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転生したった   作者: 空乃無志
第一章 幼年期編
13/98

幼児と魔人(前)

※7月12日改訂

早朝、フェルべの町を出て丸一日歩いた。


漸く、カタルク遺跡に僕らはたどり着いた。


「ここです」


石造りの巨大な神殿というより地下遺跡だな。


その遺跡の大半は地下に埋もれているらしい。


ラスタスが地下に潜る入り口周辺を確認する。


「なぁ、そのユフィってのがどこにいるのか分かっているのか?」


「いえ」


「ふーん。じゃ、救出は調べながらか。まずはどうやってこっそり浸入する?」


確かに正面から連中に気づかれずにユフィを奪還するのは相当に難しそうだ。


どこからか人目の少ない部分に回り込めないかな?


ラスタスは確認を終えると別の方向を指さした。


「ここの遺跡も相当ガタが来ているんですよ。以前調査を行った聖団の資料によると、神殿の周囲には地下水の浸食で空いた自然口が幾つも見つかっています。いくらここが今はラダー教徒たちの根城でも、そこまですべてを調べては居ないはずでしょう」


ラスタスが聖団が作ったという地下空洞の地図を広げた。

おお、これがあればいけそう。


「連中の持つ地図には無い道か。へー、この計画、一応勝算はあったんだな」


ユキアのぼやきにラスタスが苦笑した。


「行きましょう」


ラスタスの先導にユキアと僕は付いて行った。




◇◇◇◇◇





「にいたま」


ユフィは暗がりの中でぐったりしていた。

自分はどうなってしまうのか。


此処がどこなのかも分からない。


「にいたまぁ」


寂しい。にいさまに逢いたい。

ユフィは必死に恐怖に耐えながらにいさまを探していた。

なんの根拠も無いけど、にいさまなら助けに来てくれる。


信じてる。


「にいたま」


涙が浮かんできた。

本当はもう限界だ。はやくおうちにかえりたい。


子供心には頼る者の無い一人の時間は堪えた。

不安と恐怖から涙しか出てこない。


また泣いた。


すると、扉が開かれた。

いつも意地悪そうな顔をしたおじさんが今日もやってきた。

今日も冷えて美味しくないご飯をおいていくのだろうか。


「これをやるのも今日が最後だな」


「さいご?」


もうごはん来ないの?なんで?


困惑した顔をしたユフィを見かねた男が口を開いた。


「残念ながらお前は捨てられた」


「え?」


「もう誰も来ないって言ったんだよ。おい、可哀想になぁ」


かわいそうに。なんで?

みすてられたってどういうこと?

にいさま。にいさま。


「にいたまぁああああああうわぁああああ」


泣く子供を見て、男は肩を竦めるとご飯を置いて出て行ってしまった。




◇◇◇◇◇





ラスタスの案内した入り口は天然の洞窟になっているようだ。


長い年月を掛けて地下水に削られた洞窟は何だが神秘的だ。

この白い壁は石灰岩なのかな?


この洞窟、一体、どこまで繋がっているのだろう。


カタルク遺跡は神竜時代に建てられたものらしい。

神とそれを喰らう竜と言う存在が戦った遠い時代の残滓である。


「こちらが地図です」


ラスタスがそう言って半紙を広げる。

洞窟は全部では無いがある程度はマッピングされているようだ。


「このマップで把握されている遺跡に進入できるルートはこれとこれですね」


ユフィがどこにいるのか分からないが遺跡自体の構造を考えると中央部に出るルートを目指すのが妥当だとラスタスが言った。


当面の指標はできたので進むだけだ。


「おい、ここから魔獣の気配がするぞ」


ユキアが洞窟の暗がりを見つめながらそう言った。


「え?以前この遺跡を調査した資料にはそんなもの無かったですよ??」


「奴らが洞窟に放ったんだろ。人を置いて上手くカバーするには大きすぎるからなぁ、番犬代わりだろ」


魔獣を番犬か。

うーん、やっかいだな。


「なるほど、となると声が大きい魔獣かもしれませんね」


「声を出させずにさっさと屠れば良いさ」


さらっと恐ろしいことを。


しかし、ユキアにはきっとそれが可能なのだろう。

まじ怖いよー、この人。




◇◇◇◇◇





魔獣を避けつつ、瞬殺しつつ、進んでいく。

魔獣を発見すると複数ならまずラスタスがフォースの壁を張り力場で音を遮断すると同時に僕とユキアが剣でしとめて行った。


幸い、この地下空洞の中はさほど強力な魔獣は育っていないようだ。

その点はほっとする。


しばらくすると突然、ユキアが呟いた。


「おい、何か聞こえないか?」


え?何が?

