君に届けたいもの
※7月12日改訂
妖精の声が聞こえる。
ちょっとね、風が吹くよ。
その言葉に私はわずかにポイントをずらした。
うん。それじゃ、ここで良いかな。
うんうん。いい感じ。
魔力で強化された私の瞳が的を捉えた。
私の場合、レンズのついたスコープより裸眼で見た方が当たるのだ。
視力強化は魔法を使う方が自然で良い。
レンズの無い只の照星と照準を合わせるちょっとだけ独特のスタイルで銃を構える。
みえる?
大丈夫。私の目には見えてるよ。
私は引き金を引いた。
火薬銃の反動がわずかに体に返ってくる。
「当たった?」
私は目を凝らす。
うん。完璧。
やったね。ミーナ。
ありがとう。風の妖精さん。
「ふぃぃいいいい!見ろよ、妖精が新記録樹立だぞ!!」
「ぶらぼぉぉぉおおおおお!!!」
同じ隊の軍人さんが泣いて喜んでくれてる。
ちょっと大げさで困るよ。
あと、凄く怖い。
狙撃型火薬銃による遠距離射撃記録 2500M超。
よし。
記録更新。私は小さくグーを握った。
うん。
みんな、喜んでるねし、当たって良かったよ。
◇◇◇◇◇
私が森を出て、べオルグ領を目指し、もう一週間がたった。
ユノウスくん、元気かな?
彼が時々、ミリアさんに逢いに来てるのは知ってるし、そのとき、何度かお話したけど。
私が里を出たことに気づいているかな。
どうだろう。
そんなのたぶん、気にしてないだろうけど。
それにお話しするのは、ちょっと、ううん、凄く恥ずかしい。
あのときはテンパってたけど、普段の私は恥ずかしがり屋の人見知りなのだ。
知らない人と話すのはちょっと苦手。
だから、なんとなく、彼の居る町まで自分の足で目指してみたくて、徒歩で目指すことにしたのだ。
意味があるのか分からないけれど。
森の魔女と呼ばれたミリアにはあれからほんの少しだけ、魔法の手ほどきを受けた。
けれど、そんなに急に上手くはならなかった。
それでもいくつか魔法を覚えられたし、こんな私でも、何かしら彼の役に立てれば、良いなぁ。
たぶん。
いまの私じゃ、ユノウスくんの足手纏いにしかならないよね。
そんな自分を変えてみたくて、一人でがんばってみることにしたのだ。
何か見つかると良いな。
私だけの何か。
道中では、森で獣を狩り、魚や野菜を取って食べた。
森のエルフは肉を食べないけど、今の私は人間社会に行くのだから。
森の戒律は自由エルフの私には関係ない。
「ごめんなさい」
初めて食べたお肉でお腹を下した。
良く焼いたし、教わったサーチでは何も問題も見つからなかったから、たぶん体質なのだろう。
味もちょっと苦手かも。
まだ体にあわないんだろうなぁ。うーん。
よし!少しずつ食べれるようになろう。
弓での狩りは得意なのだから。
弓の腕は私が他人に自慢できる数少ない特技かも。
でも、こんなものじゃきっと、彼の役には立たないよね。
「わぁ、すごい」
どれくらい歩いただろう。
それなりに健脚だと思ってたけど、意外に大変だったな。
隣町を出発して、辿り着いた時にはもう夜だった。
私は遠くに見える都市を見て目を細めた。
「ここがべオルググラードかぁ」
夜に無数の光が溢れている。
遠くに見える都市はきらきらして見える。
凄い。
ここが彼の町なんだ。
◇◇◇◇◇
べオルググラードでお仕事を探す。
「何をしようかな」
私はきょろきょろしながら町を見て回る。
彼の役に立つ仕事って何かな?
