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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
66/98

祭りの後で

※7月12日改訂

僕、ユノウスはつまらなそうに呟いた。


「結局、ネザードの情報は無しか」


王宮の探索が終わり、今は市中の貴族の屋敷に検索範囲を広げた。


しかし、貴族がえらい金銀ため込んでるんですけど。

王族の物はすべてファリに返すとして。

他は全部、貰って良いの?


軽く見積もって10億G超えない?

まだ増えて来るし、どうしよう。


つか、国庫も全部ゲットとか。

やばいわ。


ウォルドの貴族も辺境貴族とは言え、腐っても貴族なんだなぁ。

いや、奴隷使い放題だし、そりゃ、貯金は凄いか。


ウォルドの中央貴族の資産を全部かき集めたら、そら貧乏公爵一人の数倍の資産はあるでしょうけど。


すげぇ。何に使おう。


その点で言えば、このネザードの屋敷は何もない。

人が住んでた痕跡すらない。


「人の記憶も含めた情報隠滅。さすがです」


感心するなよ。


いや、確かに僕の記憶読みを見越した上で周り全部を肉団子にゃるお処理したのなら、やることが旨い。


えげつないけど。


帝都の外は豪雪で人の足じゃ逃げれないし、この方法は効果があるよな。

巨大な密室大量虐殺か。


真似はしたくない。


「ネザードをS級の危険人物として、目撃情報に賞金を掛けて指名手配しよう」


「見つかりますかね?」


その期待はあんまりできないな。


「写真を作って聖団を通してばらまく。表だって行動は出来なくなるだろうし、一定の抑止力にはなるだろう」


やれやれ、要らん出費になりそうだな。

まったく。


すると、一人の少女が青い顔でこっちにやってきた。

その様子が予想外で、思わず声を掛ける。


「どうした、ユキア?凄い顔色だが」


まだ吐いてたのかな?


と言うか、酒飲みすぎじゃないか?

いくら、神格を持っててもあんなに飲むと体に毒だよなぁ。


「ユノウス。こっちにこい」


彼女に連れられて僕は歩き出した。


「どこに向かってるんだ?」


「地下だよ」





◇◇◇◇◇






巧妙に隠された隠し扉から地下に降りていく。

そういえば、前にスカウトと名乗っていたし、ユキアはこういう能力もあるんだな。


意外に器用。まぁ、鋼糸使いだしな。


やがて広いスペースが見えてきた。


「地下研究所?」


壊れたケージが並び。

人がいた痕跡であろうゴミが転がっている。


かなりの異臭。


奥に大穴が開いてる。


僕はひとまず、その穴の中を見た。


うげぇ。


地下死体置き場、カタコンべって奴だな。

いや、あれは一応正規の処理場か。


これはただのゴミ捨て場だ。


穴には無数の骸骨が無造作に転がっている。

深いな。


たぶん、一万人以上の骨が転がってるだろう。


「ここなんだよ?」


「神牧場だ」


え?

なにそれ?


「聖魔戦争で新たに生まれた神、つまり、戦神は10柱。それがどうやって作られたか知ってるか」


してるか、Lル?

おしえてください、ほータローさん!


「いや、しらないけど」


「滅んだ神の神核を妊娠した娘の胎児に対して魔法による外科手術で埋め込み、魂と神核を癒着させる。術後が上手くいけば、神核が人魂を食って、新たな神唱結晶化する。私の魂に似ているが、成功確率は非常に低い。そして、母体は生き残っても、胎児は必ず死ぬ。いや、死ぬか、神になる。その成功確率は一万分の一以下だ」


なんだと?


「・・・おい」


どん引きなんだが。


それで10柱も用意したのか?

