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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
56/98

学校を作ろう

※7月12日改訂

「ついにべオルグ領立学校が完成した様です」


エヴァンの報告に僕は顔を上げた。


「そうか。ついに出来たか」


僕は執務室を出て、さっそく視察に向かった。


学校用地は若干の郊外である。


市街に作っても良かったが学校は意外と人が集まる。

町を広げるいい機会だからほんの少しだけ遠ざけた。


元々は只の更地で何も無かった場所。


そこにそれはあった。


「おお、すげぇ」


思わず声が出た。


もうまんま、現代風の高校だ。

規模は三倍近いが。


グラウンド、体育館、プール、図書館、学生寮、研究棟。


後は僕がダンジョンを用意すれば完璧だな。


「どうだ。オーダー通りに出来てるだろ」


「さすがです。土木隊指導官」


ここを担当した土木隊指導官のグノーが笑った。

元々は宮廷建築士であり、宮廷修繕士である彼。

相当な凄腕だ。


簡単に言うと、宮大工に近い実力者。


かなり気合いを入れて作っただけに嬉しい。


ある意味においてここが、これからのすべての始まりになる。

世界への反撃の狼煙。


その最前線。


「うん、良い感じだ」


僕は頷いた。





◇◇◇◇◇







戦略会議。

いつもの面々が席を並べる中で僕は宣言した。


「今日の議題は学校についてだ」


僕の宣言に全員が頷いた。

僕はその反応を見て、大量のあるものを机の上に載せた。

紙の束だ。


「これは?」


ヨークソンが興味深そうに紙を広げる。


「こっちが通常の勉強テキスト。こっちが科学知識専攻、こっちが法律知識専攻、こっちが医療知識専攻」


「ほぅ、かなり高度なことまで書いてあるな。おもしろい」


この世界のものも併せて死ぬほど、ググりまくった成果だ。


正直、医療関係は僕には門外漢すぎたのでこの世界の医療師のところまで出向き、カルテを大量に見せてもらって、それを元に現代知識をググりまくったのだ。


「さらに私の用意した魔法知識専攻のテキストだ」


さらにユシャンがテキストを盛る。


山の様に積まれた紙の異世界知識テキストに一同が困惑する。


「こんなに勉強させるのですか?」


「ああ、うちはこれを小、中、高の全部で9年間かけて詰め込む予定だ」


新時代の技術者を量産するのだ。


みんなには僕が転生した異世界人であることはすでに話してある。

その反応が、「まぁ、ユノウスさんですし」だったのはかなり不満だが。


「はー、大掛かりですね」


妙な感心をするアズサに僕は笑った。


「学校ではマイスターの皆さんにも週1、1時間の授業を持って貰う予定です」


「ええ!?わ、私もですか??」


「そうです」


まぁ、鍛冶師にそこまで期待はしていないが。


「教師はどうする?」


「そこなんですよね。一期生は基本的に自習がメインになり、週一時間の時間で分からないところを僕らに彼らが質問する。そんな感じです」


なんせ、この知識はすべて教える側の人間がいない知識だ。

非効率かもしれないが自習でじっくり理解して貰うしかない。


「君やユシャン先生、ヨークソン先生はそれで良いかもしれないけどね。私たちに勤まるかしら」


「一期生は全員を特待生にします。特待生は金を貰いながら勉強する形にしようと思います。青空教室や私塾巡りで集めた天才連中を中心に最初は50名。彼らには勉強してもらう他……」


