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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
59/98

封鎖作戦

※7月12日改訂

薄暗い艦内。

フレッツはこの面倒でおそらく誰からも褒められない仕事の事を今更ながらに嘆いていた。


特地手当がたくさんついて、給料が2倍近いからと安易に飛びつくんじゃ無かった。


ああ、おかが恋しい。


大体、突発的思いつきで作られたであろう潜水艦なるもの。


この困ったちゃん。


乗り心地とか居住スペースとかもう少し考えようぜ。

そんなに大きくない艦内に俺らは今日も詰まってる。


俺らはそう。

腹にぎっちぎっちに詰まった便みたいなもんだな。


出すに出せない便意みたいなもんだよ。

ちくしょうめ。


さっさっと、ここからおさらばして、すっきりしてしまいたいものだ。


ああ、隣の奴が臭い。臭すぎる。


くそ、こうしてる間に陸においてきた女が他の男に取られるんじゃないだろうか。

こんな仕事を選ぶんじゃなかった。


今日、何度目かのため息を吐くと周囲観測器に目を落とした。


「どうだ?見えたか?」


艦長の声が小さく響く。


「そろそろですね」


別の隊員がそう答える。


「そうか」


すると魔唱式望遠魔法鏡を見ていた組員が静かに言った。


「見えました。ルードリー港です」


本当に?

フレッツは漸く長かったこの航海の目的地にたどり着いた事に少なからず安堵した。


艦長が頷いた。



「作戦を開始する」






◇◇◇◇◇







「港に停泊中の船が全滅?」


ガルフマンの報告にファリは困惑した。

突如、停泊中の船に穴が空き、全て沈んでしまった。

そんなことが起こるのか?


幸い停泊中の船であるために死者は出なかったらしいが。


「はい、何かはわかりませんが全ての船舶の底に穴が空けられているそうです」


誰がそんなことを。

海路からの貴重な物資が届かなくなってしまう。


「くそ、原因は分からないのか!?」


「まったく。町民は幽霊船の仕業ではないかと噂しています」


「くっ」


僕らにとって海路は生命線に等しかった。

それが絶たれた。大打撃だ。


「東部の陸路が回復していないのは事実なのか?」


「はい。魔物の盗賊団に荒らされて居るそうです。まぁ、聞けば、おかしな連中ですよ」


ウォルドに入る物量が滞っている。

もともと、この国は自給率が低すぎるのだ。


このままでは、大変な事になるぞ。


僕は歩き出した。

こうなった以上、我慢して居られる性分ではない。


「どこにお出でになるのですか?ファリさま」


僕は宣言した。


「僕が道を切り開く!」


民が苦しんでいるのだ。


僕がやらないで誰がやる。

苛立つ僕に、火に油を注ぐような、さらに苛立たせる声が響いた。


「おやおや、ファリさま、凄んでおいでの様ですがどうされました?」


「ネザード。きさま」


妖魔将ネザード。

陰険な男が今日は珍しく愛用の女奴隷を引き連れていた。


女の性奴隷。


奴隷にしておくのは惜しい様な美しい少女。

まるで水晶を納めたような瞳に流れるような長い銀髪。

陶磁器のような白い肌。

生命感が希薄で一見すると高級な人形の様に美しい少女。


この少女をネザードが毎晩のように弄んでは悦んでいることを僕は知っている。


そのことにも怒りが湧く。


僕が睨みつけるのも、どこ吹く風と言った顔でネザードが笑った。


「ふふ、そんなに急いでは体に毒ですぞ?」


「ふん、貴様が言ったようにはならなかったな!」


大国側に魔物による被害は無かった。戦争も起こらず。

ネザートの目論見は崩れた訳だ。


「ええ、残念ながら。そして、逆にこちらがやられているようですな」


「何、貴様は今回の件にテスタンティスが関わっているというのか?」


そんなことがあり得るのか。

こいつと同じように魔物を使う奴がいるのか。


そんな、下劣なことを。


「ふふ、これで得をするのは誰か。考えれば、自ずと答えは出てくるでしょう?」


そうだ。


この状況、得をするのは誰だ?

