休日の過ごし方
※7月12日改訂
休日。
何かと言って付いてこようとする妹を巻いた僕は一人、町を歩いていた。
イニシエーションで見える姿を変えて。
今の僕は傍からは中年のおっさんに見えるはずだ。
子供の姿のままだと不都合も多いので、王都ではいつもこの見た目で過ごしている。
王都ルヴエスタの町並みは僕が知る中ではスペインに良く似ている。
石や煉瓦作りの町並みに鮮やかな色彩。
こういうのを見ているとこの世界も中々悪くないと思う。
とある建物に入って受付を済ませる。
中世風の白亜の建物。
ここには王都の冒険者ギルドがある。
「ユノウス・ルベットさま」
「はいはい」
僕はにやにやしながら呼び出しに応じる。
「獲得した賞金はこちらです」
「いやー、ねーちゃんすまないね。こんどデートでもどう?」
「何を言ってるんですか?」
ただのジョークだよ。
今の僕の見た目は超おっさんだし、乗ってくる訳がない。
案の定、嫌そうな顔で冒険者ギルドの受付嬢が言った。
「すみませんが、先約がありますので」
「そりゃ、残念。予定が空いたら教えてくれ」
僕は受け取った賞金を見た。1万5200G。
結構良い稼ぎだな。
「ユノウスさんはどこの狩り場で稼いでるんですか?相当な額ですよね?」
「それは秘密だなぁ。お嬢ちゃんがデートしてくれたらベッドの中で特別に教えて上げるよ」
「良いですよ、べつに」
いや、ロールプレイング楽しいな。
さて、これで稼いだお金はざっと30万を超えたな。
「じゃ、またなぁ、お嬢ちゃん♪」
僕はのりのりで別れを告げるとギルドを後にした。
もともと今日の本命はここではない。
そして、王都ではここよりもっと大きな建物内にあるギルドにその姿のまま、入っていった。
ここは国内最大の商人ギルドだ。
僕は受付を済ませるとソファに座って相手を待った。
やってきたのは不動産士のエミル嬢だ。
僕はこの商人ギルドの商人としても登録を済ませている。
「貴方がユノウス・ルベット?確か、公爵にひとりルベット姓のものが居たはずだけど」
「関係ねぇよ。で、例の件は?」
「ええ、良いでしょう。20万でお売りします」
「そりゃ、よかったぜ」
「ですが、あそこはそこそこ広いですがちょっと町外れですよ?商店からも遠いですし、なによりあの様子では使い道など」
助言のつもりだろうが関係ない。
王都の地価も高いと言ってもそれなりだ。
この時代だと上物の方が高く付くのだ。
「良いんだよ。ほら、証書をくれ」
「あのようなところに土地を買って何をする気か知りませんが」
公正の神レシウスの加護付きの紙に僕は名前を書いた。
姿をイニシエーションで錯誤させているが契約に問題は無い。
お金を払い、僕は笑った。
「商談成立だな」
「ええ」
◇◇◇◇◇
商談が終了し、僕はお昼もそこそこにお目当ての土地に向かった。
そこは草や木が野放図に生えている。
雑木林。
この何本も生えた木が問題で土地が非常にやすかったのだ。
これを切り倒してとなると普通ならとてつもない労力になる。
「さてと」
僕は軽く森のエルフに教わった作法で印を作った。
エルフとして開拓する森に敬礼。
―― 六重力場
念動力で木を一気にすべて切り払う。
これを更に一カ所に集めた。
重機いらずだな。
切った木の数は100本を超える。土地も割と広大なのだ。
大きさで200メートル四方はある。
東京ドーム並だな。
魔法で細かい草木を焼き払い、砂利や石を集める。
―― 五重力場
衝撃を大地にたたき込み、土を慣らす。
まっさらな土地ができた。
―― 召還
鉄の柱を呼び出す。
ちょっと時間はかかったが砂鉄を集めて巨大な鉄柱を作ってきておいたのだ。
20m近い長さのある鉄柱が全部で40本。
錆止めの処置もしてある。
―― 軟化
深く筒状に軟化させた土地にそれを突き立てる。
まずは基礎工事だ。
5メートルほど埋めて、地面を固める。
―― 硬化
さらに魔法で鉄同士を溶接して骨格を作る。
建造物は40メートル×60メートル3階建てで柱が20本だ。
面積にして7200平方メートル。
ちょっとした規模の建物だ。
近くの冒険で砂鉄を集める場所と石切場と石灰と粘土はすでに確保積みだ。
石灰と粘土から作ったセメントも用意してある。
―― 召還
呼び出した建材を並べる。
ここ最近はこれの準備に時間を費やしていた。
石を埋めながら土台を作っていく。
―― 力場
セメントに水を集めて吸わせると作った物をフォースの型枠にそそぎ込む。
