デュエルの候補生
※7月12日改訂
「デュエルの候補生?」
後輩の口から思いかけず出たその言葉にメルフィナは目を見開いた。
「ええ、それも彼はキングの素養を持っています」
エストのその言葉に更に驚く。
つまり、有能な魔法術者でありながら、ハジャの使い手と言うことか。
ハジャの使い手は極端に数が少ない。
キングオブデュエル、ブレイドフォースになりうる才能は希有と言える。
「事実なの?」
「ええ、ですのでしばらくの間、彼らの授業に専属で付き動向を探ります」
デュエル。
それはこの世界で広く行われているスポーツの一種だ。
世界規模で行われている唯一の競技である。
小規模な大会は数多くあるが、もっとも大きな大会は
神々の祭典と呼ばれている。
主催は神教連合会。
毎年行われ、初年が国家対抗戦及び教団対抗戦。翌年が統一対抗戦が行われる。
国家や教団の威信を掛けた名誉ある戦いである。
各国を巡業しており、今年の開催は西の大国 カシーンだ。
もっとも、学生がこっちの大会に参加することはまず無い。
学生が参加するのは国内戦抜の一環として行われる3大学校対抗戦の方だ。
デュエルの会場となりうるコロシアムは国内に一カ所だけなので毎年そこで行われる。
「3校対抗戦の初等部のトーメント選手、黄道12階位のもつ推薦枠を彼に使ってはどうでしょうか?」
初等部は一年と二年、三年の力量差が極端に大きい。
その為、一年でレギュラーを取ることは余程の事がないとあり得ない。
「それは女帝か、獅子王が最終的に決めることでしょ。でも・・・」
「はい、前回、前々回の3校対抗戦は全てイシュヴァリネに持って行かれました。生徒の士気にも影響します」
毎年、大体、彼の学校がトーメントの優勝旗を持って行くのをエストは苦々しく思っていた。
初等部はカテゴリー上、もっとも最初に行われる。
去年は初等部は惨敗でその後の士気に大きく響いた。
カテゴリー毎に点数は変わらない。
つまり、初等部の重要度は高いのだ。
「去年は神聖騎士学校ユニオンナイツにも総合で負けて、うちは最下位だものね。ほんと、王立学院の名が泣くわね」
このまま、前回と同じチームで挑んでも3校戦はまた負けでしょうね。
特にイシュヴァリネ初等部には絶対王者として降臨している彼がいる。
初等部は今のままでは波乱の余地があまり無い。
メルフィナは目を細めた。自分の考えを進める。
デュエルには男女別の他に二種の個人戦とチームⅠとチームⅡが行われる。
初日は二種の個人戦、フォースとブレイドの各校6人の選手による勝ち抜きトーナメント戦を男女別で行う。さらに男女の優勝者による統一戦が一試合ある。
二日目はチームⅠ。各国5人の代表選手からなるデュエルの団体戦リーグだ。こちらは男女別及びフォースとブレイドの区別がある。
最終日がチームⅡ。5人一チームからなるフォーメーション版デュエルの団体リーグ戦でこちらには男女別が無い。この日の最後に表彰式があって終わり。
これを初等部、中等部、高等部のすべてで執り行う。
一大イベントだ。
学生の大会とは言え一般公開もあり、相当に人気がある大会だ。
さすがに国家大会ほどでは無いにしても、国内大会としては国内選抜戦より人気があるかもしれない。
あまり無様なのもよろしくない。
しかし、チームのメンバーは年々固定され、今の面子では大躍進とはたぶん行かないだろう。
大規模なテコ入れが可能なのは初等部ぐらいだ。
「エストがそこまで言うなら彼をうちのお茶会所属にしないとね」
「はい、交渉はお任せを」
◇◇◇◇◇
ダンジョン実習は週に一回だけ行われる。
それはこのカリキュラムには多くの人員を取られるからだ。
教師も監視役の生徒も無限には湧いてこない。
十分な安全の為にこういう事になるわけだ。
さて、今日は二回目のダンジョン実習だ。
「今回も一番を目指すわよ」
アリシスがそう不敵に宣言した。
どうやら、前回の戦果は一番だったらしい。
僕としてはどうでも良いが。
「今回もよろしくお願いしますね。エスト先輩」
「ああ、よろしく。アリシス姫」
また彼女か。
前回の件で下手に実力を見せてマークされたかな?
まぁ、ハジャで魔法を消されれば、魔法使いとしては何かしら思うところがあるかもしれないが。
問題はマークの理由だな。
恨みを買うほどのことはしていないと思うのだが。
「それじゃ、最短で二階に降りようか」
「ええ、そうね」
僕らのパーティは最短ルートで地下二階に向かった。
途中で数回、魔獣とエンカウントしたが問題もない。
僕の役目はサポートだ。
この面子と肩を並べて戦うメリットは無いし、足並みが揃うわけもない。
1階はLV1~3のモンスター、2階はLV3~5のモンスターが出るようだ。
となると、3階はLV5~7程度かな。
僕はサーチを展開してメンバーのステータスを確認する。
シェイド LV3 生命力121 精神力22
シエラ LV3 生命力98 精神力68
カリン LV12 生命力199 精神力55
アリシス LV5 生命力105 精神力135
カリンのLVは最初からそこそこ高い。
おそらく、学校に入る前からそれなりに戦闘をこなして来たのだろう。
シェイドとシエラのLV、能力的にも3階はまだ早いな。
そういえば、一度、アリシスに僕のステータスを見せろと言われて幻視魔法で作った嘘のステータスを見せたことがある。
まぁ、普通に見せたらどん引きのステータスだしねぇ。
エストにはこの方法ではバレるかもしれないと思って、ハジャで払ったが逆にまずったかな?
