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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
28/98

王者(キング)の要件

※7月12日改訂

「というわけでここにいる俺たちがこの学校のデュエル代表候補だ。これから3ヶ月、定期的に団体戦練習を行う」


壇上に上がった男がそう述べる。

彼がこの学校の実力1位でアリシスの兄であるライオットか。

たしかに強そうだな。

高等部一年生ということはあれで15才か、16才か。


堂々としていて王者の貫禄がある。

と言っても、彼も去年の高等部戦で個人優勝はしていないらしい。

アリシスが自慢げに話したところだとブレイド2位、フォース3位か。


総合だと、個人でもっとも点を取った選手らしい。


「君たちは初等部か」


降りてきたライオットがこっちに近づいてきた。


「はい」


代表の誰か(名前知らない)が元気に挨拶している。


僕たち代表候補生が一同に揃っている。

初等部1年から男2人、女1人。

初等部2年から男4人、女3人。

初等部3年から男6人、女7人。


この中からレギュラー10人、補欠2人を男女ともに選ぶらしい。


「にいさま!がんばって♪」


どうやらユフィも選ばれたようだ。

まぁ、実力的には順当かな。と思わないでもない。


ユフィは一方的に僕にエールを送っているけど、ここにいると言う事は妹も選ばれた選手なのだから頑張るべきなのは一緒だな。


僕が実際に頑張るかはさて置いて。


なお、レオは選ばれていない模様。

かわいそうだし、わざわざ言うことでも無いか。


「この時間は特にフォーメションの練習を行うことになっている」


ライオットが誰かにそう言っている。


「初等部は団体戦の練習は初めての者が多いな。説明をしよう」


へー、律儀だな。

と言うか、そんな細かい事は他の人間にやらせれば良いのに。

優秀だが、人を使うのが下手か。


んー、メルフィナ会長の言った通りの人柄だな。


いや、今日は別の意図があるのかも。


「団体戦は5人のチームで行う。

ハジャ以外の魔法が使えないブレイド2人と

フォースしか使えないフォース2人、

そして、どっちも使えるブレイドフォース1人。

それぞれにブレイド、フォースが各1点、

ブレイドフォースが5点の点数を持っており、

それぞれのプレイヤーは身につけているポイントボールが壊れた時点で失格になる。

指定されたバトルフィールド内から出ても失格だ。

ブレイドフォースを倒したチームは無条件で勝利となり、2分間で決着が付かなかった場合は持ち点の多い方が勝ちとなる。

同点は30秒のずつの延長戦を二回行い、これでも決着が付かない場合はブレイドフォース同士の決着戦を行う」


まぁ、その程度は一応、知っている。

ただ本で読んだだけだけど。


すると、さっきから熱心に聞くだけだったどっかの誰かさんが声を上げた。


「ライオットさま!一つ納得が行かないことがあります!」


「と言いますと?」


「何で僕たち3年のチームに1年が2人も入るんですか?しかも、何で1年がよりにもよってキングなんですか?」


キング。

確か、ブレイドフォースの別名だな。


ん?1年でキング?

僕が視線をウォードに向けるとウォードは僕を逆に指さした。

なに?どういうこと?


