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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
41/98

テスタンティスの恋人

※7月12日改訂

王都が活気付いている。


王立学院アカデミア、神聖騎士学校ユニオンナイツ、魔術学都イシュヴァリネの3校対抗戦がいよいよ始まるのだ。


多くの人手が期待される人気の大会だ。


この期間は王都のもう一つの中心とも言えるコロシアム。

名誉の頂上スロウン・ジ・オナーに人が集まってくる。


ユノウスの商会も取り仕切るギルド商会を通して、場所を確保していた。


「凄いな。一等地じゃないか」


場所はコロシアムの目の前の広場。

普段は出店など無い場所だ。


一等地というより特等地だな。


新参者のユノウス商会がこれほどの厚待遇に恵まれるとは意外だ。


さすがに問いただして見たところ、ユノウスは王とのコネがあったと言っていた。


まさか、本当に王と接点があるのか?


もし、そうならどういう男なのだろうか。

若干呆れ顔のクレイが臨時のバイトに指示を出す。


市民たちは大会前にも関わらず興味津々な様子でトーナメント表の確認をしていく。

今回は王都圏内の多くの市民が観戦に訪れることだろう。


何といっても今回の注目は2人。


初披露となる聖人アンネリーゼの正式継承位であるユリア嬢さま。


そして。

正式王位継承者になったライオット王子。


ライオット王子はトーナメントの常連で、巷ではもっとも人気の高い継承権所有者だった。

それが王を継ぐ事が正式に決まり、町中が歓喜に包まれたものだ。


ユリア様の注目も非常に高い。

何せ、歴代継承者が大国の恋人と呼ばれるほどに愛される守護聖人アンネリーゼの継承者だ。


既に公式の祭事には参加していたが今まで一般市民の前に出ると言うことはほとんど無かった。

こちらも一体どんな娘なのかと興味津々なのだ。


「どうだ?」


無精ひげの冴えない容姿の男、ユノウスがひょっこりと顔を出した。


「準備はつつがなく」


「そうか」


正直、商店の方もキャパに余裕があるわけでは無い。

本業を疎かにしない程度に割ける余裕で出来る精一杯の準備をしたつもりではある。


手間・暇を掛けず、早く、多く捌け、なおかつ、収益が高い。


ここでの販売商品はそう言った意味で厳選されている。


「フィッシュアンドポテト、ホットドッグ、カリーパン、柔らかドーナッツ、アイスクリーム、フローズン、ポップコーン、炭酸ジュース、発泡ビール、地酒。まぁ、揚げ物ばかりだが悪くないチョイスだな」


