幼児と魔人(後) ※
※7月12日改訂
ガスロは転移の成功と同時に周囲の確認を行った。
場所をまず確認する。
洞窟か。
ここを逃走に使われたと言う事は侵入者用に放った魔獣は役に立たなかったらしい。
次に侵入者の数を数えた。
二人。
たった二人だと?
意外だ。随分と少ない。
しかも一人はまだ幼い子供だ。ガスロが本気で驚いて口を開いた。
「こんな子供がどういう事だ」
「ユノくん!!彼は今までで一番の強敵です!!」
大人の男の方が警戒を口にする。
それに呼応するようにして子供の方がまず動いた。
魔法を口にする。魔人の瞳が瞬時に魔法を解析した。
凝結魔法に分解魔法に発火魔法か。
威力や魔法の練度は歳の割には悪くない。
いや、異常な程に高い練度だ。
しかし、魔人を相手に使うレベルには到底足りてない。
魔人である自分の目には子供の使う魔力の動きがはっきりと映っている。
大した事はない。が、一応用心で魔法を唱える。
――― 魔力場
力場の結界が張られた。
◇◇◇◇◇
こいつは危険だ。
僕は即座にそう判断し、魔法を使った。
―― 爆鳴気生成
― 点火
爆鳴気を惜しげもなく大量に作って、点火する。
おそらく並の魔法使いならかなりの高確率で死ぬだろう。
並というのは精々僕基準の少ない経験則からだが。
それでも殺傷性が高いのは否定できない。
人を殺すのは目覚めが悪いがラスタスの警戒具合、あの転移してきた魔法、これで済めばめっけものだと割り切った。
大爆発の音が響く。
洞窟が震える。崩れて生き埋めにならないと良いが。
――― 魔分解
爆炎が一瞬で消される。
炎と煙が払われると無傷な男が顔を出した。
「驚いたな。これは何だ?」
男は本当に驚いた様子でそう呟いた。
驚いたのはこっちの方だ。
あれを無傷?
不味いな。僕の方にそんなに隠し玉があるわけでは無い。
「ふん、まぁ、良い」
男は小さく呪を唱える。
念動力の呪文。
――― 魔力場
「ユノくん合わせて!!」
ラスタスの言葉に呼応して僕もフォースを発動させる。
―― 五重力場
僕2、ラスタス3のファースの五重掛け。
しかし、男の放つフォースの威力がそれを軽く凌駕する
嘘だろ。
全身が壁に叩きつけられる。
痛っ。
見れば、ラスタスも同じ状況だ。ユフィはラスタスがかばってなんとか無事のようだが。
ラスタスが僕に目線を向ける。
念波魔法だ。
彼の声が響いた。
(私が隙を作ります。ユフィを連れて逃げて下さい)
ラスタス。僕は小さく頷いた。
僕はともかく、小さなユフィを連れて戦闘は難しい。
彼は体を起こしながら呟いた。
「これほどの魔力、やはり魔人か」
「ほぅ、良くわかったな」
男は自信に満ちた不適な笑みを浮かべて言った。
「俺は第26位の魔人ガスロだ。この名を死ぬまでの僅かな間だけでも良く覚えておけよ」
ラスタスが怒りに満ちた声を発した。
「魔人が出てくると言うことは、やはり、真の狙いは討伐隊の壊滅か!」
「ふふ、そうだ」
その言葉に間入れず、ラスタスが呪文を口にする。
―― 力場剣
―― 力場鎧
ラスタスの周囲で力場が固定される。
重量を持った剣と鎧の姿。
その姿にガスロが苦笑した。
「ふん、騎士の力場魔法か。そんなもので俺を倒せるとでも?」
「さぁ、どうでしょう」
ラスタスが僕に目配せする。
その意図は。つまり。
ラスタスが剣を振るう。
―― 力場閃
剣撃に圧縮された力場が放たれる。
見事な制御と威力だ。しかし。
「無駄だ」
――― 魔力場
魔人には効いていない。
逆に魔人から超重の魔法が放たれた。
―――二重力場盾
盾の様に展開された二重の力場。
しかし、出力の差を考えるとただ受けるだけなら破壊されるだけだ。
故に逸らしを選択する。
ラスタスは力場を使って、相手のグランフォースを逸らすように力の方向に変化を加える。
「受け流すだと!?」
ラスタスのその芸当にさすがに魔人が驚いた顔をした。
今だ!
