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わたしの愉快な旦那さん 作者:yuma

本編

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俺は親友がわからない。 後

 大学は、俺が留年したために一年遅れて入った。柔道選手としての自分に見切りをつけ、普通に学業で入ろうと思い、せっかくだし、コージンと同じ地元の大学受けてみようかぁ、と。
 思ってしまったのが運のツキ。

 コージンが志望したのは、地元どころか全国にも名が知れている国公立大学だった。やつは現役推薦で余裕綽々と入りやがったが、俺は一年余計にかけてから、やっと補欠合格した。そこの運だけは良かった。

 浪人中の勉強はコージンが見てくれた。優し気な口調してスパルタだったが、合格発表で自分の番号を見つけた時は、公人コージン大明神様ナムナム……と感謝の祈りをささげた。

 大学時代のコージンも、そこそこ女の子からモーションかけられていたらしい。

「僕、女子大生って大体量産型だと思うんだよね」

 缶ビール飲みながらコージンは昏い目をしたことがある。

「同じ化粧の仕方、同じような服、同じようなしゃべりかた。……それをどう見分けろっていうんだ。僕には全部同じに見える。まだ外国人女性の方が個性出てると思うぐらいだ」

 その言葉通りに実行したかしないか知らないが、それからコージンはフランス留学に赴き、一年日本を離れた。帰ってきた時、コージンに尋ねてみた。

「フランス人の女の子とでも付き合えたか」

 何言っているんだ、と睨まれた。

「恋愛するために留学したんじゃない。僕は、僕が全力で甘やかしたくなる理想の女の子に出会うまでは恋愛するつもりはないよ。それまでは学業に打ち込むだけだ」
「だけどさ、そうするとお前。出会えないままだったら、ずっと童貞のままなんじゃね?」
「あ?」

 めっさ睨まれた。

「そんなもの、山田に心配してもらわなくてもいい」

 この話題は地雷原だと知った、二十歳はたちの春。互いに女っ気なし。……いいさ、もう少し俺の童貞も付き合ってやるからさ……不可抗力だがな……。


 コージンが留学していたから卒業は俺と同じ年だった。
 俺は就職に失敗。菱川のおじさんに「元気な挨拶だったから採用」と言われて、働き始めた。
 コージンは大手百貨店に就職したが、二三年で「飽きた」と退職。そもそも実家の仕事を手伝う方が好きだったらしく、一応サラリーマンやっとけというおじさんの言葉に従っていただけらしい。

 いきなり店長に就任したコージンは生き生きと働き始めた。誰よりも早く出社して、誰よりも遅く帰る。俺が先に帰って、コージンが閉店作業することもしばしばだ。正直いって、いつ寝ているのかわかんねえ。

 あと、意外とコージンは知識欲が旺盛だった。
 昼休みにバックルームを覗くと、コージンが美術雑誌やら美術関連の書籍を読んでいた。

「何、その本。何の本?」
「美術の本」

 見ればわかる。

「調べものか?」

 うちの店の顧客の中には絵画コレクターもごろごろいるし、たまに絵画そのものを取り扱うこともある。知っておいて損はなさそうだがな。……こういう地味な努力が俺とこいつとの差を決定づけてるのかなー。
 ほら、とコージンが一枚の図版を指差した。……誰だよ、このおかっぱちょび髭眼鏡のおっさん。どこから突っ込んでいいのやらわからねえ。

「僕はいずれ彼の時代が来ると思っている」

 予言者かよ。ってか、彼って誰だよ。

「レオナール・フジタ」
「それはハーフか?」
「いや、元は日本人。この絵は自画像。僕は彼の絵が好きなんだけれども、事情があって、なかなか展覧会でも出てこなくてね」

 大学に入ってから美術館・博物館の展覧会めぐりが趣味になったらしい。文化的活動に熱心なこった。俺には絵のこととかさっぱりわからん!
 コージンがそれからもあれこれと話してくれたが、とんと覚えていなかった。レオナール・フジタの名前すら忘れていた。

 だがその少し後、ある映画のコマーシャルを見た時に、あっと思いだした。有名俳優が主役を張ったその映画の題材がその「レオナール・フジタ」だったからだ。テレビの美術関連の番組にも宣伝をかねて、たびたび「レオナール・フジタ」の名が出る。世間的にもその画家の名が知られるようになった。

「こっちの方でも展覧会があるらしいね」

 コージンとしては鼻高々だろう。自分が推している画家が再び注目されようとしているのだから。気持ちとしては巨大アイドルグループの総選挙で自分の推しがセンター取ったようなもんだ。

 ……なんてこったよ。
 展覧会が行われる美術館へと出かける背中を眺めながら俺は呟かずにいられなかった。
 考えてみれば、コージンの仕入れた商品は大体評判がいい。マニアックだけれども。それでも、必ず買う人が現われるのだから、先見の明があると言ってもいいんじゃないか。

 俺はいつもコージンに感心させられる。すごいやつだ。



 そんなことを思っていれば。ある日、コージンが女の子と一緒にいるところに出くわした。
 大学生ぐらいで、髪をセミロングにしている。頬を赤くして、慌てている様子だった。コージンはその子の頭に手を乗せていた。

 はっはーん。ようやく「理想の女の子」とやらを諦めて、現実を見たんだな? ナンパしたな? だがなー、今はやめたほうがいいんじゃねーか。女の子かたまっちゃってるぞ。こりゃ、助けなくちゃな。こいつ女慣れあんましてないだろうし。

「仕事中にナンパはよくないぞー。ごめんなー、そこの店員は調子のいいことしか並べたてるのが得意でさー」

 ……空気が固まったかと思った。女の子が泣きだしてしまう。あれっ、逆効果?
 動揺のあまり、コージンがその子を慰めようとしているのを見ているだけしかできない。
 でも「口が可哀想」のくだりはきっちり聞こえたので訂正させてもらった。

 彼女へ謝ったが、許してもらえたか自信がない。コージンは落ち着かせるためか、彼女を店の奥へと連れていった。あっ、いきなり手を繋ぐのはどーかと思うぞ。


 次の日も彼女が来た。コージンが彼女が来たら連れてきて、と言われたので従う。
 しかし、この二人は一体どういう関係なんだ? 昨日、あれは僕の奥さんなんだ、と浮かれたように言っていたが。お前、俺よりも英語の成績よかったはずなのに、うまく日本語に訳せてないじゃないか。
 仕事に戻ったコージンはこんなことを言った。

「梢さんと将来的に結婚するんだ」

 ほー。
 俺は信じちゃいなかった。だって、ここまで女っ気なかったコージンがいきなり結婚とか言いだす……どー考えても、何かの冗談としか思えないだろ。急展開すぎる。

 その後も何度か言ってきたが、夢見る夢男ゆめおにしか見えなかった。……とうとう、こじらせちまったのかもしれない。何が、とは言わないが。



 そして親友の言葉を信じられなかった俺は。
 薄給から高級アイスをたくさん買わされると言う悲劇にみまわれ、親友からは久々にガチのお叱りを受けることになってしまった……。一体、俺が何をしたっていうんだよ!

しかし、山田にも見えていない事実があるかもしれない。

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