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転生したった   作者: 空乃無志
第一章 幼年期編
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エルフの里へ

※7月12日改訂

魔法の教師がついてから早1年が過ぎた。

僕ももうまもなく8歳になる訳だ。


僕の魔法力は目に見えて上達した。

さすがに先生は頭がいい。


「ここの構成はどうだ?このままでは上手くはいかんぞ」


ユシャンの指摘に僕は眉を歪めた。


「先生。ここはこのままで良いです。それよりこっちを」


「ぶぅうう、つまんないです!!」


横でユフィがぐずるがそんなことお構いなしに僕らは議論を続ける。


「この構成で魔力が安定するのか?自律式ならここを制限した方が」


「確かにそこを制限すれば、制御は安定します。でも出力が限定されてしまいますし」


それもそうか。ユシャンは難しそうに紙にかかれた式を見つめた。


「大体、重力魔法を使った物質生成魔法なんて何に使うんだ?」


「物質の錬成にも使えますよ」


金でも作る気かとユシャンは苦笑した。


「協力はするがこんなピーキーな構成の魔法はそれこそ君にしか使えないだろ?」


「まぁ、そうかもしれません」


僕は苦笑いを浮かべた。理論派のユシャンと議論を重ねることで大体魔法が出来ることにも目星がついてきた。


「しかし、物質が始原に返せばエネルギーそのものとはな。そこまでの知識をどこで得た?神の叡知を封したという全智の書庫アカシックレコードでも見つけたか?」


「ユシャン先生もとんでもない研究をしていますね。物質の魔素変換魔法とは」


「それについては、まぁ、まだ理論段階のものだ。エネルギーと魔素には類似性が多い。魔素を固定した物質も世界には存在しているしな」


「応用で純粋魔法物質の精製もできるかもしれませんね」


「それが出来たら面白いが間違いなく教団にマークされるぞ?半魔法物質のオリハルコンを超える高純度物質となると聖遺物群にも例が無いからな。神の一部とされる神遺物と同格だろ?連中の定義する神の威光にすら関わってくる事だ」


「やはり純粋魔法物質は破壊が不能になるんですか?」


「正確には純粋魔法物質マテリアとは魔法による質量物質という概念結界魔法そのものなんだと思うぞ。物質であり続けると言う概念認識が固定結界内で無限継続化されている状態だ。つまり、破壊が不能というより魔法そのものの否定に成功しない限り固定の物質として有り続ける」


「存在性の継続的証明ですか。否定式の魔法はその物質そのものを解析した上で新たに想像する必要がありますね」


「そうだな。解除キーが一つしかないと言うことは強度、つまり破壊可能性がそれだけ低いということだ。解析し破壊するというなら途方もない労力だ。瞬間的な破壊はほぼ不可能だろう」