「ありがとうございます」


新しい商品の草案を出したのは彼だったのでクレイはそこから削ぎ落としただけだったが。


ポップコーンなど聞いたことも無い料理だったが意外に簡単で面白い料理であった。


炭酸ジュースの応用で小麦粉の生地に専用機械で無数のガスを入れる製法を使った生地で作った柔らかいタイプの揚げたてドーナツも人気が出るだろう。


製法的に貴重な膨らまし粉を使う必要が無いため、助かっている。


少しづつだが商品の単価も安く押さえられるようになって来ており、儲けも格段に上がってきている。


「クレイさん!こっちの準備終わりました!」


「そうか。ありがとう」


やだ、感謝されちゃったと、きゃ、きゃと笑いながら、若い女性の一団が去っていく。

その様子にクレイは若干眉を歪めた。


「どうして、女性ばかりなんだ」


「何だ不満か?クレイ」


「男性の方が使いやすい」


クレイの様子に愉快そうな顔でユノウスが言った。


「まぁ、長期の安定した労働力として使いやすいのは男だろうな」


「そうだな」


「だが、この国の女性労働力は余っているぞ。ちょっとした仕事なら彼女たちを使った方が圧倒的に効率が良い」


「確かにそうかもしれないが」


町娘と言う者がどうにもクレイは苦手だ。

姦しいし、扱いにくいし、気分屋で動かない。


「長期的に見て、女の社会進出が進む方が儲かるぞ?」


そこまで考えているのか。

そういう社会貢献まで考えているとすれば、さすがに視野の感覚が違う。


「しかし、良く耐えられるな」


「何かしゃべってるのはお経だろ。気にするな」


「・・・・・・」


どうやら、本当に儲けの事しか頭に無いらしい。


シンプルで強烈な思考だな。

良くもまぁ、そこまで達観できるものだ。

排他的で自己中心的な性格ではあるのだろう。


要は完全無欠の個人主義者だな。

一方でシステム論者でもある。


人を含めて、周囲の環境をシステム的にとらえて管理する。


どういう環境で育てば、ここまでの器になるのか。

いや、違うな。


そういう環境で育たなければ、ここまでのシステム偏重者には慣れないだろう。


謎が多い男だ。

ここまでの器を感じた男は彼の他にはエヴァンぐらいだ。

彼もまた突飛で枠にはまらない男だが。


その彼は一体どこで何をしているのだろうか。


「それじゃ、後は頼んだぞ」


「ああ、任せてくれ」





◇◇◇◇◇





私は思わずはっとしました。

ぞっとする寒気を覚えて身を震わせました。


「邪悪を感じます」


「はぁ?」


困惑した様子の侍女が目の前にいます。

無理も無いでしょう。


私は聖人としての感覚を持っています。


その感覚が告げるのです。この場所の近くに魔人がいると。


いや、決して、邪気眼などではなく。


良くフィリアが私を思いこみが激しいだとか、邪気眼だとか、中二病だとか、言いますがそんな事は決してありません。


ほんとうですよ?


「どうされました?アンネリーゼさま」


「いえ、何でもありません」


私は護衛の騎士を呼びました。


「ラスタス」


「は、何用でございますか。アンネリーゼさま」


騎士ラスタス。

彼は異例の若さで聖護騎士の任命を受けた才人です。


聖団騎士団は聖神連合団の騎士団です。


簡単に言えば、世界を守るために竜と戦うぞ連合団ですね。


彼はメルヴィスの騎士ですが、今はフィリア教の聖護騎士の任についています。


連合団内の騎士の貸し借りは意外に普通のことなのです。


さらに一度、魔人をも退けたという実績すら持っている希有な騎士でもあります。


彼ならばこの危険な状況でも適切な判断が出来るはずです。


「あの中に魔人がいます」


私が指さしたのは遠くに見える王立学院の一団です。


今は3校戦の顔合わせで各校代表の選手が大会の打ち合わせと会場の下見をしているのです。


つまり、全ての選手たちが一同に会場であるこのコロシアムに集まっているのです。


彼は思いっきり困惑した顔をしました。


何故、そんな顔をするのでしょう。


「あの中ですか」


「そう!あの中です!」


「もしかして、彼ですか?」


そう言ってラスタスは一人の子供を指さします。

年の頃は私と同じ9歳くらい。


一瞬、はっとするような整った顔の男の子。

そう間違いなく。


「彼です」


私のその言葉にラスタスは天を仰いだ。


「どうしました?ラスタス?」


「彼はユノウス・ルベット・べオルグ。男爵バロンの階級にある人間です」


「それが?」


「王の右腕とも言われています。そして、以前、私がルベット公爵家の娘を救出する際に魔人と対決しています」


「魔人と?」


「その際に魔人を倒していますから。それが理由で魔神の祝福を受けたのかもしれません」


「え?」


何を言っているのでしょう。

そんなことがあるわけ。

いえ、まぁ、9歳の子供が魔人な時点であり得るもあり得ないもないのでしょうけれども・・・。


「彼は魔神教徒ではありませんよ。保証します」


「ですが魔人となったものを放置しては危険では?」


「それは・・・」


ラスタスは若干遠い目をしました。


「どうしました?」


「いえ、我々に御することが出来るとも思えませんが」


「なにを」


言って・・・

と言葉を紡ごうとしたところで脳内に声が降ってきました。


降ってきたのです。文字通り、天から。


(はいはい、みんなのアイドル、フィリアさんですよー)


なんとも唐突に神託が始まりました。


女神フィリア。

神格を有する存在ですが、正直に言って駄目神だと私は思っています。


愛の女神などと言っていますか実際はどうなのでしょう。

非常に疑わしい。


アンネリーゼである私は神の声を直接聞くことができるのです。


(まぁ、大体、歴代のアンネちゃんはみんなそういうよねー)


問題となる態度も正そうともしないのです。


(いやいや、神様が間違いとかありませんから♪自己否定とかありえませんしー全部肯定上等というかー。しゅうきょうかんねん的そうざいとかそういうそうざいなんでー)


宗教観念的存在です、総菜ではありません。


(あらら、それもほにゃららミスつーか。つまり、アンネちゃんの脳内ほにゃららがおかしいわけでー、わたし、悪くないつーかー)


私のせいですか!私の脳がおかしいとおっしゃるのですか!?