「我が校の初等部でハジャとフォースが使えるのは彼だけだからです」


「な!?」


それって・・・。

僕がキングなのか?・・・まぁ、そうなのだろうけど。

はぁ、なんだかなぁ。


別段驚くことではないのかもしれないが面倒なことになったな。


「で、ですが経験不足の1年をフォースブレイドに加えるのですか」


「それを補う為に練習を行うんだ。そうだな」


彼は自分の言葉に笑った。


「丁度良い機会だ。景気付けに我々、高等部の団体戦選手が君たちに胸を貸そう」


ほほう。


「え?」


「それで君たちの実力を把握するのも良いだろう」


「そんな実力が違いすぎます!!」


「もちろん、俺たちも手加減はする」


手加減ねぇ。

まぁ、ちょっと面白い展開かもな。


「ど、どうする!?なんか大変なことになったぞ?」


横で慌てた様子のウォードが僕に声をかけた。


「なんで?」


「知らないのかい!?去年の中等部団体戦はうちが5年ぶりぐらいに優勝したんだよ!彼らはその優勝メンバーだ!」


いや、さぁ。

そういうどうでも良いことを「知らないのかい」とか言われても・・・。


知るわけないだろ。


うん。でも。


「じゃ、倒すのも面白そうだな」


「え?何を?」


「ちょっと作戦を考えようぜ。ウォード」


僕はウォードに耳打ちした。




◇◇◇◇◇





俺が初等部との団体戦を決めたことを説明するとメンバーは顔を曇らせた。


「おいおい、ライオット。こんな事しても意味ないぜ?」


メンバーの一人、フォースのエリオットが不満を口にする。

無意味。

ふつうに考えればその通りだろう。


だが、そうかもしれないが、そうではないかもしれない。


「エリオット。ロック。ちょっと見極めたい相手が居るんだ。済まないが協力してくれ」


「君がそこまで言うなら仕方ないけど」


ロックが同意し、エリオットも渋々な様子で黙った。


「こっちは3人?」


「ああ」


ロックの確認に俺は頷いた。

ハンデとしてチーム人数を2人減らし、3人にする。

それでも相手は9才か12才、こっちは15才以上だ。


これだけの差があるわけだ。


「大人と子供だぞ?こっちが負ける訳が無い」


その通りだ。


だが、あの子供はただ負けてくれる相手だろうか?

どのくらいの実力か見極めた方が良い。


その確認の為には直接戦ってみるのが一番簡単だ。




◇◇◇◇◇





「ハンデとして、僕らはフォースとブレイドを一人はずして3人で戦う。ルールはさっき説明した通りだ」


「わ、分かりました」


誰かさんの名前はルミネスらしい。

後の2人はヒューイにオッグ。


一応、名前は覚えてみた。


「おい、1年坊主。お前たちは開始と同時に逃げろ。俺たちは上級生の誰か一人に狙いをつけて集中攻撃する」


高等部生1人に対して初等部生3人か。


戦力の集中と各個撃破。


意外に悪くない作戦だな。

そう言うことならこっちも利用させてもらうかな。


僕らが戦闘の配置に付くと、緊張した面もちの高等部生が四方に歩いて行った。彼が副審をするようだ。


主審を務めるのはマイア先生か。


「はーい、それじゃ・・・はじめ!」


相変わらず、この先生は何となく軽いなぁ。

気が抜ける。


僕は内心で苦笑しながらも叫んだ。


「おい、そこの雑魚フォースにへボブレイド!てめぇらのトロい足じゃ僕には一生追い付けないぞ!!」


我ながらガキっぽい安い挑発だな、と思う。

でも、必要な事だしね!


「フォース!!」


僕が放ったフォースが放射線状に広がり、グランドに土ぼこりを発生させる。


「こっちだ!ばーか!!」


僕はアッカンべーをすると駆けだした。




◇◇◇◇◇





「くそ餓鬼!!」


怒りながら、俺、エリオットは駆けだした。


土埃程度で見逃すかよ。


「そんなに目くじら立て無くても。相手は子供だろ?」


一歩遅れて駆けだしたロックが苦言を呈す。


「相手はキングだろ。さっさ潰してこんな茶番、終わらせてぇんだよ!」


俺のその意見には賛成なのかロックは頷いた。


「そうだね。ただ、向こうの狙いも僕たちを彼に追わせて、多数で王手をかけることみたいだよ」


「おいおい、ライオットがあのおこちゃま共に負けるとでも思ってるのか?」


ライオット相手に9才~12才がせいぜい4人。

負けるはずがない。


「そうは思わないよ。ただこのリスクはちょっと余計かな」


「そう思うなら、さっさ追いついて終わらせるぞ」


ロックが大きく頷く。


「そうだね。そのとおりだ」


要はこっちがあの子供、キングを先に討ってしまえが万が一のリスクも無くなるわけだ。


そして。


「遅いな。こっちは待ちくたびれたよ?」


相手のキング。

ユノウス・ルベットが目の前に仁王立ちしていた。


「てめぇ、バカか!?」


「はは、失礼だね。考え無しは君の方だろ?」


俺に向かって、

一歩、強烈な踏み込み。

その速度で確信した。こいつは!!


