決闘の流儀
※7月12日改訂
休日明け。
授業ではいよいよデュエルの授業に入った。
みんなが若干そわそわしている。
魔法や剣術実技の花形だからなぁ。
採点はともかく人気ではダンジョン実習よりよほど人気が高いだろう。
「さーて、みんなぁ。みんなには今日からデュエルを学んでもらいまーす」
担任の教師であるマイア先生が外見同様にどこかふわふわ説明を始める。
「はーい」
「みんなもご存じとは思いますがー、簡単にその成り立ちから説明しますねー」
彼女はこほんと咳払いをすると一気に説明を開始した。
「デュエルはかつて一部の教団でのみ行われていたスポーツ競技でした。内容は今よりずーと過激なものだったそうです。
もともと神の威信を掛けて教団間の優劣を競うためのものでした。
年に一度、各教団の代表が聖地カルウェンに集まり、神前試合を行っていました。
これがみなさんご存じのトーメントですね。
ある時、その大会の視察に来ていた時のエルヴァン国王が国家間でのデュエル開催を国際評議会で提案し、翌年に国際デュエル委員会が発足、その年にエルヴァンのコロシアムで5カ国による第一回大会が行われました。
その後、大会はどんどん規模を大きくし、教団の大会もこれに合流する形で今の枠組みになったのが大体20年前ぐらいですかね」
この先生、説明調になると口調変わるよな。
「先生、お話ながーい」
誰かの言葉にあははと笑いがクラス中から漏れた。
まぁ、和気藹々だな。うん。
デュエルと言うともっと殺伐しているかと思ったが。
現代の制度ね。
意外なことにデュエルにはプロリーグすら存在している。
プロチームに所属するデュエリストはプロリーグの他にも国家対抗戦にも参加している。
まぁ、娯楽も世界には大事だろう。
「夏にはデュエルの大会もありまーす。初等部の生徒も出ますのでそれを目標に頑張りましょおー」
「はーい」
◇◇◇◇◇
初日の授業はデュエル・フォースのやり方を教わる。
個人戦のデュエルには二種類の区別がある。
競技剣で相手の周囲に浮いたポイントボールを破壊して、点数を競う。
デュエル・ブレイド。
単発魔法式フォースを使って、相手が立つ円陣から相手を押し出す。
デュエル・フォース。
現代風に言うならなら剣道というよりスポーツチャンバラに近いブレイド。
魔法を使った腕押し相撲のフォース。
と言ったところかな。
実際、この手のファンブック的な文献はかなりの数を見ているし、何が行われているかぐらいは分かっている。
デュエル用のフォースの技術的な指南書も見ているしな。
クラスメイトの一人と実際にフォースの練習を始める。
かなり手を抜いて適当に相手をしている。
「はーい、それじゃ、次は好きな相手と戦ってみましょう♪」
その言葉を待っていたのか一人の男が僕の前に進み出た。
「やぁ、ユノウス。相手してくれないか?」
そう軽く声を掛けてきたのはクラスメイトの確か、
「こちらこそよろしく。ウォード」
彼がどうして僕にデュエルを申し込んできたのか、考える。
たしか、魔法実技では僕に次いで2位か。
それが理由か?
「では、ルールは先ほど、先生が述べた様に。フォースの形式はウェーブ限定。試合形式は3本勝負、ラストオブエースです。良いですね」
「ええ」
「誰か合図を頼む」
「はいはーい、先生が合図しますよ。二人とも頑張ってねー」
なんつうノリだよ。この先生。
僕は呆れた感情が表情に出さないように抑えつつ、円に向かった。
二人で長さが50メートルも離れた円に立つ。
この距離だと初等生だとコントロールし当てるだけでも一苦労だろうな。
その心配は僕には当然、彼にも無いだろうが。
さて。
「はじめ!」
号令と共にウォードがフォースを放つ。
「フォース!!」「フォース」
僕はその魔法式を確認してから放った。
お互いの魔法式が真ん中でぶつかり弾き合う。
「相克!?」
「みたいですね」
お互いのフォースが拮抗している。
まぁ、実際は僕が彼の強さに合わせて撃っただけだが。
しかし、このフォースの速さ。
普通に驚きだ。彼はかなり強い。
「・・・。先生、次をお願いします」
「はい、それじゃぁ・・・」
先生が号令を出すべく手を振り上げる。
「はじめ!」
彼が魔法式の中唱をさらに速く、強く構成する。
「フォース!!」
その速さはこの年齢を考えれば、驚嘆に値する。
「フォース」
僕のフォースは若干遅れて発動し、
そして。
「く!また相克!?」
「やるね、ウォード」
またも力場がお互いに相殺しあった。
これがどういうことか、どうやらウォードは気づいたようだ。
「次がラストオブエースだ」
その言葉にウォードが気迫を込められていた。
ラストオブエース。
要するに3本勝負で取った本数が同じ場合は1本目より2本目、2本目より3本目を取った人間が勝ちということだ。
特に3本目を取った者は必ず勝つことからラストオブエースと言われている。
まぁ、別にただそれだけなんだが。
さーて、この気合の入り様は何か仕掛けてくるのかな?
