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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
44/98

神速の弾丸

※7月12日改訂

二日目。

今日は午前中に中等部の予選、午後から初等部のトーナメント本戦と団体戦がある。


僕の方はまぁ、順調だ。


試合数はさすがに多くて面倒だけど。

取りこぼしも無く勝ち進んでいる。

まぁ、相手はみんなアンダー12だし、負けるわけないな。


そして、僕が決勝進出をさっくり決めたところで次の試合。


決勝進出を掛けて、ウォードとアルヴィスの試合が始まった。




◇◇◇◇◇





ウォードは緊張した面もちで控え室に座っていた。

一年目にして準決勝の舞台に立てた。

これは大きな成果だろう。


「でも、僕が優勝するのは今後もちょっと難しいかな」


悔しいが今のままではそれは只の事実でしかない。

同級生のユノウスの天才っぷりには常に舌を巻いてきた。


残念ながら、今のままでは勝てないし、追いつけないと強く感じている。


どうして彼は、彼処まで優れた魔法使いになれたのだろう。

分からないが。


いずれにせよ。今の僕に出来ることは精一杯やって見るつもりだ。


「もっとも、今、僕が越えるべき壁は一つじゃ無いよね」


アルヴィス・ウォー。

前回も前々回も観戦した僕は知っている。

彼もまた。ユノウスと同じ別格の存在。


でも、どこにだって見上げるばかりではたどり着けないだろう。

前に見据えないと。そして、歩き出すんだ。


「いくぞ!」


僕はデュエルの会場に歩きだした。

戦いが始まる。





◇◇◇◇◇






準決勝を前に観客のボルテージも最高潮な様だ。


「今年は競技者のレベルが実に高いな」


ニューフェイスのルーキーが颯爽と登場して快進撃を続ける。

こういう構図は見ていて楽しいものだ。

楽しそうにそう呟くクリフト大公の横でオスマン卿も頷いた。


「見てください。彼はロジャー・ロデスの息子だそうですよ」


「ほぅ、あのロジャーの」


観客の注目は絶対王者のアルヴィス・ウォーがダントツだが、あのロジャーの息子である一年生にも熱い視線が注がれている。


ただ、アルヴィスが少々強すぎて波乱の予感は無いが。


ここまですべての試合で2本取りストレートで来たアルヴィスから、一体誰が最初のドロー(引き分け)を奪うのか。


観客の注目はその一点だろう。


「どう見ます?」


「ここまで見てきた感じではアルヴィスくんだな」


「そうですねぇ」


おお、と声が挙がる。


試合会場に二人の姿が見えた。


一人目、ロジャー・ロデスの息子。

ウォード・ロデス。


「ウォードくん!頑張って!」


同じ学院の同級生だろう。可愛らしい声援に手を振っている。


そして、二人目。

アルヴィス・ウォー。


魔法学院の天才児は余裕の微笑みを浮かべながら競技線に付いた。


すこし遅れてウォードも競技線につく。


結界バリア開始」


二人を包むように魔法の防御壁が展開される。

さらにわずかに白い煙が二人の間に炊かれた。


色見香。

魔素を視認できるようにする魔法反応物質だ。


色味香はバリアに反応してキラキラ光っている。

お互いがまだ魔法を発動させていないことを審判が確認する。


確認が終わり、開始の宣言が為された。


「それでは、これより準決勝第二戦を開始する。両者、レディー」


二人が片手を掲げる。

魔法の発動プロセスは人それぞれだがお互い癖の無いスタンダードな構えだ。


「GO!!」


瞬時に魔法式が展開する。

光り輝く魔法の陣が乱舞しお互いの魔法を晒け出す。


「やはり、速い!!」


クリフトのうなり声と共に力場が展開した。


お互いに最初の選択は最速のショット。


お互いの魔素反応がカラフルな閃光の線となって力場の存在を主張する。


高速弾の撃ち合いにショットがぶつかったバリアが激しく反応した。

お互い、衝撃波の拡散を受けて、後ろに下がった。


競技線上からお互いが動いたから、着弾差での勝負になる。


結果は。


「一本目はアルヴィスの勝ちだ」


「そのようですな」


速度差は実にわずかだった。

ウォードくんの渾身の一撃も極めて速かった。


もっとも、それを凌いだアルヴィスがやはり凄いのだが。


「速さタイプの競技者ではウォードくんは群を抜いているな」


「うむ、フォースにおいて速さは絶対正義ですからねぇ」


しかし、この世代に限れば、その分野でもやはりナンバー1はアルヴィスだ。


今、やや遅れて審判がアルヴィスの先勝を告げた。


それにしても惜しかった。

これまでアルヴィスの試合で審判の判定が必要になる事態は無かった。

初めての事だ。


そして、二本目が始まる。


「レディーぃぃ・・・、・・・GO!!!」


向き合ったお互いが打ち合う。

またも高速弾勝負だ。


二人の魔法式が起動し、魔法のショットが生まれ。


そして。


会場にどよめきが響いた。


「これは」


「同時ですか?」


ウォードくんの魔法が予想を超えて、更に速くなったのだ。

あれより速くなるのか?