「フォース!!」


「チーム戦術の基本1。フォースがハジャが使えるブレイドの前に無防備に出るべきでは無い」


ハジャの光を見て俺は一瞬、混乱した。

この一年が競技用の剣を持ったのは、ついさっきのはずだろ?

愛用の武器でも無いのに何故、こんなに短時間でハジャが発動できる!??


そして、驚愕と同時に脳の冷静な部分が激しく警報を鳴らしているのを感じた。


やばい!前に出過ぎだ!!


フォースが形すら成さずに霧散する。


発動した力場では無くその前段階の魔法式をハジャで直接斬る高度な技。



―― 魔式斬り



ロックの位置からでは援護も何もかも間に合わない。


返す一撃が俺のポイントボールを破砕した。

その剣閃を俺は目で追えなかった。


こいつは危険だ。


「逃げろ!!ロック!!」


「失格がしゃべらない!」


その瞬間、おぞましいほどにぞっとする何かが飛んできて、俺の視界が真っ白になった。

失格者への加撃とか、おめぇえもルール違反だろぉお!???

視界が暗転して。


そして。





◇◇◇◇◇






「まいったな。一瞬じゃないか」


僕に一撃でポイントボールを散らされたロックがそう愚痴る。

エリオットの警告も実らずロックは結局、一撃で斬られた。


正確には僕がデコイで放ったフォース一発を相手が打ち消す瞬間にブレイドで一撃だ。


フォースブレイドの優位性である手数で圧倒し、有無を言わせず一蹴したわけだ。


「あの、何で2人ともしゃべるの?それ、ルール違反なんだけど・・・」


僕のその苦言にロックは首を振って肩を竦めた。

失格者が自分の状況を他人に知らせるのはルール違反だ。


大声でぎゃんぎゃんうるさい素行不良者は僕のとある一撃で無理矢理黙らせた。


失格者への加撃もペナの対象だが。


審判にそもそも見えないなら、反則も取りようがないよね。


ここで騒がれると色々と段取りが崩れるんだよね。うん。


「ぺ、ペナ2です」


ロックが天を仰いでいる。

何か言いたい様子だが、失格者に口無しである。


これで先輩たちは反則行為2回の2点減点か。


「それにペナ1です」


あれ?こっちにもペナが付いた。

なんだこの審判?まさか、今のが見えたのか?


「え?僕、何かしましたか?」


分かってて、判断したのか一応聞いてみる。


「え、だ、だって、エリオットさんが」


「え?彼は勝手に泡吹いたみたいですけど?」


「え、で、ですが、そ、そんなことあるわけ」


ああ、こりゃ、何も見えてないな。


推定有罪かよ。

凄い身内贔屓だな。


まぁ、酷いジャッジだが学生にそこまで求めても仕方がないし、どうでも良いか。


僕の使った無唱魔法式が分かってるわけじゃ無いみたいだし。


これはエレスにハジャの次に教えて貰った裏技的なものだ。

裏技というか、ちょい技というか、バグというか、システムエラーというか。


実はハジャの使い手は無唱でも魔法式のみを組み上げることが可能なのだ。


ただ、起動式たる呪文を伴わない純然たる認識による魔法式は発動しない。


しかし、その魔法式を相手にぶつけるとその魔法式のイメージを相手に伝えることが可能らしい。


気合撃きあいうちと言うらしい。


つまり、僕は強烈な殺気のイメージをてて、エリオットの意識を飛ばした訳だ。


居合いで言う抜かずに斬るみたいなもんかな。


ちゃんと構えていれば、気にあたったぐらいでは意識を失うほどでも無いはずだけどね。


「あ、あの」


「分かりました。以後、相手が勝手に気を失わないように気をつけます」


審判への抗議でペナを取られるのもアホらしいからね。


審判の少女は顔を真っ赤に紅潮させているが知らない。


さて、向こうはどうなったかな?




