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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
29/98

王位選

※7月12日改訂

「ライオットさま!」


護衛を引き連れ、王城に帰ると執事のバルトが青い顔で迎えてきた。


「何があった?王位選が始まったと言うのは本当なのか?」


「そ、それがついさっき、王が突然引退を宣言しまして」


「なに?」


父である今の王アルベルトは齢50歳。

至って健康体であり、まだまだ油の乗った偉丈夫である。

昨日、今日での引退など、まず考えられないはずなのだが。


「では、本当に王位選が始まるのだな」


「はい」


王位選。


それは王位を決める前の予備選挙だ。

王位は王位継承権に基づき決定する。


それは絶対条件であり、ほとんどの者が王位継承権の序列に従って王になる。


王位選とは選とはついているものの、実際には王位継承権の確認を行う行事に過ぎない。


例外的に欠格と認められる王位者の継承権を引き下げる投票が行われることもあるが、欠格選挙は投票権を持つ有力貴族80%以上の票が必要になる。


そして、そもそも大前提として王位に欠格と認められる重大な問題が無い限り欠格選挙は行われない。


それは知的障害だとか、痴呆だとか、病弱だとか、王としての品格の欠格を見るもので、罪の話ではないのだ。


この国では私的な殺人ですら欠格要件には値しないし、王が罪を受けることはならない。


「俺が明日から阿呆にでもならんかぎり、王は俺のはずだが」


「で、ですが、ライオット様自らの辞退はあります」


なるほど。

確かに辞退でも王位選は受けられるはずだ。

理由は精神的気弱だったか。


つまり、俺に王位継承権の辞退を促せる何かがあるということだろうか。


「どういうことだ?何があって、俺が辞退する可能性がある?」


「今朝、賊が王宮に入りました」


初耳だ。

今朝、俺は自分の邸宅から当たり前に学院に行った。

何故、今の今まで俺に連絡が来なかったのだ。


「捕まったのは?」


「母上であられるシルビア王妃にアリア妃、アリシスさま、リチャードさま、オースさまです」


そういえば、朝からアリシスの姿が欠席しているとの報告は受けていた。


それにしても、これは。

さすがにこの暴挙には声を失った。


そう、これは間違いなく。

クーデターだ。


「父の引退宣言もそれでか」


「その通りかと」


父はすでにべオルガーヴィたちの手に落ちている。

やっかいな状況だな。


「いつ分かった」


「発覚したのはついさっきです」


この事態、王室に賊を招き入れた者が居るはずだ。


「兄やクリーネ妃の関与は?」


犯人は分かりきっていた。

しかし、ここまでの事をしでかすとは思っていなかった。


「まだ、不明です。が、王位辞退を求める脅迫文が届いております」


「読め」


「はっ。

ライオット・ディオスよ。

お前の大切な者を守るために王位を辞退しろ、そうでなければ、お前が愛する全ての者は奪われるだろう」


辞退をしなければ、俺の縁者の殺害を示唆しているのだろう。

しかし、随分とセンスに欠ける脅迫文だな。


「どこが動いている」


「動いているのは盗賊ギルドに暗殺者ギルド、それに邪神教の高位魔法使いです」


「所謂、闇ギルドの面子か。そうそうたるメンバーだな」


べオルガーヴィとどんな密約を結んだか知らないが表にしゃしゃり出てきて言いような連中ではない。


しかし、いくらべオルガーヴィが小悪党でもここまで本物の闇にコネがある訳がない。

裏で手を引いているのは連中か。


そのとき、執事の一人が部屋に入ってきた。


「ライオットさま。貴族騎士団長のグレンさま、並びに聖教騎士団長のアレスさまがお見えになりました」


「通せ」


「はっ」


やってきたグレンは床に頭をつけた。


「申し訳ありません!このグレン、王を王妃をお守りできませんでした」