その瞬間、僕はユフィを抱き抱えた。
「力場!」
僕は力場を使って加速すると洞窟を駆け抜けた。
◇◇◇◇◇
魔神ガスロは苦々しい顔をした。
「ちっ、餓鬼を逃がしたか」
まぁ、良い。
子供の印がある限り、いくらでも追いつける。
それより、今はこの騎士だ。
それにしても随分と巧く力場を操る。
「それだけの実力だ。お前も一級の騎士だろう」
力場操作による攻撃、防御、収束、加速は単純だがその威力は絶大だ。
騎士たちは制御を磨いて、その実力と地位を高めてきたのだ。
ガスロの言葉をラスタスは睨みつけながら返した。
「ええ、彼らが逃げる時間を稼ぐぐらいなら」
「無理だな」
ガスロは呪を口にした。
――― 魔三重力場
超加重の三倍掛け。
驚愕の色に染まったラスタスを空間を軋ませる程の圧が襲う。
――二重力場盾
盾が一瞬で霧散した。
――転移
衝撃に吹き飛ばされるラスタスの目の前に、一瞬で転移したガスロが現れる。
「死ね」
――― 魔爆発
爆発が洞窟に響き渡った。
◇◇◇◇◇
不味いな。あれは不味い。
あの強さは反則だろ。
僕は洞窟を弾丸の様に駆けながら必死に考えた。
あれに勝つにはどうする?
考えはまとまらない。
とにかく。全力でやるしかないな。
「ユフィ」
僕は最後の曲がり角を抜けたと同時に言った。
「にいたま」
「良いか。ここをまっすぐ行くと出口で、そこから南の方角にまっすぐで町に着く」
僕の指さす方向にユフィは困惑した。
「え?え?」
いや、僕は一つ思い出す。
奴がここを特定したのはユフィに何かを仕掛けたからだろう。
「サーチ」
ユフィの体に異常が無いかを見る。
転移印:テレポートをする際の目印。
これか。
――破壊
印に向けて破壊魔法を唱え、即座に破壊する。
これで良し。
もうこれで奴がユフィを追いかけるのは難しいはずだ。
「にいたま?一緒に逃げないの?」
「僕はラスタスを助けに行くよ。あいつを倒したらユフィに追いつくから」
間に合えば良いのだが。
「わたしも一緒に」
「ダメだ!ユフィ、君がいると戦えない」
「にいたま・・・」
「ごめん、いくよ。ユフィ」
時間が惜しい。
僕はそう告げると呪を口にした。
◇◇◇◇◇
「まだ死なぬか」
あの爆発にも一応耐えたのか。
ガスロが目を向けると全身から血を流したラスタスがこちらを睨んでいた。
フォースによる鎧と剣。
騎士流と言われる業の極みだ。
騎士の纏う力場の鎧は分散する衝撃に対してはクッションの様に力場を解放し、威力を削ぎ、物理的な攻撃には力場を集中させて弾く。
しかし、あの爆発で四肢が残っているのであれば、中々のものだ。
この男、一級どころか特級の騎士に準じるぐらいの実力があるようだ。
「まだですよ」
ガスロは目を細めた。
この男に絶望を与えてやるのも一興か。
「良いだろう。敬意を称して真なる絶望を刻んでやる」
呪を唱える。
「それは」
―――― 恐怖顕現
ラスタスの顔から色が消えた。
どうやら、力の化身ぐらい知っているらしい。
「くく、良い顔だな」
ガスロの横に巨大な巨人が出現した。
大きさは五メートルを越える。
複雑な赤い印が模様の様に重なって蠢いている。
その姿は異容。
巨大な人型でありながら、別の生き物にも見える。
異形は無機質な瞳を動かし、ラスタスを見た。
「ぅうぉおおお」
恐怖。
ラスタスがそれに突き動かされた。
―――力場連閃
二重の加重を乗せた斬撃。
しかし、何も使わずに巨人はその巨大な腕でそれを止める。
「※※」
巨人が何かを呟く。
瞬間、ラスタスの力場の鎧が弾け飛び、血と肉片が舞った。
「ぐぅああああああああああ」
「おいおい、やりすぎるな。せっかくの絶望だ」
もっと味わおう。
ガスロが舌なめずりしながらそう告げる。
「ふ、フォース・アーマー」
ラスタスは体に力場を構成し直す。
目的は主に止血だ。
今のでラスタスの右手は完全に壊れた。
ここまでか。
せめてあの子供たちが無事に戻れれば良いのだが。
ラスタスが最後の力を振り絞るべく前を向く。
そこに巨人が接近した。
もうすぐ死ぬな。
と。
「点火っ!」
突如、魔力の力場が発動した。
この感じは。
瞬間、衝撃が走って巨人が吹き飛んだ。
◇◇◇◇◇
バレットの力場を維持しながら僕は状況を見た。
まずったな。
ラスタスの状況を見かねて、とっさに巨大な人型の方に爆鳴気弾をかましたが奇襲であれば、あの男を撃つべきだったかもしれない。
「※※」
え?何かが聞こえて、僕の目の前にあの巨人が突如現れた。
転移した?