失礼です!


あと、ほにゃららじゃなくて、翻訳です!


(ちゃちゃっと用件いうとー、そのこはねー)


はい、その子は?


(わたしのじょうしがーよびつけた子なんで、悪いけどースルーよろ)


はぁ?

何を言っているのでしょう?


(きにしたらまけ!じゃ、ばいばいー)


え?え?


私はぽかんとしました。

何です?


するー?無視しろと言うこと??

え??上司??


「ラスタス。一級神であるフィリアの上司って誰ですか?」


「特級神。つまり、創世神アルフォズスですかね」


ええ、そうですよね。

そういうことになるのでしょうか。


あんな感じでもフィリアは神の中で上位。LV3500オーバーという一級神です。


推定LV5000級の最高神にして運命の始まりを司る創世神アルファズス以外に明確に格上の存在はいないはずです。


つまり、私は最高神にあの者が魔人である事について不問にせよと言われたわけです。


しかし。


創世神が呼びつけた?

一体、どこに?どこから?


私は混乱する頭で男の子を見ました。

私は人の持つ性質をオーラとして見ることができる能力を有しています。


彼ははっきり言って真っ黒です。


こんなに黒い人間見たことありませんよ。


「無視はできません!」


私はアンネリーゼなのです。

守護聖人としてこの国を世界を守る義務があるのです。


例え、神が許そうとも私は悪は認めません。

例え、神と反目しようとも私は人を守るひとなのです。


私は決意しました。





◇◇◇◇◇






しかし、フィリア神に止められた以上、他の者を使うわけには行けません。

なぜなら、彼らは私に従う者ではなく、女神フィリアの意向に従う者たちなのですから。


私はこっそりとこの男の子を追跡することにしました。

守護騎士たちはトイレに入っている間に巻きました。

心配させると行けませんのでメモを置いて、トイレの裏窓から飛び降りました。


問題はありません。



私は首尾良く相手を見つけると追跡を開始しました。

すでに王立学院側は話を終えて解散するようです。


各々で散り散りに帰る中で2人歩く男の子と女の子。


二人きりですか。

むむ、さっそく何か怪しいことでも始める気でしょうか?


例の男の子が女の子に何かを言って一人になりました。

そして、とことこと歩いていて行きます。


なんだかやけに人気のない場所に向かって歩いていきます。

犯罪の予感。


「で?君は誰?」


「・・・」


あれ?

さっきまであそこら辺に居たはずですが。

居ない?どうしてでしょう?


「・・・無視ですか」


「・・・私は忙しいのです!って、ええ!?」


私は驚きの声を挙げました。

声を掛けてきたのは例の彼だったのです。


さっきまで離れた場所を歩いていたはずの彼に逆に後ろを取られました。


どういうことでしょう。


これは。


「て、転移魔法!?」


「多少は知識がありそうですね」


彼は値踏みするような感じで私を見ます。


私は言い様の無い嫌悪感で身を震わせました。

なんだがぞくぞくします。


「貴方はアンネリーゼ様ですよね。どうして一人で歩いているんですか?」


いきなり、素性がバレてます。

こっそりつけていたつもりでしたので変装などしていませんでした。


こんなことになるなら顔ぐらい隠したというのに。


「べ、べつに貴方には関係ないことです!!」


「そうですか?」


彼は胡散臭そうに私を見ます。

なぜ、私が逆に怪しまれなければならないのでしょうか。


といいますか、私がアンネリーゼだと分かっていて怪しむとかどういう了見なのです?


「そういう貴方こそ!魔人ですね!!」


「驚いた。へー、分かるんですか?」


隠しもしません。

私は勢い込んで言いました。


「当然です!!聖団に所属する聖人の一人として貴方に質問します!」


「結構です」


あああ。


即答されました。

私は気勢を削がれながらも、ぐっと堪え、気を入れ直しました。


「貴方は私の敵ですか!?」


「無関係の他人です」


それは・・・

・・・そうかもしれませんが。


でも、そういう事を聞きたいわけでは無いのです!


「答えてるじゃないですか!」


「ちょっと話掛けないで、誰ですか貴方?」


なんて失礼な人なのでしょう!

私はむっとしました。


彼は苦笑しながら言いました。


「冗談ですよ。それで迷子ですか?」


「ち、違います!」


ちゃんと帰れますよ!

