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転生したった   作者: 空乃無志
間章
71/98

レオ、哀の非モテ脱出大作戦(前)

6回連続、レオくんメイン回の予定です。(えっ)

間章なので番外編続きで御免なさい。これが終わったら3章に入ります。

残念回が続きますが3章に入ると一気にシリアスな話が増えていく予定です。

俺の名前はレオポルド・ルベット。

王立学院高等部1年。ルベット公爵家長子、つまり未来の公爵様だ。


かつては、可愛さと言う点において類を見ない美童子だった俺も15才という男前な年齢になったのだ。


この年齢になると色々と志向の変化があるものだ。

最近は食以外に女の子とか、女の子とかにも興味が出てきた。


食同様、女子もまた非常に高尚なテーマである。

興味深い。


想像してほしい。

おっぱいとか、お尻とか最高だと思う。


しかし、俺はモテない。何故だ。

俺は公爵家の御曹司だぞ?

頭の悪い女が向こうからやってきてケツを振りながら列を為すべきではないのか?


もちろん、そんな女は願い下げだ。

俺の理想は気高い。


まず、おっぱいが気高くないとダメだ。

ケツだって、こうぷりぷりっとしてないと。


「まったくおかしい世の中だ」


俺の一人言を聞いていた隣の男が切れた。


「てめぇ!!しゃべってるとなぐるぞ!?」


「ふ、雑魚が」


俺は隣の男を嘲笑した。

確かに、この戦場において無駄口を発した俺は殺気だった者たちの格好の標的にされるだろう。

しかし、ここでの俺は無敵だ。


此処はお前たちの戦場ステージではない。


俺の独壇場だ!!


見るが良い、この唯一無二の吸引力を!


「な、なんだと!?油野菜タレマシマシ超特盛りが一瞬で消えた!!?」


隣の男は驚愕に目を見開いた。


着丼から伏せ丼までわずか30秒。

俺の神速に追いつける猛者は此処には居ない。


ドン!!

と強烈な音を立てて俺は伏せ丼した。


店長が伏せ丼を華麗に決めた俺を睨んでいる。

ふ、その怒り、甘んじて受けようか。

伏せ丼は美学。


「し、信じられねぇ」


「残念ながら、貴様とは人種が違うのだ!」


俺はシロリアンと呼ばれる選ばれしエリートなのだ。

この程度、造作も無い。


「店長、おかわり!」


「並び直せ」


ちっ、仕方ない。何度やってもダメか。


常連にも容赦がない店長に暫しの別れを告げると俺はのしのしと歩き、シロウラーメンの列の最後尾にまた並んだ。


ふふ、今日はあと3杯はいけるぞぉ。





◇◇◇◇◇






俺は日課となっている銀座通りのシロウラーメンでの昼食(計5杯、3時間)を終えて家に帰宅した。


冬だと言うのに滝のように汗が出る。


俺はさっそく、母であるメーリンに会いに行った。


「お母様、新たなお見合い写真は来ましたか」


「えっ、・・・ええ。まぁ何通かは」


この際、おっぱいは結婚相手でも良いだろう。

手っ取り早くおっぱいする為に俺はお見合いに勤しんでいた。


よし!

俺はさっそく新たなお見合い写真を広げた。


「く!!なんだこの雑魚どもは!!」


俺の要求するレベルに全く達していないではないか!!

そもそも3才と49才とかふざけるな。


雑魚どころか、稚魚と死魚じゃないか。


「雑魚とか言わないで。お母さん、これでも先方には必死で頼みこんだのよ?」


「却下です!却下!お母様!」


どういうことだ。

世の女どもに俺のステータス(公爵家・最強属性)が効かないだと?


あり得ない。理解できない何かが起こっている!