僕が首を捻ってラスタスを見ると同様の表情だ。


「そうかぁ?私には餓鬼の泣き声に聞こえるけどなぁ」


「え?」


僕は直ぐに魔法を唱えた。


集音ソナー・トーン


集音魔法で耳を凝らす。


様々な音がごちゃまぜだ。その中から一つ。

聞き覚えのある一際大きな声が聞こえた。


にいたまぁああ、という泣き声!?


まじかよ。ユフィだ!


「ビンゴ!ユフィの声です!」


良かった!妹は無事だ!


「本当ですか!?」


ラスタスも驚きの声を上げた。

僕は魔法に意識を集中する。


音探知ソナー・サーチ


情報強化魔法、サーチと音の感知魔法ソナーの複合音波探知魔法式。

音の跳ね返りで距離を計り、反響で物体の数を探ったりする。

声の方向に居るのはユフィだけでは無さそうだ。


おそらく門番が居る。


場所は。良し。ここからそう遠くないな。


「こっちです」


僕が音の発信源を目指して歩く。

そして。


「この裏から一番大きな声が聞こえる」


洞窟の壁を叩く。壁向こうが空洞になっている音がする。

遺跡の中の部屋に繋がっているのだろう。


「ふーん、すぐか?」


「うーん、でもまだ遠い」


此処を壊して道を造るか?

どうする?


僕は魔法に集中した。その気になれば建物の構造すら把握できる魔法だ。

良く調べて、告げた。


「トーンの感じではここの先の空間に人の気配は無いです」


「よし、行きましょう」


僕らは壁を壊した。

進んだ先は。


「物置か」


雑多に物が積まれている。

なんで大昔の遺跡にこんなに多くの物があるのだろう?

ラスタスが袋に近づいていく。


「食料ですね。しかし、こんなに大量に?変ですね、これは??」


何かがおかしい。

ラスタスが大量の食料を見つめているとユキアが遺跡の壁に空けられた石作りの窓に近づく。


「見ろ、ここからなら遠くまで見渡せるぞ」


僕らも窓に近づく。


広い。ちょっとした町が入るくらいの広大なスペースが広がっている。

そして、遠くには簡易テントが張られているのが幾つも見えた。


人が住んでいるのか??


「ふーん、駐留しているのはちょっとした規模の軍だな」


「これは」


外の様子を眺めたラスタスが目を見開いて絶句している。

これってそれだけ人がいるってことだよね。


こんな地下に人数を集めて何をする気だろう?


戦争か?


「しかし、人の気配や生活感はあるのに人が居ないな。どっかに集まっているのか?」


確かに。

いまのところ、僕のソナーの範囲には大量の人間の気配は入ってきていない。

どこかに一箇所に集まっているのか?


まぁ、人が居ないなら好都合か。


「ユフィはこっちです」


僕はユフィの声の方向に向かった。

入り組んだ通路を進む。


「この先です」


「まて、人の気配だ」


ユキアの制止に僕らは動きを止めた。

通路の角から様子を窺う。


やはり居たか、門番。


男二人が何かを話しているようだ。

その会話をソナーで盗み聞く。


「どうだ?」


「ああ、泣いてうるさいが元気だ」


別の男が部屋から出てくる。

三人目だ。

ソナーに集中する。


(この三人で全員です)


(分かった)


拘束されたユフィが一緒に部屋から出てきた。


「にいたまぁああああ」


泣きじゃくるユフィに対して男が布を近づける。


「んぅんっー!」


男はユフィの口を塞いようだ。


「ふー、やれやれうるさい餓鬼だな」


「あんまり乱暴に扱うなよ。これでも魔神さまへの大事な供物だ」


「集会場には全員そろったか?」


「ああ。いつでも」


集会場、そこに全員集まっているのか。


(チャンスだな。連中を倒して奪還しよう)


ユキアの言葉に僕は頷く。

一方、ラスタスは難しい顔で黙っている。


どうやら新たな懸案事項に苦悶しているようだ。

できれば、後にしてほしい。


(いくぞ)


まずユキアが飛び出した。

弾丸の様に両腕をしならせて剣を投擲。


ユフィを拘束していた男二人の顔面に突き刺さった。


「なぁ!?」


「フォース!」


声をあげようとした男の腹に僕は思いっきり念動力を打ち込んだ。

それで男は気を失う。


僕は呆然としているユフィを捕まえる。


「ん?んー!!」


「ユフィ。話はあとだ。さぁ急いで脱出しましょう」


「そうだな。おい、教団の騎士もそれでいいな」


「・・・ええ。どうやら罠のようですし、このことを報告しなければ」


ラスタスはそう言って頷いた。


「帰りましょう」


僕はユフィを抱えると走り出した。

二人もそれに続く。

さっきの場所に帰らないと!