その考えに至って僕は怒りを口にした。


「証拠がないだろ!」


「おやおや、正義と言う物は難儀ですな。それともご自慢の思考停止ですかな?ここは法廷ではないのですよ?証拠など必要ではないでしょう」


「きさま」


「まぁ、 全て私の仕業でした とは言え、色々とやったのは私たちが先ですから、これに関して、必要以上にこちらから糾弾するのも筋違いでしょうな。ふふふ」


その言葉に僕は目の前が白くなった。


目の前の下劣な男が取った行動の全てが、このウォルドが悪いと言うことになるのか!?


しかし、相手はそれをこっちの都合でわけてはくれないだろう。


ならば、ウォルドの業は深い。


テスタンティスはそれを許さない。


それがつまり、今回の結果だとすれば。

私は怒りに震えた。


「貴様はどちらの味方だ!」


「もちろん、貴方のですよ。ファリ将軍。もっとも貴方がそう思っていないようでは、はじまりませんが」


「お前のせいで、この国は破滅だ!!」


僕の精一杯の怒りと憎しみを込めた言葉にもネザードは関心が無いようだった。


いや、間違いなく。


歓心に触れていた。


「なるほど。私のお陰でテスタンティスに併合される道が広がったと。そう言うことですな。ふふ、おめでとう」


それは違う。

だが、僕は僕の考えとして、テスタンティスと和平なりを結ぶ可能性を模索していたのは事実だ。


それがこの国の為になると信じるが故に。


「ふざけるな!」


瞬間。


ネザードが僕に一瞬で近づく。


この男がこんなに早く動けるなんて知らなかった。

不意を突かれた僕は何も出来ずに身を固めた。


「まったく君はつまらないな、ファリ。お前の様に男に向かって自分から股を広げるような女には幻滅だよ。全てを受け入れて、この国と運命を共にするのがお似合いだ」


「き、貴様」


ネザードは体を離した。


「くく、敗北主義者過ぎるのですよ。私は貴方と違い、それなりにこの国を勝たせようとしてきましたよ。負けたがりさんとは違います。さて、ここで断罪されるべきはどちらでしょうね?んん?ご自慢の正義なら分かるのでは??」


「ぼくは」


まさか、間違っているのか?


一瞬の迷いに顔が強ばる。


僕の様子にネザードが軽蔑したような瞳で言った。


「ふん、つまらん。この程度か。行くぞ、アマリ」


「はい」


ネザードが去っていく。

僕は天を仰いだ。


ゆっくりと思考を整理する。


「ガルフマン。僕はテスタンティスの良心に期待しすぎていた」


それは認めないといけない。


こっちがどれほど幼稚な態度で突っかかっても、未熟な子供に対する偉大な親御のように接してくれていると思っていた。


それは余りに愚かしい考えだ。


彼らを怒らせるに足る以上の事を僕らは既にやっていって・・・。


そして、やりすぎた。


「ライオット王の怒りは相当なものです」


そうだな。

そこを理解できていなかった。

今回の作戦を彼が主導しているかは分からない。


しかし、テスタンティスとの和平など望める状況にはとっくに無かったのだ。


「とにかく、国内を荒らす賊は僕が成敗する」


「お供します」


気勢は大いに削がれたがやるべき事は変わらない。


僕は軍神ファリ。


ウォルドの守護神だ。





◇◇◇◇◇






「今回の議題は隣国ウォルドについてだ」


ずいぶんと毛並みの違う内容だな。

アズサは困惑しながら今回の会議に参加している。


なんだかすっかり質問役が板に付いた気がする。


「で、どうするんですか」


「おう、実は封鎖作戦がすでに進行中なんだがな」


え?

