王家の結婚※
先輩の名前をユーリカからカタリーナに変更しました。
※7月12日イラスト追加
私と彼の出会いの物語を始めようかと思う。
大した話ではない。
さらっと流してもらって結構だ。
私、カタリーナ・アルバート・アルフレッドは大国テスタンティスの属国アルフレッド大公国のお姫様だ。
家を継ぐ予定は無いとは言え、この国においては王家に次ぐ立場にある大公家の長女である。
だから、まぁ、それなりにお姫様だ。
私には気になる男の子がいる。
一つ年下の男の子。
ライオット・ディオス・テスタンティス。
この国の王様候補と言う地位も去ることながら、かなりの美男子だ。
白馬の王子さまと言うには肩の張った男の子。
凄い生真面目くんでおちょくるとちょっと可愛い。
私は密かに彼に嫁ごうと決めていた。
地位的には十分釣り合う。
彼は知らないだろうけれど、お父様を通して話を進めている。
幸い、彼には有力な子女の婚約者はいないらしい。
そんな折り。
私の後輩の一人が意を決して彼に告白した。
おお、行ったと私が感心して見ていると彼がさらっと返した。
「その気持ちには応えかねます。私には心に決めた女性がいますので」
後輩はわんわん泣いて去っていった。
可哀想に。
しかし、心に決めた女性?
一体、誰だろう。
と言うわけで早速、調べてみた。
どうやら、ライオットくんはアイラという年上の女性が好きらしい。
ちなみに故人だ。
ライオットくんはその娘に命を救われたらしい。
ちなみに父親の側室。
難儀な。
なるほど、これは恋愛できそうに無いわね。
これは、なかなかにライオットくんらしい。
実にらしい。
私は二人きりになったとき、こっそり注意した。
「ライ君、後輩泣かせちゃ駄目だよ」
「先輩、ご存じでしたか」
しかし、先輩かぁ。リーナとか呼んで欲しいけど仕方ない。
ライオットくんだし。
◇◇◇◇◇
私と彼が初めてあったのはもう4年も前になる。
彼が初めてデュエルの候補に選ばれて、その時に初めて顔を合わせたのだ。
彼はその時まで王室茶会にすら、呼ばれて居なかった。
当時の私は先輩たちの太鼓持ちを漸く終えて、王立茶会で派閥を作り始めた頃だった。
私はライオットくんを見て、すぐに決断した。
よし、この子を引き込もう。
だって可愛くて格好いいもん。
「ライオットくん、おねえさんの派閥に入らない?」
「はぁ、よろしくお願いします。カタリーナ先輩」
楽勝である。
ライオット君、芯が強いように見えて流され系だから。
この日からライオットくんいじり、もとい、愛情表現が始まったのだ。
この際、多少の愛情表現は許して欲しいものである。
もの凄く可愛がったとだけ言っておこう。
それに一緒に居て気がかりな危うさも感じた。
彼は自分なんてどうでも良いと心底思っているようなところがあるの。
そんな事無いのに。
君の事、大切に思ってる人も居ると思うよ。
ほら、私とか。
駄目かな?
ここは妹さんにしておくか。
私の密かな布教活動もこの日から始まった。
お父様にそれとなく、彼の事を売り込んでみる。
お父様は第一王子やら第4王子やらはどうかなんて話をした。
よりにもよってべオルガーヴィ?
やれやれ、お父様ったらあんな陰険な男を。
仕方ないわね。
当時の彼は王家でも何の地位もない子だったもの。
私は茶会を通して、ライオットくん有能アピールを開始したの。
茶会を制すもの大国を制す。
なんて言葉があるくらいに貴族では茶会の占めるポジションは重要なのよ。
実際、彼は優秀だったもの。
あれよと言う間に序列の筆頭候補になった。
お父様もついに私の希望を認めてくださった。
私が婚約者になったことを告げた時、彼ったら随分と困った顔をしていた。
「先輩がですか?」
「何か不満かしら?」
「いえ、その。先輩こそ、ご不満では?」
まぁまぁ、そんなこと言っちゃって。
私は内心の浮かれ具合を隠すのに必死ですけど。
それで罰が当たった訳ではないのでしょうけれど。
暫くしてべオルガーヴィのクーデターがあったの。
フルド公の暗殺があって、私はお父様によって屋敷に軟禁されてしまった。
本当に不安だった。
彼が無事にこの難局を乗り切って、王になったと知らせを受けた時は涙が出た。
彼と再会したときは泣いて抱きついた。
「先輩」
「ごめんね」
一緒に居てあげられなくて。
ああ、こういう肝心な時に私ってば、本当に駄目なんだから。
あの事件以来、ライオットくんは随分と大人に成った気がする。
そりゃ、前から大人びた子だったけど。
すっと真っ直ぐに芯がはいったような気がする。
もう、ますます格好良くなって。
そんな最中、ライオットくんが私に隣国のファリ姫を側室に招く予定になった事を告げた。
「すみません、先輩」
もぅ、ライオットくんたらそんなイタズラがバレて怒られそうになってる子犬みたいなしょんぼりした顔しちゃって。
可愛いんだから。
「そんなこと、気にしないで良いのよ」
彼は王様になるのだから。
そういう事は仕方のない事だし、私もこだわる気はない。
でもでも正室は私です。
そこは予約済みなんだから。
頼みますよ?