「※」
―― 二重力場盾
とっさにラスタスの見よう見まねの防御壁を張る。
強烈な力場が僕に迫る。
弾け飛ぶ。
―― 二重力場
全身が壁にたたきつけられる瞬間にクッションのイメージで力場を展開する。
それでもかなりの勢いで壁に叩きつけられ、衝撃が全身に走る。
ぐぁああ、超いてぇ!!
僕はちかちかする目を無理矢理開く。痺れるような痛み。
ドクドクと額から血が流れているのを感じた。
血。
あれ考えて見ると出血って生涯、初めてじゃない?
考えてみると、この年まで転びもせず、傷の一つも負わないでよく生きてこれたものだ。
あれ?
なんだろう、この感じ。
ふと、閃いた。
そうだ!この感じが!
「※※」
巨人の魔法が僕に迫る。
僕は手の中の剣を確認するとそれを振るった。
魔力の力場を切り裂いて、閃光が煌めく。
「何!?」
「うぉおおおおおおおおお」
力を注ぐ、イメージ。
血を流し込むように。
『 ハジャ! 』
使えたぞ!!
巨人が両腕を突き出す。
僕の剣が触れると激しい光が出てその両腕を破砕した。
「一旦、下がれ!テラーオブアバター!!」
「※※」
転移魔法。
僕はとっさにハジャを消すと呪を唱えた。
――探知
空間認識を広げる。
敵を瞬時に見つけた。
「ふん、無駄だ。この巨人は我が魔力の顕現体。破壊されてもすぐさま再生する」
男の言うとおり、巨人の両腕は見る間に再生していく。
その様子を見たラスタスが叫んだ。
「その巨人には魔力の核が存在します!!そこを貫けば」
了解。
―― 探知
核の位置を確認。掴んだ。
――力場雷銃
流れるような連続魔法。
巨人を貫くように巨大な力場の銃身が生まれる。
それをそのまま巨人に叩きつける。
「無駄だ!!貴様の魔法など通じない!!」
男の言葉通り、巨人はびくともしない。
だが、巨人は呪文を唱えない。
どうやらあの再生と呪文を一緒には出来ないのだろう。
巨人はバレットをはねのけようと先の無い両腕を振るうが上手く行かない。
――― 爆鳴気
爆鳴気をセット。
「オープン」
ポーチから特製の巨大な鉄球を取り出す。
今まで使っていたポケットの中の鉄の玉の10倍はある。
――― 帯電硬化
玉が硬化と電磁を帯びる。
――点火!!!
爆鳴気弾!
イメージしろ!魔力を従わせろ!
いままでの爆鳴気による加速弾丸。
ここはそれだけでは終わらせない!
電磁を帯びたバレットと弾丸の間にローレンツ力による更なる加速を生み出す。
爆鳴気の爆発による初速とプラズマ化した弾丸の一部によるローレンツ力による電磁加速とフォースによる力場の純粋加速。
――― 三重加速砲による零距離射撃
プラズマ化した弾丸が光り輝き巨人の核を貫いた。
さらに巨人のその巨漢が着弾の衝撃のみで半分にひしゃげ、破壊された。
「バカな!!」
その言葉が男の口から漏れるのより早く、僕は大地を蹴った。
――― 二重力場!!