走り出して直ぐにユキアが遠く見つめ言った。


「不味いな」


僕も気づく。穴に数名の人間が集まっている。

彼らはどうやら自然の穴で無いことに気づいたらしく、おもむろに手にした笛の様な物を吹き始めた。


ぶぅうううう。


と大きな音が響く。

随分と間抜けなアラーム音だが、これで連中の警戒レベルは跳ね上がったはずだ。


「ちっ」


「フォース!」


集団に向けてユキアの剣とラスタスの魔法が飛ぶ。


「誰だ!?」


剣を抜いた男がこちらに向く。

僕も即座に魔法を発動する。


「フォース!」


力場の弾丸が男の胸を打つ。

悶絶して転がる男を見ながら僕らは横を駆け抜けた。


よし。全員倒したぞ。

僕とラスタスが穴に入るとユキアが足を止めた。


「早く入って!」


僕の言葉にユキアは首を振った。


「いや、ここからは二手に分かれよう」


ユキアの提案に僕は驚いた。


「え?」


「どういうつもりです?」


ラスタスの当然な質問にユキアは笑って答えた。


「私は誘導をかねて正面から出る。私が出たら穴は塞げよ」


さらっととんでもない提案をする。

ユキアは敵の目を引きつけながら退避するつもりらしい。


無茶な。


「どうして?」


「私一人なら余裕で逃げきれるよ。おまえたちも安全に逃げるならその方が易いだろ?じゃ、フェルべの町で合流な!」


ユキアはそう言うと元来た道に戻ってしまった。

まじかよ。


「どうしよう」


「行きましょう。彼女の言うとおりに」




◇◇◇◇◇





「行ったかな」


ユキアは二人の気配が遠ざかるのを確認すると歩きだした。

彼女の感覚はやっかいな気配を感じていた。


この気配は間違いなく魔人だ。


「ちぇ、面倒な事だよな」


聖団の騎士の掲示したあの程度の報酬で魔人殺しではちょっと割に合わない。


そして、いくらユキアでも子供を守りながらだと、魔人相手はほんの少しだけだが面倒だ。


あのユノウスは年齢の割には賢く達者だが所詮6歳児だ。

まぁ、多少は実力もあるが今のままではユキアにとっては邪魔にしかなるまい。


特にユキアの技的には味方は少ない方が遣り易い。


ミリアの息子を死なせると後々面倒だしな。


さて、潰しに行くか。


ユキアは人の気配の方に向かい歩き出した。





◇◇◇◇◇





「侵入者だと?」


ガスロは目を細めた。

不味いな。

ここにこれだけの人数が居ることがバレたか。


侵入者を帰してしまっては、聖団の連中を誘き出して打撃を与える計画に支障が出る事は間違いない。


「侵入者は人質を連れているそうです」


「好都合だ。子供には印を付けておいた」


転移魔法の印だ。

印の座標を確認するとガスロは呪を口にした。


「行かれるのですか?」


「ああ、全部殺して餓鬼を取り戻したら戻ってくる」


―― 転移テレポート


ガスロの姿が消えた。




◇◇◇◇◇




途中からはユフィの拘束を解き、ラスタスに預けていた。


「にいたま、にいたま」


ユフィは僕に必死に手を伸ばす。

気持ちは分かるが構ってあげられない。


「ユフィ、まだ静かに」


「うんわかった、にいたま」


良し、良い子だ。ユフィ。


しばらく進むとかなり開けた場所に出た。

ラスタスが突然、立ち止まる。


「これは」


「どうしたの?」


目の前に光る不思議な円陣が見えた。

魔法的なもの?一体?


「転移陣だと??誰が?」


円陣から光が溢れる。やがて人の像が具現化し、


「不味い!敵です!!」


そして、光を裂いて、一人の男が現れた。

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