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わたしの愉快な旦那さん 作者:yuma

本編

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親友の悩みが俺にはどうでもいい件について。

山田視点
 俺、山田は今日も埃臭い店内で店番に従事していた。具体的に言うと、ピンクのはたきをかけながら雑多なガラクタを整理している。ほとんど日課だ。

 レジ近くの作業台にはノーパソとにらめっこするコージンがいた。もちろんだが、遊んでいるわけではなく、店のホームページを更新しているのだ。ネット関連は俺にはよくわからんが、なんでもコージンはウェブデザイナーばりの仕事スキルを駆使することによって、プロへの依頼料を浮かせているらしい。たまにパソコン関係の雑誌や本を片手に作業していたりする。あれはマジで大変そうだった。
 ちらりと横目で見ていると、コージンはいきなり顔を上げた。

「山田、注文が入った。南側、左から三列目の棚、上から二段目ぐらいにあるシノワズリ風の陶器人形ワンセット」
「ほーい」

 俺は言われた通りの棚を見ていくと、案の定「ネット出品中」という札がかかった陶器人形五体を見つけた。中華風の服を子どもが五人踊っている人形で、目は切れ長。どこを見ているのかいまいちわからんな。

「これか?」

 俺が見せると、ネット上の写真と見比べたコージンは、うん、と頷く。

「宅配? それとも直接来店か?」
「ひとまず商品を見たいそうだから、取り置きで。でも、買うつもりだと備考欄には書いてあったよ。バックルーム内のわかりやすいところに置いておいて。あ、割れ物だからくれぐれも慎重に。そこに梱包用の紙があるから包んで、メモをつけておいて。当たり前だけど、柏原かしわばらにも読めるように丁寧な字でね」
「ほーい……って。字が汚いか、俺?」

 今までそんなこと言われたことないぞ。
 コージンは呆れたような顔をして、

「この間、高級積み木の時に書いたメモだけどお客様の名前が難しかったからって何度も字を間違えて、最終的にぐちゃぐちゃ汚すぎて読めなくなっていたんだけれど。恐縮しきった柏原が「読めません」って僕のほうまでやってきたんだ。何度も書き直すぐらいなら新しい紙に書いておくべきだったね」
「いや、だって。躑躅森つつじもりさんって書くの大変だぞ」

 特に画数が。途中でわけわからなくなって、細かいところはごまかしたけどな!

「メモぐらいカタカナで書けば?」
「そうか……その手があったか!」

 さすが親友。頭がいいな。
 俺は心底感心したというのに、コージンはますます疲れたように小さく溜息をつく。おいおい、幸せが逃げていくぜ?

「だったら山田は貧乏神か……。またやたら押しが強そうな」
「そうだ、俺は不幸を押し付けにいくスタンス……って違うからな」

 思わずノリツッコミしてしまったじゃないか。

「僕も山田みたいに何でも単純に考えられたら楽なんだろうけれど」
「……ひょっとして、遠回しに俺を馬鹿にしてるやつか?」
「いいや、それなりに敬意を持って接しているよ」

 コージンは明らかにぞんざいな口調だったが、内容そのものは俺を羨んでいる。こーゆーこというのは珍しいな。俺が知る限り、あんまり内面を話したがらない節があるんだがな、こいつ。

 こいつが、俺以外に何でも相談できるような間柄の友人を持っているとは思えない。こいつはどんなやつとでもそつなく仲良くできるが、どこか線を引いているような感じがある。幼稚園時代から大学時代に至るまで、いつもそこそこの人数の友人たちがいたが、社会人になった今でも仲良くしている友人はその中でもごくわずかでしかない。

 内面にずかずかと入り込まれるのが嫌なんだろうなぁ、と予想はするが、実際に確かめたわけでもない。どっちにしろ、俺には関係ないがな。俺は好きなようにやってるだけだ。

「敬意っつーには、普段の扱いが雑すぎんだろ」
「山田だからね」
「意味がわからん」

 そんなことを言いあいながら、俺は商品を紙に包み、コージンは作業を続ける。

「あのさ」
「なんだよ」
「さすがに付き合って一か月も経たないうちに婚約指輪を贈るのはまずいと思う?」
「まぁ、そうだな。アクセサリー贈んのは結構女っていう生き物にとっては一大事だろ。まして、婚約指輪なら今更。……なんだよ、もうあの女の子に贈ったのか?」

 わはは、と笑う。完全に冗談のつもりだった。……コージンが、ズボンのポケットから明らかに高級感漂う小箱を取り出すまでは。かぱっと開いてみれば、案の定、指輪だった。おい、コージン……。

「買った」

 コージンは至極当然そうな顔でそうのたまった。真顔。完全なる、真顔である。
 俺はドン引きした。

「か、買った!? 気が早すぎるだろ! 相手はまだ大学生だぞ! そこまで急ぐ必要ないじゃん!」
「男避けだよ。……ま、さすがに重すぎるから今すぐには贈れないけれどね」
「当たり前だろ! 明らかにそれ、高っけーやつじゃん、俺の給料何か月分だよ!」
「どうせ使い道なんてないし。だったら梢さんに喜んでもらったほうがいいじゃないか。それに山田にはわからないだろうけれど、梢さんは可愛いから、他のやつが近づいてこないか心配なんだよ」

 そう言いながら、コージンは俺の目の前で再び指輪の小箱をポケットに入れた。この調子だと、相手が欲しいと言えば、すぐさま嬉々として取り出しそうだよな……。

 俺はコージンの本気が怖い。梢さんとやら(名字は忘れた)、悪いことは言わん、今すぐ逃げるべきだ。今改めて再認識したが、こいつの性癖は若干常軌を逸しているんだ。

「そ、そこまで考えなくてもいいと思うぞ。俺は……」

 よくわからんが、結構一途そうに見えたぞ。間違ってもお前以外の男を見る感じじゃない。俺を相手にしていた時、あの子、明らかにお前に「助けて」って目線を送ってたぞ。頼りにされてるじゃないか。

「いや考えるよ、僕は。……だって、今の状況って絶対に、僕の方がのめりこんでいるわけだから」

 目の前のコージンは眉根を寄せて、一瞬だけ辛そうな顔になる。

「もっと僕を頼ってくれたっていいと思うんだよ。全力で僕に甘えてくれるって言ってくれたけれど、それじゃまだ足りないんだよね……」

 やっぱりよくわからん。つまり、こういうことか?