私は困惑し、鸚鵡返しに聞いた。


「ふうさ?なにを封じたんですか?」


「物資」


いやいや。

それって、まずいんじゃ。


「人外軍を盗賊に扮して陸路を実質的に封鎖しています。それに、海側は潜水艦による念動誘導魚雷で停泊中の船舶を全部壊して回っています」


「盗賊は。まぁ、変な盗賊だけどなぁ」


盗賊に扮したゴブリン・ドラゴニュート複合軍が商団のキャラバンを襲って、締め出しを行っている。


そう説明したユノウスがさらに補足を口にした。


「なお、人殺しはさせないし、素直に帰るなら物資も奪わない。

ここを通りたくば、俺を倒して行け方式。まぁ、無理ゲーだな」


タイマンであれば、べオルグ軍以上の実力がある人外軍だ。

倒せば通っていいよ。これは無理だろう。


そして、人殺しはしていない。

それが免罪符になるか微妙なところである。


「なぜ、盗賊に扮する必要が?」


「いや、だって、公式にはテスタンティスとウォルドは戦争してないし」


公式に封鎖を行うことは出来ない。


なるほど。


いやいや、それは不味いでしょ。


納得しちゃ駄目だよ。

それって最悪な理由&やり方な気がするけど。


「ですからやるならバレないようにです」


「そそ、バレなきゃ、おっけー」


・・・。


私は目が点になった。そんな。バレなきゃって。


「それだと大変な事になりません?餓死者が酷い事になりますよね」


魔法使いのメイシャンが手を挙げて質問する。


「大丈夫だよ。一部の商団は通している。経路を閉め出すのは今はウォルド東部だな」


そう言って大きな地図を広げた。

彼が広げた地図に赤い×がいくつもついている。


その中でも大きな×が二つ。


それを示してエヴァンが説明した。


「このラインは閉鎖中です。ですので、ウォルド東部の物資不足は悲惨でしょうね」


「そ、そんな、やっぱり酷い事になってるじゃですか!」


「ええ、ですから、同時に難民の大規模受け入れを行います」


え?

難民を受け入れる?どういうこと?


「実は屯田兵隊が作った難民受け入れ用のキャンプのキャパにあわせて計画を実施しています」


転送門魔唱結晶ゲートマテリアルを持ち込んで難民の安全な国外待避を合わせて行う訳だ。

転送門魔唱結晶ゲートマテリアルをつかって転移門を動かせる魔法技師を動員している」


転送門魔唱結晶ゲートマテリアルを使った転送門の安全稼動実験に成功して2ヶ月だ。


転送門魔唱結晶ゲートマテリアルを使える魔法使いは軍部で8人。

商会で4人程度だ。


転送門ゲートは特殊な技術だ。


転移テレポートとは厳密には違う方式の魔法である。

転送門は魔法使いの力量より魔法理解度が重要になってくる。

通常の転移魔法が一方的な接続に対して転移門は両方から空間に経路を繋げて「空間を接続する」技術なのだ。


相互移動が可能、持続性がある。

使用が容易。設置には複数の魔唱石の用意などコストがかかる。


この技術はユノウスがこの領地に赴任するときには完成していたらしい。

魔法使いの確保に手間取っただけとの話も聞いている。

非常に重要な技術である。


しかし、それだけの技術を利用してすることがセコイ。

いや、潜水艦だってあんなものを作っておいてやることが停泊中の船舶の破壊のみとは。


どんな意図があってそんな事をするのだろう。

よくわからない。


「奴隷や市民の解放や誘導はどうするんです」


「今は噂の形で、身分を保障して受け入れてくれる場所があるらしいと言う噂を流している段階だ。一部の志願者はもう受け入れを開始している」


なるほど。

それなら、必要以上に酷い事が起こる前に救済が可能だと。


って、それは良いことなの?


「いつかの段階で貴族をお休みさせて、奴隷や市民をぶんどる」


「残った貴族は?」


「知らない。落ちぶれてどうにかなるんじゃない?」


うわぁ。

まぁ、噂で聞くウォルド貴族の蛮行は目を覆いたくなる物ばかりだが。


何人も性奴隷を作っては侍らせているらしいし、奴隷を道具やおもちゃとしか思っていない人間の屑の集まりだとも言われている。


全てでは無いのだろうけど。


「ウォルド攻略にはユノウス商会を協力させています」


どういう協力だろう?

