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転生したった   作者: 空乃無志
第一章 幼年期編
15/98

魔法使いの先生

※7月12日改訂

僕らがユフィを連れ帰ってから一年が過ぎた。

僕は今、七歳だ。


ラスタスはその後、教団の討伐隊の方に参加するために屋敷を去り、僕はメーリンにめいっぱい、感謝された。


珍しい事と言えば、駄目男として絶賛評価下がりまくりのルーフェスが珍しく僕に会いに来た事ぐらいだろうな。


「今回の件、感謝する」


「どういたしまして」


いやいや、あんた一応親だろ。

子供にその他人行儀な台詞はどうなのよ?


まぁ、誘拐犯にまんまと娘を殺されたと言うよりは助けたという方が貴族の矜持が保たれたのかもしれないし、そう言う意味での感謝かな?


単純に父親として感謝している可能性も否定は出来ないが。


後はレオが王立学院の初等部に入学したぐらいだな。

この世界の学校は9才から始まるようだ。


あの面倒な子供の姿も最近めっきり見なくなった。


それとひとつ、問題があるとすれば。

エレスとミリアの二人にまったく音沙汰が無いことだな。




◇◇◇◇◇




「にいさま、にいさま」


「なんだい。ユフィ」


あんなことにあったせいか、ユフィの僕に対する依存度は以前にも増して高くなった。

どこに行くにもべったりで僕がちょっと離れるとすぐに探し回る。


雛鳥が親鳥について回るように僕の後ろをついて回るのだ。

ユフィは僕の庇護下に居ないと不安なようである。


なんとか、いつもの時間になれば、離れる約束は取り付けたが、一時は別邸にまで押し掛ける勢いだったのだ。


例の一件がトラウマになっているのもしれないが、このまま極度のブラコンになられても困る。


「お母様が私に新しい教師を用意してくださるそうです」


「へぇ、良かったね」


僕は適当に本を読みながら適当に相づちを打つ。

最近、本邸の書庫に立ち入りを許可されたのだ。


読む本が多くて忙しい。


「ぷぅ。にいさま。本より私の話を聞いてください」


「聞いてるよ。ユフィ。教師が増えるのだろう」


「はい!魔法使いの教師です!」


「へぇ」


ユフィ、魔法使いの訓練を受けるんだな。


「本当はにいさまに教えていただきたいのですが」


ユフィはもじもじしながらそんな事を言う。


「僕は人に教える程、達者じゃないよ。それに僕が魔法を使うことは秘密だろ」


僕がハーフエルフであることと魔法使いであることは秘密にしている。

一応、ラスタスとユキアにも道中、他に口外しないで欲しいとお願いしてみた。

まぁ、ラスタスは騎士として嘘はつけないらしいし、知ってる人は出てくるだろうな。


「そんなことないです!にいさまはすごいのです」


「ちゃんとした教師に習えるのならその方が良いよ」


僕のはきちんと地に足が着いた魔法ではない。

理論すっとばしてるし。


ミリアに教わったのは精霊魔法だったし。


「にいさま。一緒にお勉強しませんか?」


「僕も?」


「はい!是非」


ユフィは目をきらきらさせている。

なるほど。

僕にとってもメリットがありそうな提案だ。


しかし、そこまで僕と長く一緒に居たいものかねぇ。


この頃、一つ変わったことがある。


探知サーチ


僕はステータスを確認する。


魔神ラダーの祝福・・・魔神ラダーの試練を達成し者に与えられる奇跡。魔力認識(魔眼)、魔力制御に補正特大。魔力・精神力の成長に補正特大。


やれやれ。いつのまに僕は魔人になったのだろう?