「コージンはひたすらエロいことをしたい、と」
「違う」

 即答されちまったよ。

「どちらかといえば、ひたすらいちゃいちゃしていたい」

 おんなじようなもんじゃないか。

「山田、身体だけ繋がったって何にもならないってわかってるだろう? そんなものは結局、自分を幸せにしてくれないと思う。少なくとも、本当に大事な相手というのには手を出しづらいって言うだろう?」

 それが今のコージンってことか。理解はできるぞ。……これが所詮、のろけってこともな。この会話を手短く終わらせるべく、ズバッと言ってやった。

「お前の言いたいことはわかった。要はその子にお前のことをもっと好きになって欲しいってことだな!」

 コージンは珍しく驚いたような顔をした。

「今日、妙に勘がいいね……まあ、端的にいうと、そういうことだけれど。山田に言っても仕方がないのだけれどね」

 そりゃそうだ。俺の頭は恋愛事にはまるで役には立たないんだ。
 片思い以上の恋愛経験がねぇ……。いや、付き合ったことぐらいあるが、二三回デートしただけですぐにフラれちまったんだよ。

「もっと梢さんにはこっちに遊びに来てほしいな……。たくさんお菓子を常備しているのに」
「あー、最近、妙に差し入れを持ってくると思ったら、その子とのおやつ用かよ」

 食べていると妙に、睨まれるわけだ……。

「そうだよ。梢さんは一人暮らしをしているせいか、ちょっと痩せすぎなんだよ。健康のためにもカロリー摂取してもらおうと思ってるんだ。あと今のうちに梢さんの味の好みを知っておきたくて」

 そのわりには結構気合入ったお菓子を用意していないか? 箱からして高級そうなものも多い気がする。かかった金額からすると、もはや貢いでいるレベルじゃないか。惜しむらくは、コージンが用意したお菓子のほとんどは俺か柏原が消費していることだ。保存がきかないやつだと特に。本人餌付けするよりも、俺の方が餌付けされてるんだなあ……。

 コージンはいそいそと手元のファイルから、印刷したページを取り出す。

「ほら、見て。今回はこの「地方お土産フェア」の中から選ぼうと思っているんだ。今のところ洋菓子を中心に食べてもらってるけれど、今度は和菓子系にしようと思っていて。餡子が入っている無難な和菓子というと……赤福?」
「この辺りでは無難じゃないか。粒餡がダメでもこしあんならイケるっていう人もいるだろうし。ハードル低いんじゃね?」
「うん、だったらそういうことにして。えーと、伊勢へのルートマップは。ああ、これか」

 今度は別のファイルから、またも地図の紙。さらには観光ガイド雑誌が。準備よすぎる。
 お取り寄せじゃないのかよ。直接連れていく気か。……こえーよ。何か、こえーよ、お前。

「大きな駅だと普通に売っているだろ……」
「そうだけどね。……誘う口実にもなるから」

 遠慮しているのか、あんまり連絡をくれないんだよ、とコージンは少し悲しそうにしている。なんなの、こいつ。さっきからずいぶん表情のレパートリーが増えているじゃないか。ここまで生き生きしていたっけ。愉快さが増しているぞ。

 その顔のまま、コージンはふと腕時計を見ながら思いだしたように付け加えた。

「ああ、悪いんだけれど、今から少し抜けるよ。近代絵画の展覧会に行ってくる」
「ほいほい。いくらでも行って来い」

 いつもの文化的な趣味のあれか。……好きだなあ、こいつも。近くの美術館、博物館は大体行っているんじゃないか。俺にはさっぱりわからん趣味だが、律儀に数日前から申告するし、仕事にも穴を開けないので、こころよく送り出すことにしている。そもそも働き過ぎなぐらいだからもう少し休めといいたい。

 作業机を片付けたコージンは店のエプロンを脱いだ。

「もし梢さんが来たら、冷蔵庫近くのかごに入っているランドグシャクッキーを出しておいて。麦茶は今日新しく淹れたのがシンクのやかんの中に入っているから。忙しくなさそうなら、待ってもらうように言って、こっちに連絡して。すぐ帰る」
「りょーかい」

 出かけ間際のこんな会話はもう一度や二度じゃない。自分が外出している時に来ても大丈夫なように用意しておく。こいつに手抜かりなど存在するのか。

「山田、あとは頼む」

 軽く手を振ってからコージンは出ていく。合わせて手を上げた俺は、その背中を見ながら、

——まさか俺はこの先、ことあるごとにこいつののろけを聞かなくちゃならんのか? いいけどよ……いいんだけどさ。

 独り身には辛いものがねえか?

 今度出会いを求めて街コンへの参加を真剣に検討してみようかと思う俺、山田の午前中はここから穏やかに店番をこなしながら過ぎていくのであった。





 
菱川の努力は梢さんに届いていません。
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