たぶん。


「それじゃ、さよなら」


「待って下さい!話があります」


私が制止すると彼は嫌そうな顔で私を見ました。


そして、面倒そうな顔で言いました。


「どんな話ですか?」


「貴方は何者ですか?」


私の質問に彼は首を捻りながら言いました。


「僕は只の凡人ですが」


「そうは見えません」


面白そうに彼は笑います。

その笑みは酷く軽薄で危険に満ちている、気がします。


「ひとつ聞いて良いですか、なんで僕が悪なんですか?」


「貴方が纏うオーラが告げています」


彼がかなり馬鹿馬鹿しそうに笑った。


「はは、なんか新しいような古いような微妙な押し掛け問答ですね」


すると、頭の中にフィリアの声が沸いてきた。


(いやー、怖い子だにゃー)


って、フィリア??

また呟きですか?


(うーん、ちょっと目を離した隙にこうなるとはおねぇさんもびっくりだよー)


何を言っているの?


(チャネリングを使って私のことばをその子に繋げられる?)


無理ですよ。

そもそもチャネリング?

そんな魔法聞いたことありません。


(あるんだよー。でもユリアっちにはまだ無理かぁ。うーん、試しにその子に頼んでみてくれない?)


頼む?何を?


私は混乱しながら、首を捻ります。

私のその様子に彼が言いました。


「どうしました、急に困りだして?」


「あ、あの、女神フィリアが直接話したいと言っています」


その言葉に彼も首を傾げました。


「はぁ?降臨でも使う気ですか?」


降臨。

神降ろしという究極魔法の一つです。


「そんな神級魔法使えません」


というか、ちょっと会話するために降臨するとかありえませんよ。


「僕は神級魔法5、6個使えますよ?」


「え?え?そんなわけありませんよね?」


神級魔法の完全再現はその神へのパスを開いている事が条件です。

他系統への魔法権限は最大で準神級魔法までになるはずなのです。


「器が大丈夫なら強制的に降臨させられますけど。大丈夫か、フィリア様に聞いて下さい」


「え?」


混乱する私は一応フィリアに尋ねます。


(ちょっと、りすきーだけどかのうさんかなー)


「大丈夫だそうです」


「ふーん、それじゃあ」


そう言うが早いか。

彼が私の額に右の指先を当てます。


「フォース!!」


私はほとんど無意識の反射行動で力場魔法を放ちました。

身の危険を感じ、彼を剥がそうとしたのです。

力場の魔法式。


彼はそれに逆の指先で軽く触れます。


――― 魔式斬り。


私の魔法が消滅する様子を私は呆然と見ました。

聖人である私には魔素の微細な粒子の動きすら見えるのです。


魔式を切れるほどの騎士は聖団にも何人か居ます。


しかし、これほど鮮やかな魔法式の破壊を見たことがありません。


逆に彼の魔法が発動しました。


――― 四肢繰マリオネット


やられました。


その瞬間、私は、私の意識と体が寸断されたのを感じました。

こんなに簡単に体の自由を奪われるとは思いませんでした。


彼の魔法は続きます。


――― 限定降臨リミテッド・エピファイア


彼の呪文で。

私の中にふっと何かが入ってきたのを感じました。


「へー、驚いた。降臨の限定制御をやるなんてー、ほんとこわー」


「貴方がフィリア神ですか」


私の中の何かが、私の顔で、にっこりと笑います。


「そうだよー、私がみんなのアイドル。フィリアだよー」


中で存在を感じている私には彼女がフィリア神だと分かりましたが。


しかし、まったく威厳がありませんね。

信用が無くても仕方ないと思います。


その言葉に彼は胡散臭い顔をしました。


「用件は何です?」


「んー、私の信者に手出しはやめて欲しいのよー。私も手は出さないように言うからー」


この神、さらっと放置を宣言します。

ああ、何と言うことでしょう。


「良いですよ。最初からそのつもりですし」


物わかりが妙に良いと言いますか。

この部分に関して彼は一貫して無関係を強調してきます。


逆に怪しいと思うのですよ。


「やー、話わかるー。あー、あとあと。この子が暴走気味だけど、単独犯だから許してね!」


私の暴走より、邪悪な魔人を放置する方が100倍問題です。


「いえ、さすがに向かってくれば、対処しますよ」


対処とは何でしょう?