どんだけ人魂引き替え券で神様ガチャ回してるんだよ。


怖すぎる。


「墓のほとんどが女の骨だったが、あそこの骨には男の物も一定数混じってた。そして、そこのケージには男の臭いが染み着いてる。そこの薬品関係は全部興奮剤だったよ」


決まりじゃん。


「がちで交配させてたのかよ」


うげぇ。


まじで神を作るための牧場なのかよ。

ここ。


「つまり、ネザードは人的コストが格安で、いくらでも殺し放題という理由でこのウォルドを拠点に選んで人体実験してたのか・・・」


お目当ては奴隷でした。

なるほど、何故、ネザードがウォルドに寄生していたか?と疑問に思っていたがこれで氷解した。


辺境、聖団から見つかりにくい、奴隷があって、漬け入り易い弱国。

おお、良い条件だな。


「ここを破棄したということは何かしらのお目当てはすでに手に入れてるってことか」


「そうだな」


ユキアが不満そうにしている。

僕は疑問を口にした。


「ところで、聖団は何でネザードを野放しにしてたの?」


聖団がネザードを警戒している様な節がまったくないんだが。


隣国にネザードが居ることを知っていて野放しだったのか?


「死んだはずなんだよ、あいつは」


「え?」


「あいつは魔王神の消滅の直接の原因だぞ?魔団で立場なんて無いだろ。オマケに旧魔王神の祝福を失っていた。とっくに魔団内部で粛正されてると思われてたし、実際、粛正されたという情報が複数筋から聖団にはるか昔に伝わっていた。死んだと思われて、もう500年も経っている人間なんだよ」


怒りに満ちた口調だ。

自分への怒りだろうけど。まぁ、そういう事情ならしょうがないだろう。


実際は生き延びていた、か。

なるほどね。


妖魔将ネザードの名前の把握ぐらいはあったのかもしれないがどう考えても襲名者ぐらいにしか思わないわな。


いや、まだ襲名者の可能性も否定できないか。


万が一、ネザードが、そのネザードだとして。


しかし、そうなると500年。

ネザードは一体、何をやってたのだろうか。


何の為に、ここで神を作っていた?


「どういう奴なんだ?」


「いかれた研究者肌の変態だな」


研究方面か。

ほほう。


「あれ、意外に僕似?」


「・・・」


あれ?この反応はなんだよ?


ちょっとー?ユキアさーん?


おい、そんなこと無いとか言えよ。

ちょっとユキアたん?


「にてる」


「ちょっ、おま!?」


「気分わるい」


テンション下げすぎでしょ!こら!


しかし、奴もまた、神々の錬金術師だというのか。

魔王だし、キャラかぶり過ぎだろ。

本当。


あー、竜以外に面倒なのが顔を出してきたなぁ。


うーん。


「ユノウス、私の記憶を読め」


「?え、ちょっと待てよ」


さすがに、いくら僕でも、女の子の記憶を読むほど、デリカシーのない男ではない。


・・・というかスキルコピーは断ってメモリースキャンは許すのかよ。


「あいつは絶対に倒さないと駄目だ。あいつの情報をやる」


ユキアの真剣な言葉に僕は頷いた。


「わかったよ」



――― 記憶探索メモリースキャン



ユキアの心中に僕は目を見開いた。


「ユキア、お前」


「何だよ」


「やっぱり、処女だったのか!!」


「まず、気にするとこはそこかよ!??」


やばい、ユキアたん可愛い。

色々なシュチの痴情きおくも見れたし、やばいわ。ちょー興奮してきた。

ユキアたん、萌え。もえー!!

もえーーー!!


「ふふ・・・ふふ・・・」


僕の含み笑いにユキアがげんなりとした顔をした。


「お前・・・。最悪すぎるだろ」


ユキアが後悔しまくった顔をしている。

その様子に僕は言い放った。


「あ、意外と僕の事、好きだろ」


お前の好感度はまるっとお見通しだぁ!!