―― 魔促成
―― 熱養生
促成魔法であるヒールや熱魔法のヒートを使い、コンクリートの形成を促しながら柱を作る。
―― 硬化
最後により硬化して終了。
この行程を延々と繰り返す。
セメントの硬化速度を何倍にも加速している結果、半日掛かりで3階建て1ヘクタール建造物の一階部分ができた。
「今日の作業はここまでだな」
召還式で建材や木を別の空間に送る。
更に結界魔法に幻視魔法を使って建造物を見えなくする。
泥棒に入られるのも面倒だし。
最後に土地の周りを鉄の鎖で囲い。
「この土地、ユノウス・ルベットの私有地につき立ち入りを禁じる」
と掛かれた立て札を四方において終了。
更にテレポート印を刻んで自宅に帰った。
翌日も週休日で僕は朝から2階3階部分を作る。
昼頃にコンクリート打ちがすべて終わり、僕は最後に召還した薄い大理石を床に敷き詰めていく。
何もないが我が城だな。
材料費0でここまでできれば良いだろう。
僕はにやにやしながら建物を後にした。
しばらくはここで商店街作りだな。
◇◇◇◇◇
その夜。僕はこっそりと学院に侵入する。
と、行っても足で侵入したのは入学当初の一回だけだ。
それからは隠して設置したテレポート魔法で進入している。
直接、ダンジョンまで跳んでいるのだ。
「さぁてと、今日も攻略を進めますか」
ダンジョン深部。
僕がこれまで攻略したのは82階だ。
放棄階として放置されている階にまで足を進めて今日で早一ヶ月目だ。
毎日足を運んでいる訳では無く、監視が薄くなる休日限定で入っている。
結界式で設置した魔除けの転成印から82階に侵入した。
ここまで潜ると教師や学生が万が一来ることもない。
あえて、75階と76階は浄化せずに見せかけの壁として残しつつ、その下の大掃除をしているのだ。
「今日は83階の掃除を開始しようかな」
階段を下りて、周囲を確認する。
僕の瞳に写る魔素を調べて、高密度の方へと進んでいく。
「いたいた」
まずは3体。
LV88 グリーヴァガイスト
「さて、いつも通りだな」
僕は無造作に魔獣に手を向ける。
――― 三連魔法式・電磁線煮沸
力場で固定した空間内を水蒸気で満たし、高周波の電界で振動させる魔法式だ。
つまり、レンジでチンである。
ダンジョンでは空間が限定される為にこのような空間設置型の殲滅魔法が実に有効である。
「さぁーて、さくさくいくよ」
次の角を抜けてると敵が10体。
LV92 ヴァポールゼリー
さすがに荒らされてないダンジョンだ。
美味しすぎる。
――― 五連魔法式・磁気圏結界
敵がまとめて僕の魔法の餌食になる。
うまうま。僕はひとりにやにやしながら足を進めた。
さらに奥に進むと一際大きな魔獣の気配を感じた。
LV108 ガルドキマイラ
得体の知れない魔物の集合体。
かなりの大物だ。
「ふむ。フロアボスかね」
僕はポケットからいつもの様に鉄球を取り出す。
――― 五連魔法式・三重加速砲
顔を出すと同時に敵の半身を破砕する。
余波でダンジョンに地震の様な振動が起こる。
「いけない。あまり使うと生き埋めかな」
ダンジョンの耐久性に喧嘩を売っても良いことないな。
やはりここでは結界魔法を使うべきだな。
「本来だと次はセーフティフロアだな」
一応、秘匿されているらしいが、ダンジョン構造などソナーでいくらでも確認できる。
僕が瞳で確認するとやはり放棄されたフロアは魔物の巣窟となっていた。
その数は50を越えている。
「よし、外から全滅させるか」
僕は大規模な魔法式を唱えた。
新たに覚えたシックススペル。
――― 六連魔法式・凍結地獄
運動の減退魔法式アブソーブと熱量の減少魔法コールドの複合魔法の最大強化版だ。
熱量と運動エネルギーを急速に奪う魔法で、一度発動すると中のモンスターの足で大地を蹴るなどの行動エネルギーと体温などの熱量を喰いまくり、行動を阻害しながら、相手事空間を凍結・破砕させる。
要は瞬間冷凍庫だが、この魔法の良いところはやはり静的な部分だ。
運動エネルギーを奪うことで動きを止めながら何もさせずに凍結に持っていける。
冷凍能力もなかなかだがそれ以上に相手を絡めながら凍らせるという罠的な魔法である部分が非常に厄介なのだ。
部屋の外からこれを仕掛けられれば、何もできないままにどんな敵でも結晶化してしまうだろう。
それを総仕上げで破砕するのだ。
「よし、全滅だな」
この分だと、後3時間もあれば、この階層の殲滅も完了しそうだな。
僕は鼻歌まじりで歩き始めた。