最初は困惑したがこの祝福、便利なことは便利なのだ。


視覚的に魔力を感じられるようになったのだ。

あと魔力の伸びが異常に高くなった。


細かい制御がより正確に出来るようになった。


口語魔法式の広がりは波紋だ。

呪を発することで空気中の魔素を揺らし、発現する。


僕は魔法が持つ波長を見て制御出来るようになった。


いくつかの魔法も増えた。


――― 魔力場グランフォース


グラン・・・魔神ラダーの魔力増幅魔法。他の魔法と組み合わせることで強大な効果を得る。


今のところ、例の魔法使いの使っていた魔法で新たに使えたのはこれぐらいだが魔力増幅は非常に便利だ。


最近はラスタスの得意としていたファースの制御に取り組んでいる。

力場を操作して衝撃を上手に分散させて和らげたり、逆に一点に力場を集中させて威力を向上させたり。


魔力場グランフォース


力場を使って空中に停止する。

ファースを使った空中飛行だ。


結構安定しているな。僕は別の呪文を口にする。


重力グラビィトン


途端に制御がぐだぐだになる。

空中でふらふらしながら僕は魔法を切った。

地に足が着いたところでため息を吐いた。


重力制御魔法。


あの魔法書に書いてあった中では最高位の魔法だ。

力場より重力場で制御出来れば、色々と捗るのだが。

この通り、最高に制御が難しい。

以前の僕なら全く制御出来なかったろうな。


うーん。まだまだだなー。


完全な重力制御に成功すれば、本格的に物質を純エネルギーに変換する分解魔法に挑戦しようと思っているのだけれど。


おそらく僕がイメージできる究極の魔法になるだろうし。


僕は首を捻りながら普段通りのトレーニングを再開した。




◇◇◇◇◇





私、ユシャンのことを一言で言い表すなら落ちこぼれだろう。

魔法士としてでは無く、社会人としてだ。


学校。

魔法使いの学園としては最高峰のイシュヴァリネ学院を首席で卒業したのだ。並の魔法使いではないとそう思っている。

勝手にそう思っているだけだが。


在籍中に付いたあだ名が石頭ロッキンヘッドだった。

何事も理屈でしか語れないのが私だ。


少しでも納得行かない事には教師でも喰ってかかっていた。

大抵(99%以上)相手が間違っていたし、自分が間違えば、それは認めた。


私は偉大な魔法学院の首席だし、魔法使いとしてすべての知識を知る権利があり、すべて知識を修めるに値する。

そう思っていた。


私には魔法使いとして至座を目指す矜持を持っていたし、自覚ある天才だった。と思っていた。自分では。


もっとも、周りはそんな私を煙たがったし、全く歓迎していなかった。

誰もが私を嫌っていた。

しかし、あのころの私には周りなど見えておらず。


私が自分の過ちに気づいたのは満開の拍手で首席卒業のコールを受け、そのまま、学園の門までエスコートされた時だ。


私は学園の研究機関に残ることは叶わず、どこの誰からもお声を掛けられることもなく、実家に帰ることを余儀なくされた。




◇◇◇◇◇




「と、言うわけで公爵様がお前を雇ってくれるそうよ」


「お母様、私には研究があります」


そう、今研究しているものが世間に出れば、私は再び脚光を浴びて天才の名を欲しいままにするだろう。


「お前は母親の臑をかじる研究でもしているの?」


「ぐっ・・・。お母様に投資していただいた分は近い将来には当然、何倍にもしてお返ししたく思っています」


私の言葉に母は腕に抱いた猫を撫でながら呆れ顔で言った。


「いつから詐欺師になったのよ。ネズミを捕る分、この猫の方が親孝行だわ。今、私は猫を生めば良かったと後悔しているの」


にゃーと猫が暢気に鳴いた。

私は震えながら言った。大体、その猫はネズミも狩れないと評判のデブ猫ちゃんではないか。


「それはあんまりです」


私がその猫に劣るだと?

そんなバカな事はあり得ない。断じてないのだ。


「仕事をしないなら出て行きなさいよ。どうせ、ろくな仕事に就くのは無理でしょうけど」


「お母様、見くびらないでください!!で、仕事は何ですか?」


「え?出て行っても良いのよ?」


「研究室は私の命です!」


あそこを明け渡すぐらいなら死んでやる。

そう、あそこを守る為なら私は悪魔に魂を売ろう。


この悪魔のような母に!


