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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
30/98

蛇神ハ・ヴァーンの使徒

※7月12日改訂

その日、朝からもたらされた報に我が耳を疑った。


「盗賊ギルドが壊滅??」


私たちがつめているのは僅かな人間にしか知らされていない隠れ家である。


ここも定時連絡が終われば、破棄される予定である。


ここに置いてもっとも重要な人物であるべオルガーヴィが驚愕の顔をしている。

私、ロシシも困惑する気持ちを隠せないでいた。


「はい、上位幹部は全滅とのことです」


数が多いこと、賭場を持ち、資金力があるなどの魅力はあったが盗賊ギルドなどもともと烏合の衆だ。


幹部が全滅してはますます役に立たないだろう。


しかし、能力はイマイチでも実働員という絶対数を大きく欠く我々にとっては重要なパートナーの一人であっただけに痛い。


「では、交渉は決裂か?」


べオルガーヴィが苛々した言葉でそう呟いた。


この男にしてみれば、クーデターという形を本気では望んでいないはずだ。

この力のない王子が今後、王になる為に何を寄り所にするのかと言えば、王の権威以外に他にない。


辞退を引き出すのはライオットの排除に向けた動きの第一歩だ。

もちろん、最終的にはライオット共々、彼にも退場してもらわなければならないにしても。


今はこちらも理解ある協力者でなければならない。


「それが分からないのです」


「分からない?連中はなんと?」


「誰が動いたのかも不明です。少なくとも、現在までは」


盗賊に暗殺者と言うその手の能力に長けた者たちがこれと言うのは由々しき事態だ。


能力が足りないのか、相手がとんでもないのか。


分かっていることは正体不明の相手に切り崩されかけていると言う事だけだ。


「ちっ、これだけ動いた後で手持ちのカードを手放す訳にはいかん!大体、こうなる前にもっと早くお前たちがライオットの暗殺に成功していれば!」


私は男の矛先がこちらに向いたので反論を口にした。


「それは難しいと言ったはずです」


さすがに次期王の筆頭だけあって、邸宅や学院間での道では護衛官が数十人付き、学内では実力派の教師たちが常に護衛を担当していた。


こちらも凄腕の暗殺者を用意したが、隙が無く、暗殺に及ぶことは出来なかった。


「とにかく!ライオットを殺すことは必要なんだ!」


こんな男でも自分の状況が分かっているのだろう。

ベオルガーヴィは焦りから声を荒げる。


私は冷静を促す為に言葉を発した。


「存じています。ご安心ください。予てよりの要望にあったあのお方が来ることが決まっています。あのお方が来れば、たとえ何十人の何百人の護衛官が居ようと対象の暗殺に必ず成功するでしょう」


その言葉にベオルガーヴィは喜面一色となった。


「おお!ついに彼が来るのか!!」


「はい。その関係の些事がございまして席を外してもよろしいでしょうか」


「ああ、頼んだぞ」


やれやれだな。べオルガーヴィは小者だがテスタンティスは大国だ。

それを得る為なら多少の面倒も我慢だ。


隠れ家を抜けて、しばらく歩く。

王都特有の狭い裏路地から街路にさしかかったところで気配を感じた。

つけられている。


いつから?


