挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
わたしの愉快な旦那さん 作者:yuma

本編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

32/64

私は世間とずれている?

 インターンシップ二日目は支店見学だった。各支店三人ずつの少人数に別れて、一日支店の中で過ごしたわけだけれど、久々に……ずっと立ちっぱなしでふくらはぎがだるくなった。銀行の業務にインターンシップ生が関われるわけがないので、近くを通ったお客様に挨拶と簡単な受付案内をするだけのことなのに、なかなかに体力がいる。両足におもりが入ったようで、一歩一歩を躊躇いたくなる辛さだ。今夜は下宿先で泊まろうかな、とも思ったけれど、朝、おじさんがきっちり行き帰り分の交通費を渡してきたので、たぶん帰って来いという無言の要求だと見ていいと思う。

 同じ支店で見学することになった二人の片方が、見学後、地元での飲み会を提案してきたので、流れで私も参加することになった。駅前の飲み屋で始めたのはいいけれど、これまた疲れる。同い年とはいえ、ほとんど初めて喋るような人が二人。しかもその二人が、いかにも普段おしゃれに気を遣っていそうな今どきの男子と女子。男子はいかにもイケイケな経済学部生、以前は髪を茶髪にして、ポロシャツ一枚に一万円使ってもいいのだそうな。ユニクロとしまむらの二大ファストファッションをこよなく愛する私には理解できない世界に住んでいる。女子はかわいい系の教育学部生、景勝地を走るリムジンの中でシャンパン片手に女子会を開催し、高級デパートの服屋でバイトしているのだそうな。

 そんな二人が集まれば、自然と話題が色恋沙汰になっていった。私含めて三人とも同じ市内出身なので、共通の知人の話題が出てくる出てくる。まあ、私は交友関係があまり広くなくて、あまり重なることもなかったので、盛り上がるのは他二人だったけれど。話はそこから、共通の友人たちの交際関係に流れていった。例えば、学校内で派手な男女のグループの中に、元カノと今カノ、またその逆がいる。とっかえひっかえするように色々な組み合わせで付き合っているのだとか。……何、その錯綜した関係は。私ついていけない。

 お酒が進むにつれ、二人の恋愛遍歴の暴露大会になった。詳しくは言えないが、二人とも修羅場をくぐりぬけすぎて、若干引く。なんなの、今どきの男女交際とはこんな感じなの。少なくとも、私と菱川さんとの付き合い方とは全然違うよ!? まぁ、私と菱川さんの場合は世間的にみて少し規格外なところはあるかもしれないけれど……ちょっと軽々しぎやしないかい、若人よ。

 古風で堅苦しいと思われるかもしれないけれど、私は軽い気持ちで誰かと付き合おうとは思わない。この人だ、と決めたら、その人しか見ないし、誠実でありたいと思う。たとえ別れたとしても、すぐに気持ちを切り替えて、別の誰かと付き合おうなんてできないだろう。一時、楽な方に流れ、ひどいことをしてしまってからは、特にそう思うようになった。

 でも、結局のところはおのおのの考え方なのだ。本人たちがそれでいいというのなら、それはそれで成立している世界なのだろう。「類は友を呼ぶ」ということわざがある通り、それをよしとする人が周りに集まっていくのじゃないかな。うん、人間には多様性があるということがわかった、有意義な飲み会だったね。この割り勘料金、約四千円は、授業料だと思うことにする……というか、飲み会って当たり前だけれど結構お金かかるのね。私としては、家飲みの方が金銭面含め、色々安心して飲めると思うな。

 ちびちびと飲んでいたピーチサワーを飲み干して、先に一人で店を出た。外はまだまだ電車も通っているし、街頭もかなりついている。少し待ってから、ワンマン電車に乗り込んだ。

 横にスライドしていく車窓の眺めは雄弁にここは田舎なのだと告げてくる。市街地はまだ明かりも多いけれど、終点に向かうにつれて、真っ黒な闇も増えてくる。代わりに、欠けたお月さまがぽっかりと夜を照らしていた。

 元ネタは不詳だけれど、月に関する夏目漱石の有名な逸話がある。
 「I love you」をどう訳すのかと問われた時、彼はこう答えた。「月が綺麗ですね」
 だからなんだという話でもないけれど、とても印象深くていまだに覚えている。たとえ夏目漱石の逸話でないとしても、日本人の感性を捉えたいい訳だと思う。

 月と恋人は、どちらも人が焦がれるもの。……なんていうとちょっとロマンチックに過ぎるかな。夜は感傷的な気持ちをかきたてる時間帯だよね。



 パンツスーツだったので、駅からは自転車に乗った。
 夏でも夜は涼しいことも多いし、旧街道はそこそこの交通量もある。走行状況はそれなりに快適。ただ、旧街道を外れた辺りから、暗い所も通っていくのが少し怖い。下宿先の都会的な暗闇とは少し違った、どこかじっとりと体にからみついてくるような暗闇だ。昔はこういうところが怖くて仕方がなくて、小さく歌いながら帰ったこともあったっけ。

 自転車のライトを頼りに、暗い中を立ち漕ぎで走る。お供は水戸黄門のあの歌。人生、楽ありゃ苦もあるもんだ。歌詞が深すぎて、じーんと胸に来るわぁ。

 残念ながら、このころには月は雲に隠れてしまっていた。……よし、二三回ぐらいエンドレスで歌っていこう。歌詞はもちろんフルで暗記済みなんだ!








+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