役人とか軍人さんかな。
求人を見に職業斡旋ギルドに向かう。
私はこういうところは初めてだけど、へー、便利なんだなぁ。
色んな仕事がジャンルに分かれて張り出されている。
役人さん。軍人さん。
あった。
えーと、軍属:土木作業員、屈強な漢、求む。
うーん。
軍属:炊き出し班の手伝い:女性可。
こういうのかな。
私にも出来そうな気がする。
「あの、この仕事してみたいんですけど」
「はい。あら可愛いお嬢さん。大丈夫かい」
「は、はい」
うー、緊張する。
◇◇◇◇◇
私が軍に所属してからもう一週間が経った。
私は今日もジャガイモの皮を剥いていく。
こういう単純労働は得意かも。
どっちかというと人と接しないで黙々とやる作業の方が集中できる。
黙々と剥いていく。
ちくちく。
ちくちく。
「なぁ、妖精さん」
そう呼ばれて、私は目をぱちぱちさせた。
何故か、目の前に狙撃部隊の班長さんが居た。
狙撃隊はエリートらしいです。
良く分かりませんが凄いんでしょうね。
妖精さんか。
エルフ種が珍しくてそう言ってるんだろうけど、なんか恥ずかしい。
私はすこし、緊張しながら、狙撃部隊の班長であるアガートさんに返事をした。
「な、なんですか?」
「君って可愛いね」
「き、恐縮であります」
突然、可愛いって言われた。
別に、それだけだけど、無性に恥ずかしくなる。
「おい、うちらの妖精さんに手を出すなよ」
「良いじゃん。良いじゃん。ケチくさいぞ。給食班、班長♪」
「教導隊にちくるぞ」
「おいおい、冗談、やめてくれよ。顔の形が変わっちまう」
慌てた様子のアガートさんを私の隊の班長のモフマンさんが睨みつけている。
私はその様子をしばらく眺めていたが直ぐにジャガイモの皮むきに戻った。
今日はジャガイモのポタージュスープなのだ。
軍人さんのご飯が間に合わないと大変。
ちくちく。
「おい、ミーナさん」
「は、はい、なんでしょう!」
お話は終わりだと思って作業に戻ったけど、駄目だったのかな?
うぅ。もし、そうなら失礼と思われたかも。
私が改めて顔を向けるとモフマンさんがアガートさんを指して言った。
「こいつが詫びに何か奢るって」
え?
何の詫びだろう。
今のやりとりに何か問題があったのかな。
ちょっとよく分からなくて、私は首を傾げた。
「デートとかなら大歓迎なんだけど」
「お前、ちったぁ懲りろよ」
なんだろう。
よく分からない遣り取りだ。
彼が私に奢る理由も、奢られる理由も特にない。
私は断ることにした。
「あの、すみません。お詫びとか要りませんので」
「いやいや、遠慮することないぞ。口止め料兼、迷惑料で」
そう言われましても・・・・・・。
私は困惑した。
「何なら裸踊りとかセミの真似とかでも良いぞ」
「はぁ」
どうしよう。
何故か、モフマンさんもアガートさんも私の答えを期待しているような気がする。
私は少し考えた。
してほしいこと。してみたいこと。
ふと、思いついた。
そうだ。
ここに来て以来、ちょっとだけ興味があったアレに触れさせてもらおう。
「あ、あの」
「おう、なんだい。妖精さん」
私は言った。
「狙撃銃を見てみたいです」
私の言葉に二人は驚いた様子で顔を見合わせました。
◇◇◇◇◇
後日。
射撃場に私は招かれた。
アガートさんが私に対して自慢げに狙撃銃を見せた。
「これが最新式の銃だぜ。かっこいいだろ」
「これがですか?」
よく分からない。
知識が無いので良いものなのかの判断はつかない。
ただ、なんか強そうな気がする。
「さわってみるか」
「良いですか?」
私は銃を受け取った。
わぁ、凄いなぁ。
これが狙撃銃かぁ。
きっと私の弓なんか目じゃ無い威力なんだよね。
さわってみた感じでは思ったより少し重いかな。
「ちょっと撃ってみるか?」
「こら、そりゃさすがにあぶないだろ」
「良いってバレなきゃ大丈夫だって。射撃場使えば、大丈夫だろ」
いいのかな?