「では、三本目ですよ!」
さっきは少しだけ出遅れた。
目に意識を集中する。読みとれ相手の意図を。
「フォース!!」
っ、この魔法式の展開は!
「フォース!」
お互いの力場がぶつかり合う。
そして。
ウォードが驚いた顔で一歩後ろに下がった。
それで円陣から足を出し僕の勝利が確定する。
「今のは!?」
「何してるんですか!!?両名!?」
先生、気が付いたのか。
大会では色味香を使って力場の動きを視覚的に見れる演出がされるのだがここにはそんなものはない。
あの速度の力場のぶつかり合いを見切るとはこの教師も只者ではないな。
「力場の収束は禁止でーす!!約束やぶっちゃうと先生怒りますよ!ぷんぷん!」
ぷんぷんって。
「すみません。ちょっと白熱してしまって」
「君は!今のフォース・タイプはボールだろう!?」
ウォードが困惑した声を上げた。
こっちも気づいたのか?
「ああ、そうだけど」
「かつて、神の子と呼ばれた天才デュエリスト、エマ・ロデスと同じ技じゃないか!!」
「え、いや、何それ?」
凄い字面の単語が並んだな。神の子?
僕はデュエル指南本に書いてあったプロの凄技特集の魔法を使っただけだ。
そんなことは一行も書いてなかった。
周りもざわついている。
やれやれ、どうしてこうなった?
一応、説明すると僕が使ったフォースは「ボール」と呼ばれている。
デュエルでは一つやっては行けない事がある。
単発魔法式による2個以上の力場の形成。
これはどのカテゴリーでもそう明記されている。
理由は知らないがまぁスポーツだしな。
昔は「ウェーブ」と呼ばれる圧縮をかけていない力場をぶつけ合って競っていたそうだが、しばらくして、速度重視の圧縮弾、通称「ショット」と呼ばれる力場を撃ち合う今の形に変わったのだ。
公式のデュエリストが立つ円陣には力場を拡散する結界魔法が張られている。
この円陣に「ショット」の力場がぶつかると衝撃波が危険でないレベルまで拡散して相手を円陣から押し出すのだ。
つまり、この実習ではそこまでの設備をしてないので「ショット」は禁止と先生が言ったのだ。
デュエリスト競技者は通常このフォースの圧縮と加速と詠唱速度を訓練で極め、早撃ち勝負で勝者を決めてきた。
そこに待ったをかけたのが通称「ボール」だ。
この力場展開はかなり特殊でボール状に展開した力場の中心に向かって、常に圧縮力が働いている。
これで中心に正確に「ショット」を捉えると中心一点の圧縮力場で相手の「ショット」を破壊しつつ、相手の「ショット」によって破れてたボールの穴からジェットノイズの様に崩壊した力場のエネルギーを吹き出し、それで相手を飛ばすのだ。
「ボール」は相手のショットを正確に一点で捉える魔法知覚能力と複雑な力場構成を瞬時に編み上げる魔法展開能力が抜群に優れていないと使い物にならないとされている。
さて、ここまで「ショット」と「ボール」が説明されてきたが最後は戻って「ウェーブ」だ。
「ウェーブ」は「ショット」にスピードで劣り、貫通される為にまず勝てないが「ボール」にはまず負けない。
その為、「ボール」プレイヤーに対して中速、中圧縮の「ウェーブ」も最近では使用されるように成ってきた。
中にはこの「ウェーブ」でショットを叩き潰して勝つというパワー自慢もいる。
この様に、デュエル・フォースには「ショット」を得意とするシュータータイプと「ボール」を得意とするキャプタータイプ、「ウェーブ」を得意とするハンマータイプの三種類があり、じゃんけんのようにそれぞれに得意、不得意がある訳だ。
まぁ、正確に言えば、すべてを選択するラウンダータイプと言うものもあるのだが。
ただ、じゃんけんとは違って多少有利だと言う程度のタイプ差しかない。
「そりゃ、今は超一流のデュエリストにはボールを使う者も少なからずいるが、しかし!」
「ちょっと待て、ウォード。当たったのは偶然だ!」
なんでこんなに盛り上がっているんだ?