加速をすべて自分の体に!
男に向かって一直線に駆け出す。
「くっ!!」
――― 魔三重力場!!
動揺しているな!!
とっさに放たれた力場魔法に僕は不敵な笑みを浮かべた。
―― ハジャ
僕はハジャを纏った剣を振るって超圧の力場を切断する!
そのままの勢いで男を切りつける。
「おりゃ!!」
「きさま!?」
男は片手を差しだし、僕の剣を受ける。
斬撃は腕を無惨に切り裂いたがそれ以上のダメージを与えられない。
くそっ。
僕に大人の腕力と体重があれば、今の一撃で十分だったのに!
ハジャを纏った状態では魔法は使えない!
連撃でしとめる為に剣を更に振るう。
僕の剣が男の腹に凪ぐ、その瞬間に呪が聞こえた。
「っ、」
―― 転移
僕の目の前から男の姿が消えた。
どこだ!?どこに距離をおいた?
――― 探知
周囲を確認する。
ん?あれ?居ない??
に、逃げられた!!
「~~~っ!!」
むかつく!こんちくしょう!あの野郎!!
僕は地団駄を踏む。ここまでやられて逃がすとか!
うがぁああ!!
「大丈夫ですか?」
僕の悔しがり様に困惑したラスタスが声を掛けた。
「え…、は、はい、大丈夫です」
はぁ・・・冷静に、冷静に。
珍しく熱くなってしまった。アドレナリン出すぎだ。
別に人殺しをしたいわけじゃないし、これで良いよね。
うん。
でも次、会ったら半殺しにしてやる!
僕はそう決意をして、この感情を封印した。
さて、今やるべきは。
「ユフィを回収して撤退しましょう」
「ええ、急ぎましょう」
◇◇◇◇◇
魔人は道を進んでいく。あの子供に受けた傷はもう無い。
あの程度の傷は瞬時に回復できるのだ。
ハジャ使いは確かにやっかいだが、あそこまでやっかいなのはそう居ないだろう。
ハジャとは本来魔力を持たない戦士が磨く技術だ。
ハジャを使う魔法使い。
非常に珍しく、そう多くはないが確かに居るには居る。
そもそもハジャ自体、極めて使い手は少ないのだ。
ハジャによる魔法無効化と魔法強化の使い分け。
それだけでもやっかいだが、それ以上に危険な理由がある。
ハジャは戦士より魔法使いが使った方が強力なのだ。
力の化身は並の戦士のハジャによる魔力源減滅に耐えうる程度の発現強度があるはずだった。
本来、あんなに簡単に切り裂かれるはずがないのだ。
そして、まさか力の化身が魔法によって破壊されるとは。
最悪だ。
せめてハジャに斬られて壊されたならまだしも、あれでは。
これでは、俺は。
俺は。
漸く着いた集会場でガスロは目を見開いた。
集会場に集まっていた信者たちが一人残らず死んでいたのだ。
全滅。
千人近いラダー教団選りすぐりの戦士たちが無惨にきざまれて死んでいる。
恐ろしく無惨な光景。
何が起こっている?
そら恐ろしくなってガスロは一歩後ずさった。
「聖団に一応の義理がある人間としてはこの状況、捨て置けないからねぇ」
「だ、誰だ貴様!?」
「私はユキア・スカーレット」
この殺戮をしたのは貴様か。
その質問がガスロの口から出るより早く少女は嘲るような声音で言った。
「随分と慌てているな。なぁ、元・魔人」
元だと!?なぜそれを!
ガスロは驚愕しながらも吠えた。
「黙れ!!」
――― 魔力場
魔人の強大な力場が少女に向かって飛ぶ。
しかし。
「な、なに?」
何も無い空間で力場は何かに阻害されて消滅する。
何が起こった?
「ハジャってのは長い間身につけていたものにしか力を宿せない、手を放れた触れていないものには宿せないって言う二つの欠点があるんだけどな」
少女が手に持った円月双剣を投げつけて来た。
そんな攻撃。
――― 魔力場分解
そんな武器破壊してやる。魔法は超圧と分解を引き起こし――。
しかし、予想を覆し、少女の剣は魔法を切り裂いて魔人の肩を打ち抜いた。
「ぐぁああ!?」
バカなぁああ!??