「こ、これは、ドローか?」


「判定が気になりますね」


審判団が中央に集まる。

デュアルは基本的に目視での判定である。


逆に行えば、目視で違いが分からないようならドローだ。


つまり、コレは。




◇◇◇◇◇





父、ロジャー・ロデスのスタイルを一言で言うなら「無心」である。

技巧派で鳴らした祖父エマに比べると彼の父ロジャーにはそこまでの魔法構築の才能は無かった。


その父が苦難の末に到達したのがすべての魔法プロセスの最適化をひたすら追求すると言う単純な方法だった。


ロジャーのショットは1撃目、2撃目、3撃目と尻上がりに加速する。


その日のコンディション。魔素の質。風の向き。

そして、相手の呼吸。


一撃目で出た極々わずかな誤差は二撃目でつぶす。


たった一つのショットを極めることこそロジャーの美学だ。


父の教えを守るこの僕にも同じの美学がある。


何人だろうと速さでロジャー流に易々と勝てると思うなよ。


「ドロー!!」


審判がドローを宣言する。


会場が割れんばかりの拍手に包まれる。

しかし、僕は動じない。


一つのイメージを心に持つ。


次に繋がった。


「次がラスト・オブ・エースだ」


そう宣言したアルヴィスが笑う。

僕は目を閉じた。


イメージだ。

すべてを最適化し、発現を、加速を、思うがままに。


すべては一つの結果に集約する。


速さだ。


「GO!!!」


僕はイメージの海を泳いだ。


すべてが理想を具現化する。


瞬間。




故に、





速さがなった。





いける!!