その事実に驚きが生まれた。


「驚いたな。気づいたのか?」


「何?」


突然の声かけでは無く、その言葉の意味に、思わず声が出た。

なぜ、私が驚いた事が分かったのだろうか。


緊張が身を堅くする。


「警戒が強まったぞ」


私は緊張感を常にコントロールする術を持っている。

いや、そもそも緊張感など端から見て良く分かる類のものでもないはずだ。


私はゆっくりと後ろを向いた。

背が随分と低いローブの男が一人、立っている。


自分と同じ様な生業の人間なら意図的に身長を低く押さえると言うことも不思議なことでは無い。


「暗殺ギルドの幹部だな」


その確認にはゆっくりと答えた。


「そうだ。よく分かったな」


冷静さを取り戻せ。

ゆっくりと思考を鈍化させる。


「なかなか苦労する。王妃たちの居場所を教えてほしい」


何も考えなくて良い。

暗殺の記憶に身を委ね、殺戮の感情に灯を点せ。


「答えると思ったか?」


ローブの男は無言で続けた。


「彼と言うのは誰だ?」


私は拳を握りしめると無言で殴りかかった。


即座に音も無く、接近し、打つ。


直打拳法。

構えとしてまっすぐに拳を突き出し、手の長さ分の間合いと機先の両方を制しながら優位に闘う。


そこにさらにアレンジを加えたグレッジ流の暗殺拳法は変幻自在だ。

男の手が私の拳を払う。


本来なら、蛇の手でその払い手を絡めて取り、腕を拘束し、そこから密着に持っていき、殺法で相手をしとめる。

のだが。


今回、払われた手が砕けた。


その痛みに驚愕しながら、一歩後ずさる。

そこを超高速で二歩踏み込んだ男の拳が追撃する。


倍速。単純に速すぎる。

速さを主眼に鍛え上げた暗殺者のそれを軽く凌駕する。


バカな。


完全に閉ざしたはずの思考が揺らいだ。


鍛えた腹筋を割り、拳が内臓を強打した。


「ぐぅうあぁああぅうおお」


腹の中からマグマの様に強酸が噴いてきて咽を焼いた。

腹を抉って胃酸を逆流させるだと?


どんな流派の殺し技だろう。

聞いたことがない。


そして、内気剄だと。


初見の技に言葉を文字通り失った私はふらつきながら、ローブの男の拳を見た。


男は手を軽く私の頭に当てた。


脳を直接揺さぶられ、私は意識を喪失した。




◇◇◇◇◇




僕は手を確認する。

浅い傷が付いていた。

払う際に奴の爪でつけられたようだ。


そこに神経性の猛毒が塗ってあったようだが、それはオート・リフレッシュですぐに消去してしまった。


常駐型魔法オートスペルと言う物は特殊な魔法式によって完成した僕のオリジナル魔法だ。


オート・アバター。


魔人の専用スペル、アバターの内部駐在型アレンジだ。


僕は妖精フェアリー式と呼んでいる。


アバター。

この魔法の肝は自分の魔法領域そのものを切り離し、化身として召還できるということだった。


僕の場合は、あの魔人のように自分の全領域を召還するのではなく一部の領域を召還し、絶えず僕の体に干渉をもたらすようにしている。


しかも、アバターはあえて実体は持たせず脳内に置いて駐在させることで大幅に効率化している。


オート・アバターによって複数の魔法が緊急発動し、リスクを軽減する。

傷を消す(オートヒール)、毒を消す(オートリフレッシュ)、衝撃を殺す(オートアブソーブ)などなど。


この妖精の囁きを利用すれば内燃系の魔法のみであれば、口頭起動式、呪文を使わずに発動する事ができる。


この方式は内燃魔法を複数起動ダブルキャストする為にも必要になる。


僕の現在の内燃系最強魔法、


――  魔月七連魔法式(グラン・ルナ・フォース・スペリオル・セプタプル)