「ねぇ、レオくんはダイエットしないの?」


俺の母親がそんなことを言う。

俺は鼻で笑った。

んがっ。


いかん、上手く笑えずに鼻に詰まった。


「無理ぃ!!!」


「そ、そう・・・」


俺はデブなことなど些細な問題だ。

なんせ公爵様だからな。公爵さまだからな。

モテないことには全く関係ない。


「ねぇ、最近、私の下着がよく無くなるんだけど、どこかで見かけなかった?」


「俺は知りません。お母さま」


「そう・・・ほんとう、どこに紛れ込んでいるのかしら」


困惑する母を前に俺は目を閉じた。


18才で俺を生んだ母はまだ若く美しい。


ふっ。俺から言えることはただそれだけだ。





◇◇◇◇◇





人は考える生き物だ。

考えれば、大抵のことに答えは見えてくる。


だから、俺は考えた。


俺は公爵さまと言う最強のモテ要素を持つ。

しかし、何らかの運命力の阻害によってその力は表面化していないのだ。


今の俺のモテ状態は限界まで大量の水を張ったお盆のようなものだ。

拮抗を破る何か、滴の一滴の様なきっかけ。

それが在ればいいのだ。


後一つの要素が俺に加われば、無駄に極限まで頑張りに頑張まくっている表面張力がその役割を終え、雪崩うつ様に女どもが俺の腕に飛び込んでくるに違いない。

間違いない。


ちなみに俺はおっぱいの事を深く研究する内に表面張力というものの存在を知った。


ぷるるん。


「まったく、愚かな女共に俺を気づかせる作業を俺自身に課す羽目になろうとはな!」


そして、俺の明晰な頭脳は既に結論を見いだしていた。


完璧な俺に僅かに足りない要素。

それは。


「仕事だ。モテる男は背中で語るのだ!」


ははは。

しかし、これでこのレオ様のモテモテに待ったを掛けるモノは無し。

おっぱいを空けて待っているが良い、女どもよ!!


そして、俺が情熱を傾けるに値するもの。

それがこれだ!!


意気込む俺は銀座通りにあるビルの一つに入っていった。


「頼もう!」


事務室と思われる場所で数人の人物がたむろしていた。


「誰だ。お前は」


その男を見つけた瞬間、俺は勝利を確信した。


「俺はレオポルド・ルベット!公爵家ルベットの嫡男。貴方が伝説のラーメンマスター・ルイエさんですね!!」


「ら、ラーメンマスター?ルベット家?オーナーの実家の?・・・まぁ、ユノウス商会のラーメン部門を指揮しているのは俺だが・・・」


やはり、そうか。

俺はルイエに対し、すかさず手に持った品を差し出した。


「これをどうぞ!!」


「お、おう、どうも」


これぞ、貴族伝統の必殺技、OMIYAGEである。

これでまずは相手の心をがっちり掴む!!

完璧だ。


「高級菓子折り。うちの商品じゃないか・・・」


「俺をシロウラーメンで雇って下さい!」


そして、有無を言わせぬこのタイミング。

まさに完璧。


「な、なに?おい、誰か、オーナーの確認を取ってくれ」


「はい」


何か慌ただしい。

オーナーだと?

その誰かと誰かが、関係しているのか?


そういえば、俺の不肖の弟が遠く、べオルグの地で一角の成功を収めたらしいな。


この間、辺境伯の地位に就いたと風の噂で聞いた。


「通信機がユノウス社長と繋がっている」


そう言って通信機なるものを俺に差し出した。

なんだか知らんが通信機というからには通信するのだろう。

手信号なら知ってるぞ。


いや、問題は其処ではない。


「なに??お前たちの社長だと!?」


そんな大物に取り次いで貰えるとは。


ふはははは、どうやら公爵家の威光が効き過ぎたようだな。

ふふ、まさかユノウス商会の社長自ら請うて俺と話したいとはな!


「何ってお前さんの弟だろ。ユノウス・ルベット」


「え?・・・・・・まじかよ」


え、何?

あいつ、ユノウス商会の社長なの?


・・・知らなかった。

今や、世界を牛耳ると言っても過言ではないユノウス商会を俺の子分と言っていい、あいつが運営しているだと?


まったく、使えるコネが増えるじゃないか!!


ふはは!

これからはあのシロウラーメンの店主も俺のおかわりを拒否できまい!!