ただ。
撃たせて貰えるなら撃ってみたい。
この狙撃銃と言う物がどれほどの物なのか確かめてみたい。
「それじゃ、まず」
アガートさんに使い方を教わる。
うん。なんとなくわかった。
標的に向けて姿勢をとって、銃を構え、この引き金というものを押せば良いんだね。
結構、簡単なんだな。
私は射撃姿勢というのを取るとスコープを覗いてみた。
・・・。
うーん。ちょっと見えにくいかも。
「あの照準ってほかの方法はないんですか?」
「ん?」
「このスコープのレンズが気になって、無い方が良いんですけど」
「そう?確か、裸眼で撃つ用のアタッチメントが。ああ、これだ」
そう言ってアガートさんが
私はそれを覗く。
うん、ばっちり。
「撃っていいですか?」
「おう」
ここから的の距離は100M。
結構な距離がある。
弓じゃ当てるのも困難な距離だ。
ずんと、衝撃が体に走った。
私は驚いた。
「び、びっくりした」
これって火を噴くんだ。
それで弾を飛ばすんだ。
当たり前といえば当たり前の事だけど、驚いてしまった。
「・・・お、当たってないか?」
「ん?おお、本当だ、当たってる」
私も目で確認した。
弓とは全然軌道が違う。
的には当たったけど、真ん中に当たった訳ではない。
予想より速くて落ちなかった。
特に落ち方。軌道が凄く安定しているみたい。
なんか、ちょっとだけ悔しい。
あと、なんとなく弾丸の速さと軌道が分かったかも。
次はこのぐらいの落としで。
「もう一発、撃ってみるか?」
「はい」
私はもう一度銃を構えた。
意識を集中する。
次はもっと、ずっと自然になった。
引き金を引く。
撃った瞬間、ふと、思った。
あ、撃ちやすい。
慣れるとこっちの方が全然楽だね。
手で弓を引くとその日の調子でぶれる。
でも、この銃って武器だと速度が一定だし。
当てるにはずっと楽だ。
「当たったか?」
「おい、ど真ん中だぞ」
私も目で確認した。
よし。真ん中に当たった。
うん。上出来だね。予想通り。
すると、驚いた顔のアガートさんが言いました。
「ちょっとレンジ変えてみるか」
◇◇◇◇◇
「おい。こりゃ」
「全弾命中だと?この距離から??」
あの後、二回ほど距離を変えて、今は500Mの位置で撃った。
この狙撃銃にも大分馴染んで来たかも。
あ、しまった。
私はあることに気づいて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。弾全部撃っちゃったみたいです!」
「「・・・」」
私の前でお二人はずいぶんと困惑した顔をした。
◇◇◇◇◇
私の配属先が狙撃隊に変わって一週間が経った。
突然の配属替えに最初は戸惑ったけど、狙撃銃を撃つ技術を磨けば、少しは彼の役に立つかもしれない。
今ではそう思っている。
はぁっ。
はぁっ。
細かく息をしながら私は走る。
「い、意外に体力あるなぁ」
同僚の軍人さんが息も絶え絶えな様子で私にそう声を掛けた。
「え、あ、はい」
マラソンは嫌いじゃない。
へとへとな様子の他の隊員を見ながら、私は整理運動をする。
「よう、ミーナ」
「あ、エレス指導官」
そう言って、声を掛けて来たのはエレスさんだ。
軍の武術指導官。
彼女は狙撃の腕も凄い。
LVやステータスの高い人は性能が違うなぁ。
「なぁ、良いのか。あいつに言わなくて」
「う、うん。だって、勝手にやってることだもん。迷惑でしょ?」
こうして軍に所属して見て彼の凄さはますます分かった。
眩しすぎて目が痛いくらい。
「でも、言わないと気づかれないままだぞ」
「い、いつか」
「いつか?」
いつかは役に立ちたい。
でも、ちょっと。
今はそんな自信ないや。
「エルフ種ってのは基本的におっとりしてるからなぁ。長寿種だからだろうが」
「はぁ」
わたしっておっとりしてのかな?