「はは!謙遜するな!そんな偶然あるか!僕はウォード・ロデス。神の子エマは僕の祖父なんだ」
「え?そう」
しらんがな。
つーか、身内褒めかよ。
さては、神の子も自称だな。恥ずかしい一族だな。
「ああ、僕の父もプロデュエリストでね。ロジャー・ロデスの名前は知らないか?」
ん?どっかで見たな。新聞の、たしか。
「ロジャー・ロデス?あー、たしか去年の統一戦代表の・・・」
「そう!!」
彼は気障な仕草で髪を払うと言った。
「私は父の様なデュエリストを目指している。今は力及ばずともいずれは君やキングオブエースのアルヴィス・ウォーレンに勝ってみせる!」
「そう」
別に良いんじゃない。目標は高くと言うし。
「アルヴィスと共に君は僕のライバルだ!」
いらんがな。
つか、
「アルヴィスって誰だよ?」
知らない単語だな。
「な!?君はその名を知らないのか?僕ら、初等部対抗戦での最強のチャンピオンだよ。彼は今、イシュヴァリネの3年生だから今年にはもう卒業してしまうけどね!しかし、この初等部でただ今、2年連続チャンピオンだ。分かるか?今年も取れば史上初の初等部三年連続チャンピオンになるんだぞ?それがどれほどのことか!」
へー、心底どうでも良いな。
うん。
「ウォードが阻止すれば、良いよ」
「さらと言うな!彼の実力は初等部の次元じゃない!」
そうなのか?
まぁ、やたら強い魔法使いが他校にいると言うだけだな。
珍しくもない。
「今日は負けたが次は勝つぞ!これからもよろしくな!ユノウス!」
うーん、熱血だな。苦手なタイプかも。
彼の差し出した手を僕は握った。
「ああ、よろしく、ウォード」
やれやれ。
◇◇◇◇◇
「いやー驚きですよー」
「はぁ、それでどうですか?先生?」
エストはこの脳天気な先生が正直、苦手だ。
しかし、その目は十二分に信用できる。
これで元プロデュエリスト。
それも統一戦代表経験者とは想像も付かないが。
現役時代はトリック・マイアと呼ばれていたらしい超技巧派デュエリストだ。国内戦でも一回か二回程度、優勝しているはずだ。
エストは彼女から彼、ユノウスのデュエルの様子を聞きに来たのだ。
「そうですねー。まず、一本目、彼はウォードくんの魔法式を見て、同じ程度の魔法をぶつけて相克現象を起こしていたんですよねー。読みとってからの展開速度はこの時点では彼の方が上だったかなーと思います」
「はぁ」
「二本目も同じ事を試したみたいですけど、この時は速度を上げたウォードくんの展開にぃ彼の方がちょっと遅れた様な?まぁ後出しで構成読むスタイルだとあの速さに合わせるのはちょっとねぇ」
「え、それだとウォードくんの魔法式も尋常じゃない速さですよね?」
彼、ユノウスの単発魔法式の速度は尋常じゃない。
彼が遅れを取る速度と?
「あれ?ウォードくんはロジャーくんの息子ですよ?知らないのです?」
「ロジャー・ロデス!?今年の国内プロリーグ王者じゃないですか!」
つまり、彼も重要な勧誘候補だと。
「まぁ、ウォードくんはロイヤル・スウィートがすでにゲット済みですけどー」
む、それは知らなかった。
それでは仕方ない。
「それで、3本目は」
「3本目はー、ちょっと変わった感じかなー。ウォードくんが本気のショットを撃って、その速度に完全に出遅れたユノウスくんのボールがなんとか決まって勝利ってところねー」
ボール?!
あの歳でそこまで複雑な魔法式を展開したのか?
「それって」
「そうね。単純な速度ならデュエリスト一家のウォードくん伊達じゃないわー。速度ならウォードくんの方がちょっと上かも、ただユノウスくんのやったことは文字通り化け物じみてるわねー。あの状況、ユノくんはショットにショットを当てる選択肢も合ったはずよー。その場合はユノくんが力で押し切る選択肢ね。ただぁ」
「ショットにショットをぶつけても相克は起こらない」
「そう、その場合は跳弾がどこ行くか分からないもの、周りに人が居るし危ないわ。ハンマーで潰した場合はもっと危ないわねー」
ウォードくんが。
つまり、相手のショットの威力を見抜いて、完全に無効化するために不慣れなボール型魔法式を即興で展開したと?
「まぁ、彼ならそれぐらい出来そうですね」
彼の異常さはダンジョン実習でも際だっていた。
「でしょー。凄いのねー」
「私たちは彼を初等部のデュエル選手に推薦したいのですか」
私の言葉に先生は苦笑いを浮かべた。
「えー、でもロイヤルからウォードくんを育成枠で出場させる打診が来てるんだけど」
それは。
向こうには獅子王がいる。
評議会の一枠では向こうの意見を通すのが筋だろう。
だったら。
「では、この際、二人どうでしょう?」
私の提案を察した先生が笑った。
「ふふ、引率の先生的には良いですけどー。まず君たちが勧誘に成功しないと行けませんよねー?」
「それは必ず成功してみせます」
「そう。なら、先生の持つ推薦枠を貸してあげるわよー。キャンサーちゃん♪」