「なら、手を離さずに繋げればいいんだろ?」
その時、少女の手から光の線が微かに見えた。
「ま、まさか、鋼糸だと」
それで繋げてハジャが途切れずに発動しつづけたのか!?
「へー、目は悪くないんだな」
魔人の言葉に少女はにこりと笑った。
鋼糸を操作し、手元に武器を引き寄せる。
この切り刻まれた魔法使いたちは!?
どうやって殺された?
さっき一番最初に消された魔法は?
どうやって消された?
ふと、視界がちらついているのに気づいた。
無数の糸。
まさか。
まさか、ここにはもう既に無数の鋼糸が張られているのか!??
ハジャによる完全なる魔滅の陣。
「大鋼糸陣破邪結界だ。残念だったな。お前はもうとっくに黄泉の門の前にいる」
「ヤメ」
ろ、
叫びながら魔神ガスロは思い出していた。
かつて随分と昔に大魔神グラニの教団と戦神ゼプティンの教団が全面戦争に陥った時、たった一人で魔人と魔法使いを千人殺した殺戮者が居た、と。
そういう昔話を聞いた事があったのだ。
そして、その者は血塗れと呼ばれている、と。
あは、と。
少女が無邪気に笑うと魔人は無惨に斬り分かれ、無様なオブジェと成り果てた。
◇◇◇◇◇
切り刻まれた魔人の死体を前にユキアは目を細めた。
目の前の死体の男は死体になる前に既に魔人の力を失っていた。
特別製のユキアの瞳にはすぐに分かった。
何が起こったのかも含めて。
「ふーん、魔人の力の化身を倒したってことはあの子に魔神の祝福が移ったわけか」
あんなにちいさい魔人というのは驚きだ。
若干5才児の魔人というのも面白いかもな。
「まぁ、私には関係ないことかな」
元戦人とは言え、だ。
ラダー教徒は敵だが、別に魔人は勝手になってしまったやつも結構居るし、敵と言うわけでもない。
魔人や戦人と言った奇跡の祝福者が生まれる条件は神の試練を達成しなければならない。
ラダー神の祝福の条件は確か、魔法を以て魔人を倒し、魔人にふさわしい魔力を示すこと。
その達成条件の中には魔法を以て、魔人の力の化身を破壊することも含まれていたはずだ。
絶対的な魔法である力の化身にはデメリットもある。
ラダーの魔人は一定数以上は増えない。
破れて魔人を継承された方は魔人では無くなるのだ。
この雑魚はあの子供に負けて魔人位を剥奪され、代わりに子供に魔人位が移った。
それだけだ。
「しっかし、魔人の質も随分落ちたじゃないか」
若干恨めしそうな死体の山を一蔑すると首を竦めた。
どうせ、死ぬ人間が討伐隊から魔教信者に変わっただけだ。
「因果応報だな」
自分のことを棚上げして、そう呟くとユキアは歩き出した。
くわばら、くわばら。
◇◇◇◇◇
「にいたまぁあ!にいたまぁあ!!」
漸く回収したユフィがわんわん泣いて僕に抱きついている。
正直、歩くのに邪魔だが、まぁ、ユフィは酷い目に散々あったし、このぐらいはしょうがないかな。
「はは、おい、ラスタス。てめぇ随分とボロボロだな!」
「なんで貴方は無事なんですか!」
合流したユキアは傷一つなかった。
僕もまぁ、額の切り傷はすぐに治してしまったし、重傷者はラスタスだけだったけれど。
急いで帰っているが追手は来ない。
どういう事だろう?
「そりゃ、あたしに恐れをなして逃げたんだろ」
「暢気ですね!そんな訳ありませんよ!」
はぁ、もうすぐ家に帰れる。
まさか、ここまで大事になるとは思わなかった。
もうすこし引き締めてこの世界について考えないとなぁ。
今回は力が及ばないところがあったな。
まぁ、逆に面白いとも思うけど。
強くなろう。もっと。
僕は笑いながら、ラスタスとユキアのやりとりを眺めていた。