お互いのショットが交差し。


そして。





◇◇◇◇◇







「勝者!!アルヴィス・ウォー!!」


おぉお、と会場がどよめく。


最後の最後に最速を記録したアルヴィスのショットがウォードに有無を言わせぬ差を見せつけたのだ。


王者、強し。


「さらに速くなりましたな」


「ふむ、本気を出したということですな」


ただ、連続ストレート勝利は途切れた。


少なくともウォードくんがアルヴィスの想定を超えた速さを発揮したのは事実だろう。


しかし、あの速さ。

お互いに初等部の速さの次元を軽く超えている。


見事な戦いを見せた両名に会場が割れんばかりの拍手が巻き起こった。





◇◇◇◇◇





自分の最高のシュットが破れた。

悔しいがこれが現実だ。


「負けたよ」


控え室に行くと笑顔のユノウスが迎えてくれた。


「良い試合だったじゃん」


ユノウスが僕の肩を叩く。

彼がそう言うのならそうなのだろう。


負けた試合だけど、捨てたもんじゃない。


「僕より間違いなく速いよ。ウォード」


それは最大級の賞賛だろう。

僕は笑った。


「ありがとう」


アルヴィス・ウォーの速さは凄まじい。

それで居て、技巧も同じぐらいに優れているのだ。


「あの速度で勝てないとなると、技巧で勝負するしかないか」


「勝てそうかい?」


彼は笑った。


「さて、相手次第だな」


いよいよ、決勝が始まる。

間違いなく最高の試合になるだろう。





◇◇◇◇◇





小休止の時間で注文しておいたピッツァを食べる。


「決勝はアルヴィスとユノウスか」


ユノウスは一言で言って技巧派だ。

ただ、ここまで対戦相手に恵まれて来たこともあって、その実力はよく分からない。


地味なボールで淡々と相手を破ってきたので印象は薄い。


「ああ、そうだな」


「今の試合ほど白熱はするまいて」


「いや、技巧勝負もなかなか面白いですぞ。クリフト大公」


彼も速攻ショットプレイヤー贔屓のクリフト大公的にはあまり惹かれないのだが。


「まぁ、オスマン卿好みですからねぇ」


「ええ。しかし、好みといえば、これも美味い」


今のはピッツァの味の感想か。

確かに美味い。絶品だ。


昨晩は視察に訪れたユノウス商会の軽食店で相当に食べまくったからなぁ。


オスマン卿はこの数日でいささか体重が増えたように見える。


自分の体重に悲観的なオスマン卿に面と向かって太ったとは言わないが、しかし、確実に肥えたな。うむ。


いよいよ、オスマン卿も熱狂的なユノウッチャー(ユノウス商会の追っかけをそういうらしい)っぽくなってきたようだ。


「そう言えば、ユノウス商会もユノウスだな」


「代表の名前も同じだ。偶然の一致ではあるまい」


「9歳の子供が代表か?」


「代役が居るのかもしれんな」


同じ名前という事は隠してもいないのだろうが。

噂によると、この9歳児はどこかに領地を与えられるほど、ライオット陛下のお気に入りらしい。


「そういえば、ブレイドでも勝ち進んでおりましたなぁ」


「ふむ、ライオット陛下と同じタイプか」


その言葉にはたぶんに器用貧乏という意味が含まれる。


完璧だが突き抜けない。


それがライオット陛下の評価でもある。


「展開はどう読みます?」


「アルヴィスの加速にボールを失敗し、ユノウスくんがまず負ける」


ボールの展開でアレをとらえるのはおそらく超一流でも難しい。

それほどの速さがあのショットにはある。


「なるほど、確かにあの速さをボールでとらえるのは難しいでしょうね」


「それから、苦肉の策で速さ勝負を挑み、やはりアルヴィスの勝利だな」


クリフト大公の予想にオスマン卿は唸った。


「むむ、ということは、やはりアルヴィスくんですか?」


「そうだな。卿はどう読む?」


「一本目はアルヴィスくんではないでしょうか。二本目は予想が出来ないが、3本目は」


「目は?」


「やはり予想ができません」


「はは、それでは予想していないではないか」


オスマンは意外と互角と読んでいる様だった。

クリフト大公もまだ、ユノウスの真価を見たわけではない。


やはり、勝負は蓋を開けてみるまで分からないようだ。





◇◇◇◇◇





ウォードが負けた。

結構練習を見たりしていたし、ウォードの実力は知っている。


練習試合じゃ負けなしだったとは言え、単純な速さじゃ、あいつに勝てる気はしない。


単純な単発のフォースしか撃てないという制約は厳しい。

技巧派の僕にとっては有利な点が少ないのだ。


しかし、このウォードに加速勝負で勝つのか。

やはり、天才なのか。


アルヴィス・ウォー。


「東!ユノウス・ルベット!」


僕の名前がコールされる。

僕はコロシアムに足を踏み込んだ。


観客席を見渡す。

うーん、大盛況だな。


「にいさま!がんばって!」


この声は妹のユフィか。


「王立学院の看板背負ってるんだから!負けるな!勝て!!」


「がんばってください」


これはアリシスにシエラか。


ちょっと目を向けると三人が同じ場所でこっちに手を振っている。

なぜかその横でにっこり微笑んでるのがユリア。


なぜあの一陣に平然と混じってるんだ?

色々疑問なんだが。


しかし、あのお嬢様でもさすがに僕の応援はできないか。


そうだよな。騎士学校の代表だもんな。


「ユノウスさん!がんばってー」


・・・。まぁ、良いか。


いや、しかし、おかしいな。ユフィとユリアはこの後試合じゃん。

なにやってんだ?控え室にいろよ。


うーん。雑念が多いな。

いや、雑音が多いのか?集中出来ない。


「西、アルヴィス・ウォー」


コールがされて。


彼が歩いてきた。


威風堂々。


あれ?

こいつ、ここまでプレッシャーを放つ奴だったか?

先ほどまで、試合中に常に笑みを浮かべていた余裕さは微塵もない。

気合いが違う。


まさか。


「それじゃ、本気でやらせてもらうよ。ユノウスくん」


本気で今まで、手を抜いてやがったのか?

あのウォードに対してさえ。


お互いが競技線に立つ。


何だろうこの感じ。

初めて魔人と対峙したときと同じ感じ?


「レディ」


拙いな。これ。


「GO!!!」


お互いの魔法式が光り輝く。

そして、弾ける。


派手に切り裂かれる力場。


そして、僕だけが競技線から衝撃を受けて飛ばされた。


「まずは一本」


彼は気障な仕草で人指し指を天に向けた。


彼の宣告がなされて、歓声が響く。


「うぉおおおおお」


「一本目!!アルヴィス・ウォー!!」


僕は冷や汗を欠きながら彼を見つめた。


おお、すげぇ。

これは、僕が負ける展開?

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