目してくださいよ。ただ焼き固めるだけではありません。複雑な香料を肉に加えて焼いてあります。カリカリに焼き上げた肉のなんと香ばしく美味いこと」
「調理するところを見てきたが、風味豊かなオリーブオイルでパティをアロゼしていたな」
「そうだ」
まぁ、まだいろいろと仕込んでいたがすべてを明かす必要もあるまい。
料理は謎があってこそ、心に残る。
そういうもんだしな。
「たった一口で口の中に宇宙が誕生してしまった。これほどの深味、旨味。複雑にして、単純。深淵にして、浅い。高級さと俗っぽさ。見事だ。見事としか言えん・・・」
「おいおい、あんまり誉めるなよ。相手がいる勝負だからな」
ガーベストの小僧は俺のバーガーを口にしながら呆然と立ち尽くしていた。
余程、勝ちたかったと見えるが相手が俺じゃ儚いもんだよ。
夢と消える。
「どうして・・・」
その様子を見つめながら俺は一人呟いた。
「悪いな。ボウズ。俺にもあったみたいだぜ。ボウズの愛に匹敵する愛がな」
我が愛すべきハンバーガーへの敬愛が。
肉汁への純愛が。
悪いな、ボウズ。
俺もこの勝負、負けるわけには行かない。
俺はユノウス商会の看板背負ってるからよう。
ほんと、悪いな・・・。
「僕は、僕は」
「勝者!!ドン・レオポルド!!!」
遠く歓声が上がった。
俺は勝利のコールに小さく手を挙げて応じた。
それだけだ。必要以上に喜ぶほど、俺はもう餓鬼じゃねぇ。
まったく。いつだって勝利は虚しい。
俺にとって試合なんてもんはよう、ただ勝つだけの作業に等しいのだ。
◇◇◇◇◇
会場は祝宴ムードに包まれていた。
俺は会場をこっそりと抜け出す二人の姿を見つけた。
エリーゼにカーワン。
その姿を眺めながら俺はベールを呼んだ。
「ベール。例の話は決まったか?」
「はい!!話がつきました」
「そうか・・・」
なら、もう不毛な話を終わらせるか。
「俺はちょっと行ってくるぜぇ」
「え?どちらに?」
「つまんねぇ、野暮用だよ」
俺はベールにそう言うと会場を出た。
◇◇◇◇◇
会場の外は中庭になっていた。
そこに言い争いをする二人が居た。
「僕が君を幸せにする!!」
「無理よ!ガーベストをやめてどうする気なの!」
「それでも僕は!!」
「私、貴方が勝ってくれると信じてた」
「待ってくれ!僕にもう一度チャンスをくれ!!」
「チャンスって!ここから一緒に逃げてそれでどうするの?」
やれやれ。随分と熱くなってやがるな。
もう少し場所を考えた方が良いぜ。まったく。
俺は二人の前に立った。
「おい、ボウズ。花嫁を連れだしたと思えば何を言ってやがる」
「お、お前はドン・レオポルド!」
俺はエリーゼの手を掴むと25歳のボウズに向かって俺は言った。
「坊主。正々堂々とした勝負に負けて、その上でお目こぼしを頂こうなんて随分と都合が良いんじゃないのか?てめぇにとってあの勝負はなんだったんだ?」
「そ、それは」
俺はボウズの態度を鼻で笑った。
「てめぇの覚悟がその程度だからよぉ。信頼も失う。そして、誰も守れない」
「そんなことは無い!僕は彼女を守って生き抜いてやる!!」
「てめぇにゃ無理だよ」
ボウズは叫んだ。
「無理じゃない!!お前にだっていつか必ず勝つ!僕が絶対に彼女を幸せにするんだ!!」
ヒューと俺は口笛を吹いた。
俺はにやりと笑い言った。
「良く吠えたぜ。ボウズ。・・・良いぜ。それならそれをうちで証明して見せな」
俺のその言葉にボウズは目を見開いた。
「え?」
困惑した様子のボウズに向かって、エリーゼの腰を押して寄越す。
ボウズがエリーゼを抱く。
へ、絵になるじゃねぇか。お似合いだぜ。おめえら。
「うちのもんとそこお嬢ちゃんの結婚は無しだ。ガーベストバーガーはうちの参下に入った」
俺の言葉にボウズは呆然とした顔をした。
「え・・・」
「試合は最初から俺たちの出来レースだったのさ。
ガーベストの母体であるガルべラ商会は小麦と米の先物で大赤字を出していた。
ガーべストバーガーやいくつかの人気品目は赤字補填の為に売り手を探していた状態だった。
さらに俺たちはここのシマを狙っていた。
今回の勝負はこちら側からガーベストバーガーを安値で買いたたく為に仕掛けた物だ。
ガーベストバーガーの支持基盤が揺らげば、人気も落ちて安く叩けるからな。
てめぇら餓鬼どもはそれに巻き込まれただけだ」
種を明かせばそんなもんだ。
お前らの結婚云々なんて問題ではない。
そんなもので俺がユノウス商会が動く訳がない。
「う、裏でそんなことに・・・」
ボウズたちは何も知らなくていいのさ。
「今回はシマを荒らした詫び代だ。てめぇはその女とくっつきな」
俺がそう告げるとボウズは面食らった顔で言った。
「・・・良いんですか」
「当然だ。なんせお前も俺の部下だからな。ユノウス商会の人間とくっつくなら公爵も文句はねぇよ・・・」
ユノウス商会の誰かとくっつく。
それは別にうちの参下になったガーベストバーガーのこのボウズでもなんら問題は無いわけだ。
「あ、あの、私」
困惑した様子のエリーゼに俺は笑いかけた。
「ところでお嬢ちゃん」
「は、はい!」
「お嬢ちゃん。その美しい胸の谷間はその胸の内と一緒に大事に隠して置きなさい。そんな物を男に見せびらかしちゃいけねぇよ。男って奴はそんなもんでも悲しく踊っちまう生き物なのさ」
俺の言葉に少女は急に恥じらいを覚えた顔で胸を隠した。
「あの、その・・・」
「うちのローべスもおめぇの事が好きだったみたいだぜ。良いかい。あんたはもう人の妻なんだ。花や蝶よともて囃される時代は終わったんだよ。むやみに花弁を広げてよぉ。その花に他の男をいたずらにとめちゃあいけねぇよ・・・」
「は、は・・・い」
そう言って少女は顔を紅潮させて俯いた。
まったく、困ったおっぱいちゃんだぜ。
俺は苦笑しながら後ろを向くと歩き出した。
もう、仕事はお仕舞いだ。
俺は帰るぜ。
「あ、ありがとうございます」
その言葉に小さく手を振る。
「また、美味いバーガーを頼むぜ。ボウズ」
そう言って俺はガルガタの地を去った。