善き哉、善き哉。


通信機なるものを俺は耳に当てた。


「おう、どうした。レオ」


あいつの声がした。

なんと!こういうアイテムなのか。


これで遠くと会話できるわけか。

まぁ、良い。俺は単刀直入に言った。


「俺をお前の権力でシロウラーメンに働かせろ」


「・・・なんだ、勤労の喜びにでも目覚めたのか?メーリンさんから、お前の事は何度か相談を受けたが、自発的に変わるなら喜ばしいな。ただ、シロウは店が狭いからお前には無理だ。今度できる新店でどうだ?」


なに?母がなんだって?


・・・まぁ、良い。

俺の為の舞台ステージであるシロウラーメン。


たしかに、あの店は狭い。

特に調理場は極限の狭さだ。


俺の畏怖すべき巨漢が入れば、歩くことすら適わないだろう。


盲点だった。

確かにその点から見れば、シロウは俺には似つかわしくない。


彼処は俺が華麗に舞うには狭すぎる舞台ステージだ。


俺により相応しいステージがあるのなら、其処に向かうのも吝かでは無いだろう。


「良いだろう」


「おう。じゃ、頑張れよ」




◇◇◇◇◇





ユノウスの紹介を受けて俺は一軒のラーメン屋を尋ねた。

その店は銀座通りから飛び地したところにあった。


「なんだ、この妖気は!!」


見るからに他者を圧倒する妖気をその店は放っていた。

この異様なオーラは一体どういうことなのだ。


「来たな」


幽鬼の様にやせた男が店から出てきた。

俺は畏怖を感じながら尋ねた。


「お前がここの店主か」


「そうだ」


俺は思わずその男に尋ねた。


「この異様なオーラは何だ?ここのラーメンは普通のラーメンなのか?」


ふふふ、と。

男は不適に笑うと俺に言った。


「ここはかつて銀座通りに店を構えるも周囲の店から苦情が殺到し、たった一日で閉店してしまった失われたラーメンの系譜、トンコツを出す店なのだ」


トンコツだと。

まさか。

そ、そんなラーメンがこの世にあったなんて。


臭気。

そうか妖気というか、これは臭気か。

なんとなくそんな気がしたが気のせいだと思った。


この店は驚くほどに臭い。


「臭気か。たしかに臭うな」


だが、分かる。

シロウで慣らされた俺にはこれが美味を生む臭いだと本能的に理解できた。


今のラーメン界の主力とされる塩、醤油、鶏ガラ、魚介のラーメンに匹敵する何かだ。


「だがそれに見合うだけの味が此処にはある」


男は言い切った。


その男の断言に俺の腹は踊った。

言い間違いではない。今の俺に腹と胸と首の区別など無いのだ。


俺は酷く緊張しながらその男に頼んだ。


「一杯、頂いても良いか?」


「良いだろう」




◇◇◇◇◇





「どうぞ」


待つこと、暫し。


現れた新たなラーメンの姿に俺の目は釘付けになった。

なんだこの美しすぎる白濁色は。


その白に目を奪われていると店長が言った。


「早く食べないと伸びるぞ」


「頂きます」


白い海から小麦色が美しい麺を俺はすくい上げた。

それを口に入れた瞬間、俺は叫んだ。


「美味いぞぉおおおぉおおおおおおおおおおおお!!」


なんたる美味。

まさに、これぞ、新たなるラーメン!!