エヴァンが地図上の小さな赤×を指した。


そっちの方はそれこそ無数に散らばっており、東部に限定されずにウォルド各地に散らばっている。


「これが贈呈品に偽装したテレポートポイントの設置状況です」


え、テレポートポイント??


「ええ、ユノウス商会で有力貴族に交易に際して口利きに渡した贈与品にこっそりテレポートポイントを忍ばせました。多くは保管場所が倉庫の様ですか」


そんな方法でテレポートポイントを設置して廻っているのか。


転移印テレポートポイントは転移魔法なのでポイント設置のコストが非常に良い(魔唱結晶を必要としない)かわりに極めて扱いが難しい。


扱えるのはユノウス、ユフィリア、ユシャン、メイシャンぐらいだろう。


「おい、報告書のテレポートポイントに便座ってのがあるぞ!?」


ユノウスが悲鳴めいた声を上げる。

どういう事だろう。


「そこは金のトイレを送った貴族の家ですね」


そんなものをほしがったのか。

悪趣味過ぎる。


「お前、ケツ穴に兵士が飛び込んでくるとか悲惨だぞ。最悪、

     ※けつのなかにいる※

って、なるのかよ・・・・・・」


彼は何をそんなに戦慄しているのだろう。

そんなに怖いことなのかな。


けつのなかにいる。

・・・・・・スゴい字面だ。


「ならないでしょ。テレポートポイント個々のアクティベート確認は出来るんですから」


「そういえば、そうだな」


しかし、トイレから軍人さんが湧くのか。


うん。

こわい。

すごくこわいです。


エヴァンの報告が続く。


「難民の受け入れ状況は?」


「今は少数ずつですが、受け入れ体制は整いつつあります」


「まずは東部の町オードスの人員総取りだな。3万だっけ?」


ここまでの流れでヨークソンが手を挙げた。

彼は今回の作戦概要が書かれたテキストをペンで叩きながら言った。


「よく分からんな。今のライオット陛下は隣国に恨みがある。喧嘩するぐらい訳はないし、べオルグ軍の今の装備なら戦争でも攻略に時間がかかるとは思えない」


つまり、面倒な事は辞めてさっさと殺しちゃえってこと?

ハードな意見だな。


「面倒がない方を選びますと、戦争で勝った方が楽です。しかし」


「人様に恩を売りつけるなら、救世主の立場の方が易いだろ」


そ、そんな、自作自演の救世主じゃないですか。

そんなんで良い顔したら駄目ですよ。


「国家の根本的解体。こっちが壊滅被害を与えれば、同じ事が可能だろ」


「そんなことをすれば、死者の数の桁が違いますが」


「もう良いぞ。ヨークソン。納得してない方の代弁は」


え。


それって、つまり、私の事ですか?


「ん、まぁ。俺は武力衝突より解体路線の方が良いけどな」


あっさりと矛を納めたヨークソンの言葉にユシャンも賛成した。


「私も同意見だ。しかし、そうなると議論の余地がないな」


みんなは賛成ということか。

私は単純に人が苦しむ作戦が嫌なだけ。


でも、戦争をやるよりはマシってこと?