「仕事は公爵家の子供の家庭教師です」


な、なんだと!?


「私が子供のお守りですと!?お母様!私は学園首席卒業なのですよ!?そんな仕事は了解しかねます!!」


「あー、部屋が一つ空いて助かるわー」


「いいでしょう!子供だろうが何だろうが私にかかればイチコロです!」


「何がイチコロよ。あんた馬鹿なの?」


馬鹿だと!?

実の母と言えど言って良いこと悪いことがあるのでないだろうか?

この私に対して、そのような・・・


「もし粗相があったら部屋の中の物は全部、焼却処分するからね」


「公爵様のご子息の教育に全力全霊を以てあたります」


くっ、おのれ、貧乏がすべて悪いのだ。

今に見てろ!

そのうち、世界中が私を賞賛するようになるのだからな!


「しかし、何故、私が家庭教師なのです?」


「だから良いんじゃない。お前みたいな頭が冷え切った穀物パンより堅い女が多少ましになるためには柔軟な子供に学びなさいよ」


こ、子供に学ぶ?何を言っているのだこの老害め。

更年期を拗らせて、脳が退行したのか。


「良いこと?これからはお前の部屋の使用料を戴くし、食事はただでは出しませんから。ちゃんと自立するのよ」


「そんな!せめて食事はただで出してください!」


「ホント!何を言ってるのよ、この子は!」


とにかく、かくして私は公爵家の家庭教師となったのだった。




◇◇◇◇◇




今日は例の家庭教師の日だ。

どんな子供が待っているのだろうか。


私が公爵の家を訪ねるとメーリンと名乗った女性が歓迎してくれた。


「二人ですか」


教師をするのは一人の予定だったはず。

面倒な。


「ええ、ちゃんと二人分の授業料を払いますから」


二人分だと!?これで一人分余計に貰えるなら貯金が出来る!?

貧乏ライフよ、さらば!


「分かりました。私にお任せください」


「あら、頼もしいのね」


当然だ。私はすばらしい魔法使いだからな。

私は意気揚々と子供の待つ部屋に入った。


部屋の中には二人の子供が待っていた。


「私がこれから君たちの魔法の教師になるユシャンです」


「ユノウスです」


「ユフィリアです。よろしくお願いします」


適当な挨拶をするユノと名乗った少年とその横でお行儀良く礼するユフィという少女。


少年は反抗期か?面倒なことだ。

よく見れば少年の方は耳がやや長い。ハーフエルフか?


少女たちを見ながら私は荷物を広げた。

その中から魔力見の水晶を取り出す。


「まずは君たちの魔法の素養を調べます」


「先生。僕は魔法はかなり使えるのでユフィの方を見てください」


「はぁ?」


この子供は何を言っているんだ。

まぁ、教えなくて良いならその方が手間は無いのだが。


「では、ユフィ、手を水晶に置いて」


「はい」


ユフィが水晶に手を置く。


「何か好きなものをイメージして」


「好きなもの・・・にいさま」


何を言っているんだこの子供は。

この歳でもう色惚けか?


私は呆れながら水晶を見る。この色は。


「水か」


「みず?」


魔力見の水晶は特殊な加工をされた魔素が触れたものの魔力に反応して様々な色を見せるのだ。

これを使えば、得意な系統の魔法を知り易くなる。


魔法というものはどうしてもその人の持つ世界へのイメージの影響を強く受ける。


イメージの固まらない子供は魔法を上手く使えないことが多い。

故に幼い頃はイメージを固めやすい得意な魔法を集中して覚えるのだ。


この子は水を作り操る魔法だな。


「では、ユノ君。君もやりなさい」


「僕もですか?」


「そうです」


考えてみたら、この生意気そうな子供の方にも教えないと授業料が二重に取れないじゃないか。

おいしいお仕事の為にも、是が非でも教えるしかない。


「僕は見学でも良いのですが。そうですね」


ユノが魔力見の水晶に手を置く。

何の反応も無い。


「ユノ君、君は魔力がないのですか」


そうなると教えても無駄と言うことになる。

なんてことだ、このままでは私の受け取る授業料が半分になってしまう!