「ころす!!」





◇◇◇◇◇





明日はユノウスの誕生日だ。


私たちは朝から明日に向けて、誕生日会の準備をすることにした。

寮母さんに女子寮の調理室を貸して貰って、準備を始める。


「ねぇ、飾り付けはこんな感じで良いかな?」


「はい、良いと思います」


色紙を繋いで輪を造る。

うん、カラフルで綺麗に出来た。


ミーナさんとアリシスは二人で飾り付け担当だ。


ふと、中央付近を見ると、ユフィとユリアが何か相談している。


「あんまり気合い入れると、兄様、どん引きに一票です」


「最近、丸くなったから、素直に喜ぶ方に一票かなー」


「むむ、ですから気合いを入れすぎるのが良くないのです」


「たとえば?」


「水着エプロン」


「・・・そ、それは、どん引かれて当然よね」


「そうです?でも、そういうのがロマンだと思うのです」


水着にエプロンって、そんな恰好してどうするの。

謎過ぎる。


ユフィは万能だがどこかズレてると思う。


「ケーキはどうします?」


「焼くのは反対です。重いですよね?残して良いように市販品を買ってくるです」


「そう?まぁ、主に作るのは貴方でしょうけど」


「兄様は人の手料理とかは残さないので。まぁ、カロリーはヒールで調整できますけど。とにかく、集まる人数も判然としませんし、料理は多めに用意するので、こういう状況で手料理禁止です!」


その言葉に私はびくっとなった。

て、手料理禁止か。


あ、あれ、どうしようかな。


その様子に近くで紙を切っていたミルカが首をひねった。


「どうしたの?アリシスおねーちゃん?」


「な、なんでもないよ」


うぅ、まいったなぁ。


「プレゼントはどうしようか」


「使用済みパンツが一番喜ぶと思うです!」


「それはちがうわ!そういう事を言うのはやめなさい!!ユフィ!」


ユリアがユフィを真顔で叱った。

ユフィはばつが悪い顔で視線を反らして横を向いている。


うわぁ、もうユフィの扱いをマスターしてるんだ。

ユリア、凄いなぁ。


「くっ。お前らなど、兄様にどん引きされれば良いのです!」


「どこの悪役の捨て台詞よ。でも、あんまり大きいものも考えものよね。何が喜ぶかしら?」


プレゼント。

各々で買うよりみんなで一個の方が良いだろうと言う話になっていた。


たしかに、彼は何かを貰って喜ぶタイプに思えないしなぁ。


そこにミーナが割り込んできた。


「そ、狙撃銃なんてどうでしょう!」


「貴方はそれしか押せないのです?」


「うぅ、ごめんなさい」


ミーナさん。必死だな。

でも、狙撃銃はないです。


そもそも作れません。


「ミルカは泥玉つくるよ!きらきらなの!」


「おこちゃまは砂場に帰れです!!」


「ぶぅ、ミルカは泥玉ますたーなのにぃ」


不満げなミルカを横目に私は手を挙げた。


「アップリケを付けたハンカチとかどうかな」


私の案にユフィが首を傾げた。


「なんかすげー痛いのが出来そうですね」


「ミルカちゃんも参加するなら無難じゃないかしら」


「まぁ、そうですね。取りあえず、ハートマークが何個付くか見物です」


「なにそれ新手の撃墜マーク?」


「どこの異世界知識です!?もうそんなところまで教科書を読み進めたんですか!?」


「歴史政治経済はすべて読みました」


「まずそこかよです!!」


何の話だろう?

