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わたしの愉快な旦那さん 作者:yuma

本編

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悩ましいのは物欲と金銭欲と……?

 恥ずかしながら、私は元々物欲、それに金銭欲が強い人間だと思う。

 テレビでたまたま万年筆特集とかやっているのを見ると使う当てもないのに欲しくなるし、毎月の通帳をチェックしながら収支のバランスが悪いとむむっという顔になる。たまに実家に帰ると、ついでにと渡されるお小遣いを遠慮なくもらってしまうところとかも。

 いじきたない人間だなぁ、なんて。

 しかし、人間は多少なりとも理性が働く生き物だから、普段の買い物ではある程度抑えられている。特にスーパーひらなみの特売日とポイント五倍デーには敏感だ。これはきっと物欲と金銭欲とが上手く釣り合っているから。結構ぎりぎりのところで踏みとどまっているということかもしれない。

 ただ、この物欲と金銭欲を支えているリミッターがたまに壊れてしまうことがある。主に百均で普段遣いしそうにないものを、安いからという理由で買い物かごに放り込んでしまった時とか。最初は洗濯物のピンチと虫よけリングを買いに来ただけだったのに、気づけばニードルフェルトのキットと動物型の消しゴムも買ってしまっているのだ。

 つまり、それが今の状況だったりする。

 店から出ると我に返って、すぐに後悔しているのが、今の私。なんで買ったんだっけ? と。

 幸いにも湿度があまり高くない街中を歩いて帰っていると、『菱川産興』と書かれた店の前まで来た。
 店頭には相変わらず女の能面が張り付き、なんとも言えない視線を投げている。夏の夜には覗き込みたくない。

 そっと中の様子をうかがってみる。菱川さん、いないかなー……。あ、いた。
 菱川さんが段ボールを持って通路を横切っている。

 私は覗き見スタイルを解除して、自動ドアをくぐった。

「こんにちはー……」

 今でも遠慮なしに、というわけにはいかないけれど、入店すぐに声をかけるまでに成長した私である。

 店内はいつも通りにごちゃごちゃとした印象だった。昼間だったが、お客はいない……いや、いた。部活帰りと思われる中高生の男子グループが。木製バッドを持ちながら、けけけ、と笑っているぞ。きっと野球部に違いない。

 視線がこちらに向けられる前にささっと奥に入った。
 レジには山田がスタンバイしていた。何やら書類を読んでいたのを、顔を上げて、よお、と手を挙げる。

「こんにちは……」

 若干の不信感とともに挨拶をする。身体が引けているのは、決してがっちりした体型の山田を怖がっているわけではないんだ。決して私の対男子用のコミュ力が低いからというわけでは……。

 思考がどつぼに嵌まった。

 うん、山田は山田なんだ。大丈夫、私はいける。

 菱川さんのいないところで山田と話すことはこれまでにもほとんどなかった。大体が、菱川さんを呼んでもらうとか、そういった用事をお願いすることぐらいだった。互いに個人的な話をしたことはない。

「えーと、菱川さんはどちらにいらっしゃいますか」
「あー、あいつは今倉庫に……」

 どこかよそよそしいやり取りも何回目というぐらいになってきた。ここまで来るとさすがにわかってくるのだけれども、たぶん、山田は女の子と話すことを苦手としている。いつも反応がぶっきらぼうだ。

 逆に私はいざ男性を目の前にすると、わりと挙動不審になる質たちだ。菱川さんのように社交力が高くて話しやすい人でない限り、会話ははずみにくい。

 結論。私と山田にとっての菱川さんは国宝級の重要性があるということだ。

 倉庫のある方角を指差したらしい山田はその手を下ろし、ぼりぼりと後頭部を掻いた。

「あー、悪い。休憩室わかるか? あそこに行ってくれ、俺がコージンを呼んでくる」
「ありがとうございます。では……」

 軽く頭を下げて、勝手知ったる階段をのぼる。

 休憩室にはやっぱり誰もいなかった。昼時なら、誰か他の社員がいるかもしれないけれど、午後三時を過ぎてからだとこんなものなのかもしれない。

 休憩室には長机が並べられ、大型テレビとちょっとした給湯スペースがあって、どこか殺風景だ。けれども今日はその中にも少しだけ変化があった。

 私が大抵座っている辺りの机のところに、金色の毛並みのテディベアが平ぺったい木箱の中に入っていた。一体、なんのぬいぐるみだろう、と金色のリボンのかかった首元を見てみる。すると、私でも知っている有名なドイツの高級テディベアメーカーの名がタグにあった。ちなみにこの子の名前はボブ君だそうである。

 大きさとしては抱っこするには一回り小さいといったところだ。ふわふわともこもこが混ざった感触に、私の胸はときめいた。

 なんてことだ……可愛い。

 小さいころは興味なかったくせに、大学生になってからぬいぐるみを眺めるのは案外好きになっていた私は、目の前のテディベアにちょっかいを出して幸せな気分になった。うへへ、と気色悪いひとりごとも出てくる。うへへ……若い子に鼻の下を伸ばすおじさんの笑い方だな。

 しばらく癒されていた私だけれど、ふと思い立って、さきほどの買い物袋をあさる。取り出したるは、つい先ほど買ったのを後悔した消しゴム。いそいそとパッケージから中身を取り出し、並べる。

 ボブ君の前には、小さなパンダとライオンとシマウマが並べられる。
 巨大クマと愉快な仲間たちの完成である。

 ……なんということでしょう。ここに私的癒しスペースができてしまった。すかさずスマホのカメラでぱしゃり。一瞬、待ち受けにすることも考えたけれど、さすがにやめた。モモと比べちゃいけない。モモは生きている癒し、私のディスティニー……ごほん、ちょっとテンションがおかしくなっていたよ。恥ずかしい。こんなところを誰かに見られていたら、と我に返った私は片付けようと手を伸ばす。

「梢さん、ごめんね、今ちょっと電話をしていたから遅くなってしまって」

 と、菱川さんは動物消しゴムを握っている私を見た。どうにも隠し切れなかったパンダ消しゴムは、実にまぬけた顔をしていた。
サブタイの正解は「食欲」でした
正解者の方には抽選で百均の動物消しゴムを差し上げます(嘘)
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