べオルグ領の学校システムはちょっと特殊になる。

入学年齢を固定しない。大学方式だ。


青空教室で教導隊の授業に受けて、高い知性を示している人間はむしろ大人に多い。


実のところ、最初の内はそういうある程度、大人の人間に来て貰った方が助かる。


「ほか?」


「ええ、2期生以降に1期生が、時間を設けて、勉強を教える伝達教養をさせます」


しばらくはリレー方式の先生制度になる。


「なるほど」


「この調子で3期生までは特待生クラスのみで編成」


「そのぐらいの数なら天才やらも集まるだろうしな」


だって、誰も人的鉱脈を掘ってないもんな。

いっぱい居るでしょ。


「と言うわけで、あとで全員に一部ずつ配るから。勉強してくれ」


「う、嬉しくないです」


アズサが嘆いた。


「ところで、ちょっと気が早いですが、卒業後はどうするんですか?」


「そこで一期生の半分は教師、もう半分は」


「医師ですね」


エヴァンの言葉に僕は頷いた。


「そうなんだよ」


ここ学校を作った目的の半分がそれだ。

医者と病院を作る。


あるいは学者より大事なインフラ事業。


「ちょっと調べたんだけど、この世界の平均寿命って40歳ぐらいなんだよなぁ」


「そうですね。そのぐらいかも」


うーん、人間は余裕で80歳以上生きるからなぁ。


「できれば、医療は発達させておきたい」


確かに病院は大事だが。

実のところは施政側としてはあんまり乗り気にはなれない。


「病院が出来たら商会に定期健康診断制度を作って受けさせるかな」


「まぁ、受けは良いでしょうね」


受けは良いが、批判もあるかも。


「健康格差社会だからなぁ」


結局、金が有る奴が長く生きるのだ。

命は金で買う。老後の暮らしも金で買う。


「老人はどうするんだろなぁ」


別に福祉国家の施政者でも国民の委託を受けてる訳でもないので僕が考えることじゃ無いかもしれないが。


「富の再分配の問題ですね」


「と、富の再分配?お金を平等に配るんですか?」


何故か意外そうな顔でアズサが僕を見た。


ちょっと失礼じゃね?