そういうつもりはないけど。
「まぁ、その性格を直すにはちょうど良い機会かもな。頑張れよ、ミーナ」
「は、はい!武術教導官殿!!」
何だろう。
こういう感じだと人と話しやすいかも。
階級社会って気が楽かも。
◇◇◇◇◇
私は息を殺す。
この距離なら安全だと分かっていても生理的恐怖がある。
あれだけの存在を視界に入れるのは恐怖だ。
竜。
その幼竜だ。
開示された情報によれば、世界に滅びをもたらすモノ。
私は気持ちを落ち着かせようと自分の愛銃に触った。
そういえば。
今、技術開発部のグランマイスターのヨークソンさんは念動力誘導型の誰でも当たる弾丸を作っているらしい。
ただ、コレに用いるには向いてないだろうなぁ。
弾丸に使える魔法式が限られてくる。
ここ数ヶ月はこの技術の開発に追われていたらしい。
漸く完成した技術部の努力の結晶。
「はじめてください」
通信機から聞こえてくる声に私は小さく頷いた。
みんなの思いが詰まったそれを私は構えた。
竜撃銃
超大口径88mm念動力による反動相殺型、有効射程3000M超のアンチマテリアルライフル。
無骨なそれは、もはや大砲だ。
加速方式は3重。
高性能火薬。フォース。電磁加速。
最高到達速度4000m/s。
弾丸には偽装型の魔法式による風力制御と加速術式が刻まれている。
ラムとなる力場が前方の風を流線型に流すことで加速を損なわないように出来ている。
疑似的な真空無抵抗弾。
魔素による魔法式のコーティングの中には、モース強度12をマークした結晶構造を最適化・再構築した強化炭素。
その中心には魔唱結晶「竜滅LV50」の結晶石が収まっている。
3重構造体弾。
銃身には複数の異なる金属と魔唱結晶のコーティングがされている。
反動が少なくブレの補正も私は気に入っている。
対象を確認する。
距離、大体2000Mちょい。
模擬弾での訓練ではまず絶対にミスは出ない距離。
その動きは緩慢でまだ、警戒態勢を取る様子もない。
竜死眼と呼ばれる補助照準器が竜の概念核の位置を私に正確に教えてくれる。
私は引き金を引いた。
「シュート」
「計測を開始します」
着弾まで1秒はない。
存在強度=LVを極端に低く見えるように偽装した弾丸が幼竜の探知感覚を突破して着弾した。
その肉に到達するや体を覆う高強度のハジャに魔法式転写が消滅する。
剥き出しの強化炭素弾がその肉を突き進む。
それはどんどん奥に進んでいき。
そして。
「概念核に到達を観測。弾丸物質部の破壊並びに竜滅結晶の起動を確認」
上手く行って!
私は祈る。
視界の中で幼竜がわずかに震えた。
そして、変化は訪れた。
「概念核にダメージ。機能の一時停止を観測。幼竜の外核がパージされ、概念核が露出します」
やった!
私はよろこんで跳ね上がった。
◇◇◇◇◇
「うぉおおおおお!!!」
「きたぁああああああ!!!!」
後方キャンプ地。
待機していた軍人が喜びを爆発させ、跳ねた。
怒砲のような歓声が沸き起こる。
「幼竜が。まじかよ」
ぽかんとした顔のユキアの横で僕は言った。
言ってやった。
「いぇーい」
「馬鹿にしてんのか!」
ぼこっ。
殴られた。痛いっす。
若干ショックを受けてる様子のユキアは完全崩壊した竜を見て唸っている。
まぁ、
そっとしておくか。エタ勇者にも色々、思うところがあるのだろう。
「さて、冗談はさておいて、どうだった?」
「ああ。まぁ、幼竜ぐらいなら、現状でも何とかなりそうだな」
ヨークソンの言葉に全員が頷いた。
観測器で竜の様子を見ていた技術開発部のメンバーは満足げだ。
「そっか」
もっとも、今の竜滅には概念核の活動を一時休止させる効果しかない。
色々試して見るが完成できない。
何かが、足りないのだろうか。
「おい、ユノウス。封印処置に行くぞ」
ユキアの言葉に僕は頷いた。
「了解だ。じゃ、報告は後で」
◇◇◇◇◇
ここは西のカイゼル諸国。
最近は竜の多発地帯となっている為、国土はかなり荒れている。
別名、廃棄国家。
砂漠化も相当に進んでおり、住民もそう多くは無い。
というか住んでいるのは聖団の監視団ぐらいだ。
竜の頻出ポイントは他に北のレーグレント、そして、東のアカツキらしい。
次の竜が発生したとの報告を受けた僕たちはユキアとともに、ここで数日間のキャンプをしていた。
初日に幼竜を発見した。
そこから様々なストレス実験を行った。
そして、5日目。
最終目標であった軍事力による幼竜の撃退を成功させた。
僕は概念核の封印処置を終えると本部のあるテント地に帰ってきた。
僕らは結果報告会を始めた。
「モニタリングの結果を報告します」
エヴァンが律儀に報告を開始する。
「まず、竜の周囲探知能力ですがLV2000程度で1000M範囲でした」
竜の感覚器官は周囲1000M圏内らしい。
竜は僕らのような生命とはずいぶん違ったモノらしい。
目やピット器官とは違う反応を示している。
存在力感知機能かな。
質量と存在強度に反応するようだ。
ヨークソンが一時的に説明を引き継ぐ。
「モニタリングを開始して、わずか5日間で竜のLVは1985から2029まで増加した。竜は現出と同時に周囲の魔素を取り込んで無限に大きくなるようだ。反射圏内の幅も当初の955Mから1055Mに増加。こちらはどの程度、存在強度に関係があるか不明だが」
まだまだ、研究の余地があるな。
「竜を取り巻く微細な黒い粒子は崩壊した物質のようです。竜は周囲の構造物をエスとイドに切り分け、イドのみを喰って成長していくようです」
「つまり、ガっ○ゃんか」
「無視します。それに伴って周囲環境が砂漠化しているようです」
くぴぽー!くやしくなんかないもん!