――― 超騎士オーヴァーナイト


の発動にも必要不可欠だ。


この魔法は言ってしまえば、脳というメモリがマルチタスクを行うために必要なプログラムの役割をしている。


非常に強力な魔法スペルだ。


そして、今の拳の技を使うのに必要だ。


―― 力場侵衝オーラバースト


内燃するフォースのエネルギーを接触面より相手の体に直接流し込む技だ。


内気剄のように衝撃が直接相手の内部で炸裂する。


たとえ、分かっていたとしてもそうそう防げる物でもない。


「さて、情報を確認するか」


僕はとある魔法を発動させる。


記憶読メモリーサーチ


脳内に特殊なパターンの生体電気信号を与えて、そのパターンを解読し、シナプスの記憶を読み解く魔法だ。


男の名前はロシシか。

僕は男のここ最近の情報を探索する。


実は昨晩からこの男が盗賊ギルドの頭領の記憶情報から上がっていたのだが発見には時間がかかった。


確認して驚いた。


「うげぇ、暗殺ギルドは横割り構造?ほとんど、同業者同士で関係が無いのか」


この男が知っている暗殺者も数人。

それらとも深い繋がりはないようだ。


男の記憶を辿ってより詳しい情報を得る。


「さて、と」


僕は意識を失っている暗殺者に対して呪文を唱えた。

人によっては甘ちゃんと言われるかもしれないが僕は基本的に人殺しはしない主義だ。

ただ、さすがに相手が相当な犯罪者ならそのまま野に帰す訳にも行かないだろう。


故にちょっとした処置をしている。


その処置を迅速に施しながら、今回の情報を精査していた。

この幹部の記憶から暗殺者たちのアジトの位置は分かった。


しかし、ちょっとやっかいな情報も得てしまったぞ。


援軍に蛇人が来るらしい。


蛇神ハ・ヴァーンの最高神官。

間違いなくやっかいな相手だ。




◇◇◇◇◇




蛇人。

それはこの世界における最凶の暗殺者だ。


ただ、最強の戦士という事なら継承位の戦人を超える者など居ないだろう。


たとえば、彼のあまりにも有名な千刃王バルヴァルグを上げるまでも無く。


しかし、蛇人は対人殺害能力に関してはこれを超える。

ただ人を殺すと言うことに恐ろしく特化した存在。


歴史上、何人もの王、聖人、戦人と言った存在を殺してきた。

闇の世界の秘密兵器。


今の世にたった3人しかいない蛇人のその1人が今日ここに来ることになっていた。


我々、暗殺者にとって至高の存在。

最強の暗殺者を迎えるとあって、この暗殺ギルド・壷毒の蓋の幹部ブルシは緊張していた。


その時。


目の前に突如、現れた男に思わずぎょっとした。


若い男だ。

細身の痩せたと言うより枯れた体付きで全く警戒感を刺激しない。

まったく意外性の無い男。


空気のように溶け込んでいる。


これではまるで彼の方がここの住人で私が客のようではないか。


そこで漸く、私は、はっとして口を押さえると同時に懐に手を入れた。


「どういうことですか!?」


「おやおや」


男は大袈裟に手を広げて呟いた。


「申し訳ない。わざとでは無いんですが」


男が使ったのは催眠効果のある香か、何かだろう。

思考が狂わされていることになんとか気づいたが、もし、あのまま落ちていたら・・・。


体の芯から死への恐怖感がふつふつと湧き出してくる。


「群衆に紛れる為に普段から常用している体臭でしてね。うっかり、貴方の警戒心を刺激してしまったようですね」


「体臭?なにをいって」


「それに殺す気なら、こういう風に」


瞬間的に私は3歩も後ずさった。

男の体から霧の様に沸き起った強烈な猛毒の気配に私は恐怖した。


「あ、あ」


「どうしました?そんなに驚くことですか?蛇神の祝福の効力ぐらい知っているでしょう?」


蛇人は体で無数の効能の毒を自在に作りだせるのだ。

どんな毒でも。


つまり、彼なら毒への耐性を鍛えている暗殺者でも抵抗すらできない猛毒でも思うがままに合成できる。


「貴方は殺しとは何だと思いますか?」


唐突な質問に私は混乱しながらも、必死に答えた。


「きょ、恐怖かと」


拙い、完全に飲まれている。


「ふふ、私にとって殺す事とは愛情表現なのです」


「あ、あいですか」


理解できない、と私は思った。

しかし、彼は私の様子などお構いなしに続けた。


「そう絶大なる敬愛です。人は他の命を喰らい生きてきた。それは何故でしょう?」


質問の意図が読めない。

私はオウム返しに聞き返していた。


「何故ですか」


「愛だと、私は考えています。

あれが欲しい。あれが食べたい。あれが羨ましい。あれが憎らしい。

全ては他を欲し、求め、奪うこと。

全てを我が手に、嗚呼、

それが愛でなくなんなのでしょうか?!!」


男はそう叫んだ。


それは。

その思想はあまりにも。


歪んでいる。


異質だ。


そして、私にその思想が理解出来るわけもなく。


唖然としている私に漸く意識が向いたらしい男は大仰な態度で肩を抱き、言った。


「ふふ、まぁ、理解を求めた訳ではないですよ」


「はぁ」


我ながら、間の抜けた返事を返してしまった。


「それでは仕事の話に移りましょう」


漸く、本題に入れるらしい。

私はほっとしていた。


「ええ、では、まず今の状況から」


今の状況を簡単に報告する。

彼は話が盗賊ギルドの件に及ぶと顔を歪めた。


「おお、それはいけません。ここもすぐに感づかれるでしょう」


「そうでしょうか?」


「これだけの短期間で盗賊ギルドが潰された。敵に優れた情報収集魔法の使い手がいると考えるのが妥当でしょう。非常に厄介だ」


「なるほど」


彼は手を私に向けると言った。


「私の愛を受ける者のリストをください。その者たちの情報も分かる範囲で全部添えて」


「どういうことですか?」


男はうれしそうに目を細めると言った。


「ここからは全て一人で動きます。心配はいらないですよ。全てを愛し、殺しますから」

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