ああ、なんと濃厚でクリーミーなのだ。


まるでポタージュのように濃厚なスープに溢れんばかりの豚の骨の随に詰まった旨味が込められている。


その海を泳ぐこの麺の美味さといったら、乳液の海を泳ぐ美白マーメイドのようだ。


美味さのためだけの濃縮。


「豚骨と言うからには豚の骨のスープだと思ったがこれほどの濃さ、どうやって?」


「ああ、骨を細かく焼き砕き、それを何日も掛けてじっくりと煮込む事で、ただ煮るだけの数倍の濃さを実現したのだ」


ダイナミックでありながら、木目の細かい繊細さも兼ね備えている。


上に乗った具もまた絶品であった。

豚の角煮。からからに揚げたオニオンチップ。

焦がしニンニク。そしてざく切りのキャベツ。


歯ごたえと苦み、甘み、旨味。


見事な旨味のハーモニーがここにあった。


これほどのラーメンがこの世に存在したとは。


俺の腹は喜びに震えていた。


確かに俺の魂の器は愛すべきシロウの存在で埋まっている。

しかし、その上に広がる、ザ・俺宇宙。

そのそらを彩るに相応しい一等星の輝きがこのラーメンにはある。


新たな恒星の誕生に俺は今、立ち会っているのだ。


「マスター、この新たなるらーめんの名前を俺に教えてくれ」


「背脂ちゃちゃ焦がしニンニク特濃トンコツ豚角煮一枚増しパーコーメンだ」



なんという美しく耳に心地よい呪文なのだ。


俺は涙を流した。


此処に又、新たなるらーめんの歴史がまた1ページ。





◇◇◇◇◇






店長の男はナガ・ハマーという名前らしい。

これにバイトのアジ・コッサリと俺が居て、それがこの店の店員のすべてである。


ちなみにバイトのアジは禿だ。


「禿じゃねーよ!剃ってるの!!これスキンヘッド!!」


「禿の戯れ言など聞かん」


「聞けよ!聞いてくれ!!俺の地肌はまだ生きてるから!!」


髪の毛同様に虚しい男だ。

俺にとってアジのハゲなど、どうでも良いことだ。


店は開店早々、長蛇の列ができた。

中々の盛況だ。


俺は開店に際し、一週間の訓練で培った技術を遺憾なく発揮した。


俺が食に手を抜く事などありえん。


見よ。

昨日寝ないで考えたこのダイナミック湯切りエクセレントぉを!!


俺の圧倒的湯切り力に客が湧く。


「すげぇ、おやじ、あいつすげぇよ!」


「水飛ばしすぎだろ!」


どうだ。この働く男の姿は!

この俺の姿を見れば、女共もたちまち濡れ濡れだろうな!!

ふはははは!!


「おやじ、客が濡れ濡れだ!」


「あ、あいつ、飛ばしすぎだ!!」





◇◇◇◇◇





とんこつラーメン店、俺の拳骨が開店して一週間が過ぎた。


「おかしい」


何故か俺は未だモテていなかった。

なぜだ?なにが悪い?


俺の運命力はこうも強固なのか?

そもそも、このラーメン店、客が野郎ばっかなのだが。


これでは女にモテようにもモテられない。


「何故、女が来ない」


「旦那、そりゃ、この臭いじゃ女性客は逃げるって」


な、なんだと!?


そうか。盲点だった。

アジもハゲのくせに良く気づいたな。


「ハゲじゃないぜ!!」


俺はその言葉を無視すると緊急事態に震えた。

拙い。拙いぞ!!この状況!!


俺は早速、店長のナガの元に歩いて行った。


「ナガ、この店はこのままで良いのか?」


「なに?」


「たしかに、開店から一週間、客足は途絶えていない。しかし、超人気店であるTUKEMENさんりんしゃやリピーター率最強を誇るシロウラーメンに並ぶ店に育ったとは言えない」


「そ、それはたしかにそうだな」


「そもそも、異臭騒ぎを起こすばかりのこのままでは豚骨の味を世界中に広めるのは夢のまた夢。ならば、受け入れやすい新たなるレボリューシュンが必要ではないのか」


「たった一週間でレボリューションだと!?な、なるほど。で、どうする気だ。レオ」


「俺に考えがある」


俺は笑った。




◇◇◇◇◇





王都からべオルググラードまでは世界門ワールドゲートと呼ばれる転送門を使うと一瞬で飛ぶ事ができる。


こんな便利なものを作ったユノウス商会の技術力は恐ろしいものだ。


俺はチケットを購入し、べオルググラード行きのワープポイントに乗った。


目指すのはべオルグラード官舎。


俺はかなり大きなビルに入っていくとユノウスと会わせるように受付嬢に依頼した。

受付の娘はかなり困惑したようすで色々なところと連絡を取ってくれたがなんとか取り次いでくれた。


しかし、今の受付嬢めっちゃくちゃ美人だったな。


俺がユノウスだったなら、今頃πタッチし放題だと言うのか!!