「もう言っても仕方がないことだ。もっと別の話をしよう」


「はっ」


すると、代わりに前にアレスが出てきた。


ここに来るまでの間にグレンとはすでに話を合わせてきたのだろう。

グレンは立場上、賊の侵入を許した王城警護団の責任者だ。


いくら、王位継承権の一人に過ぎない俺にでもこの状況で積極的な提案などはしづらくなる。


「ライオットさま、聖教騎士団と貴族騎士団は貴方につきます。賊を排除しましょう」


この場合の提案。

つまり、俺にさっさと王になれという提案である。

すべての些事はなった後に王権をもって処断しろ、と。


正論ではある。


俺がこのまま、王になっても王都の最大戦力が二つとも味方に就く。

それだけの後ろ盾があるならば、闇ギルドもそう怖くはないだろう。


しかし。


「王や母上、それに行方がわからなくなっている親族の命はあきらめないといけないのか」


「ご決断を」


王になった後であれば、べオルガーヴィを強引に斬り捨てることも容易。

しかし、アリシスたちの命がそこまで持つことはないな。


せめて。

せめて、失踪者の中にアリシスの名前がなかったなら、俺は。


俺は目を閉じて呟いた。


「王が引退宣言をしてから、王位選の発議ができるのは一週間だったな」


「はい、まだ猶予はあります」


それならば、まだここで全てを決める必要は無いはずだ。


「まだ、見極める時間はあるな」


様子見。

その決定にグレンが慌てた声を上げた。


「ライオット様!これは隣国ウォルドの切り崩しです!」


ウォルドが大国であるテスタンティスに対して、並々ならぬ野心を抱いている事は未だ直接政治に関わっている訳ではない俺ですら知っている事実だ。


今回の件を裏で糸引く者たちが誰なのか。


テスタンティスが混乱することで得をする相手。

ちょっと考えれば、容易に答えは出てくる。


「判っている。だからこそ、慎重に動くのだ」


俺が親族に温情を見せずに王になれば、貴族たちにいらん動揺が走る。

それを避ける意味でもすぐに方針を打ち出すべきではない。


俺はそうとだけ告げると二人を下がらせた。


もはや兄とは呼ぶまい。べオルガーヴィめ。

どういうつもりだ?


たとえ、俺の辞退を受けて王位選が始まったところで80%以上の票が集まらなければ、俺の辞退も受理すらされないだろう。


べオルガーヴィが貴族たちに人気など聞いたこともない。


「やはり、直接、俺の命を狙ってくるのか。べオルガーヴィ」


怒りと苛立ちを隠さずに俺はそう呟いた。




◇◇◇◇◇





「クーデターですか?」


メーリンのその言葉にはさすがに驚いた。

帰宅した僕にメーリンがその話をしたのだ。


「ええ、しかも、噂によると隣国ウォルドが絡んでいるんじゃ無いかって」


隣国との情勢がかなりきな臭いというのはユフィの一件ですでに分かっていたが、まさか本丸も本丸を狙ってくるとは。


「貴方のクラスのアリシスさまが賊に捕まっているとの噂もあります」


そういえば、朝から家の事情で来れないと聞いていたが。

たしかに、まぁ、家の事情だけど。


「教えていただいて、ありがとうございます」


しかし、メーリンも良くこんな話を僕に聞かせてくれる気になったよね。


「また動く気?」


「ええ、知人ですし、まぁ、普通にちょっとでも手助けになれば」


ついでにちょっと面白そうだし。

と、不謹慎に思ったりして。


僕の様子に気づいてでは無いだろうがメーリンはため息を吐きながら呟いた。


「正直、今回はいろいろ不味いのよ。べオルガーヴィが王になれば、うちは公爵位を追われる可能性が高いわ」


うわぁ、そんなことに。


まぁ、例の一件で隣国に睨まれてるのは間違いないな。

それを言ったら僕も同じ様なものかな。


「お父様の尻拭いまで期待されても困ります」


さすがに幼児の言う台詞では無かったかな。

メーリンの苦笑いがひきつっている。


「少しでもいいから、次期国王であるライオットさまを助けてほしいの。この国の為に」


あのライオットが次期国王?


