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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
21/98

賢者と本の海

※7月12日改訂

私の母、アイラ・エリオラは舞踏の神ユーロパの巫女だった。


神殿に舞踏を奉納した際に時のテスタンティス王に見初められ、その後宮に迎えられたという。


貴族でない母は疎まれていた。

昔は踊り子である母を娼婦と罵る者も居たという。


母は誇り高き神の巫女。

体を売ったことなどなかったはずだ。

根拠のない誹謗が悔しい。


もっとも、私も母の事は実のところ、そんなに深くは知らない。


母は私が5歳に亡くなったのだ。

私は母の人となりの多くを人伝手にしか知らない。

それでも母の温もりは覚えている。暖かい人だった。


父は王だ。

軽々に会えるお方では無い。

私にとって王家とは戦場であり、自分の唯一の居場所だ。


絶対に守らねば。

そのために無様な真似は許されない。


私はアリシス・エリオラ・テスタンティス。

私はこの国の姫なのだ。




◇◇◇◇◇




学院の発表は違和感を覚えるものだった。


首席が二人。

私と公爵家の二人の名前が並んでいた。


どう言うことなの?

私の成績に問題はなかったはず。

これで王家の人間が主席を逃すはずは無いと教師の先生も言っていた。


実際、首席にはなれた。

しかし、二人。

これでは私ではなく、もう一人の男が本来の首席であると暗に言っているようなものだ。


この場合、多くの人は二通りにこの事を解釈すると思う。


今度の公爵家の男が恐ろしく優秀なのだ、と。

もしくは。

この私が、王家の娘が酷く不出来なのだ、と。


多くの人間はきっと後者に考えるに違いない。

人は他人を低く見る方が多い。

世の常だ。


しかし、学院は今回、更に異例の発表をしている。


公爵家の首席は歴代に類を見ない成績で入学を果たし、王家の姫もまたそれに比肩する希有な成績を残した、と。


要するに公爵家の子供が化け物なので特例でこうなったのですよ、と。

私の不名誉は払拭されたかもしれないが、これでは私の立場はその男の引き立て役ではないか。


学院は王家が普段通りの成績をとっても単独の首席とすることをためらうほどの天才という事を喧伝してるのだ。


王立学院は公然と言い訳をしている。


私は単独での首席に値しなかった。

実力不足を恥じる気持ちも当然あったが、それより私にはその男に対する怒りの方が強かった。




◇◇◇◇◇





僕は王立学院の無味無臭な始業式を無事に終えた。

なにやら偉そうな人の長い話があったが省略する。


眠くてよく聞いてないし。


首席だからと言って特に代表挨拶の類があったわけでもなく欠伸をかみ殺しながら、ちょっとした無意味な時間を過ごした。


すこしだけ、期待していただけにちょっと残念だ。


ちょっとした物の試しにどこかマンガチックな首席入学生というポジションを狙ってみたのだが。


んー、特にイベントは無しかな?


始業式を終えて、講堂を出て、中央広間に行くと掲示板にクラス分けが張り出されていた。


大変喜ばしい事に僕のクラスにユフィの名前は無かった。


クラス替えは無いらしいのでこの三年間、平穏な日々が約束されたと言っても良い。


「ユフィ、にいさまといっしょのクラスじゃ無いないです??」


「まぁ、しょうがないよね」


「やだぁあああぁああ」


ユフィは僕の横で憤慨しまくっていたが誰に当たろうとわがままを聞いてくれる相手はいないだろう。


まぁ、ユフィは内弁慶だから、僕以外にわがままを言うことも余り無いだろうし、問題は無いだろう。


うまくクラスに打ち解けてくれれば、良いのだけれど。

ついでにこの兄への依存症も解消して欲しいものだ。


兄として切実にそう願う。


「初等部1ーAか」


なかなか離れようとしないユフィを無理矢理に引き剥がし、僕は僕のクラスに入った。


自分の席を確認する。


窓際、一番奥。


ベストポジションでは無いか。


僕は思わずにやにやしてしまう。


まぁ、この頃の子供には前の席の方が人気だろうけど。


この席、どこぞの大学にあるようなみたいな机とイスなんだな。


小学生が座るお約束の机と椅子を想像していただけにちょっと驚く。

僕はそこに座ると配られた新品の冊子本を机の中に放り投げた。


もう内容は暗記した。

取るに足らない内容だったし、カビが生えようが持って帰ることは無いと断言できる代物だ。


僕が自分の席の寝心地はいかがか感触や姿勢を試していると、隣の席に一人の子供が座った。


もの凄いむすっとした態度。


誰だ?


まるで親の敵を見つめるような形相で僕をにらんでいる。


「あんたがユノウス・ルベット?」


「はい。貴方は?」


「アリシス・E・テスタンティス」


その名前には聞き覚えがあった。

確か。


「ああ、貴方が第十二王位継承者の」


お姫さま?