ただ、まぁ面倒な話だよな。


そういう分野を声高に叫ぶのが哲学者だ。

というか人間幸福論者。


「うーん、というよりヘイト管理体制だよね。如何に納得させるか」


富の再分配なんて、誰かにやってもらう必要があるのかねぇ。

別に相手は有権者じゃないからこっちも接待プレイする必要ないんだけどなぁ。


ただ、あんまり疎かにして、ヘイト管理下手だと「ikkiしちゃうぞ★」って始まるし。


ああ、できれば考えたくないことだよな。


僕の立場と一般的領民の立場が違いすぎるし、何よりたぶん正解はないし。


「ひとまず、お金持ちから税金をふんだくるって行為はこの世界ではできない」


「どの国も累進課税なんてやってませんからね」


それやっちゃうと。

マッハの勢いでべオルグから資本が逃げていくから。


「そうなるとサービスでふんだくるのがベストだな」


市場の原理を使うのが自然だな。

貴族からふんだくって、ユノウス商会を通して従業員に流す。


「一番良いのが病院ですね」


そうなんだよ。

健康を商品にするのが超儲かるんだよな。


ただ、それには超知識が必要だし、ユノウス商会で商品化するにはまだ色々と準備が足りない。


で、今回の学校で見通しが立つかもしれない。

医者が育つまではくそ時間がかかるけどね。


「そういうこと。まぁ、ユノウス商会と契約農家の方は会社で病院割引制度を設けるわ。それで良いとして、領民はどうしようかな」


「まぁ、ユノウス商会に入らないなら、ユノウス商会経営の病院は全額払えってことですね」


そうなるなぁ。アメリカ方式だね。

大変だが頑張れ、自営業種とあと貴族さま。


まぁ、お金持ちのお客様♪と僕の商売の敵ですし。


お金持ちにはホテルみたいな病院作らないとな。


ユノウス貴族病院と。

ユノウス商会従業専属病院って形で二つ作ろうか。


プレミアム化でぼったくり。

商売の基本ですわ。


「しかし、下手すると高齢化社会がマッハですね」


「僕の予想だと商会が育って、色々準備が整うと、このべオルグべラードは人口爆発が起こると思うんだよね」


余裕でベビーブームが起こると思う。


「急成長、そして」


「急衰退」


超高齢化社会到来ですよ。

普通にあるだけに怖い。


「とにかく、小さい政府最高ってことよ。無用なリスクはおかせません」


年寄りも仕事、頑張れ。

死ぬほど頑張れ。


年金なんて、生活保護なんて、皆保険なんてこの世界には無いんだよ。


そもそも基本的人権とか生存権とか憲法にないもんな。

うん。知らん。


「僕は軍務強化は領府、サービスの拡充は商会でやる」


「正に両輪ですね。しかし」


エヴァンは笑った。


「なるほど。そう考えると竜という存在は決して悪くないヘイト役ですね。必要悪だ」


国家にとって便利。


言ってしまえば、

アメリカにとってのロシア。

ロシアにとってのアメリカ。


プロレスの相手にちょうど良い。


「さすが、エヴァン。こういう発想についてこれるのが大したもんだわ」


「はは、意地の悪い発想だな」


「どうして、学校の話がこんなことになるんですか」


エヴァンは目を細めると言った。


「たとえば、社会的弱者の救済はどうします?」


それかぁ。僕は言った。


「そういうのはボランティアでやるべきだろ。施政者が抱え込む問題じゃないんだよ。行政側の義務になれば、面倒事すぎるぞ。純然たる厚意によって運営することで弱者のモンスター化も防げる」


やたら、弱者の権利をかざされても困る。

有名なゴールデンバ○ムみたいなことはしないけどさ。


「では、ボランティア団体をつくるんですか?」


「うーん、一定の資金は注入するとして、母体はやっぱ聖団とかがそれをやるのがベストだろ」


連中は信者ゲットだし、喜んでするだろ。


「国家最大のサービスは竜撃退。竜から守ってもらえるありがとう。夜警国家上等ってわけ」


「そのモデルですとやはり軍で竜を撃退する必要がありますね」


「その件については俺の方で割と良い案があるんだが」


ヨークソンが別の話を切り出した。

すると、突如、会議室の扉が開いた。


「大変です!」


エヴァンの秘書官だ。軽く青ざめた顔だが。

何かあったか?


「どうした?会議中ですが、火急の用件ですか?」


「じ、実は」





◇◇◇◇◇






2週間後。

べオルググラードの地に一人の老人が降り立った。

護衛の騎士、数千とともに。


「おお、君がユノウスくんか」


「お会いできて光栄です。聖皇」


僕は膝を突くと聖皇に挨拶をした。


僕の横で同じく、膝をついて礼をしていたライオットが声を発した。


「お久しぶりです。陛下」


「おお、ライオット君か。君の戴冠式には参列させて貰うつもりだ」


「は、ありがたき幸せであります」


イノケンティス・ニコラス9世。

聖団のトップの電撃訪問である。


まさか、聖団がガチのトップ外交してくるとは。


僕が軽く参っていると遠目に彼女の姿が見えた。


ユリア・アンネリーゼ。


あ、あの幼女め。なんで微笑んで手を振ってるねん。


「ありがとう。ユノウス。さぁ、席に着いて。話をしよう」


「分かりました」


僕は平然を装いながら、席に座った。


なお、内心はビビりまくっていた。

あああ、どうしてこうなった?





◇◇◇◇◇






法神契約による相互連携契約。

調印式はつつがなく行われた。


この領地のトップは一応、ライオット王だが、テスタンティスは聖団加盟国だ。


つまり、聖皇はテスタンティスの上(聖団)のトップである。


調印の内容は聖団の事務担当官が一週間前から入って、エヴァンと内容を今日まで詰めてきたもので、僕と聖皇はこの場では確認をしただけだ。


事前の事務官レベル交渉だね。


聖皇はほぼ調印だけ、これで帰っていく。


聖団本部からべオルグまでどれくらいかかるのか、ちょっと僕には分からないが大変なコストと時間だな。


「君には期待している。是非この世界の希望となって貰いたい」


彼が握手を求めて来たのでその手を握った。


「ありがとうございます、陛下。身に余る光栄です」


おし!べオルグでの秘密の暴露権ゲットだぜ。

その他、なかなか悪く無い内容である。


いやー、ラッキー。


「ところで、君はユリアとは仲が良いのかな?」


突然の不意打ち。


聖皇の言葉に僕は笑顔で固まった。


仲が良い?誰と?誰が?

え?そんなに仲が良いわけでは。


「え、ええ、まぁ」


脳内の思考を必死に打ち消すと僕はかなり無理矢理に微笑んだ。

突然の話題変更に脳が若干、思考停止だ。


「是非、仲良くしてくたまえ。あの子は私の娘みたいなものでね」


「は、はい」


・・・。


はっ、これって、まさか。

え?えぇえ??