あ、でも、これは決まりかな。


「じゃ、中央市場で布の端材を買ってきますか」


「あ、私行ってくるよ」


言いだしたのは私だし。


「私が行けばテレポートで一瞬ですよ?」


「ユフィは別口で料理の注文に行って頂戴」


「あー、そうですね。どうせなら、銀座通りに調達に行ってくるです」


決まりか。よし。

私は自分の鞄を掴むと掛けだした。


「じゃ、速攻で買ってくるから」





◇◇◇◇◇






私は学校の敷地を出るとべオルググラードの中心街に向かって走り始めた。


走りながら、周りを見渡すと建造中の建物がたくさん見えた。


学舎の周りも少しずつ、町が出来始めてきた。

いつかは機能する予定の学生街はまだまだ開発中である。


今、べオルググラードは大量の働き手の流入で煮立った鍋のように活気づいている。


無秩序な難民の流入は貧民スラム街を作り出すけど、そういう混乱は今のところ無いらしい。


治安の維持を担当する教導隊巡回警邏部隊の活躍もある。

彼らは制圧銃ブラスターという強力な制圧兵器を装備している。


空間認識・対象識別型の魔式銃で認証対象に電気ショックで強制的に気絶させられる。


さらに電磁混乱バインドの効果があり、例え、気絶させられなくてもしばらく全身麻痺状態になる。


認識した対象に銃口を向けて、トリガーを引くだけで発動する。

空間指定タイプで誤射がない。


殺傷性はさほど高く無いが心臓が弱い人間は死ぬ可能性があるらしい。

その場合は事故扱いらしい。


べオルググラードの犯罪者は心臓が強くないと生きていけないようである。


「やー、アリシスちゃん♪」


声を掛けられ振り返ると一緒のクラスのリリアさんが居た。


「どうも」


リリアさんはいつもにこにこしているクラスのムードメーカーだ。

いつも、楽しそうなので一緒にいるとこっちまで楽しくなってくる。


リリアさんはにっこり笑うと手を広げた。


「じゃーん、どうかな?」


「え?何がですか?」


「これこれ、衣装だよ、これね、このお店の試作品なの」


おお、そうなんだ。

確かにフリフリで可愛いかも。


「可愛いと思います!」


「えへへ、ありがとう」


でも変わった衣装だな。異世界風?

どういう用途だろう?


「えーと、ここは」


「ふふ、甘味処だよ。おねぇちゃんと一緒にやるんだ!」


「これスクールミッションですか?」


「そうだよー。ランクC」


そんなミッションが。

掲示板、見てなかったなぁ。


べオルグ領学校には特待生向けのスクールミッションと言う変わった制度がある。


学校から与えられたミッションをクリアするとお金が貰えたり、特待生としての評価が上がって領府からの補助金が上がるのだ。


学生の内から成果主義とは彼らしいものである。


ギルドクエストに似ているのかもしれないけど。

内容がかなり違うかな。


「あ、呼び止めて、ごめんね。急いでる様だけど、どうかしたの?」


「あの、中央市場に布を買いに行くんです」


「んー、どうして?」


「ユノウスの誕生日なんで」


「あ、そっかー。そうだ、衣装を作った布の残りがあるから、それ使えないかな?」


「良いんですか?」


「うん、ちょっと待てて」


そう言って彼女が中に入っていく。

しばらくすると、様々な模様の入った布を持ってリリアさんが出てきた。


「じゃーん!どうかな?」


「素敵です!」


「うん、好きなだけ使ってね!」


「はい、それじゃ頂きます」


私は布を受け取るとお辞儀をした。


「私たちも誕生日会には行くからよろしくね!」


「わかりました」


私はもう一度お辞儀をすると学校に戻る道を駆けだした。





◇◇◇◇◇






彼が来ると私たちは紙吹雪を撒いた。


「誕生日おめでとう!!」


「ありがとう」


彼が笑顔でそう言うと、ユリアが彼におしぼりを渡した。


「はい。大変でした」


「んーそうでも無かったけどなぁ」


ユリアの労いにユノウスが笑って応えている。

するとミルカがユノウスに抱きつきにいった。


「パパー♪」


「おー、え?」


「どうしたの、パパ?」


「・・・この恰好でも分かる系?」


「パパはパパだよ??」


「慧眼こわ!!(なぁ、僕の種族わかるか?)」


「はーふえるふ?」


「・・・。おー、パパだよー」


「パパ♪」


何のやりとりだろう?

しかし、ミルカはユノウスをパパと呼んでいるのか。


私は、ふと周囲を見渡す。

遠くの方でとーるを抱いたリリアさんが目をきらきらさせていた。


「ケーキおいちぃの」


「はうぅ、この可愛いをずっと抱いてて良いなんて」


「どうしたのー?」


「はぅう。幸せだよぉ」


なんか、トリップしてる。

まぁ、良いかな。


私はユノウスの方を振り返る。


いつの間にかユノウスの周りは人だかりだ。


出遅れちゃったなぁ。

慌ててて、私も彼に駆け寄った。




◇◇◇◇◇





プレゼントのハンカチも無事に渡して、パーティが盛り上がる中でユノウスが壇上に上がった。


「実は今日はみんなに言いたいことがあります」


一体、何だろう。

急にかしこまった口調で。


「薄々感づいてる人もいるでしょうが、僕は異世界での前世の記憶がある人間です」


私はその言葉に驚き、周囲を見渡した。


あ、あれ?