「マテリアを多層構造にすれば、強度は更にあがりますね」


「多層型マテリアだと?可能なら事実上いかなる方法でも破壊はまず不可能だがそんなことが可能なのか?」


「それはどうでしょう。まぁ、いずれは挑戦してみたいテーマですが」


「ねぇねぇ、なんでユフィのこと無視するのです?にいさま??」


最近の授業はこんな感じで脱線ばかりしている。

ユフィが多少気の毒だが、きちんとユフィ向けの授業を終えた後で話をしているのだ。


このユフィも魔法使いとして大きく成長している。


最近は要領を得たのかユシャンの授業も的外れでは無くなってきている。

まぁ、今でも時々大失敗をやらかすのだが。

以前と比べると発想も柔軟になったような感じだ。


「ふむ、有意義な講義だった。ユノくん、君ならイシュヴァリネの学院に今すぐ通っても通用するだろうな」


「そうですか?まぁ、僕はどうも学校には通えないようなので」


「そうなのか?ふむ、ハーフエルフだからか」


「ええ、表舞台に出す気は無いようです」


「ふーん、もし身分を隠して通うつもりなら王立学院よりイシュヴァリネのような雑種の学校の方が通いやすいだろう。家に頼らないなら特待生制度もあるしな」


この世界の魔法と貴族は密接な関わりがあるらしい。

神に選ばれし奇跡の体現者である魔法使いであればこそ、貴族は貴族になれたのだ。


王権神授説を地で行くのがこの世界の貴族制度である。


今となっては血の優先だが魔法使いの実力も無視はできない。

貴族と同等の格がある神官は今でも実力主義だ。


そして、貴族や神官職からこぼれた者の中にも優秀な魔法使いはいる。

それを総称して雑種と呼ぶ者もいる。


イシュヴァリネはそう言った雑種の人間が通える学校としては最高峰だろう。純粋に魔法を究めんと欲する者たちによって運営される理想郷。


実情はそうでもないようだが。


「なるほど。そういう道も考えてみますよ。ありがとうございます、先生」


「いやいや」


「ねぇ?にいさま、ユフィと一緒の学校に通えないのです?」


ユフィが不安そうにそう呟いた。

ユフィは来年には晴れて、王立学院に入学することになっている。


「うん、そうなるね」


「いやです!一緒の学校に通うのです!にいさま」


いや、こればかりはルーフェスが首を縦には振らないだろうし。


「やー!」


なおもぐずるユフィを僕は苦笑いを浮かべながら見つめた。

その様子を同じく苦笑して見ていたユシャンが言った。


「まぁ、ユフィくんが学院に入れるとなると私もお役御免かな」


その余裕そうな様子に僕は笑って言った。


「先生は別の場所でも講師を始めたのですよね」


「意外と需要があったみたいでね。いやぁ、君たちが色々と実験だ・・・もとい、協力してくれて助かったよ」


「教材を思いつくと何でも僕らで試すのは止めて欲しいですねぇ」


ユシャンは僕の愚痴を素知らぬ顔で流すと感慨深そうに呟く。


「それにしても公爵家のお墨付きというのは効くらしくてね。貴族相手に楽な商売さ。しかし、自分が教師に向いているとは思わなんだった」


「そうですね」


ここに来た最初の様子を思い浮かべると意外過ぎることではある。


「ユノくん、私の研究室にはいつ遊びに来ても良いぞ」


「ありがとうございます」


ユシャンの家には印を置いてある。

テレポートで移動がいつでも可能だ。


ただユシャンの研究室までの長距離ジャンプは今の僕ですら半分以上の精神力を消耗する。


軽々にできるものでもない。


「ぷぅう。二人でばかりお話して狡いのです!にいさま!!」


ユフィがむくれるのはいつものことだ。


ユシャンが軽く会釈をして退席した。

僕はそれを見送りながら今後のことを考えていた。


学校のことも問題だが、問題はそれだけではないな。

彼女たちが未だ帰ってこないのはどういうことだろうか?




◇◇◇◇◇




その日、いつものように別邸で朝食を取っていると急にメイドたちが騒々しくなった。


何かあったか?