午後になると、他のチームもちらほら2階で見かけるようになった。
するとアリシスがごねはじめた。
「3階に降りましょう!」
「駄目だ。力不足だよ」
僕は制止を口にした。
「何でよ!リーダーは私よ!」
午前中でカリンをのぞく3人のLVが上がった。
とは言え、このLVで下に挑むのはどうだろうか。
「私は一番が良いの!!」
「あのねぇ」
「3階にいくの!!」
めんどくさい。
もう良いか。
僕がフォローすれば良いだけだし。
あんまり温室で育てるのも考えものだろうが僕は別に教育者ではないし。
「良いよ。3階にいこう」
「「え」」
えって。
ちなみにそう漏らしたのはカリンと、そして何故かアリシス。
こいつ、もしかして僕が当然、反対するのを分かっててごねてたのか。
意外なことだが、僕に次いで全体の状況判断が上手いのがアリシスだ。
無茶なぐらい本当は分かっていたのか。
僕に白い目を向けられてアリシスが具合の悪そうな顔をしている。
その横でカリンは僕に困惑した目を見せている。
「ふ、ふふん。じゃ、決まりね」
「ああ、そのかわり、僕も少し前に出る」
面倒が増えるなぁ。
◇◇◇◇◇
3階に降りてから僕は若干スタイルを変えた。
ここまではフォースの変化型である力量減小魔法と力量増加魔法を中心に硬化魔法と鋭化魔法を使って補助に徹してきた。
シエラを前に出した時はプラスしてヒールも唱えていた。
それを時々、攻撃に出るようにしたのだ。
更に全員に攻撃を指示していた。
3階に降りて、最初の十字路を左に曲がる。
すぐに魔獣の反応。
―― 電撃
出鼻一発。
電撃魔法が敵全体を包む。
「え、ちょっ」
「ひるむな。全員攻撃」
出てきたモンスターは5体。
LV7 ゴブリン
妖魔族か。僕は即座に別の魔法を選択。
―― 緩衝
行動力束縛。妖魔の動きが遅くなる。
そこに前線のメンバーが攻撃を開始する。
―― 鋭化
鋭化魔法を攻撃に合わせて飛ばす。
僕の単発魔法式では効果時間は5分間。
カリンの剣が鋭さを増す。
―― 炎!!
アリシスの炎魔法が前線の残り三匹のゴブリンを焼く。
―― 炎
魔法式をいじって一気に五個の小さな炎を生み出す。
それらは行動を制限されているゴブリンの顔面を炙った。
「ぎゃああ」
ゴブリンたちが目を押さえる。
視力を奪われたゴブリンが無茶苦茶に手にもった棍棒を振る。
そこを冷静にカリンがしとめる。
まず、一体。
―― 支援
シェイドに向けて筋力強化。
―― 炎!!
アリシスが一気にニ体のゴブリンを葬る。
―― 支援
シエラに向けて攻撃強化。
ここで、カリンが加勢したシェイドのゴブリンが倒れた。
更にシエラのゴブリンに3人が集中攻撃する。
終わったか。
勝利に喜んでいる双子に対して、カリンとアリシスは困惑した顔で呆然としている。
僕はそれを無視して言った。
「さて、次行くぞ」
◇◇◇◇◇
3階に進んでからのユノくんはまるで鬼神のような活躍だった。
支援と牽制と回復を一手に請負いながら、しかも攻撃参加まで行う。
他の四人は完全におんぶに抱っ子状態だ。
ちょっと力の差が在りすぎるな。
私、エストは感心しながらも、苦笑して見ていた。
この状況下ではユノくんが完全に手加減していることが丸わかりだ。
つまり、ユノくん一人でもここに出る敵なら瞬殺できるということだ。
わざわざ仲間の経験値のために、足を焼き、腕を凍らせ、視界を奪い、手間をかけて味方に敵を倒させている。
まるで雛鳥に餌を運ぶ親鳥のようだ。
そのことに早々に気づいたカリンとアリシスは不満な顔で戦いを進めていた。
それに対して、もともと自分たちはお荷物になっていた自覚のある双子は素直にこの状況を受け入れている。
最初、彼らが3階に降りると言ったときエストは止めるつもりだった。
しかし、彼の実力を見極める良い機会だと思い、あえて見逃した。
その結果がこれだ。
彼は作りかけのチームワークを放棄して、効率重視に切り替えた。
全員を攻撃にあげたのはダメージ分がLVになるからだ。
チームごっこはお終いと言ったところか。
彼はこの状況を鼻歌交じりにこなしている。
これはちょっと反則だな。
私は苦笑いを浮かべた。
「2階に戻ったらどうだ?」
私の提案にアリシスが顔を上げた。
「そ」
「その必要はありませんよ。あと2~3Lvもあげれば、ここでも十分普通に戦えるようになるはずです」
普通に戦える。