「やーそこは善処して欲しいところでー」


「じゃ、彼女にどの程度痛い目を見れば諦めるか聞いてください。オーダーに応じますよ」


な、なにを。


「ドSじゃないですかー。相手はかぁわいい女の子なのでやさしく諭してほしいにゃー」


「あんまり面倒なことはしたくないです」


「うーん。まぁ、こっちが頼むのもわるいよねー。よーし、死ななきゃ、すきにしていいよ♪」


え?

え!??


「わかりました。そろそろ切りますよ」


「うん。じゃ、そういうことで♪」


彼が維持していた魔法式を消去します。

すると私の肉体を支配していた魔法と意識の二つが消えました。


私は呆然としていました。


「それで、どうします?」


「わかりました。神がああいう以上、聖人としての私は、魔人である貴方を認めます。けれど、私個人は、認めません」


私のその言葉に彼は呆れた顔で言いました。


「いえ、どの程度の加減でいじめて欲しいか、聞いているのですが」


「こ、この悪魔!!」


本気でドSなんですね!

最悪です!


「冗談ですよ。納得して頂くのにこちらが労力を割くのも不当な気がしますし」


「とにかく、私個人が貴方を認めた訳では無いのです!」


その台詞を負け惜しみだとでも思ったのでしょうか、彼は呆れ顔で手を振ると言いました。


「それで良いです。では、さようなら」


「このままでは帰れません!」


「なるほど、やぱり迷子ですか」


なんでその結論になるんですか。


「迷子じゃないです!!このまま帰る訳には行きません!」


「はぁ?で、どうするんですか?」


「貴方が善か悪か観察します!」


彼は処置無しと言った顔で天を仰ぎました。


「納得すれば帰りますか?」


「ええ、そうです」


その言葉に彼は首を振りました。


「なら、好きにどうぞ」


「はい」


彼は無言で歩き始めました。

それに私もついていきます


「どこに行くのですか?」


「どこに行くのも僕の勝手、着いてくるのは貴方の勝手ですよ。アンネリーゼさま」


そうかも知れませんが。

随分とぶっきらぼうな口調に変わりました。


「変なところに連れ込まれたら困ります」


「そう思うなら付いて来なければ、良いのです」


それはそうかも知れませんが。

さっきから身も蓋もない感じの返答が続きますね。


「どこに行くんですか?」


「変なところかもしれませんね」


いい加減にして欲しいです。

私はむっとして言いました。


「答えてください」


「僕の店です」


店?

そんなものをもっているのですか?


「それは変な店ですか?」


「変かどうかを感じるのは人それぞれですよ」


むー。まぁ、そうかも知れませんが。

私に興味がないと断じられるのなんだか面白くないものです。


「普遍的に言って普通のお店ですか?」


「普遍的に普通な店の普遍性の定義って何ですか?」


なんて屁理屈な問いかけですか。

私は若干むっとして聞き直します。


「常識的に考えて普通のお店ですか?」


「貴方の常識次第でしょうね」


むー、むー!


「いじわるです」


「観察するって言ったのは貴方でしょ。僕に言われて納得するぐらいなら、お答えします。全部普通の店ですよ。安心したならもう帰ったらどうでしょうか?」


むー。

言われて、確かにその通りかもしれません。


私は自分で判断する為に付いてきたのですから。

当然、自分で判断すべきなのです。


すると、彼は何がの呪文を唱えます。


幻視魔法?

彼の見た目が変わりました。


なんというか、微妙に冴えない男の姿に。


「何で姿を変えるんですか?」


「店では、こっちの姿で通しているんです。大人の事情って奴ですよ」


子供じゃないですか。

姿を偽るなんて詐欺師ですかね?


「アンネリーゼ様、その格好でずっと付いてくるのですか?」


「はい」


当然です。


「はっきり言って迷惑です。貴方がこちらの迷惑を考えてくれるお方とは思えませんが多少なりともご配慮いただけませんか?」


む。そんなことありません。

人の話はきちんと聞くのです。


その人の言葉に従うかどうかは、さておいて。


「そんなことありません」


「ならば、せめて、その目立つ容姿を、少々、地味にして貰って良いですか?」


私は首を捻りました。


「変装しろと?」


「僕が幻視魔法を掛けて良いなら、掛けます」


「かまいませんよ」


変な服を着ろと言われるよりマシでしょうし。

魔法なら魔法式を読めるので。


逆に小細工は聞かないはずです。


「じゃ、掛けますよ」


彼の魔法が私を包み。

私は。

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