大損じゃないか!


「違いますよ。これは水晶球の中に入った魔素でその人の適性を見るアイテムですね?」


そう言いながら彼は水晶球の色を変化させた。

赤。青。黄色。水色。白。黒。灰色。


「な、な??」


「にいさま、きれいです」


「へー、なかなか面白いね」


こ、この子供は一体?


この子供は並の魔法使いでもそうそう出来ない魔素に反応しないように魔力を完全に遮断するという制御をしてみせた上で、更に無意識下の魔力反応を制御し、さまざまな形、色に水晶球の中の魔素を変化させてみせたのだ。


相当に練達な魔法使いか妖眼フェアリーサイトの使い手でなければ、そこまでの制御ができるとは思えない。

7歳そこそこの子供がして良い芸当ではない、決して。


「と、言うわけで僕のことは気にしないでどうぞ」


そういうとユノは手に持った大きな本に目を落とした。

にわかに信じがたい。


うーむ。まぁ、良いか。

天才肌の感性任せの魔法使いなどいくらでも見てきた。

そういう奴も居る。そういう連中をいちいち気にしてもしょうがないのだ。


「・・・良いでしょう!ではユフィ。貴方にウォータの魔法をお教えします」


私は気を取り直して授業を進めることにした。


結水ウォータ?」


「そうです。はい、呪文をまねてください。ウォータ」


「ウォータ」


発音は問題ない。微かだな魔力が周囲に流れている反応もある。

では、いよいよ明確なイメージを使って魔力を操作させてみよう。


「では、次に周りの空気の中に潜む水の気を一点に集めるイメージで魔法を使うのです。ウォータ」


「ウォータ」


上手く行かない。ユフィは困った顔で私を見つめている。


「なんにも起きないよ?」


「最初はそんなものです。ではもう一度」


結水ウォータ


その後、しばらくウォータに挑戦したが上手くいかない。

やはり子供の魔力が低すぎるのか。

幸い、魔力は動いている。練習を重ねて行けば。


「ぷぅ、にいさま、つまんない」


「なんだユフィ、もう飽きたのか?」


な、なに!?飽きただと?

もし、この子供たちがもう良いやといったら首になるのか?

そうなったら私の研究室(自室)が!?

不味い。非常に不味いぞ。


どうにかこの子供の気を引かないと!


「そ、そうだ。私が魔法のすばらしさについて講義してあげよう!そうあれは・・・」




◇◇◇◇◇




「つまり!魔法は素晴らしい!!」


一時間後。

おっといかん!ついつい熱くなってしまった。


私は魔法のすばらしさを熱弁するあまり、ついつい自分の世界に入り込んでしまっていたようだ。


しかし、これでユフィくんも魔法のすばらしさに目覚めたに違いない!

我ながら完璧な講義だったしな!


私は期待を込めて、二人の子供を見た。


私は漸く、呆れた顔で私を見つめるユノとその横ですやすや眠るユフィの姿に気が付いた。


「あの話・・・」


「読書の邪魔です」


えー、えー。まじですか。聞いてないですか。

そうですか。

くっ、こんなことでめげるな!

そう相手は子供。くそ餓鬼どもめ!私はまけんぞ!