つまり、ごっこ遊びのチームワークに戻れると。
ユノくんにそう言われてアリシスは不満な顔で黙った。
この強制レベリングはもうすこし続きそうだな。
結局、この日のチームは他のチームの3倍近い戦果を上げてまたも一位になった。
さすが、首席コンビと言われてもアリシスはずっと不満そうな顔をユノくんに向けていた。
なるほど。
彼は間違いなく使える。
私はメルフィナ先輩と顧問の教師に勧誘状を用意させることを心に決めた。
◇◇◇◇◇
「茶会?」
ダンジョン実習が終わった放課後。
シエラの言葉に僕は首を捻った。
「そうなんです。貴族のサロンのことなんですけど」
ふーん、貴族も暇なんだな。
ただ話を聞いていると茶会というのは貴族の部活動らしい。
一応、情報収集の段階で何の組織かは分からない。
「シエラはどこかに入る気なの?」
「色々、募集をしてるところもありますけど、私みたいな低級貴族は、ちょっと」
「ふーん」
入っても旨みが無いと。
すると僕らの言葉に聞き耳を立てていたらしいアリシスが突然にほえた。
「ふん、あんたたちみたいな低能低級貴族と違って王族の私はもう茶会に所属しているのよ!」
いちいち、自慢話が好きな姫様だ。
さっきは随分おとなしくなっていたのになぁ。
「姫。僕も一応、公爵家ですよ」
「凄いです!アリシスさまは一体どこに?」
「聞いて驚きなさい!王家茶会よ!!」
なるほど。王家の為の茶会があるのか。
で、何が凄いの?
「凄い、今の生徒議会議長の獅子王ライオットさまの居るところですね!」
「え、うん。まぁ、ライオット兄は私の異母兄弟だし」
ほー、獅子座階位ということは黄道12階位の筆頭格か。
王族とは言え、実力も備わっていなければなるのは難しいだろうなぁ。
一応、星座位の名前ぐらいは覚えておいたが所属する茶会まで把握はしてなかった。今度調べて置くかな。
「にいさま!さぁ、帰りましょう!にいさま」
クラスにユフィが駆け込んできた。
どうやらユフィのクラスも授業が終わったらしい。
「にいさまぁ!!」
むぎゅうと抱きついて話さない。
おいおい、なんでブラコンが悪化してるんだよ。
「い、妹さん。今日も元気ですね」
「当然です!ユフィにとってこの学校という不毛な時間が終わり、にいさまとのめくるめく日常の始まりを告げるこの時こそ世界の始まりに等しいのです・・・」
さいきん、妹がおかしい。
「うるさいわよ。ユフィリス!」
いらいらした様子のアリシスが妹にそう注意する。
「黙れ、この三下もとい十二下以下の塵屑滓女!にいさまに近づくな!」
おいおい。口も悪くなって。
「何言ってんのよ!こいつ!!誰が!屑よ!?ゴミよ!?」
「にいさまの敵は私の敵です!!」
いや、敵じゃないから。
「こ、このくそがき!!」
「帰るぞ、ユフィ」
「はい、にいさま」
切れそうなアリシスを置いて、僕はそそくさとクラスを出た。
◇◇◇◇◇
王立学院アカデミアは大国最大の城下町である王都テスタラントの中にある。
そのため、王都に別邸を構えている上級貴族の子息はその館から、下級貴族は専用の寮に入るらしい。
僕は一応、公爵家の館から学校に通っている。
寮生でも良いんだけど。
「それでにいさま、ユフィはクラスのデュアル戦で一番になったのです」
「へー、もうデュエルに入っているんだ」
僕のクラスもそろそろデュエルの練習に入るはずだ。
デュエルとダンジョン実習が実習科目の点数を大きく左右する項目である。
しかし、ユフィが一番か。
まぁ、意外でも無いが。
そもそも、ユフィは魔力値的には相当に才能がある。
その上で僕とユシャンの授業ではかなり高度なところまで教え込んだからなぁ。
単純な魔法でも今の段階なら敵はいないだろう。
「ダンジョン実習は?」
「今、3階ですよ?」
僕らと同じだ。
妹とはクラスが違うが僕らのクラスでは今の段階で3階に到達してるのは僕らだけのはずだ。
「はい、私がウォータの三連式でがんがん倒してます」
「三連式を使っているのか」
僕は単発式しか使わないと言う縛りゲーで適当に手を抜いているが妹はまったく遠慮していないようだ。
それなら三階に行くのも頷ける。
「にいさま、勉強と魔法を見てもらえますか?」
もじもじしながらそんな事を聞いてくる。
「ああ、夕食の後で少しならね」
「はい!」
明日は休日だ。
明日はいよいよ例の件を進められる。いろいろとやることが在るので楽しみだ。