あー、そう言えば、魔法戦士の方にそういう精霊がいたな。
なんだっけ?
「1000Mまでの第一次防衛圏内で反応がある存在強度と質量の大まかなデータはこれです。
存在強度の低い存在には圏内でもあまり強い反応を示しません。LV10までは人間でも反応はありませんでした。
500Mまでの第二次防衛圏ではLV5まで反応しています。
100M以降の接触圏ではLV1でも反応しますが、LV1でも蠅のような低質量な物体には反応していないことが分かりました。
反応があった場合の反射速度はおおよそ回避不能ですが、圏内がそう広く無いことは幸いです」
「ユノウス閣下の推察は間違いじゃ無かったようだな」
「以前戦った時の妖精式演算のデータを解析しただけだよ」
「これを踏まえたヨークソンさんの案だった竜撃銃による撃破も上手く行きましたね」
僕が以前趣味で作った偽装魔法式を応用したものを使って存在強度と質量を誤魔化したアンチマテリアルライフルによる警戒圏外射撃。
まぁ、僕が竜滅の魔法式を封した竜滅結晶が必須とは言え、一定の防衛力を人類サイドが得た。
大きい前進だろう。
竜撃銃なら誰でも撃てるし。
まぁ、当てるのは激ムズだろうな。
これで竜災害に完璧に対処出来るわけでは無いが。
最初の一歩である。
僕は手を挙げると言った。
「今日の報告はここまで。帰還するぞ」
「了解しました」
◇◇◇◇◇
テントをたたみ、帰り支度をしているとエレスが僕に近づいてきた。
何かを言い足そうな、言いにくそうな顔で僕に言った。
「あー、ところで、今日の殊勲者の射撃手が来ているんだが会うか?」
ん?そうだな。
「ああ、礼を言わないとな」
そう言えば、狙撃隊に銃の妖精さんが居るみたいな話を噂で聞いたな。
噂の凄腕スナイパー。
きっと、ジ元やゴるゴみたいな。
さぞや、職人かたぎの・・・。
「彼女だ」
え?
僕は目の前の少女の姿に困惑した。
「は、特務竜撃隊の筆頭狙撃手のミーナ少尉です」
それを聞いて僕は目が点になった。
え?ミーナってエルフの?
あのミーナ?
何やってるの??
「・・・え?何してるの?ミーナ」
彼女は恥ずかしそうに顔を伏せると呟いた。
「え、あの、ちょっと、お手伝いかな?」
「え・・・っと、誰の」
「うぅ」
なんだ。この反応。
めっちゃ赤面してるし。
そういえば、あの日以来、エルフの里でも会う度にもこんな感じだった。
最初は避けられてるのかと思ったが、しばらくして、単純なコミュ障だと気づいたけど。
「ミーナはお前の役に立ちたくて、エルフの里から出てきたんだよ。それから、ずっと軍に所属していたらしい」
エレスの言葉にさらに驚く。
え。
ミーナが里に居なくなったのって半年以上前だろ?
どこに行ったのかな?と思っていたけど。
まさか、こんな近くにいたとは。
エレスのその言葉で、僕はミーナがわりと早めからべオルグ軍に志願し、所属していたことを知った。
まじで?
全然、知らんかった・・・・・・。
「師匠、黙ってたのかよ」
「気づかん、お前も悪いだろ」
そ、そうかもしれないが。
いや、間違いなくそうだろうけども・・・。
「ミーナ」
「え、あ、はい!領主閣下!」
なんだよ。その呼び方は。
「いや、普通に名前で良いよ?」
「う、うぅ、ゆのうすくん?」
なんで疑問形?
「おう、なんでここにいるんだ」
そして、ミーナは言った。
顔を真っ赤に紅潮させて。
「そ、その・・・きみのやくにたちたいから・・・かな・・・?」
「・・・・・・」
・・・。
僕は天を仰いだ。
この反応、この行動で分からない訳もないだろう。
ああ。
かみさま、またひろいんがふえました。
ぼくもう、いろいろ、いっぱいみたいです。