・・・。





◇◇◇◇◇





聖皇はうちで昼食を取った後、その日の内にたった。


ずいぶんと忙しい人だな。


聖皇達を見送った後、僕にユリアが近づいてきた。


「ふふ、ユノウスくん。今日はご苦労様です」


「お、おう、ユリア」


おまえ、なにやってくれてんの?

色々、文句とお礼を言いたいんだが。


主に文句。


でも、言えないよな・・・。


「はい、色々大変だったんですよ。でも、役に立って良かったです」


そ、そう。

いや、そりゃすげぇ有意義だったけど。


「・・・良く聖皇が動いたな」


「そうですね。私と聖皇さまはパパ、娘と呼ぶ合う程度には仲が良いんですよ?」


援交か!?


あ、い、いや、違う。

僕は発想がおっさんすぎる、もちつけ、おれ。

いや、落ち着け、僕。うん。


「そ、そうか。じゃ、何かお礼を」


「そんな。ほんのちょっとだけで良いですから」


ほんのちょっとですか。

でも、ちゃんと要求するんですね。


「そっか。ほんのちょっとか」


「はい。気持ちというか、覚悟だけで良いですよ」


「か、覚悟?なんの?」


やだ。

婚約とか言い出すんじゃねぇだろうな!?


こわい。にげたい。


「ふふ、それは色々なんですけど」


いろいろなんだ。ほ、ほほう。


「そ、そう、で何かあるの?」


「あのですね。実はべオルグ領の情報開示は条件があるんです」


「え、条件?そんな話は無かったような」


調印式では特にはそんな話。

いや、待てよ。


確か、べオルグ領内の聖団の宗教活動を支援する項目があったような。


でも、それとユリアに何の関係が?


「もう、聖皇さまったら言い忘れてしまったんですね。ふふ」


「え?なにが?」


「あ、それとも案件的に、ライオット陛下経由で話が行く予定だったのかもしれませんね」


「だからなにが?」


「実はべオルグ領はオンブズマンとして特使アンバサダーを受け入れることになってるんです」


「え」


どういう意味。いや、まさか。


おい。


「あのね。私、ちょっと引っ越すから聖堂おうち建ててほしいなぁって」


「・・・・・・」


・・・。


「おうちって白い一戸建てぐらい?」


「やだぁ♪ユノウスくん、私はぜんぜんそれでもかまいませんけど♪」


お、おう。

きゃっきゃしてるユリアが言った。


「末永くよろしくお願いしますね♪ユノウスさま」






◇◇◇◇◇







・・・。


「・・・」


「・・・」


・・・。


・・・。



「なぁ、エヴァン。お前、彼女に強請ねだられてあげられるプレゼントの額っていくらぐらい」


「さぁ」


「僕はいま、とある幼女から軽く見積もって5000万Gくらいのものを強請ねだられているんだけど、どう思う?」


「一応、資金はフィリア教団持ちですが」


そこまでうちが持ったら、うちは潰れてしまう。

べオルグは弱小なんです。


勘弁してください。


「おう、だが作るのはうちだぞ。しかも、期限、半年」


「さすがですね。惚れます」


だろ?

普通、幼女にホンモンの城を立ててやる男なんてそうそういないよな。


HAHAHA。


・・・。


・・・。


そうか。これが本当の地雷という奴か。



ああ、なるほど。




恐ろしい。



お、恐ろしいお・・・。



「はぁ、ひとまず、デパートの工期を若干遅らせますね。こっちが最優先事項でしょうし」


きっと、クレイの奴が禿げるな。


くく、奴のフサフサの髪が弱っていくのを日々のささやかな楽しみに愉悦の日々に浸ってやる。

くく。


「嫌がらせでザ、手抜き工事してやろうかな」


「後が怖すぎます」


ですよねー。


ユリアたんのパパ(世界最高権力者)にぶっころですよ。やーん♪

僕はため息を吐くと言い切った。


「ユリアの政治力は危険だ。やつはモンスターだ」


「そうですね」


「良いか、向こうは聖皇を動かしてきたんだぞ。たった男爵に過ぎない僕に対して世界最強の権力者が、しかも、わざわざ僕の領地にやってきた。トップ外交と言ったって、これは周囲にどう映る?」