驚いてるの私だけ?


「し、知ってたの?」


「私は知ってました」


「ふふ、私も知っているです」


「えーと、軍では一応、知られています」


「ミルカはよくわかんないかも」


そうか。

そうなんだ。


し、知らなかった。


私が呆然としているとユノウスが上機嫌で話を続けていた。


「こういう形で祝われるのは初めての経験です。この催しを企画してくれた友人たちに感謝したいと思います。みんな、ありがとう」


スピーチを続ける彼の言葉も良く頭に入ってこなかった。


い、異世界ってなんだろう。

今、私が勉強していることがユノウスの知ってるもう一つの世界の事なのかな?


よし、私、がんばって勉強しよう。

だって、ユノウスのこと、知りたいもん。


うん。





◇◇◇◇◇






パーティも終わり、私たちは会場を片づけていた。

一緒に片づけを手伝っていたユノウスがゴミを持ったまま外に出たのが見えた。


今がチャンスだ。


私はそのすぐ後を追った。


裏のゴミ捨て場についたところでユノウスが私の方を向いた。


「よう、どうした?」


やっぱり気づかれていた。

私はちょっと緊張しながら、言った。


「・・・あ、あのね!ちょっとお話したいなって」


「うん、いいよ」


どうしよう。色々聞きたいことがたくさんある。

でもそんなにたくさんは聞けないよね


「あー、えーと。その。ユノウスにとって、私って凄く子供っぽい?」


「それは、まぁ、そうかな」


「そっか」


それは凄く残念かも。


でもそうだよね。だって彼はずっと年上なんだもん。


それに私はいずれは大人になれる。

だから、今は我慢。


「ユノウスは何歳ぐらいが好きなの?」


「え。いや、そのー」


「きいちゃ駄目?」


「おっさんだけど、15歳ぐらいから29歳ぐらいまでがストライクゾーンかな」


「なるほど」


意外に広い気がする。

よおし。


目標ができたぞ。


ここで私は切り出した。


「あのね。これ、作ったの」


「ああ、なんか作ってくれるって言ってたね。なに?」


「く、クッキーなんだけど」


私は料理が下手だ。

もう認めるしか無い。大失態ばかりだ。


でも、苦手なままは嫌。

変わるんだから。


変えてみせる。


「何度もごめんね!」


「おう。まぁ、付き合うよ」


そう言って神妙な顔で頷く。


私が小さなクッキーの包みを差し出すと彼はそれを口にした。


どうかな?

どうだろう。


緊張する。


すると、彼が驚いたような顔をした。

あれ、また失敗かな?


うぅ、作らなきゃ良かった。


すると、突然、彼が笑い出した。


「あは、あははは」


「お、美味しくなかった?ご、ごめん」


「いや、旨いよ!成長したじゃん」


そう言って彼は私のクッキーを全部口に入れた。


「ありがとうな。アリシス」


「う、うん!」


私は緊張しながら言った。


「あ、あのね」


「ん?」


「また、あ、頭撫でてほしい・・・かも」


ちょっとだけ、おねだりしてみた。


だって、撫でられるの好きっ。


私の言葉に彼の手が伸びた。

がしがしって強く撫でられる。


「えへへ」


うん、凄く安心できる。

ここが、この手がある場所が、私の居場所なんだ。


そう思える。


それが、凄く嬉しい。


凄く、とっても。


おかあさん。私はようやく、見つけたよ。


私の大切な場所を。

私の居ていい場所を。





◇◇◇◇◇





エルフの隠れ里。

そこに大きな声が響いた。


「だから、こいつはくそ餓鬼だって!」


ユキアがむっとした口調でそう言った。

僕、ユノウスは耳を塞ぎながら苦笑した。

どうやら例の件をまだ恨んでるらしい。


「なによ、誰がなんと言おうとうちの子可愛いなんだから!」


だきっ。

僕を母であるミリアががっちりと抱きしめる。


「おかあさん」


そんなに強く抱きしめられるとちょっと恥ずかしいです。

その様子にもユキアがめげずに言った。


「だから、ミリア。こいつの中身は三十過ぎのおっさんだって言ってんだろ、エロいんだからあんまり抱きつくなよ」


え、エロくないよ!