くそ、うらやましい奴め。

俺は奴がいる執務室に入っていった。


「ユノウスはいるか」


「久しぶりだな。レオ。ラーメン家業はどうだ?」


俺は首を振った。


「ふん、実は問題が起こってな」


「なに?売り上げは好調だと聞いているが」


「女性客が来ないのだ」


「それは・・・シロウもそうだろう」


「シロウは良いのだ。シロウは。そこで俺は新たなラーメンを考えた。あの店で出したい。そこでやって欲しい事がある」


その言葉に弟は苦笑した。


「店舗の増築か。女性向けを考えるなら、臭いのない別スペースを作る必要があるな」


さすが、商売人であるこちらの意図をすぐに読みとったようだ。


「ふ、話が早いな。併設だからな。調理場は一緒で良いからなぁ、仕切りを作って新ラーメンを提供する方はおしゃれなオープンカフェにしたらどうだろう」


「この冬にか?」


「ラーメンは寒い方が美味い。それに俺の新ラーメンは身体が暖まる」


「ほぅ、で、その新ラーメンとはなんだ?」


その言葉に俺はにやり笑った。

背負ったリュックサックを示しながら言った。


「厨房を貸せ。すでに食材の仕込みは終えてある」





◇◇◇◇◇





ユノウスは神妙な顔で俺の作ったラーメンを食べた。


「驚いた。お前がこれを考えたのか」


「ふははは、そうだ!驚いたか!」


弟ははっきりとした驚きを顔に浮かべていた。


「ああ。ある意味においてこれほど難しいラーメンもそうそう無い。このラーメンをまさかいきなりこのレベルで仕上げてくるとは・・・」


「何!?まさか、お前はこのラーメンを既に知っているというのか?」


俺以外にこのラーメンにたどり着いた男がいるというのか!?

困惑する俺に追い打ちを掛ける様に弟は言った。


「足りないな」


「何!?」


「確かに良く考えられている。これは確かに女性に受けるラーメンだろう」


「そうだろう!」


この料理は完璧だ。

足りないモノなどない。


「だが、あと一つ足りない。お前にそれが分かるか」


「なんだと!?このラーメンに一体何が足りないと言うのだ!?弟!!」


すると、弟は手をこちらに向けると何かを呟いた。


「サモン」


弟の手のひらにそれが現れた。

丸いソレを俺に投げて寄越した。


「お前、まさか、それをラーメンに使えというのか!?」


そうか。

たしかに、女性に受けるラーメンに必要な最後の要素にソレは必要だ。


「これでこのラーメンは完成する。使い方は分かるな」


「くく、誰に言っている」


ふははははは、これでかつる!!

俺はついに俺モテモテラーメンを完成させたのだ。




◇◇◇◇◇





暫くして、リニューアルしたヌードルショップ 俺の拳骨/舞麗麺ブレーメンが開店した。


それから一週間。


「旦那!新ラーメンもすごい売れ行きだぜ」


「そうか!ハゲ!やったな!!」


「ハゲじゃねぇ!!アジだ!!」


ふはは、見ろ。


女が列を為している!


俺のラーメンを求めてな!これはモテる!

モテるぞー!!


「たのもう」


そう言って一人の客が入ってきた。

ん、あいつはどっかで見覚えが。


「!?あの御方は奇天烈大公、クリフトさまだ!!」


「なんだと!?」


そうか。そういえば、豚骨の時も開店の列に並んでいたな。

大公だと言うのになんという暇人。


公爵の嫡男でしかも学生でありながら、勤労に勤しむ俺とは人としての格が違う様だ。

もちろん、俺の圧倒的勝利だ。


周囲のバイト共が気後れしている中、俺はクリフト大公の前に立った。


「ご注文は?」


「噂のブレーメンを頂こうか」


「分かった。では少々、待つが良い」




◇◇◇◇◇





クリフト大公は目を見開いた。


「これはまた、美しい」


小麦色の輝く麺。

薄茶色のルビーのようなスープ。

刻んだ生のタマネギ。

中の海老が薄く透ける白いワンタン。

艶やかな赤い肉。

その横の茶色い肉。

上に緑の香草が乗っている。

アクセントのように鎮座する真っ赤なクコの実。

そして、かすかに振られた黄色何か欠片が見えた。


見た目の優雅さ艶やかは他のラーメンの追従を許さないだろう。


「ふむ、見事な美しさだな。見たところ端麗系のラーメンのようだが」


「ふ、そう思うなら食べてみろ」


クリフト公はスープを一口飲むと目を見開いた。


「なんだと。これは一体?む、むむ、このどこか甘い独特の味わい。口にするのは初めて。しかし、どこかで。いや、そうか。コムタンに近いのだ!!これは牛骨ラーメンだな!!」