オ○マ大統領が小浜市長に会いに行くようなもんだ。

いくら権力体系が違うつっても、何を言われてもこっちは「ハイ」しか言えないだろ。


外交でここまで大胆なカードの切り方はえげつないを通り越して反則だ。


「見事なカードの切り方ですね」


「ああ、一方で外交ってものの別の意味でお手本すぎる」


相手に釘を刺すなら全力でやる。


こっちはぐうの音も出ない。


後にはペンペン草も残りませんよ。


「僕の話についてくる9歳だって時点で気づいていたが、あいつはそういう部分では僕以上だ」


知略というか聡さ。


「はは、そのようですね」


エヴァンは苦笑いを浮かべて言った。


「そして、今回の件。うちはかなり得をしましたね」


「ああ、そうなんだよ。これうちにとっても超お得な話なんだよな。残念ながら」


だから、やばい。


「聖団、それも聖皇の御墨付きを頂いたということですからね。権威としてはテスタンティス王の次元では無いですし、今後の活動を考えて相当なアピールになりますよ。これは。我が領地にとんでもない箔が付きましたよ」


電○に全世界発信のCM料が人件費のみで実質タダと思えば、安すぎるわけだ。


ああ、これが事実だけに始末が負えない。


「なんで幼女が動いて、この世界最高の権力者である聖皇が動くのか。なんだよ、この世界。アンネリーゼって何なんだよ!」


それだけ、今の世界事情が芳しくないということかもしれないけど。

破綻しかかっているのかもなぁ。


連中の本気度が怖い。


「さぁ、われわれに聖団内部の力関係は分かりかねますし」


そう言えば、僕に付いてきた時に平気とか言ってたけど


平気(政治力)って意味だったんだな。


あいつ。


なんてやつだ。


あの時、強気かつ上から目線で結構色々言ってたけど。

失敗したなぁ。うん。


とんだしっぺ返しだな。


「しかし、まさかの聖皇がわざわざ出向いて来て、聖団の最終兵器を領地に置くんだぞ」


これは、と世界に思わせられる。

これだけで僕らのべオルグに一種の畏怖が生まれる。


ここには何かあるということを内外にアピール出来る。


さっきの話になるが周りからすれば、小浜市に石油でも埋まってるんじゃないかって話になる。


つまり。


すげぇ仕事がし易くなるじゃん。


外交ブーストかかるわ。


やべぇ、ユリアさま、靴舐めさせてください。


「つまり、あの幼女、僕にとんでもない恩を売りつつ、自分にとっても理想の状況を作りやがった」


「そうですね」


そして、

図らずもピースがそろった。


「状況は整いつつある」


やたらざっくりだが。

この後、めっちゃ面倒だが。


それでも大体、見えてきた。


「これで新生べオルグ領の全体像も見えてきましたね」


「ああ、国家が犯罪と竜から人を守り、ペンを与えて学を授ける。商会が職とサービスを提供し、教会が漏れた弱者を救済する」


べオルグ領府。

ユノウス商会。

フィリア教団。


うーん、中々良い塩梅になるんじゃねぇ。

これは。


「フィリア教会のトップがアンネリーゼというのも都合が良いですね」


「使うのはヤバいけど」


こわい。

あいつ、こわい。


「良いじゃないですか。好かれてるようですし」


よくないよ。こわいよ。


「でも、まぁ、これ間違いなく、公認を取り付けて来てるよね」


「公認?何の」


「YOU、ちょっと行って、あの9歳児の良い人になってきて来なYO」


エヴァンは誰の真似かは突っ込まなかった。

まぁ、分かるわけ無いけど。


「ああ、聖団の決定として、ユリアさまをユノウスさまに当ててくるってことですね。まぁ、その決定は間違いなくされていて、押し掛けて来るのでしょうね」


とんだ押し掛け妻ならぬ押し掛け幼女である。


何で僕はこんなに幼女に人望厚いの?

前世で何か悪いことしたかな?


「ユリアの奴、聖団の上の人間にこんなことでも僕に対する抑止力になると本気で思わせたってことだろ?」


聖団での僕の風評が幼女でコントロール可とかだったら泣くしかないよね。

うん。


「もう世界最強権力公認で結婚決定ですね。可哀想に」


哀れむ様な顔でエヴァンが告げる。

僕は焦った声を上げた。


「い、いや、それはないだろ。さすがに、それは僕の意志というものはあるわけだし!まだ9歳だし!!」


「案外お似合いですよ。同じレベルの変人ですし」


何を言ってんだエヴァン。


あわてるな!