◇◇◇◇◇
その日は朝からどこまでも透ける様な高く青い空で絶好の日和だった。
私は晴れ晴れとした顔で白い豪勢なウェディングドレスを身に纏っていた。
今日はライオットくんが正式に王に成る日だ。
おまけのおまけぐらいで私が嫁ぐ日でもある。
父は朝からわんわん泣いている。
普段が厳格なイメージだけにギャップ萌が凄いわ。
お父様ったら撫でたくなるぐらい可愛いわ。
ユノウス商会の仕立てたドレスは見事な出来だ。
惚れ惚れするような美しい意匠のドレスだ。
今日の式典のあれこれを一手にプロデュースしているのもユノウス商会なのだ。
そういえば、商会を仕切るユノウス男爵が今日から辺境伯になるのよね。
彼の才気の輝きは遠目にもまぶしいくらいだ。
彼がライオットくんの味方で良かったわ。
心底そう思う。
暫くして、私の出番がやってきた。
さすがに緊張してきた。
私がそんな顔で居たからだろうか。
彼が笑顔で私に言った。
「なんだか、今日は先輩じゃ無いみたいです」
もぅ。そんなこと言って。
私はむくれて呟いた。
「リーナと呼んでよ。ライくん」
すると、彼は真面目な顔で囁いた。
「リーナ」
じーん、と来た。
もう、たまりません。とろけちゃいそう。
「ライくん」
「リーナ。今日はいつもの何倍も綺麗です」
あら、先輩じゃ無いみたいってそっちの意味?
そこはいつも綺麗だと思っていて欲しかったわ。
もう。
式が進むと彼が私の顔にかかったヴェールを外した。
こ、ここでキスよね。
こうしてまじまじと見つめられると呼吸するのも大変なぐらい緊張してしまう。
鼻息荒くなってないかしら。
澄まし顔で、と思うけど、駄目ね。
どきどきしすぎ。
「汝、ライオット・D・テスタンティス。カタリーナの夫として健やかなるときも病めるときも共に生き、共に苦楽を分かち、共に歩み続けることを誓いますか?」
「誓います」
「汝、カタリーナ・アルレッド。ライオットの妻として、健やかなるときも病めるときも共に生き、共に苦楽を分かち、共に歩み、また、王の妻として、夫の重責を支え続けることを誓いますか?」
「誓います」
祝詞が終わって、彼の顔が近づいてくる。
こうやって改めてみると彼は溜め息が出るほどに端正な顔立ちだ。
私が完全に固まっているとライくんが微笑した。
えー、もう、なんでライくんそんなに余裕なの??
そういえば、キスをするの初めて。
彼の唇と私の唇が重なって。
私は彼の妻になった。
◇◇◇◇◇
式典が終わって、夜。
そう。初夜ですよ。初夜。
ライオットくんと初めての夜。
興奮してきた。
これは役得と言うしかないわね。
ライくんをいただいちゃいます!
「先輩」
「ライくんライくんライくん」
私が抱きついて、ぎゅぎゅしていると困惑顔で彼が私を見ていた。
はっ、しまったわ。
ドン引きされちゃったわね。
おほん、気を取り直して行きましょう。
「そうだ、ライくん、耳掻きしてあげる♪」
ちょっとしたスキンシップからラブラブしちゃうんだから。
ついでに甲斐甲斐しさアピールです。
うんうん、完璧よね。
ふふ、リーナ先輩、今晩は色々頑張っちゃうよ。
初めてだけど、色々勉強してきたんだから。
ちょっとエッチな下着も着けてるし、前準備は完璧なんだから。
彼は困惑気味な顔で私の膝枕に頭を乗っけた。
私が鼻息荒く、手は丁寧に動かしたわ。
どうどう?
すると、私の膝枕の上からすやすやと寝息が聞こえて来たの。
あれ?
あらあら。これは。
ライオットくん、寝ちゃった?
やだ。
甲斐甲斐しさアピール作戦、大失敗だわ。
ちょっとぉ。
初夜を迎えた花嫁を置いて寝ますか、普通。
もぅ、ライオットくんたら、どんな夢を見ているやら。
「アイラ・・・」
わぁお、そうきましたか。
そうよね。
そうよね。
うん。うん。
分かったわ。
初夜は貴方に譲ってあげるわよ。アイラさん。
今回だけよ?
私はライオット君を撫で撫でしながら、その安らかな寝顔を眺めていた。
幸せそうな顔で何よりだわ、ライオットくん。
大丈夫よ、貴方は私が守ってあげる。
ふふ、ライ君たら、今度はどんなしょんぼりした顔で私に謝るのかしら。
楽しみだわ。