男はタイムマシンの研究を行っていた。
彼の祖父は有名な資産家で、孫でにあたる彼はそもそも働く必要がなかった。
援助を受けていたので、男は大学で博士号を取った後も金銭面で悩むことなく、研究を続けることができた。
また彼の祖父の資産は莫大な額であり、また親戚もそれぞれが資産家だった。そのおかげで、彼は大学卒業後に個人の研究所を持つことができた。
そうして、何人もの優秀な部下と共に、所長となった男はひたすら研究に没頭した。
彼の研究への執着心は尋常ではなかった。食事を摂ることも忘れ、睡眠もろくに取らずに黙々と、ただひたすらタイムマシンの研究を行なっていった。
異常なまでの研究速度、内容、そして部下への指示。
あまりにも多くの数の、高度な指示に耐えかねて、職員達は次第に一人、また一人と研究所から去っていった。
そしていなくなった職員の人数が20人を超えた頃から、男は職員達に自分の研究に関する指示を出すことを止めた。
しかし、それが余計に職員たちの不安を煽ることになる。
なぜなら人間一人の研究領域を超えた結果が、男一人によって生み出されたからだ。
職員達はその男の尋常でない研究速度と奇抜な発想に恐怖を抱く。しかしそれは彼らの勘違いだった。彼らは男が紛れもない天才だということに気がつけなかったのだ。
結局、職員達は皆辞めていき、最終的に研究所には男だけになった。
それでも男は研究を続けた。
そして男がタイムマシンの研究を始めて50年、ようやく研究が実った。
タイムマシンが完成したのである。
しかし、男は用心深かった。
論文を発表する前に、一度だけタイムトラベルを試すことにしたのだ。彼の理論なら時間軸の往来が可能である。つまり、好きなように過去や未来を行き来できるのだ。
座標の設定には彼の国のかつての首都のあった、ある電波塔を選んだ。その電波塔が存在する時代は比較的安定した時代だったとわかったからだ。
男はマシンに座標情報をセットして、興奮しつつ、マシンを起動させた。
視覚が塞がれ爆音が轟く。
やがて、形容しがたい景色。
なるほど、これが時空か、と彼は思った。
一瞬とも永遠ともとれる時間が経過し、視覚が開かれる。
目の前には目標として設定した、素晴らしく輝く電波塔。
唯一の心配事だった身体的な異常も無い。
彼は喜んだ。周りを気にせずに声を張り上げて。
そう、彼が狂喜するのも無理は無い。
今まで誰一人として提唱できなかった理論。
今まで誰一人として完成させることのできなかった装置。
それらを作り上げた今までの彼の努力は計り知れない。
そうして、一体どのくらい騒いだのだろうか。
男は周りに集まりつつある人々に気がつき、思わず興味本意で話しかけてしまった。
話しかけたのは若い女性。
しかし、その彼女は男に話しかけられるといきなり悲鳴をあげた。
その悲鳴をきっかけに、男の周りを囲んでいた人々が一斉に彼から逃げていった。
彼にはその意味がわからなかった。
しばらくして、黒い服を着た集団が彼を取り囲む。
一人が音響機器を使って何かを言っているのが、かろうじて男が理解できた彼らの行動だった。
しかし、彼には内容までは分からない。その時代の人間ではないのだ。彼が分かるはずがない。
そして、ここで初めて、男は今まで自分が学び、認識てきた歴史が、実際に目の前で起きていることと違っていることに気がついた。
言葉も服装も体つきも違う。
何とか自分が未来からきたと説明しようと声を上げた瞬間、男の身体を無数の小物体が射抜いた。
2087年3月17日22時頃、首都中心街第二電波塔付近にて不審者の通報。通報者は26歳男性。非常に錯乱しており、『化物』が現れたと主張。近くの交番に駐在していた警官二名が現場に向かったが、視認した結果、『人間には見えない』と報告が入る。
20分後、特殊部隊の出動要請。
さらに30分後、特殊部隊の迅速な行動により、目標を包囲するが、目標は再三の降伏勧告にも従わず、右手に所持した何らかの機器の使用を試みた。部隊はこれを攻撃とみなし発砲、射殺。都及び政府は一帯に箝口令を発布。死体は政府管轄の研究所に押収された。
以下は目撃者による身体的特徴の供述についてまとめたもの。
大きさは二メートル弱。手足が細長く、肌が異常なほど白い。
頭が大きく、顎が極めて細いため、顔全体は逆三角形に近い。
頭髪及び毛髪は無し。目が大きく鼻はほとんど瞑れている。
白い布かけらしきものを羽織っていて、右手には何かの機械を握っていた。
グレイ型の宇宙人(ある目撃者の表現より)に似ている。
また、死体解剖の結果、構成物質は人間と酷似。
しかし、所持品に地球上では存在しない物質があったことから、政府はこれを国内初の地球外生命体と認定。国連へ報告。
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