そう!まだゲームセットじゃないよ!!


あきらめるな!僕!


とにかく、そんなこんなで押し掛け聖女さまが我が領地に来ることがこうして決まった。


あああ、すごくおもいです。





◇◇◇◇◇






「アズサは担当が決まったのか」


「は、はい。竜について教育する予定です」


「ほぅ。まぁ、知識としてはこれからの部分だし教えやすいな」


すみません。簡単なの取っちゃって。


日々、勉強しているけど人に教えるほどではない。


「どういう風に教えるんだ?」


「えーと、要は災害なんだって事らしいですよ」


竜災害マニュアルを見ながら、私は言った。


「ん?」


「つまり、火山が噴火したり、地震が起きたり、竜巻が起こったり、雷が落ちたり、津波が襲ってきたり。そういう災害の一つだって考えろと言うことです」


ヨークソンは頷いた。


「それは正しいな。あれは悪意というより現象だ」


そうですよね。

ちなみに、このテキストには「大竜とかブラックホールだから(白目)」とか書いてありますけど。


どういう意味ですか?

ちょっと、知識が足りなくて分からない。


「要は壊滅被害を受けないこと。竜災害一回で死者100ぐらいがベストとか書いてありますね」


「なるほど。うんうん。そういう考え方をすることは大事だ」


普通そう簡単に割り切れるものでも無いが。


ただ、そう考えれば、人は竜の事を必要以上に何とも思わなくなるだろうなぁ、とは思う。


世界が人を滅ぼしたいというよりも、只の世界の欠陥。

巻き込まれれば、ああ、不幸な事故だったね。

と。


「これが竜対策のマニュアルです」


「ほほう。まずは逃げるか」


「はい」


それが出来れば、もちろんベストである。


まず、逃がす。そして戦う。


「なるほどな。リスクコントロールってことだろうが、しかし、そう言う事を平然と言えるのが凄いな」


「そうですね。頭が良いのとは少しベクトルが違う気がします」


知識というより発想力。

あるいはそういったことへの経験値。どこでこんな経験を積んだのだろう。


「ところで、この案。これ、やばいですよ」


事前配布された次回の議題内容だ。

こういう予習してくれという資料がないとアズサにはついていけない議題が多すぎる。


「そうだな。やばいな」


あの人。さすがに考えることが半端ない。


世界門ワールドゲート構想か」


「大きくでましたね」


世界中を超大型転移門で繋ぐ。


そうなれば、竜の大都市襲撃があっても安全に大量の人間を退避させられる。


そうなれば、べオルグ軍は世界の防衛力に成り得る。


「実現の可能性は低いか」


ヨークソンの言葉に私は頷いた。


さすがに大規模転移門を首都に構えたら敵軍から身を守る術を失ってしまう。


しかし、そうならないように考えた方法も書かれている。


「そうでも無いですよ。ゲートのアクセス管理権限をうまく作れば」


其処はうまく説得ができるように出来てる。


ような気がする。


確かに疑うことはいくらでも可能だろうけど。


「管理が出来れば、受け入れられる余地があるか。・・・だが、それを信じるか?技術は我々が持っているんだぞ?抜け道を作られるかもしれないという恐怖は残るだろう?」


「技術提供に留め、自前で作らせますか?」


「懇切丁寧な仕様書を渡したとして、さて何年かかるかねぇ」


べオルグ領が変わるのはこれからだが。

変わったべオルグ領を周囲が理解し、受け入れるまでさらにどれくらいかかるだろう。


この構想が実現するまで何年。


あまり悠長にしていると世界が滅ぶが。


「結局、必要なのは相手国の受け入れる度量とこの国の信頼だな」


「そうなりますね」


「今の我の格では何も聞かないだろうな」


外交力ですか。

たしかに世界にモノいうならそれが必要になってくる。


それは金であったり、地位であったり、力であったり、技術であったり。


彼は世界に何を提示して、そして、何を得る気なのだろう。


ヨークソンが苦笑いをした。


「そんなこと。我々が心配しなくても彼なら分かっているさ」


そうですね。たぶん、彼なら何とかしますね。

なんというか、ぶっとんだ人ですから。

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