「ユフィ。起きなさい」


「あふぅ。にいさま、おはようごじゃります」


若干ふらふらした様子のユフィにユノがため息混じりに言った。


「はぁ、もう見てられませんよ」


そう言うとユノは自分のポッケからハンカチを取り出した。


「ちーんする?ユフィ、お鼻出てるかな?」


「違う。そういう用途じゃ貸しません」


「えー」


なにか不満そうなユフィの前でハンカチを広げて置く。


―――結水ウォータ


ユノがそう言いながら指を一本立てる。

その指先に真ん丸の水玉が揺れることも無く浮かんでいる。


鮮やかで完璧な制御だ。


彼はその一滴の水をハンカチに落とした。


「良いか、ユフィ。この水のシミを動かすイメージで呪文を唱えるんだ」


「シミを?」


ユフィが首を捻った。

なるほど。


「つまり、空間にある水分を収束させるにはまだ足りない魔力と未熟な魔法制御域でもハンカチの上に落とした水分を目確で少し動かすぐらいなら十分に出来ると」


「・・・そうだけど」


少女はシミを不思議そうに見つめながら魔法を唱えた。


―――結水ウォータ


ハンカチ上をシミが微かに動く。

おお、上手く行っている。


「動いた!にいさま、動いたよ、ほらほら」


「へー」


なお、ユノはまた本に目を戻している。


「ぷぅ、にいさま。ユフィ、魔法使えたのにぃ」


「うん、頑張ってね」


「ぷぅう」


むくれているな。しかし、この方法は確かに目に見える形で水を制御出来る分、効果的だと言える。


「にいさま、魔法教えて」


「駄目だよ。ここにいるお姉さんに見てもらいなよ。僕はユフィに教える気はないよ」


「なんでー?どうしてー?ユフィにつめたいのー?」


なんでー、じゃない!感心している場合じゃない!

そう!これは私の仕事だ。


「にいさま、さいきんつめたいの。先生どうしてかな?」


「え?それは?」


知らんがな。なんだ?

なんで、この私が子供のお悩み相談を受ける羽目に?


しかし、首にならないように愛想良くせねば。


「おほん。ユノくん、どうしてなのか、このお姉さんに教えてくれるかな?」


その言葉にユノが胡散臭そうに私を見つめ返した。

うう、泣きたくなってきた。


「こいつが僕に依存してるんで甘やかさない様にしてるんです」


「ぷぅううう、私、にいさまのこと大好きなのに!」


「僕はユフィのことは大切な家族としか思ってないよ」


「にいさまのいじわる!」


良いじゃないか大切な家族。


しかし、拗ねたようすのユフィがそっぽを向く。

もっともそんな状態ですらユノの横を頑なに動かないのは微笑ましいのか、そうでもないのか、微妙なところだ。


こいつら本当に兄妹なのか?


まぁ、幼い頃だとこういう事もあるか。

私も大きくなったら父親と結婚すると言ったことがあるらしい。

母は「そんな子がどうして」と嘆いていたが。


しかし、母は今の私のどこに文句があるのか?こんなに優秀なのになぁ。


「ユフィ。魔法のレッスンを続けますよ」


私はなけなしの義務感でそう言った。


「ぷぅう」


駄目だ。拗ねてこちらの言うことを聞かない。


「やれやれ、僕の横じゃこんなにわがままになるなら一緒に授業を受けるべきじゃ無かったね」


「やー、にいさまと一緒じゃなきゃ受けないもん」


な、なんだと!?

私が戦慄しているとユノは呆れたように言った。


「じゃ、まじめに授業を受けなさい。受けなきゃ、僕は帰るよ?」


「うぅ・・・」


ユフィは恨めしそうにユノを見つめながら黙る。

む、粘るな。


「やれやれ、ユフィがこの様子では暇でしょう。ユシャン先生、僕とゲームをしませんか?」


「ゲーム?」


「そうです。僕も一応、先生の生徒と言うことになりますが、このままユフィの魔法訓練に参加しても僕の勉強には成りません。だから、このゲームで僕が勝ったら先生が僕に自習用の教材を用意するというのはどうです?」


「自習用の教材?つまり、魔法書か」


要するにゲームに負けたら私の秘蔵している魔法書を読ませろと言うことだろう。


ふふ、おもしろい要求だな。


「いいだろう。その代わり、私が勝ったら君も私の授業をまじめに受けるのだぞ!?」


「いいですよ。勝負の方法は僕が用意した単純な力場の固まりを先生が一分間で無力化出来るかどうか。出来れば、先生の勝ち。出来なければ、僕の勝ちです」


「いいだろう」


その言葉に子供が手を伸ばした。


――― 魔三重圧縮場グランフォース・トリプル


空間が超圧縮されて力場が固定される。

その影響で僅かに空気が薄くなった気がする。


ただ突風や鎌鼬のような現象も起こっていないところをみると極めて広範囲の空間を極めてスムーズに動かしたのだろう。


光を通さない密度まで凝縮されているのだろうか力場の色は黒い。


「これは」


力場の収束がここまでの様相を見せるのを見たことはない。

そもそも、魔神のスペルだと?