驚いた。まさか、一瞬でこれを見抜くとは。


「ほぅ。さすが美食道楽大公だな」


クリフトは更に食を進めた。

食べる度に新たな発見が口の中に広がっていく。


「複数の薬膳を使っているな。スープに使われている生姜が身体を暖めてくれる。このスープ。それだけではあるまい。・・・なるほど、コラーゲンか」


「そうだ。冷え症な女性向けに身体を芯から暖める薬膳や生姜を多く使い、また肌を美しくすると密かにブームになっているコラーゲンをたっぷりと使用したのだ」


おそろく計算しつくされた料理だ。


「この上に乗ったのは牛すじと、そして」


「脂肪分の少ないローストビーフだ。これを使うことで太りにくく食べ応えのある肉分を補強したのだ」


「なんという絶品の肉よ」


しかし、それだけではない。

このかすかに香るさわやかな後味の秘密は何だ?

クリフトは舌でスープを転がし、ソレを理解した。


「そうか。このような形で料理で使う手があったのか!!これは、この黄色いモノは柑橘類の皮だな!!かすかに口に残り、印象的なさわやかさを演出している!!」


「ふふ、それだけではない。これを使え」


クリフトは俺が差し出したモノを一滴、ラーメンに注ぎ込んだ。

すると一気に芳醇な香りがラーメンを包み込んだ。


「フルーツ酢だと!一口毎に口の中に広がっていく、この芳醇な香り。なんとも言えぬ。まさか、いままでのこってりラーメンの常識をこれで変えると言うのか!?」


クリフトは席を立つと大声で叫んだ。


「まさに此処がラーメンフロンティア!!豚骨と牛骨。新たなるラーメンの潮流の誕生に俺は感動している!!!」


「うるさい!迷惑だから帰れ!」


「くっ!」


周囲の女性客がクリフトを何事かと見ている。


その衆目がさすがに恥ずかしかったのかクリフトは席に座るとしばらくの間、おとなしくラーメンをすすっていた。


「・・・ところでこのラーメンを考案したのはお前なのか?」


「そうだ」


「見事だな。ほめてつかわす」


まぁ、最後のオレンジを寄越したのはユノウスだが。

99%を作ったのは俺だ。


俺のラーメンと言って間違いないだろう。


すると、隣の席に着いた別の女性客がメニューを尋ねた。


「あのー、一番人気はどれですか?」


増員したバイトの男が注文を取りに向かう。

そのバイトはにっこりとした笑顔で女性客に言った。


「はい、こちらのリコピンたっぷり、ユノウスオーナー特製レシピ、ルルフェリット産旨塩トマト麺3種チーズ添えになります」


「やだー、これすごくおいしそう」


「これにしよう!」


その会話にクリフトが唖然とした顔をした。


「え、なにこれ、一位じゃないの?」


「ち!!女のチーズ好きを甘く見ていた!!」


ユノウスがこれもついでにやれと寄越したトマト麺のレシピ。

こんなものが受けるものか、と甘く見ていたが、まさかの大ヒット。


俺の牛骨は今、女性支持二位に甘んじている。


まぁ、牛骨はとなりの拳骨でも出しているので総合では不動の一位だが、男性でも喰いごたえのあるヘルシー麺という不当な評価を得ているのだ。


これほど美容にこだわった俺のラーメンが二位だと!?

完全女性向けに作ったのにぃ。


しかし、あんなミートソーススパもどきに遅れを取るとはなんたる失態。

己、おのれ!!ユノウス!!