◇◇◇◇◇





あ、あいつ。

余計なことを!


あいつ、生意気で目障りな初等部一年生であるユノウス・ルベットが高等部生1年の大先輩をあろう事かバカにして怒らせた。


でも、これであいつの推薦も消えるんじゃないか?

この結果でデュエルの選抜メンバーに相応しくないとなれば、俺としては別に文句は無い。


首席入学だか、オール満点だか知らないが目立ち過ぎなんだよ!


今、俺たち3年生3人は1人残った相手のキングに接近すると包囲した。


さて、この状況どうしようか。

結果的に残ったキングのライオット評議会長の姿を見ながら、俺たちは考えた。


ここで王を俺たちが倒せば、このゲームに勝てる?


あいつの心証が悪くなったのは別として、これは俺たちの評価が上がるチャンスと言えなくもない。


そんな事が可能なのか?


あの最強のキングを相手に俺たちが勝つなんて。

ごくと思わず息をのんだ。


俺たちは三人が同時に攻撃すれば、あるいは。


万が一があるかもしれない。


開始から一歩も動いていない王に対して、俺たちは攻撃を開始する機会を窺っていた。


こうしている間にもあの1年坊主がやられてゲームが終了するかもしれないのに。

折角のチャンスがなくなるかもしれないのに。


動けない。


「どうした?俺が動いた方が良いか?」


ライオットのその言葉に全員が反応した。


そして、同時に動いた。


「うぉおおおおおお!!」


フォースとブレイドの持つ模擬剣の一撃が一斉に彼に向かい、放たれる。


煌めく閃光。


ハジャの強烈な光が空間を裂いて瞬くと、

フォースが消され、

剣が弾かれ、

僕らのポイントボールは破壊された。


全てがほんの一瞬の出来事だ。


目の前で起こったその光景に僕らは全員、放心し、座りこんだ。


嗚呼、なんてことだろう。


ライオットは3人に囲まれて、硬直していたのでは無かったのだ。


機を窺って訳でも無く、ただこっちに対して無条件にイニシアチブを与えていただけだ。


その余裕。


やはり勝てる訳が無かったのだ。

学院最強の男に。




◇◇◇◇◇





僕は遠くの木の影から様子を伺っていた。

フィールド内の構造物は自由に使って良い。


気配は消していた。

エレス仕込みの体術。おそらく、気取られてはいないだろう。


さて、どうしたものかな。


彼は勝利すると、またその場に突っ立ている。

その様子を眺めながら思案した。


「うーん、暇だなぁー」


彼は一歩も動いていない。

余裕見せすぎだろ。


チーム構成がたった3人で斥候がいない状況では仕方がないかもしれないが、試合時間も残り1分。

このまま、あそこにああして木偶の様にぼーと突っ立っているなら、もちろん彼らの負けである。


彼らの持ち点5ペナ2。

僕らの持ち点6ペナ1。


さすがに残り時間直前になれば、大慌てで状況確認に動き始めるかもしれないが。


そうなって、ウォードが捕まっても、最悪僕が逃げ切れば勝ち。

完全にこっちが有利だな。


その滑稽な様子を眺めるのもなかなか乙かもしれないけど。


「いや、そういう状況だと分かっても彼は動かないかも」


別に負けてもいい。

彼の目的、僕がエリオットとロックの2人を倒したなら、それで僕の実力を見極める事は出来たから、と。


なるほどね。


そもそもハンデ戦であるから、持ちポイント差で負けるぐらいなら名誉はまったく傷つかない。


その発想、普通に狡いなぁ。


彼の名誉は傷つかず、僕に残るのも彼との決着を避けて、ただ勝っただけと言う訳だ。

別に彼の名誉を踏みにじりたい訳ではないが。


「暇だし、相手をしようかなぁ」


当初の予定通り。

その狡賢さに敬意を称して。


僕は彼に向かいゆっくりと歩き出した。

大した距離ではない、僕は直ぐに彼の前に立つ。


「来たか」


「質問があるんだけど、何故、わざと負ける気でいたの?」


「わざと?どういうことだ?」


おーおー、しらをきるねぇ。


「このまま終了時間まで行けば、ポイント差で僕らの勝ちだった」


事実を告げると彼は笑った。


「俺が残っていれば、最悪引き分けだと思ったがウォードくんも逃げているのか」


「最悪引き分けって」


まさか、その程度の状況判断だったの?