前回は傍観を決め込んで手痛い目に遭っている。

僕は何があったか見るためにメイドが集まっている場所に向かった。


しばらくして、とある人の気配を察した。

ああ、これは。


「ユノさま!」


「何事ですか?」


一応、尋ねる。


「それが」


「久しいな。ユノ」


「やはり、師匠でしたか」


エレス。

考えてみると約2年ぶりか。


本当に懐かしい。


エレスは僕の姿を見ると感慨深そうに呟いた。


「随分と大きくなったな」


「ええ、まぁ。その様子ですとお母様に何かありましたね?」


ミリアの気配は感じない。どういうことだろうか。

一緒に来れない事態に巻き込まれている


「そうだ。問題が発生した。一緒に来て欲しい」


「どこにですか?」


「エルフの里だ。ミリアはそこで今、一族の掟を破った罪で幽閉されている」


ふむ、まぁ、大方そんなものだろうとは思っていたが。

幽閉ですか。


「脱獄の手伝いですか?」


母親を助ける。

そういうことならノリノリでやるのだが。


「え?いや、ミリアが逢いたいとぐずるのでな」


「なるほど」


獄中人と面会という訳か。

久しぶりに母親に会えるのか。

楽しみ。


「行きましょう」




◇◇◇◇◇




「そう、ミリアが」


ミリアの現在の状況を聞いたメーリンが憂いを帯びた顔でそう呟いた。


「はい、会いに行こうと思います」


「わかりました。話は通して置きます。エルフの里に行くぐらいなら夫も文句は無いでしょうし」


「ありがとうございます」


メーリンの許可を取り付けるのはわりと簡単だった。

問題はユフィだ。


「やー!いっちゃ駄目です!」


「そんなに長い間じゃないから」


「やー、やなの!」


わがままだな。

と、まぁ、妹はぐずりまくっていたがそれは置いておいて、僕とエレスは翌日には旅立った。




◇◇◇◇◇




僕らはエルフの里を目指す。

師匠と二人旅というのも面白いものだ。


歩き始めてすぐに僕は言った。


「師匠。実は僕、冒険者になったんですよ?」


僕のカミングアウトにエレスは驚いた顔をした。


正直なところ、僕が自分の出来ることを隠しているのは日常生活に支障が出ると考えたからだ。

普段は一緒に居ることが少ないエレスにバレるぐらいは問題ないだろうという考えでいる。


と言うか、もうそろそろ隠さなくて良いかもしれないと言う気分になっているのだ。


メーリンやリージュには感謝しているが公爵家に居るのは色々制約も多い。

最悪、家を出て自立することも考えた方が良いとすら考えている。


「何だと?私たちの居ない間に何があった?」


「色々です。師匠。だから魔獣を倒しながらすすみませんか?」


僕の示した冒険者カードを見たエレスは苦笑した。


「レベル45だと?まったく、どういうことだよ」


頭を抱えてそう呟く。


「師匠、ここからエルフの里まで何日の行程です?」


「60日」


「師匠一人なら?」


「40日でつくな」


「では、30日を目標にしましょう。エルフの里はエシェル地方の近くの玄霊の黒き森ですね」


「そうだ。よく分かったな。いや、しかし、30日だと?」


やはり、エシェルか。その場所なら文献などでとっくに学習済みだ。


「では、急ぎましょう」


そういうと僕は走り始めた。


「待て!おい」


「師匠遅いですよ」


慌てた様子のエレスが後ろをついてくる。




◇◇◇◇◇




さすがに師匠に純粋な走りのスピードでは勝てなかったがそれなりについていけている。


「いくらなんでもオーヴァーペースだ。少し休むぞ」


そういう師匠には多少疲労が見える。

僕は常駐型のヒールを掛けてあるので平気だが。


「師匠。ハジャを使うのを我慢してください」


「何?」


「良いですから、さぁ」


胡散臭い顔をしたエレスが僕の言葉に従った。


―― 二重促成ヒール・ダブル


「ほぅ」


回復魔法が掛かったのが分かったのだろう、エレスが驚いた顔で僕を見た。


「僕の魔力容量なら二人分の全力疾走を24時間維持するぐらい問題無いですよ?」


「ふふ、ミリアに魔法を習っていたのは知っていたが此処まで上達したのか。良いだろう。ならば、私も遠慮はしない」


エレスが更に速度をあげて駆け出す。


「ついて来れるか?」


「魔法有りならいけます!


―― 輝力フォース・オーラ


フォースによる力場を肉体の内側に発生させて加速を得る。

僕が独自にオーラと名付けたこのフォースの形態は一つの特徴を備えている。


ハジャによる打ち消しに強いと言うことだ。

ハジャの効果は肉体の内部深くまでは間接的には届かない。

内燃系の魔法式は剣などに宿したハジャを肉を裂いて直接当てないと打ち消せないのだ。


さらにこの方式はイメージによる操作で内にこもった力場のエネルギーを自在に肉体内で動かせる。


蹴り足である右足に収束させたエネルギーを一瞬で継ぐ足である左足に動かす。


僕の体は見る間にエレスに追いつき、追い越した。


「ほう!更に上げるぞ!」


エレスの速度が更に上がる。

面白い!追いかけごっこってわけだ!


――― 二重輝力フォース・ダブル・オーラ


僕はフォースのギアを一段上げた。




◇◇◇◇◇





「師匠、とんでもねぇ!」


「くそ!その台詞返すぞ!」


何度めかの勝負で僕がついに奥の手のグラン・フォース(オーラ)を出したところでエレスに走り勝った。

と言ってもそれでも距離はちょっとずつしか離れて行かない。


「勝ったぁ!」


「くっ」


ゴールである森の奥に着くと同時に僕は呪文を唱えた。


―― 三重促成ヒール・トリプル


そして、


―― 探知サーチ


僕は即座に周囲を詳しく調べる。


「どこだ?」


「そこ!」


示した先から間入れず黒い三本角の魔獣が現れた。


魔獣 アトモン LV88


「オレノナワバリハイッタ、ニンゲンハコロス!!」


「それじゃ次の勝負だ!」「了解!」


エレスが凄まじい勢いで剣を振るう。

一瞬で三筋の剣閃が煌めいた。

僕も続いて、維持していた力場を操作し、剣を振るう。


超加重の一撃に魔獣が怯む。


「遅いぞ!」「師匠こそ!」


剣刃が魔獣めがけて重なり合う。


「がぁ」


魔獣が苦しそうに震えた。


「ぐぉおおおおがぁああああああ」


魔獣が吠えた。

念動力の力が宿る一撃に僕は剣を突き立てる。


「ハジャ!!」


念動が弾ける瞬間。エレスが最後の一撃を魔獣に突き立てた。

魔獣が崩れ落ちると同時にエレスが笑った。


「こっちは私の勝ちだな」


僕は不満げに呟いた。


「ちょっと狡くないですか?僕に防御させておいて」


「あれぐらい避けられるだろ」


まぁ、そうかもしれないけど。


「でも、獲得した経験値は僕の方が多くないですか?」


パーティ経験値なるものは存在しないようだが、共同で魔獣などに攻撃して倒した場合、経験値はダメージを与えた割合で配分されるようだ。


「悪いがそっちも私の方が上だ」


エレスがにやりと笑って言った。

そうかなぁ。僕はたった二撃と言ってもグランフォースを込めた一撃をたたき込んでいるし。


「しかし、お前の魔獣を探す・・・魔法か?とんでもない精度だな」


「そうですか?まぁ、便利な魔法ですよね」


僕はしれっとそう呟いた。

僕の魔素察知能力は実際は魔神ラダーの祝福に由来する能力だがそうとはさすがに言えないのでユシャンが開発したオリジナルの魔法だと言うことにしてある。


彼女はイシュヴァリネの首席卒業生らしいし、何か魔法で聞かれたら彼女のせいにしておけば大丈夫だよねー。


さて、このように僕らはゲームと称して里への道すがらにある強力な魔獣を倒して進んでいるのだ。


「さて、次はどこだ?」


「次はもうゴールですよ」


「ん、そうか」


まだ15日目である。

お互いに全力で走りまくった結果、エルフの里までの道程をわずか15日で走破してしまったようだ。


「いや、残念だな」


本当に残念そうだ。

どうやら最後に一つ負けが付いたのが気に入らないようだ。


「師匠。当初の目的を忘れないでください」


僕は苦笑しながらそう言った。

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