なんだかなぁ。


むー。

私は少し考えてから言った。


「盗賊や海路閉鎖はさておいて、難民はいつかはバレますよね?」


そこは解決していない。


「まぁ、そうだね。ただ立地的には離すし、拾った元奴隷が動けないように上手く制限を掛ければ、しばらくは大丈夫だろ」


分からない。私は率直に口にした。


「結局、意図はなんですか?」


「だから言ったろ。併合後を考えているんだって。正直、奴隷で回っているような都市を、こっちでそのまま受け入れても使えないだろ。

それなら、多少状況を悪くして、選択を迫り、自主的に決めさせる方が良い。

半端につつくと奴隷の反乱による虐殺が始まるぞ。

それで自由を勝ち取った気分の奴隷が自治権を主張し出したら目も当てられないだろ。

だから、ここは統治に面倒な戦争を回避する為に弱体化コースを選ぶ訳だ」


つまり、国家の弱体化を狙う訳か。

そっちの方が戦争より余程、酷い気もする。


統治の為と言うことは。

べオルグはウォルドの吸収・併合を狙っているということ。


そのために一番弊害となるのがつまり、奴隷制度だ。


つつけば、いつ爆発するか分からない爆弾庫。


だから慎重に解体を進める。


「戦争は下準備で結果の99%が決まるからなぁ」


「ちょっと酷くないですか。狡くないですか」


駄目だ。なんか納得いかない。


「いやいや、戦争になった方が悲惨ですよ。

死ぬのは一万、二万じゃ済まないからねぇ。

大体、施政側ぼくらからすれば、究極的に重要なのはヘイト管理の方であって勝った負けたなんてさした問題じゃないんだよ」


確かに今のウォルドではこのべオルグにすらまったく歯が立たないだろう。


一方的に人が死ぬ戦いが始まってしまう。


「そうですよ、まして、うちは占領後は併合する思惑で動いてますから。併合でいきなり、奴隷と市民が同じ身分になって、諍いが起きない方が可笑しい。

そのために一端、奴隷身分の人間を引き抜いて吸収した方が管理しやすいでしょう」


悲惨な戦争は避けたいと言う思惑。

戦争後の新体制への受け入れを速やかに進めたい思惑。


ついでに邪魔なウォルドという国家思想自体解体したいと。

それを同時進行で進めていくということ。


確かにそれは分かる。でも。


「で、でも裏でこういう思惑で動いてたってバレたらまずいですよね?」


「そんなのバレなきゃいいんだよ」


「そういう態度が狡いです!!」


私の言葉にユノウスが苦笑いを浮かべた。


「そもそもが、僕らのスタンスが戦争する気はない(征服する気がないとか言ってないし!)だし」


何だろう。この大人の都合感満載の作戦。

大人って狡い。


ずるいよね・・・。


ああ、もうやだなぁ。

今日の会議・・・。





◇◇◇◇◇






「にぃにぃ、おなかすいた」


「がまんしろよ」


きょうもいっぱいはたらいた。


あさはうまのせわをした。

ひるはにわのおそうじしたよ。

よるはこれからうまやのそうじをするの。


でも、ごはんはパンいっこなの。


「おなかすいた」


「ほら、きょうのごはんだ」


きょうのごはんだ。


やった。

ごはんだ。


・・・ごはん?


「にぃにぃ、パンがはんぶんだよ」


「きょうはいっこしかもらえなかったんだ」


そんな。しんじゃうよ。

おなかすいたのに。はんぶんだ。


こまったなぁ。


「おうまさんのごはんおいしいかな」


「うまのほうがおれらよりえらいんだぞ。そんなことしたらころされるぞ」


そうなのかな。

おうまさんえらいんだな。


「あ、あいつ」


にぃにぃがどこかをみている。

わたしもそっちをみた。


あいつらだ。


「見ろよ。いつもの奴隷の餓鬼がいるぞ」


「うわぁ、きたねぇの!あはは」


にぃにぃのからだがふるえてる。

こわいの。


わたしもこわい。


あいつがくる。


「おら!」


けられた。

なんでけるの?いたいよ。


「うぅ」


「や、やめろ」


「何だよ!抵抗するのか!!」


ていこうするのはだめ。

まえはそれではんにちもほされたの。


ほされるのはもういや。


しんじゃう。


あいつに、にぃにぃもけられた。


「うぅ」


「はは!良い蹴り心地だなぁ♪」


「やめぇ!やだぁ!」


「おら、おら!もっと鳴けよ!あははは!!」


やめて!

やだ!いたいのやだ!


けらないで!けらないで!


・・・


・・・


あいつらはかえっていた。


もうこないよね?


