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わたしの愉快な旦那さん 作者:yuma

本編

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悠くん、人の話を聞いてくれる?

更新しようとしたら、サーバがつながらず更新が遅れました。すみません。
「誰と電話してるんや、こずえちゃん。彼氏か?」

 振り向くと、Tシャツに短パン姿の従兄いとこの悠作……悠くんがいた。慣れた仕草で缶ビールと枝豆を持っているのだけれど、それがまた四十代の貫禄を醸し出している。実年齢はまだぎりぎり二十代なのに。……でも残念ながら、この従兄は十代からすでにこんな感じだった。せめて無精ひげぐらい剃ってきてほしい。

「あれ、悠くん。久しぶり。ごめんね、今、電話中だから」

 悠くんは高卒で働き始めてからすぐに一人暮らしを始めたから、なかなか会う機会もなかった。別段、昔から仲が悪いわけでもないけれど、会ったからといってテンションがあがるわけでもないんだけれどね。

「……否定しないってことは、ほんとに彼氏け? なぁなぁ、こずえちゃんー?」

 押しが強いのはおじさん譲りである。
 私は少しの間、通話口を押さえてから、

「悠くん、ちょっと黙ってて」
「あははー、ゆーさく、おこられてやんのー、ばーか、ばーか」

 優くんの隣にはけらけら笑う金髪の女の子がいた。外人じゃないよ、ばりばりの日本女性だ。……ちょっとギャルっぽいな。年齢は読めない。下手すれば私と同世代ぐらいかもしれない。つけまつげのせいで判断がつきづらい。えー、化粧濃いなー、この人。

 これが優くんの彼女? 圭子おばさんから、ちらっと彼女がいるという話は聞いたことがあったけれど、思っていたよりも、ずっとあれだ……この場所で浮きまくっていた。ヘソ出しに、太ももがばっちり丸見えなミニスカートの人とか、この辺りでもなかなか見ない。原宿に降り立った小豆色の学校指定ジャージ姿のお上りさん並みの違和感だ。

 小中学校では派手な方のグループに属していそうだ。先生の話は聞かない、掃除はさぼってぺちゃくちゃおしゃべりばかりして、こっちが下手に注意なんかしたら、喧嘩腰に睨まれる。でもさ、そっちがやってくれなくちゃ、一緒くたに怒られるこっちの身にもなって欲しいんだ。私はあなた方のパシリになった覚えはないのですよ……と、違う違う。これは私怨だった。色眼鏡で人を見ちゃいけないよね。

「あ、従姉妹さん? うちマキって言うんだわ、よろしくー」
「よ、よろしく」

 偏見はいけないと思いつつも……こっちは通話中だなのだから、人の都合を考えて欲しい。このカップルの相手をしたくはないけれど、逃がしてくれなさそうだ。ため息一つこぼしてから、菱川さんの電話に戻る。

「すみません、従兄たちの相手をしなくちゃいけなくなりました。本当はもう少し話していたかったのですが……」
『こっちのことは気にしないで。せっかくだし、楽しんでおいでよ。あ、でも他のやつに目移りしちゃだめだからね?』
「私は菱川さんで手一杯ですよ」
『……っ』

 なんだろう、菱川さんが息を飲んでいるような気配がした。

「では、この辺で。また電話しますね」
『うん。また今度。あ、インターンシップも頑張っておいで』
「はい、ありがとうございます。じゃあ、また……」

 電話を切って、従兄とその彼女に向き直る。

「それで何か用? と、いうよりなんでここに? 来るっていう話は聞いてなかったけれど」
「なんとなく気分が向いてなぁ。あと来る前に母さんに電話したよ? 家の前まで出迎えてくれたしなぁ。あ、知っとるか? 今年うちは自治会の班長に当たったから色々手伝うことが多いってさぁ」

 とっくに知ってるよ。実際、お手伝いしてるもの。
 あれ、待てよ。
 悠くんが帰ってくるなら、私が手伝う必要はどこに。本来、かき氷係には悠くんがなるはずだったんじゃ……。私が悠くんを疑わしげな目で見るのも仕方がないと思う。