僕が唖然としていると彼は苦笑した。


「俺が見極めたかったのはこの状況で君がどう動くかだよ。ユノウスくん」


その安い挑発。


「・・・・・・」


僕は無言で駆けだした。


滑るように剣が延びる。


剣戟。


ぶつかり合う剣撃に僕は目を細めた。

剣の技量はほぼ互角。


考えていたほどに易くは無い相手だ。


「やるな、小僧」


「貴方もね」


エレス師匠なんかと比べると可哀想だが、まぁまぁやる。


互いに加速し、斬撃を重ねる。


牽制のフォースをぶつけ合い。

剣で斬り合い。


一瞬の隙を窺う。


僅かだが剣術も体術も僕が上。普通に喧嘩なら勝てそうだが。


攻撃の捌きが上手いな。


それは素直に感心する。


このゲーム。

ポイントボール以外の身体への故意の攻撃は禁止されている。

故に選手の周囲をゆっくりと漂っているポイントボールへの攻撃を上手く捌ければ、防御は比較的容易なのだ。


経験の差かな。

実戦はともかく、このデュエルというゲームに関しては、彼もなかなか出来るようだね。


さて、勝つ気なら隙を作らないと。


―― 力場フォース


とっさに僕は力場の壁を空間に作った。


「む」


彼の剣がとっさに力場を破壊する。


貰った!!

僕は目の前で崩壊しつつある力場を蹴り上げると空中に駆け上がった。


「足場だと!?」


―― 力場フォース!!


さらに力場を展開。空間を蹴って急降下。


僕の予想外のアクロバットな動きにライオットの反応が遅れる。

その時。


―― 輝力フォース・オーラ


ライオットの魔法式。

僕はライオットの魔法式の構成を目にした。


不味い。これはハジャで消せない!!


瞬間。ライオットの姿がかき消えて、僕の剣が宙を斬る。


しまった!こいつ!?


不完全ながら、僕の開発したフォースの新式オーラと同じ内燃式の力場魔法をライオットが使った。


ちっ、オーラを封印したのが仇になったか。

こっちは内燃魔法は普通に反則だと思って遠慮したのに!


間に合わない!


僕のポイントボールが目の前で破砕する


と同時に、


ライオットのポイントボールがウォードの放ったフォースによって砕け散った。




◇◇◇◇◇





僕、ウォードはユノウスの考えた策に耳を疑った。


「ほ、本気なのか?」


「うん。フォースブレイドだろうと剣は一つだし、誰かのポイントボールを壊す一瞬なら彼は攻撃を防げない公算が高い」


「その瞬間を狙って僕が超高速ショットで近接射撃する?」


僕だって高速射撃には相当に自信がある。


お膳立てが揃えば、いくらキングオブエースである彼とはいえど、ポイントボールを散らすことは可能なはずだ。


「君の腕なら行けるよ。ウォード」


僕は首を振った。


「問題は今の僕の技術で隠れて接近するのは難しくないかと言うことだよ」


暗歩。アサシンウォークという技術があることを知らない訳ではないが。


「そんな事は無いよ。君の優れた魔法式展開能力なら工夫一つだ。力場魔法の使用は許可されているんだから」


「工夫ってどうするんだ?」


「幸い。このフィールドには大きな木がそこかしこに点在している。僕がまず、大きな音と土煙を上げるから、その隙に君は逃げるふりをしながら、近くの木の影に隠れるんだ。隠れると同時に力場の壁を四方に展開し、呼吸の音を消す」


力場による気配消去。聞いたことがない。


「そ、そんなこと出来るのか?」


「君なら出来るよ。あとは僕が相手が出来る限り大振りになるように上手く隙を作るから」


こんな作戦が本当に上手く行くか?