「しゅくしゃにかえろう」


「うん」


どれいしゅくしゃについた。


ここには100にんぐらいですんでる。


わたしとにぃにぃはすみでうずくまった。

にぃにぃはすこしぐたっととしている。

おとなのどれいさんがなにかをいっている。


「みんな!聞いてくれ!実は俺たちを雇ってくれるっている男がいるんだ」


「おいおい、そんな事、言って質の悪い奴隷商だろ」


「また売られるんだ!!」


みんながそういう。


「俺は今日も飯が無かった!」


「俺もだ!」「おれも」


みんなごはんなかった。

わたし、パンはんぶんだけど。

あった。


よかったのかな?


「もう限界だろ!」


「これをみろ!」


はなしてたひとがなにかをそらになげた。


ふくろからでてきた。


「ぱ、パンだ」


「すげぇ」


「その男がくれたんだ!そいつは俺たちに人並みの身分と人並みの仕事を与えてくれると言っていた!俺はそれを伝える条件でこれを渡されたんだ」


みんながパンにあつまる。

でおくれてしまった。


おなかすいたな。


わたしもほしい。


「ひとつください」


「だ、だめだ!これは俺のだ」


ざんねんなの。


「パンはまだまだある。ほら」


「あ、ありがとう」


そのパンはみたことのないいろだった。

にぃにぃとはんぶんこにわける。


パンはくちのなかでふわっとした。


「おいしい」


「うん。すごいふわふわだ」


「うめぇ!なんだよこのパン!!」


「パンは毎日配られる予定だ。一週間後、この宿舎を出て行きたい奴を募る。考えてみてくれ」


まいにち?ほんとうに?





◇◇◇◇◇





いっしゅうかんがたった

よる。


しゅくしゃにへんなおとながきた。

へんなふくをきている。


「俺はお前たちを助けにきた者だ。この中で自由になりたい奴はついてこい」


みんなはぽかんとしている。


「なぁ、あんたがパンをくれたのか?」


「ああ、そうだ」


「あんたは命の恩人だ!俺は信じるぜ!!」


「おれも!」


わたしはにぃにぃをみた。


「いこう」


「うん」


そして、ぜんいんがいわれるままにしたがう。

へんなおとなのひとがみんなをつれてどこかにむかう。


へんだなぁ。


「みはりばんのおじさんしずかだね」


「ねてるみたいだ」


そっか。よるだもんね。

わたしもねむい。


「ふぁ」


あくびがでた。

ねむいなぁ。


「なぁ、こんな子供連れって行って大丈夫なのか?こんなのいらないだろ??」


「そうだよな」


わたしたちのこと?

おいてかれるの?


にぃにぃがこわくなってる。

わたしもこわい。


ふるえているとあのへんなおとながきた。


「何を言ってるんだ、お前等は。俺は奴隷商じゃねぇぞ?」


そういってへんなおとながわたしのあたまにてをのせた。


おおきなてだな。


ちょっとあたたかい。


しばらくあるくとへんなふくのへんなおとながまたいた。

ふたりめ。


「おう、来たぜ」


「遅いぞ。何人だ?」


「ちょうど100人。女22、男70、子供8。レーゾ卿のところは100人だから丁度か。上手くやったもんだな」


「おう、先に転移するぞ」


「わかった」


「全員こっちにこい」


「お、おい、どこにいくんだ?」


「決まってる。お前たちが自由になれるところだ」





◇◇◇◇◇






へんなふくのおとなにつれられてきた。


へんなところ。


へんなひかりにはいってついたの。


にぃにぃもおどろいている。


へんなふくのおんなのひとがいる。


おおきなおけからけむりがでてる。


「まずは体をこのお湯で洗いなさい。女・子供はこっちよ」


みんながはだかになってからだをあらう。

たわしでごしごしする。


いいかおりのするみずをぬる。


「きれいになった」


「服と下着を配ります」


ふつうのふくだ。

どれいのふくじゃない。


「うわぁ、やわらかいよ」


「ああ」


ぺらぺらでへんなにおいがしない。

ふしぎ。


「みんな、辛かったでしょうね。ここでは貴方たちは人間です。自由な人間です」


そうなんだ。


わたしはにんげんだ。

うれしい。


わたしはにぃにぃとわらった。

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