「せっかくだから、おじさんと代わってフランクフルトでも焼いてこれば?」
「えぇー、やだよ! 俺にはマキがいるし。俺んち泊まりに来てるんだから相手してやらないと」
「あ、そう」

 腕まで組んで、いちゃいちゃしはじめる二人。対する私は半眼になっていく。あからさまにべったりしないでもいいだろうに。泊まりに来る? それは自慢なんですか、そうなんですか。身内からしたら、情けなくて見ていられないのですが。あと気づいてる? フランクフルト焼いていたおじさんがこちらに気づいて、ものすごくもの言いたげな顔をしているのを。あれは怒り爆発の前兆だと見た。

「私、もう戻るよ。かき氷作らなきゃ」

 おじさんの怒りに巻き込まれないようにという防衛策だったが、驚くことに二人ともがにわかにかき氷を食べたくなった、と私の後ろをついてきた。ひどい。
 二人分のかき氷をがりがりハンドルを回していると、マキさんとやらが私のほうに身を乗り出してきた。

「ねぇねぇ、ゆーさくの従妹さん。さっきの電話の相手って彼氏ー? どんな人ー?」

 一度沈みこみかけた話題をまた引っ張り出してくるとは。
 ただ、ここで何か下手なことを言うと、おじさんの耳に入ってしまう。菱川さんのことを聞いたおじさんがどういう反応をするかはちょっと判断できない。いずれはちゃんと話をしなければならないことだけれど、まだ話す時ではないのだ。

「ノーコメント」

 たっぷりと間を開けてから、返事とともにかき氷を差し出す。悠くんはブルーハワイ、マキさんはイチゴである。今度こそ、話題は簡単に流れていった。二人ともかき氷に夢中だ。

「おい、全部かければ、レインボーになるんじゃね? 試してやろう」
「あー、ゆーさく頭いいー」

 悠くんは嬉々として自分のかき氷に二色のシロップを付け足した。かき氷が黒っぽいような濁った色になるのを観察した私は、さっきの思い付きを実行に移さなくてよかったと思う。

「変な色ー。ゆーさくのバカぁ」

 結局のところ、悠くんは頭いいのか、馬鹿なのか、どっち? 
 悠くんは基本的にマキさんの発言に顔中がにやけているから、どっちでも大した問題ではないんだろうな。
 二人で好き勝手に色々喋り散らかし(半分以上、まったくついていけない話題だった)、もう帰ったら? と私が言いたくなるぐらいまで居座った。はっきり言って、やりにくかったことこの上ない。

「じゃ、そろそろ帰るわー。父さんによろしゅう。なんか知らんけど、めっちゃ怒ってるのが伝わってくるから、そろそろ帰らなやばい」

 人の機微に無頓着な悠くんでも、それぐらいはわかるらしい。マキさんの腰に手を回してから、二人でその場を立ち去っていく。
 嵐のようなカップルだったな——と思っていると、マキさんがくるっとこっちを振り返って、

「かき氷、ありがとー」

 と、子どものような笑顔を向けられたのは、思わぬ不意打ちだった。不覚にもきゅんとしてしまった。
 意外といい人なのかもしれない——そう思ってしまった私は、とても単純なのかもしれない。


 しばらく経ってから、おじさんがやってきた。頭に巻いたタオルをほどきながら来たのだけれど、それがいつこちらに鞭のように飛んでくるかどうかわからなくて怖い。

「なんや、あいつ、親に一言ぐらい声をかけていかんのか、あのたわけが。いっちょまえに女を見せびらかしおって……次来たら、もういっぺんよお言い聞かせてやらなかんな」
「それは……ノーコメントで」
「おまはんは、絶対、あいつみたいな男を選んだらあかんで」

 さすがにそれはないなぁ。私は菱川さんを思い浮かべながら、しみじみと思う。

「まぁ、どんな男を連れて来ようとも、そう簡単に嫁に出す気ぃはないけどな。……って、何もの言いたげな目をしとるんや」
「いや、なんというか……」

 菱川さん……おじさんは手ごわいようです。向かいうつ気満々のようです。
 私は近い将来に起きる波乱を予感して、深く深く溜息をついたのだった。

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