中身、おっさんだけど、エロくないよ!


「でも私が生んだことには間違いないわ!良いじゃない!おっさん産んでも!私の子なの!!」


すげぇ。


それ肯定できるんだ、すげぇ。

母が偉大すぎて怖い件。


「じゃ、どういう心境で子供の頃、授乳を受けたのか、教えてくれないか。ユノウス」


エレスの言葉に僕はひぇ、と声を漏らした。


ちょ、し、師匠、そこは触れちゃ駄目な部分でして。


「ど、どうだった?」


ミリアが上目使いに聞いてくる。

僕は即答した。


「美しい乳にございました」


ああ、あのめくるめくメモリーは今でも脳裏に焼き付いております。

授乳最高。


おっぱい万歳!!


「そ、そう、あ、味は?」


・・・・・・。

いや、その、出なかったしなぁ。


「童貞が困っているな」


「師匠!あんまりです!」


「そうよ!うちの子は今に超絶モテモテなんだから!!」


その言葉に呆れた顔のユキアが呟いた。


「こいつは現在進行形でモテまくってるぞ、幼女に」


「な、なによ!それでも、この子を世界で一番好きなのは私よ!!」


えぇ!?

ななんだって??


「そこは張り合うなよ!母親!!」


「大好きなのぉ!」


そう言ってミリアが僕に抱きついて離さない。


うわー、母の愛が重いです。

というか、この娘、普通に美少女だから困る。


すげぇ困るー。


「エロ餓鬼が欲情してやがる」


「してないよ」


ぷるぷる、ぼくわるいようじじゃないよ。

けんぜんだお。


僕が震えている様子を見ながらエレス師匠がお酒の入ったグラスを揺らした。


「しかし、この大吟醸という酒はなかなか旨いな」


「だろ?」


遠慮無しに飲んでるが、それ、すげぇ高いんですけど。


「あのー、作って提供してるの僕ですよ?」


10歳の子供の誕生日にその子供から酒を集るっておかしいだろ。

ねぇ、聞いてる?


「うるせぇ!こうやって嫌々祝ってやってるんだから、それくらい我慢しろよ!」


「おかしいよね!人の誕生日を嫌々祝うのって!」


そもそも、嫌々祝うって、全然祝ってねーし。


すると、今まで僕と一緒にジュースを飲んでいたミリアが師匠のグラスに手を伸ばした。


「えい」


あ、飲んだ。

ふーん、別にお酒、嫌いじゃ無かったのか。


「ん?あっ……!」


「ミリア、何も言わずに酒を飲むなよ!」


あれ?ユキアたちの反応がなんだかおかしい。


「えへへ、おいしー♪」


そう言ってミリアはお酒をどんどん、飲み出した。

凄いペース。


「まずいな、これは」


困った顔の師匠に僕は尋ねた。


「何が?どういうこと??」


「実はミリアは」


母は?

と、抱きついていたミリアの手が僕に服を脱がし始めた。


「うわぁぁ!?何故脱がす!?」


僕の悲鳴にユキアが目を細めた。


「そういえば、ミリアは酒に酔うとキス魔になるんだよな」


「ああ、公爵の奴ともそれだったよな・・・」


凄い酒乱ってこと???


おい、忘れるなよ!

そんな、重要な事!


で、なんで、僕が標的になってんの?


「ユノちゃーん♪」


「待て!まじ!まて!!」


やばいだろ!まずいだろ!!

これはいろいろなところからおしかりを受けますわ。

いや、本当に拙いっから!


「大丈夫だろ。キスぐらい」


「まぁ、キスとぺろぺろぐらいだしな」


「えへへ♪ママでちゅよー♪」


ちょ、童貞にこれはやばいって!!


赤ちゃんプレイとか難易度高すぎる。


ぎゃー、やー、そんなところ。

きゃー。


やめてぇーー。

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