へー、面白い。

確かに有能そうではあった。


実際は知らないけど、こちらの印象は悪くはない。

彼がこの国の王になるなら貸しを作るのもたぶん悪くはないな。


「今から家を出て、しばらく帰りません」


「分かったわ。学校とユフィには私から話をしておきます」


ここで学校と一緒に妹の名前が出てくるのはどうかと思うが。

まぁ、そう時間を掛けるつもりもない。


「ありがとうございます」


僕は部屋を出るとそのままの足で町に繰り出した。





◇◇◇◇◇





次の日。


部屋の外に気配を感じた俺は目を覚ました。


賊か。

騎士団の精鋭が警護しているはずの俺の邸宅にこうも簡単に侵入するとは。


警備が役に立たないとなると気苦労が増える。


まずは状況を確認し、対処しなければならない。


俺は身構えながら、窓を開け放った。


「誰だ!」


俺の強い言葉に対して、返ってきたのはずいぶんと気の抜けた挨拶だった。


「やぁ、ライオット。ご機嫌はいかが?」


俺の邸宅の二階に向けて、延びた木の枝の上にその男は居た。


見覚えのある子供。

声をかけてきたのは初等部の一年のユノウスだった。


さすがに理解できず、俺は困惑した。


「なぜ、ここにいる」


「ちょっと面白い話を聞けたもので協力してやろうと思ってね」


それが答えになっていないのは言うまでもない。

こっちの言葉を制すように彼が続けて言った。


「動いたのは盗賊ギルドと暗殺ギルド、それにラダー教の神官だ」


「知っている」


むしろ、なぜ君がそれを知っているのだ?

それは軍の機密事項だ。


「そうなの?こっちは幻影や集音を使って調べるのに一晩かかったんだけどね」


少年が笑った。

たった一晩でそこまで分かるのものなのか。


「なぜ、君が動いている?」


「チームメイトとしてアリシスぐらいはちゃんと救ってあげないと可哀想だからね。あとラダー教にも隣国にもいろいろ個人的な因縁があって、ついでにこの国が平和な方が僕的には色々ありがたい」


「その歳で因縁ね」


何をしたのだ。

この少年の場合は何があっても特に今更、驚かないが。


「まぁ、それなりにだよ。向こうは意識してないかもしれないけど」


「ラダー教徒には君の妹が誘拐されたのだったな」


「うん、良く知ってるね」


あの妹か。確かに言葉に嘘はないだろう。


「良いだろう。協力を受けよう」


「そっか、じゃ、僕は残った内の暗殺ギルドの方の探索に当たるから、ラダー教徒の神官を重点に探してくれない?」


「良いだろう。・・・待て、盗賊ギルドはどうした?」


「盗賊ギルドの方は昨晩のうちに解体できたよ。チンピラを二、三人絞めたら場所がすぐに分かったし。ギルド長と幹部連中、ついでに囚われていたアリア妃とそのご子息を君の家の門の前に放っておいたから。後はよろしく」


なんだと。


「あ、もう盗賊ギルドは更地にしちゃったから探しても見つかんないよ?資料はざっと目を通したけど、今回の件に関しても、報酬をもらう約束手形ぐらいでめぼしい証拠は無かったからね、一応」


「なに?」


一体、何を言っている?

そんな真似が一晩でできる訳がないだろ。


「じゃ、これで」


「待て!ユノウス!」


しかし、彼の姿は遠ざかって行ってしまった。

それと入れ替わる形で足音が近づいてきた。


「た、大変です!ライオットさま!」


「まさか、アリア妃が見つかったのか?」


「え、ご、ご存じでしたか。はい!それに!」


俺は頷いた。

彼の言ったことは本当のようだ。


「盗賊ギルドの幹部だな。アリア妃と弟たちは保護し、賊は地下の牢屋に繋いでおけ」


「え?は、はい!!そのように手配します!!」


まさか、本当に一晩で盗賊ギルドを壊滅させるとは。

恐ろしい子供だ。


「俺の担当はラダー教徒か」


ラダー教徒は俺にとっても因縁がある相手だ。

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