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わたしの愉快な旦那さん 作者:yuma

本編

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おじさん、電話切ってもいいですか?

 湿気がこもったような都市部の暑さにやられている頃、地元に住むおじさんから電話がかかってきた。
 おじさんはお父さんの兄だ。一番の近親者なので、一応私の保護者。そしてお米くれるおじさん。なぜなら米農家だから。

「あ、お久しぶりです、おじさん」
『お久しぶりじゃねーやろ!』

 一言目から怒られた。なんで。

『週に一ぺんは電話するって約束して都会に出したとゆーに、こっちから電話するのこれで何回目や! 圭子も毎日梢のことが心配やーって言っとるで! 自分からも電話してこい!』

 圭子けいことはおばさんのことだ。

「え、え、と、ごめんなさい……」

 実は昔からおじさんが苦手だった。いっつも怒ったような口調だし、それに合わせてかものすごい短気。親戚の中でも、悪い人ではないけれど、ちょっと困った人、という立ち位置だ。何でも亡くなったおじいちゃんに似たのだとか。圭子おばさんも亡きおばあちゃんもきっと苦労したんだろうなー……。
 あ、あとなまりが強い人なので、たまに聞き取りにくい時が。

『おまはんは女の子なんやからな。ただでさえ、都会でみょーな男に引っかかってまわんかー、大学で上手くやっておるんかーってな? 心配なんやぞ。わし考えとったんやけど、今度梢の大学行こうか思うんやけど、どうやろ』
「お、おじさん! そこまでしなくても!」

 疲れているからっておじさんをないがしろにした罰かもしれない。確かに苦手だけど、色々と面倒みてもらっているわけだし……。

「親だって、大学に来ることはあんまりないんだから! それに大学だって、もう三年生……」
『この間、昨年度の成績表が来たんやけどな』

 ぎくっ。身に覚えがあった。

『ほんとーに、ちゃんと、勉強しとるのやろうな? 「B」とか「C」ばっか並んどったけども。学生の本分は勉強やろ。都会の遊びにかまけて留年、とかなったらあかんで』
「お、おっしゃる通りです」

 言い訳もできません。そう、すべてはブラックなバイトに引っかかってしまった私のせい。「都会の遊び」とやらではないけれど、ちょっとこれはまずい。

 おじさんは私のバイトのいざこざを一切知らない。知っていたら、バイト先まで怒鳴りこみに行きそうだからだ。それぐらいやりかねない。田舎のルールは都会のルールとは別物だ。なにせ相手は都会のドライモンスター。間違いなくおじさんの方がしょっぴかれる。警察に。

 弁明させてもらえるとすれば、一応大学の単位自体は一つも落としてない。講義だって、毎回参加するようにしていた……途中寝落ちすることはしばしばあったけれども。
 学期末はテストとレポートという天王山二つを前に、意地でも負けてなるものかと山肌にへばりつく勢いでテスト当日と提出日に間に合わせていたのだ。あの頃はやばかった。連続で徹夜してた。

 今回の学期末はバイトもないから、普通にレポートやって、テストを受けられる……。ここは天国か。

「そ、そうだ、おじさん!」

 私は嫌な話を断ち切るように、電話越しに叫んだ。

「お米、お米! お米送って欲しいのだけれど!」
『あ、せやせや。米のことも聞かなかんかった。おまはん、足りてるけ?』
「もうないの! 米櫃がすっからかんで! 自分でもびっくりしたのだけど!」
『おー、わかったわかった。すぐに送ったるでな、ちょっと待っといてな。……おーい、圭子! 梢んとこに米おくってやれー。うん? 今すぐに決まっとるやろ!』

 おじさんの数少ない操縦法は、お米の話題を出すことです(ただし、おじさんの作る米限定)。

『こずえー、ちゃんと食べとるかー。米ぐらいならいつでも送ってやるから、はよ言えよ』

 ……おじさんは、少し離れたところにいるぐらいでちょうどいい人だ。離れた距離だけ優しく見える。近づけば、かなりの心配性で、口うるさい。さらに短気が加わったらどうなる? ……私は縮こまってうなだれるしかない。そもそも口が達者じゃないから、反論することもできなかった。
 両親の事故の後は数か月だけ伯父夫婦のところに厄介になったけれど、あれだけでもう参ってしまった。これはまずいと独り暮らしを始めたのは正解だったと思う。

 私は静かに電話を切った。






 電話の後は、少し気が滅入っていたから、大学の図書館に行くことにした。そろそろレポートのための本を探さなくちゃならん。課題はすでに出されている。

 我が大学の図書館はつい先年改装工事が行われており、見栄えが随分とよくなった。蔵書も近隣の大学と比べても多い。さすが総合大学、様々な分野において豊富な書物を所蔵している。大学で構築した電子データベースも学生であれば学外でも利用できるのだそうな。便利な時代になったもんだ。中学時代はアナログ式に貸し出しカードを毎回記入していたぞ。

 シックな外観の図書館の中で、目当ての本を探すと簡単に見つかった。
 そのまま自習机に座って、目を通した。ふむふむ。あー、なるほど。

 私は本を閉じた。英文がわけわかめだった。

 諦めて日本語版を探して読んだ。

 きりのいいところまで読み終えて、自宅から持ってきたパソコンをよいせ、と机に置こうとして、ふと腕時計を見た。

 三時。

 落ち着かない気持ちになりながら図書館を出た。



おじさんの方言はイントネーションは関西よりですが、関西弁ではありません。
とある地域の方言の影響が色濃いです。田舎感、出ていますかね。
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