そんな強烈な増幅魔法をこんな幼い子供が使えるのか!?


「どうします?」


もう一度、子供が問う。まるで私が諦めるとでも思っているようだ。


「くく、良いだろう。受けて立つ!」


ふふ、久々に血が騒ぐ。

私は目を光らせるとさっそく力場の解体に差し掛かった。




◇◇◇◇◇




まず、いくつかの方法を試してみた。


――力場フォース


まずは力場を力場で引き剥がす方法。

これではびくりともしなかった。


――分散ディフュージョン


ならばと次に分散魔法による空間の削り取りを試した。

極々僅かにだが空間が削れたのを感じた。

この方法もあるな。


しかし、時間が掛かりすぎるだろう。


――爆発エクスプローション


今度は爆砕魔法による空間の膨張を利用し力場を破壊する方法を考えた。

魔法の効果によって力場の中心に爆発エネルギーが生まれた。


良し、これを蓄積していけば。


「先生。さすがにこの空間が崩壊するほどの爆発を引き起こしたら部屋が無事じゃないと思うよ」


「む、そのとおりだな」


いかん、いかん。

集中しすぎて目的の為に手段を選ばなくなってしまっていた。

さすがに公爵家の家を爆砕したとなっては首だろう。

ついでに親には勘当されるな。

私は仕方なくBプランを実行する。


――分散ディフュージョン


削る。


「ディフュージョン。ディフュージョン。ディフュージョン・・・」


削る削る削る削る削る。作業を最適化し、効率を最適化し、精度を細緻にし、イメージを固定化し、削る削る削る削る……。




一分後。


「さすがです。先生」


力場は残っていた。大きさは半分以下だが。


「くっ、もっと効率化出来れば!」


ユノは力場を収束させて消すと笑った。


「なかなか面白かったです。これだけ極小の変化を逃さずに力場を愚直に削り出すなんて、さすがですね」


「ええ、発想の勝利です!」


「いえ、先生の負けですけど」


む、いや、負けでは無いだろ!

力場は半分以上削れていたわけだし、ポイント制なら私の判定勝ちか、引き分けだ。


「それじゃ、次から僕は自習しますので本をお願いします」


「くっ、良いだろう!そ、その代わり、奥方にはきちんと授業を受けているというのだぞ?」


「え、もちろん良いですけど?」


よし!まぁこの子供に魔法書を見せるぐらいどうと言うことはない。

ただでくれてやるわけじゃないしな!


自習で勝手にお金が稼げるなら悪いことではない。はずだ。

たぶん。プライドとか横に置けば。


「先生、僕が魔法を使えることはこの屋敷の他の者には内緒にしてくださいね」


「なに?どうしてだ?」


「あまり目立ちたくないんですよ。まぁ、言っても構いませんが先生も僕が魔法を使えない設定の方が良いでしょう?」


「それはそうだが」


だって、授業料が貰えなくなるし。


しかし、これだけ使える魔法使いもそうは居ないはずだ。


学院で一番だったと言っても理論派だったユシャンはどちらかというと理論・論述で点数を稼いだ口なので魔法自体の実力は上位と言ってもトップでは無かった。


この子供はもしかすると学院でも最上位クラスかもしれないな。


カミングアウトすればそれこそ、色々な道が開けるのではないか?

そう思ったがまぁ、7歳でこれではいろいろ不都合の方が多いのか。


「良いだろう。では、今日の授業はここまでだ」


私は満足げにそういった。

これで少しは我が母も私を見返すに違いない!

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