しかし、勝つ気ならやるしかないか。


「分かった」


僕は頷いた。




◇◇◇◇◇





俺はほぼ同時に散らされたボールを見て驚愕していた。

ルール上、ほぼ同時に放たれた一撃であると認められれば、それで破壊されたポイントは全て有効になる。


「それまで!!両チームキングが破れた為、残りポイント差により勝者は初等部です」


先生の宣言に天を仰いだ。

全滅。完敗だな。


「・・・これは驚いたな」


素直にそう思う。

彼は最初からどうなっても勝ちという状況を作り上げていたのだろう。


予想通り。

予想以上に負けず嫌いな性格らしい。


「僕もね。まぁ、大人が相手じゃ身体能力では負ける可能性も否定できなかったから予防策を張っていたんだけど。うーん」


剣で勝つ気でいたのだろう。はっきりと不満気だ。


しかし、何故だろうか。


彼のこういう態度には子供っぽいというより大人気ないと感じてしまう。

彼は明らかに年下なのに。


押されていた俺としては最後に上手く返せて多少は良かったが。


彼のポイントボールを砕く瞬間、気が抜けたのも事実だ。


なんとか勝てたとそう思ってしまった。


その一瞬の気の緩みもあったのだろう。


「う、嘘だろ」


一年生の敢闘に困惑した声を上げる初等部3年生が3人。

この結果。当然か。


「君たち2人が高等部に居ないことを残念に思う」


「こ、光栄です!」


「ありがとうございます。ライオット閣下」


感動しているウォードに対して、さっきまでの威勢はどこへやら澄まし顔でそう呟くユノウスの姿に思わず苦笑した。


この分だと初等部は久々に期待できそうだ。


その時だった。

俺にとってはこの世でもっとも厭になる声が聞こえてきた。

この声の持ち主は。


「ほー、随分と精が出るな」


その男は数人の取り巻きを引き連れて現れた。

べオルガーヴィ。


俺の腹違いの兄にして王位継承権4位。


「はは。哉きかな、哉かな」


随分と上機嫌だ。どうやら良いことでもあったらしい。


「兄上」


俺の言葉に男は顔を向けた。

その顔には嘲笑が浮かんでいる。


「なんだ。ライオットいたのか」


「はい」


「どうやら、初等部の方にご指導を受けていたらしいな!はは、少しは勉強になったか」


そう、来たか。


「ええ、目から鱗が落ちた気分です」


「そんな子供に無様に負けるようなら今年もお前の個人優勝は無理そうだな!ん?」


「そうかもしれませんが、努力するつもりです」


そんなことに興味はないだろうに。

俺が負けた事がそんなに嬉しいのだろうか。


この兄は歪んでしまった。

まだ俺が幼いころはそれなりに話せる人間だったのだが。


それが、いつしか肥大した自尊心と歪んだ劣等感と権力を愛する心が俺への敵視を生み出すようになった。


この男の母は権力を愛していた。

あの見た目が美しいだけの醜女が全ての原因なのだろう。


息子を王にするため、俺を殺すために随分といろいろ動いている。

そして、息子もそれに染まってしまった。


やっかいなことだ。


「何かご用でしょうか?兄上」


「もうすぐ、王位選が始まるだろ。挨拶をしておこうと思ってな」


「王位選ですか。初耳です」


王位選とは投票権を持った有力貴族による次期王の決定選挙の事だ。


俺は王が引退すると言う話など聞いていない。


しかし、この余裕の勝利宣言、票固めが済んだのか?


俺の派閥の票を切り崩したというなら由々しき事態だが。

調べてみるか。


「善いではないか。お前にはどうせ関係ないことだ」


「と言いますと?」


「ふふ、直にわかるさ」


そうとだけ言ってその男は去っていった。


俺は目を細めた。

今すぐ、王城に戻る必要があるな。


俺は、後の事を副会長であるメルフィナに頼むと学校を後にし、王城に向かった。

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