「ならば、次はトマト麺を頂こう」


「並び直せ!」


「くっ!」




◇◇◇◇◇






一週間後。

店は以前の三倍の集客を記録する様になっていた。


しかし、俺のモテ期はまだ来ない。


「何故だ」


俺は頭を抱えた。ここまでやって何故、モテない。

絶望的な運命力の強さに俺は困惑していた。


どうして、俺のモテを阻むのだ、運命よ!!





◇◇◇◇◇






ナガは厨房で苦悩する一人の男を物陰でそっと見ていた。


「こんなに成功してるのにまだ苦悩しているのか。レオよ」


「まじかよ。すげぇ」


ナガは確信を持って呟いた。


「俺に何かあったとき、店を継ぐのはあいつだ、うっ、ごほごほ・・・」


「お、おやじ」


アジがナガの元に駆け寄る。

ナガはアジに向かって首を振った。


「心配するな」


アジは本当に心配な顔で言った。


「おやじよぅ、冬なのにそんなに薄着でいるから風邪ひくんだぜぇ・・・」


「ばかやろう。ラーメン屋は白い肌着のみと決まっているんだ!!」


とにかく、あの男と共にある限りこの店の栄光の日々は続くだろう。


「まったくとんでもねぇ奴だよ、ごほ。ごほ」


「もう帰って休めよ、おやじぃ」




◇◇◇◇◇





最近、結構かわいいリピーターの女性客が毎日、ラーメンを食べに来ている。

その少女は俺を見るといつも顔を逸らすのだ。

その顔は少し赤らんでいるようにも見えた。


間違いない、あれは俺に惚れている。


「ふふ、ついに来てしまったか」


モテ期が。

さすが俺、もっている男は違うのだよ。

君たち。


「旦那、上機嫌だな」


「当然だ!ついにおっぱい本願成就の時が来た!!」


それだけだ!!




◇◇◇◇◇





俺は厨房を抜け出すと少女の後を追った。

店を出てすぐのところで声を掛けた。


「待ちな、お嬢さん」


「え、あ、貴方は!?」


俺を見るや、少女は顔を逸らした。

その顔が赤らむ。


俺はその姿に確信した。

完璧じゃねぇ?これ、俺勝ち確じゃねぇ?

決まった。完璧なる勝利に美酒に酔え、俺。


ふははっは、敗北が知りたいものだ!!


「お嬢さん、どうしていつも恥ずかしがっているのですか?」


「す、すみません。失礼だとは思ったのですがつい」


失礼?


「つい?」


ついなんだ?


「すみません、い、いきを止めていたものでぇ」


そう言って俺と反対を向いて呼吸をした。


・・・・・・え。


「どういうことだ」


俺が近づくと少女は一歩下がった。

なにぃ!?


「ご、ごめんなさい。私。苦手なんです!その臭い!!」


「なに。苦手だと?なにがだ?」


意味が分からない。

少女は必死な顔で俺に言った。


「だって貴方、全身からニンニクと豚骨の臭いしかしません!!私、それ苦手で、本当にごめんなさい!」


少女は脱兎の様に走り去った。


その少女の言葉に俺は震えた。


確かに俺は豚骨ラーメンの心臓とも言える豚骨の煮出し作業を一手に担っていた。

俺以外が仕込むと味が一段落ちるからな。


毎晩、夜な夜な超濃厚豚骨入り寸胴鍋と俺は過ごしてきた。


そういえば、最近、母が俺の洗濯物を分けるようになった。

なんで別に洗うのか分からなかったが。


それか。

俺の骨の髄までトンコツの呪われた妖気がしみこんで居たのか。


それが原因で俺のモテオーラがイかれていたのか。


新たなモテ要素を得ようとして、あってはならない業を俺は背負ってしまったようだ。


俺は崩れ落ちた。


「そうか。俺は牛骨ラーメンの時と同じ過ちをぉ!!」


俺に足りないもの、それは。





フレグランスりょくだったのだ!!






「なんたる失態ぃいいいぬぅうううううう!!!!」






◇◇◇◇◇






次の日、俺は臭いラーメン屋をきっぱり辞めたのだった。


―――――― 続く

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