いつか
※7月12日改訂
「本当にごめんなさい」
僕はミリアに謝っていた。
予定が狂いまくってミリアには結局、牢にしばらく居て貰うことになってしまった。
「・・・いいのよ。シルルがそんなことになっていたなんて知らなかったわ」
シルルって誰だろう。察するに。
「えーと、ミーナのお母さん?」
「そう。私の友達よ」
どこか遠い目でそう呟くミリア。うーん、なんだこれ?
すると、横で話を聞いていたエレスが呟いた。
「しかし、ユノ。森人に勝ったのか?」
本当は隠しておきたかったけど、ミーナの罪が赦される以上そう言うことがあったことを隠せなかった。
いやぁ、まいったなぁ。ほんと。
「ええ、勝ちました」
「本当に?」
「本当に」
何故かエレスは悔しそうな顔で呟いた。
「・・・。そうかぁ、なんか悔しいなぁ。私もやればたぶん勝てるとは思うんだが、うーん」
つか、悔しいって自分で言っちゃたな。
エルフでないエレスには挑戦権は無い。
それでちょっと悔しいのだろう。
まぁ、師匠も色々と壊れた性能だからなぁ。
勝ってもおかしくはない。
「まぁ、とりあえずお前に勝てば良いのか」
そう言って剣を構える仕草をするエレス。
おいおい。
「やめてください。勘弁ですよ」
なんでそんなに好戦的なんだ。僕はため息を吐いた。
「とりあえず、僕の罪が消えました。だからここに来ちゃだめと言う制限は無くなったと思います」
「そうね!そうよね!」
ミリアがぱぁと明るい顔で頷いた。
「ですので僕は一端、お家に帰ろうと思います」
つまり、もう帰ってもいいよね?
僕の確認に母はごねた。
「だ、駄目よ!もうちょっと居てくれないと!」
「大丈夫ですよ。いつでも来れますから」
そう言って僕はにっこりと笑った。
「そんな。片道最低でも15日かかるのに」
「いえいえ、片道10秒ですよ」
え?
と目が点になったミリアの横でエレスが驚いた顔をした。
「まさか、テレポートか?」
「はい。この辺りに座標印を刻んでからテレポートで帰ろうと思います」
このエルフの里も興味深いし。
また来れるならいろいろ研究したいと思っていた。
「お前、時空魔法は大魔法だぞ?使えるのか?いや、お前ほどの魔法使いなら使えて当然か」
頭が痛いなとエレスが呻く。
「まったくなんでも有りだな。お前は」
「そんなことはないですよ」
◇◇◇◇◇
牢の中でテレポートを使うわけにも行かないので一旦、森の外に出る。
その道すがら、一人の男が僕の前に現れた。
「エルエリ?」
確か刑部の男だろ?
なんでこいつがここにいるんだ?
「そうだ」
折角の良い気分が台無しだ。
この陰気くさいイケメンを見てると色々と気が滅入る。
「なにか用か?」
「ああ、二つ用事がある」
何だよ?と身構えた僕の前でエルエリが頭を下げた。
「娘と妻を助けて貰ってありがとう」
「え?」
え?って、こいつ、ミーナの親父なのか!??
うわぁー、似てねぇ。
「君のおかげでまた家族で暮らして行ける」
その言葉は心なしか今までより明るい気がする。
自分の妻を自分の手で餓死させようとしていたのか。
そら、鬱々するのも分かるが。
餓鬼に八つ当たりしてんじゃねぇーよ。
「別に貴方の為にした事じゃないし、礼を言われる筋合いも無いですよ」
本心からそう思っていたので僕は素直にそう口にした。
「いや、お礼を言わせて欲しい。私はもう妻を諦めていた。その前には娘が魔力減反症にかかり、あの方法以外では助からないと知って私は娘も諦めていた」
魔力減反症?
たしか、体の中の精神力を生み出す力が失われて昏睡し、そのまま少しずつ生命力を失ってやがて死ぬという難病だったけ。
へー、治療法があるんだ。
知らんかった。
「私は家族をすべて見捨てた。バカな男だ」
そう言って男は涙を流した。
子を諦め、妻を諦め、か。
いや、そんなこと聞かされても僕にコメントなんて無いんだけど。
あー、えー、良かったね!
くっ・・・・・・。
付き合うしかないのかよ。この状況!?
「顔を上げてください。その分、これから家族を大事にすれば良いのですよ。貴方はその機会を得たのですから」
「おお、なんと慈悲深いのだ、森人よ!」
いや、僕、森人違うから。
それと散々、ハーフエルフだってバカにしてたくせに。
調子良いなぁ、おい。
「それでもう一つの用件はなんですか?」
「はい、実はミリアの罪が軽減された」
おいおい!そっち先にしろよな!?
そっちの方が重要じゃん!?
「どうして軽減された?」
「いや、軽減と言うか。貴方を生んだ罪が、貴方の罪が赦された事でなくなった。それで刑の半分が消え、残りの刑期は3年になった」
3年か。
まぁ、大分減ったけど。うーん。
「それは朗報ですね。中にいるミリアたちに伝えてください」
「了解した、森人よ」
つか、この森じゃずっと森人扱いを受けるのか?
面倒だし、なんか近寄るの止めようかな。ほんと。
僕はため息混じりに帰路についた。
ミリアは結局、家に帰れないし、今後の身の振り方をどうするかなー。
うーん。
◇◇◇◇◇
神森から出る時の事です。
私はこっそりと森人さまにお願いしました。
「あの森人さま」
「どうしました。ミーナ」
私は緊張で唇が乾くのを感じました。
でも、今、言わないと。
「あ、あの私の身の方の罪も一つ赦されるのですよね?」
「ええ、そうですよ」
「では、私もミリアさまと同じ罪を赦して貰って良いですか?」
「それは?つまり、いずれは森の外に出たいと?」
私は頷きました。
エルフは自らの森を出るには罪を受ける。
本来この試練はその罪の赦しを得るためにあるのだ。
「良いでしょう。いずれ時が来たらこの里を出ていくことを認めます」
「あ、ありがとうございます」
随分とあっさりだな。良かった。
うん、良かった・・・よね?
「いずれはあの子供について行くのですか?」
「え、い、いえ。そういうわけでは!!」
そ、そんなつもりではなかった。はずなのに。
どうしてだろう。
そういう事なのかな?
「はは、やはり、なかなかおもしろい子供たちですね。うんうん」
そう言って、森人さまは森の奥の方に帰っていた。
私がそれを見送っていると呼ぶ声がした。
「おーい。テレポートで帰るからこっちこいよ。ミーナ」
「うん」
私はユノくんの方に歩いていく。
今は遠いけど。
いつか彼と一緒に世界を見て回れるようになれたら。
きっと。
素敵だな。
って、ちょっとそう思ってしまったのだ。