こんなおこちゃまが。

まぁ、美少女になる素地はありそうだけど。


うーん。9歳の子供には興味が無いしなぁ。

いや、そもそも僕の場合、あんまり異性に興味を持てないという悲しい現実があるのだ。


そう、僕にはとある欠陥がある。

正確にはエルフという種族が持つ欠陥だ。


エレス師匠に忠告を貰うまで知らなかったのだが。


僕には性欲が無い。

いや、多少はあるんのだろうけれど、通常の人間に比べれば無いに等しい。


というか、この世界のエルフには性欲が無いのだ。

エルフが誰かを愛するとは敬愛か憧憬かそういう類であって欲情したりはまったくしないらしい。


そもそも、エルフは種として強度が強すぎるのだ。

寿命は長く、個体は強力。


そのためか生存本能が薄い。

つまり、個としての生存より、種全体としての生存に掛ける天秤が強すぎて、繁栄したい、子孫を残したいという生理的欲求に乏しいのだ。


必要以上に個体を増やす必要が無いために、通常、子を為すのはコミュニティーに欠員が出たときのみである。


僕は半分は人間なので、まぁそこそこ性欲はあるだろうがそれでも並の人間の半分ぐらいだ。


常に賢者タイムなわけだ。


まぁ、色々と煩わしくなくて良いかな。

俺も中身がおっさんだし、そういう気持ちが枯れてもあまり不自由を感じないようだ。


さてはて、僕がそんなどうでも良いことを考えてるとは露知らずに目の前の少女は怒りを込めて言った。


「まるでこのわたしの継承権では取るに足らないと言った顔ね、ユノウス!」


僕の沈黙をよく分からない理論で取り違えたようだ。


しかし、何言ってんだ、このおこちゃま。


僕は無表情に見返す。


「今はあんたがすこーしばかり上かもしれないけど私は王家の娘!その誇りに掛けてあんたを倒す!」


「迷惑です」


僕はそうはっきりと告げた。


「め、めめ迷惑とだとぉおお!?」


いや、誰だって迷惑だろ。

はぁ・・・、面倒そうなのが隣の席だなぁ。




◇◇◇◇◇





優秀だからまじめだとは限らない。

私はそのことを身にしみて感じていた。


このくそ男。

私はいらいらしながら横を見た。


ユノウス・ルベット。


この男の授業態度はとにかく最低としか言い様が無いほどに酷い。


まず、授業を全く聞いていない。

先生が滅多に回ってこないのを良いことに教科書を衝立にして、ノートの下に忍ばせた別の本をずっと読んでいる。


ちらっと盗み見たが、いつも何が書いてあるかさっぱりわからない意味不明な本を読んでいる。


ある時だ。

数学教師が初めて行う問題を前にこの男を示した。

首席の実力を見てやろうと言うわけだな。


いままでまじめに授業を受けて居たからと言ってもかなりの難問だろう。

と言うが解けるのか?


悔しいが私にはさっぱり分からない問題だった。


つまり、このさぼり魔に解けるはずがない。


私は内心で笑っていた。このハッタリ嘘首席馬鹿がみんなの前で大恥をかくことを確信して。


「解けるかい?ミスタ・ユノウス」


「はい」


そう言って席を立ったユノウスは黒板に向かいすらすらと数式を書き始めた。


一点の淀みもない式、完璧な板書。

今までに習ったところの範囲内の開法で展開し、正確に解いていく。


そうか、そうすれば。


ああ、解けた。


「解けました」


「グラッチェ。見事だ、ミスタ・ユノウス。さすが首席学生」


「ありがとうございます」


ユノウスは澄まし顔で元の席に戻った。


こ、このやろう。


授業は全くと聞いていないくせになんで授業の進行まで分かるんだ?


いかさま野郎め。

しかも、あの意地悪な教師の問題にあんなに簡単に答えるなんて。


要するにこの男にとってはこんな授業は受けるに値しないと言うことだろう。

どんな勉強をしてきたか知らないがむかつく奴だ。


隠れ勉野郎が。




◇◇◇◇◇





隣の席の君の視線は日を追うごとに険しくなっていく気がする。

まぁ、まったく気にしてないけど。


いや、気にしているからこうして考えもするのか。

気にしていると言うよりいい加減うざいなぁと。


大人の僕が関係改善を申し出るべきか?

うーん、微妙なところだ。


しかし、今はほうっておこう。

今の僕の最大の関心はこの目の前に広がった光景にあった。


見渡す限りの本、本、本。

まさに本の海。


「これが噂の王立書庫」


僕は目をきらきらさせて言った。


単純な蔵書量ではこの世界最高ではないのか。

そう噂されるのがこの王立書庫だ。


正直この存在がなければ、ここに来たいとは思わなかった。

王国にあった今まで全ての本が収納されているこの書庫は王立学院に並列されている。


とある本好きの王が制定した制度として、この国では新たな本の出版物にはその本自体を税として納めなければならないという法律がある。


これは国にある書店にも記されており、抜き打ち審査を行う書庫官が新しい本を発見すると写本を納める命令書を出すのだ。


その本を検分し、場合によっては焚書指定になるがこの王立書庫には焚書指定された禁止本を含めたあらゆる本が納められている。


最初は書痴の道楽王の趣味的な法律だったが本に対する一定のルール作りのために有効と分かり、今も続いている法律だ。


書庫官や司書は教師を兼任している場合がほとんどだ。


常に全ての本を王立学院の教師が収集し、研究しているのだ。

魔法書の蔵書も非常に多い。


「しかし、首席入学の君が図書係り希望とは意外だな」


「本の虫なもので」


まったく道楽王に感謝だな。

僕はにやにやしながら本の山を見続けた。

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